書籍「Pythonではじめる数理最適化」1の著者の岩永です。
2025年11月14日にオーム社から出版された書籍『実務で使える数理最適化の考え方-基礎から学ぶモデリング-』2 をご恵贈いただき、拝読しました。まず一読して感じた印象をまとめると次の特徴があると感じました。
- 平易な構成で、高校生にも読み進められるほど丁寧
- 実務で直面する困りごとの典型例が網羅されている
- 数理最適化モデリングの“難しさ”と“面白さ”の両面に触れられる
- 数理最適化プロジェクトの進め方に踏み込んだ解説は類書がない
数理最適化に興味を持つ初学者やデータサイエンティスト(1〜5章)、さらには実務でモデリングに関わる数理最適化エンジニア(6章〜8章)まで、幅広い層に手に取ってもらえる内容だと感じました。以下では、章ごとのポイントと印象に残った部分を紹介します。
1章.数理最適化という考え方
本章では、数理最適化に関する基本的な考え方や有用性をわかりやすく解説しています。冒頭の
数理最適化とはモデリングを伴う最適化のことである
というスタンスをはじめ、
- 数理最適化ではモデリングとアルゴリズムを分離して問題を解決する
- モデリングは現実とアルゴリズムを結ぶインターフェースである
といった基本的な考え方が丁寧に述べられています。
また、数理最適化の歴史的背景やアマゾンやGoogleなどでの活用事例にも触れられており、初学者にも「社会の中でどのように使われているか」がイメージしやすい構成です。国内では触れられることが少ないエデルマン賞について触れている点で印象的でした。
2章.実務に活かす数理最適化の考え方
本章では、数理最適化におけるモデリングの役割、実践的なプロセス、最適化ソルバー、数理最適化問題の分類を体系的に解説しています。
特に「モデリングと定式化の違い」について述べられている点や、数理最適化モデルを作る理由として
- 無関係と思われた事柄に依存関係があることが明らかになる
- 暗黙知となっていた事柄が曖昧さなく明らかになる
- 数式を通した分析が可能になり、未知の意思決定についても予測や方針が得られる
などの点があげられているのは、実務を目指す読者にとって役立つ内容だと感じました。
個人的には「モデル記述とデータ記述の分離」に触れてある点が好きです。
また、数理最適化問題の分類では「線形か非線形か」「非線形関数は凸関数であるか否か」「変数の定義域は連続か離散か」といった軸が整理されており、学習者にとって見通しを持ちやすい構成になっています。
3章.数理最適化問題の問題構造という考え方
本章では、数理最適化の有名問題として①配合問題、②配送問題、③生産計画問題が取り上げられています。論理の飛躍を避けながら段階的に説明されているため、モデリングに初めて触れる読者でも理解しやすい章だと感じました。高校生でも無理なく読めそうなレベル感です。
4章.二択が含まれる最適化モデルの考え方
本章では、二択の意思決定を数理最適化で扱う場合として、0-1変数を用いた問題について解説しています。具体的には0-1ナップサック問題と拡張した輸送問題について説明されており、「暗黙の制約条件」「Big M法」「疎な記述」「不連続点とsmall $\epsilon$」など実務で重要となるテクニックについても触れています。これらのテクニックを説明するための題材選びも巧みで、理解がスムーズです。
5章.割り当てという考え方
本章では、0-1変数を扱う問題として割当問題を取り上げています。多くの書籍が要件や数式から入るところ、割当図と割当表というアウトプットから直感的に理解できる構成になっています。初学者にとって負担が少なく、丁寧な導入が印象的でした。また、ソフト制約についても触れられており、実務的な観点からも有用です。
6章.割当て問題を応用するための考え方
本章では、割当問題の応用事例として、人員配置問題、シフトスケジューリング問題、配送計画問題を取り上げ、高度な内容も解説されています。人員配置問題では論理的な制約の表現方法や負荷平準化、シフトスケジューリング問題ではインジケータ変数や多目的最適化など、徐々に高度な内容へと進んでいきます。配送計画問題では、ルートの列挙によって割当問題として捉える視点が紹介されており、実務での見通しを良くする工夫として参考になります。
7章.問題を分割するという考え方
本章では、複雑な数理最適化問題でも問題分割をすることで扱いやすくなるケースについて解説されています。実務で数理最適化に携わる場合、この考え方にたびたび救われることがあります。
8章.数理最適化プロジェクトを成功させるための考え方
本章では、数理最適化エンジニアとしての豊富な実務経験に基づき、数理最適化プロジェクトを成功させるための考え方について丁寧に解説されています。
- モデルが現実のコピーではない
- 最適なものと望んだものは異なる
点など実務上で認識齟齬が起きそうな点を丁寧に解説しています。また、
- 数理最適化にとらわれすぎない
- 実行不可能への対処
なども実務で課題解決ができないときに重要な心構えについても触れられています。
数理最適化プロジェクト開始前の見極めに必要な「キーストーン」の考え方は、プロジェクトのリスクを適切に把握する上でも示唆に富んでいます。個人的にはデータの品質の話題の「ハードな定数」と「ソフトな定数」という言葉も、実務でのコミュニケーションに役立つ概念だと感じました。最後にアンチパターンもまとめられており、数理最適化を実務で活かすための総括となっています。
まとめ
本記事では、第1章から第8章までの概要と個人的に印象に残った部分を紹介しました。本書は数理最適化の考え方・モデリング・実務での進め方まで、限られた紙面で幅広く丁寧に整理された一冊です。実務経験に基づいた知見が随所に盛り込まれており、これから数理最適化に取り組む方にとっても、すでに携わっている方にとっても参考になる内容だと感じました。本記事でご興味をもたれましたら是非ご一読ください。
リンク集
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「Pythonではじめる数理最適化-ケーススタディでモデリングのスキルを身につけよう-」は、岩永二郎、石原響太、 西村直樹、田中一樹共著の書籍で2021年9月21日にオーム社から出版されています。 ↩
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「実務で使える数理最適化の考え方-基礎から学ぶモデリング-」は、伊藤元治、富塚健志、藤井浩一、松岡勇気共著の書籍で2025年11月14日にオーム社から出版されています。 ↩