はじめに
一般的に、ソフトウェア開発は、チーム内の情報を共有し、チームメンバーが相互に協力して問題を解消しながら進めることが良いとされています。
そのため、最近の書籍や記事には、上記の協力がやりやすいようにチームは物理的に同じ場所で開発することを推奨しているものもあります(最近ベストセラーになった書籍「レガシーコードからの脱却」でも推奨されています)。
しかし、実際には様々な事情で、チームが物理的に同じ場所で働くことは難しいことがあります。そんな場合に有効なのが「分報」です。
本稿は、私のチームで分報を導入して良かった点を紹介します。
分報とは
分報とは、Slackなどの社内チャットツールを使い、自分専用チャンネルで「今やっていること」や「困っていること」をつぶやくプラクティスです。詳細は以下を参照ください。
Slackで簡単に「日報」ならぬ「分報」をチームで実現する3ステップ〜Problemが10分で解決するチャットを作ろう
Slack分報についての質問と回答:僕のチームではどのように分報しているか?
ポイントは以下です。
- 自分専用チャンネルなら、気軽に困っていることをつぶやける(先輩に直接質問するより敷居が低い)。
- 困っている内容を見て、解消方法を知っている人が助言することで、一人で調べて解消するよりも、早く問題が解消され、開発が加速する。
- 自発的に他メンバーが困っている内容を見て助言をすることが多くなるため、助け合う風土が自然に根付く。
例えば、下図のように、つぶやきに対して、他メンバーが助言することで開発が加速します。
なお、このように、自分の作業の途中経過をアウトプットしながら開発を進める手法は、「Working Out Loud」という近年注目されているコンセプトにも合っています。これは以下の式で説明されます。
「Working Out Loud(コラボレーションによる成果の達成)= Observable Work(作業の可視化)+ Narrating Your Work(作業の共有)」
作業の途中成果や作業過程の思考プロセスが可視化されることで、早い段階でのフィードバックを得られたり、他メンバーと思考プロセスの知見を共有できたりします。
詳細は、以下参照ください。
Working Out Loud 大声作業(しなさい)、チームメンバー同士でのトレーニング文化の醸成
導入効果
私のチームで導入してみたところ、以下のような良い効果がありました(チーム人数は4人です)。
自分で問題を整理
分報の導入前、開発経験の少ないメンバーは、ついついタスクに没頭して視野が狭くなることで、非効率な調査をしてしまうことがありました。
分報を導入後は、自分の作業経過を随時書くことで、問題が自然に整理され、自分の思考が迷子になる頻度が少なくなり、効率が上がりました。
具体例として、C#の不具合調査を行う際に、調査して分かったことを随時書きながら進めることで、問題を整理しながら無駄な調査をせずに進めることができました。
新人の困りごとの早期解消
チームに配属されたばかりの新人に対しても分報の効果がありました。
チーム全体のチャンネルに新人が質問を投稿するのは、気後れするようで「ちゃんとした文章を書かなきゃ」と思ったりなど、結構ハードルがあるようです。
それに対して、分報は自分専用チャンネルなので、気兼ねなく困ったことをつぶやけていました。そして、先輩社員が困ったことを拾って解消していました。
アクションアイテムの漏れ防止
自分がちょっと後でやろうと思っているアクションアイテム(もしくはTODO項目)を忘れないように、分報でそのアクションアイテムを投稿し、ピン留めするメンバーもいました。
チームのチャンネルでなく、自分専用チャンネルのピン留めなので、気軽に使える点が良い感じでした。
心理的安全性の向上
あるメンバーが非効率なやり方で作業を進めようとしている場合に、他メンバーがたびたび助言をしますが、それが起きた時は__積極的に「開発が加速して良かった」というポジティブな感情をメンバ間で共有しています__。また、調査の途中経過に対しても__「論理的に妥当な方針で進められている」というポジティブフィードバックを行っています__。
そのように、自分の発言に対して前向きなフィードバックが得られる経験を何度もすることで、途中経過や考えの発信頻度が上がってきました。
これはおそらく「安心して自分の考えを発信できるようになる」という意味で、心理的安全性の向上があったと思います。
(心理的安全性とは、Googleが成功するチーム構築に最も重要なものだと発表したものです)
心理的安全性を高める | Google re:Work
まとめ
分報は、メンバー間の協力を加速させる効果的なプラクティスと思います。
2020/8/26 追記
上記の他、1年以上かけて様々な成長するための施策を実施しています。以下の記事にまとめていますので、ぜひ参照ください。
1年以上かけて生産性倍増+成長し続けるチームになった施策を全部公開
上記のプラクティスを活用して、私は Lightning Review というレビュー支援ツール を開発しています。
Twitterでも開発に役立つ情報を発信しています → @kojimadev