ちょうど v0.5.1 リリースの振り返り note 記事(gh run watch の tail を信じたら Validate が赤いままタグを push していた話)を書いている最中でした。振り返りを書いていたはずが、その途中でちょっと別方向から強い風が吹きました。
自作のスキルを Codex CLI で動かしたときの挙動と、Claude Code で動かしたときの挙動を、目の前で並べて比べてしまったのです。
同じスキル。同じ記事のヒーロー画像を作る目的。それなのに Codex は Gemini の画像生成 API を課金しながら叩き、Claude は Chrome を自動操作して Gemini Web の無料枠を使い切っていました。
見た目には同じ結果。裏では月に数百円から数千円の差が積み上がる構造。
忙しい人向け(AI 音声解説・18 分)
この記事の音声版を NotebookLM で作りました。移動中・作業中の "ながら聴き" にどうぞ。
TL;DR
- 自作の記事作成スキルを Codex CLI と Claude Code で並べて動かしたら、Codex は Gemini 画像 API を有料で叩き、Claude は Chrome を自動操作して Web の無料枠でタダで生成していた
- この差は個々の CLI の性能差ではなく、Anthropic が MCP サーバーとして純正の Chrome 拡張(Claude for Chrome)を提供しているエコシステムの厚みが効いている
- MCP は中立プロトコルなので技術的には他 CLI でも browser 自動化は可能(
playwright-mcp等)。ただ「配線ゼロで即使える」は現状 Claude だけ - ここに **「Codex 親セッションの状態を保ちつつ、browser が必要な瞬間だけ Claude 子セッションに肩代わりさせる」**という orchestration の空きスペースがある
- 自作の多 AI CLI ラッパー
many-ai-cliの次のリリース候補として起票済み。設計メモをdocs/local/pending_browser-delegate-cross-provider.mdに置いた - 記事末尾に、この機能が 3 ヶ月・6 ヶ月・1 年後にどうなっていそうかの予測も置きます
many-ai-cli について
自作で many-ai-cli という、複数の AI コーディング CLI(Claude Code・Codex・Copilot・Cursor・Grok)を並列で走らせて承認を 1 画面に集約するローカル Web ダッシュボードを作っています。複数のAIコーディングCLIセッションの承認管理・監視を行うローカルWebダッシュボードです。
同じ悩みを持っている方は、下記で入ります。
npm i -g many-ai-cli
リポジトリはこちらです(Star をいただけると励みになります): https://github.com/ishizakahiroshi/many-ai-cli
きっかけの会話
きっかけは v0.5.1 リリースの振り返り記事を書いている最中でした。
記事執筆用のスキル(write-article)を使い、ヒーロー画像を作らせるフェーズで、Claude Code が Chrome を開いて https://gemini.google.com/images に飛び、そこにプロンプトを流し込み、生成待ちの間クルクル回るスピナーを見ながら「これ、無料枠だな」と思ったところで話が飛びました。
前日、同じスキルを Codex CLI で試したとき、コンソールに走っていたのは POST https://generativelanguage.googleapis.com/... の HTTP コールと Successfully generated image (cost: $0.039) の 1 行でした。
同じ「ヒーロー画像を作る」というスキルの結果として、片方は Chrome の自動化、もう片方は課金 API の呼び出し。
これは面白い、と思ってその場でメモしました。以下、事実の順番に整理していきます。
最初のメモ
自分の手元に残っていた事実を、時系列で並べます。
-
write-articleスキルは、記事のヒーロー画像を生成する手順をreferences/hero-pipeline.mdに持っている -
hero-pipeline.mdの Step 2 は「Gemini Web を Chrome で操作して無料で作る」経路 - 同じ md の Step 2B は「Web 経路が失敗したら Gemini API を有料で叩く」経路
- Claude Code は
claude-in-chromeMCP サーバーを持っているので Step 2 を実行できる - Codex CLI は
claude-in-chromeを持たないので、実質 Step 2B しか通れない - 結果、同じスキルなのに Claude ではタダ・Codex では有料という現象が発生する
これを見て、いくつか疑問が浮かびました。
- なぜ Claude だけがブラウザ自動化を持てているのか?
- 他 CLI(Grok Build CLI、GitHub Copilot CLI、Cursor Agent CLI)はどうなっているのか?
- 実際に月ベースでどのぐらいコストが変わるのか?
- Codex 側のセッションを進めつつ、必要なところだけ Claude に肩代わりさせられないか?
順番に見ていきます。
Codex は Gemini API を叩いていた
まず片方の実装。Codex CLI で write-article を回すと、ヒーロー画像生成は最終的にこのコマンドに落ちます。
& 'C:\dev\workshop\docs\local\hero-automation-trials\gen-hero.ps1' `
-PromptFile '<topic>\<...>_hero.prompt.txt' `
-OutSrc '<topic>\<...>_hero_src.png' `
-Tier batch
gen-hero.ps1 の中身は、要するに Google の Gemini Image API(Nano Banana)を HTTP で叩いて PNG を落とすラッパーです。
Google の画像モデル料金は公式ドキュメントに明記されています。https://ai.google.dev/pricing 。2026 年 7 月時点の実行モデル gemini-2.5-flash-image(旧称 Nano Banana 1)で 1 枚 $0.039、新しい gemini-3.1-flash-image-preview(Nano Banana 2、2026-02 リリース)で 1 枚 $0.0672。日本円換算で 6 円から 10 円/枚くらい。
1 記事あたりヒーロー 1 枚、本文挿絵 2〜4 枚、インフォグラフィック 1 枚。合計 4〜6 枚の画像を毎回生成する記事運用だと、月 20 本書けば 100 枚を超えます。月あたり数百円から千円強の課金が積み上がる計算です。
これは「お金を払っている感覚」がゼロで済んでいる箇所でも同じで、Codex 単独運用だと Web 経路のフォールバックすら選択肢に上がりません。理由は、Codex には「ログイン済みブラウザーを AI が操作する」ための仕組みが標準では入っていないからです。
Claude は Web でタダだった
もう片方。Claude Code で同じスキルを動かすと、Step 2 に降りて Chrome を実際に開いて Gemini Web の入力欄にプロンプトを打ち込み、生成完了を待って、ダウンロードボタンを押す、という一連の GUI 操作を Claude 自身がやってくれます。
つまり Anthropic 純正の Chrome 拡張(Claude for Chrome)を経由して、ログイン済みブラウザーの Web セッションをそのまま流用しています。私は Google AI Plus に加入しているので、Gemini Web からの画像生成には無料枠と Plus のクレジットが割り当てられます。ブラウザー経由の生成は追加課金なし、というのがカラクリです。
同じ画像モデル(Nano Banana)にアクセスしているのに、経路が違うだけでコストが 0 円になる。API 版は「開発者向け・可計測」、Web 版は「エンドユーザー向け・生成枠込みの定額サブスク」という商品設計の違いがそのまま反映される形です。
なぜ Claude だけがタダ経路を持てるのか
この差はランダムではなく、明確な理由があります。Anthropic が「Claude for Chrome」という公式の Chrome 拡張を出して、Model Context Protocol(MCP)のサーバーとして自動登録される形にしているからです。https://claude.com/claude-for-chrome にプロダクトページがあり、Anthropic 側の告知は https://www.anthropic.com/news/claude-for-chrome から辿れます。
Claude Code CLI 側は、この拡張がインストールされていれば、追加の設定なしで「ブラウザーを操作する」ツール群(mcp__claude-in-chrome__navigate / computer / find / read_page など)を使えるようになります。ユーザー側の作業はゼロ。
これがなぜ「他 CLI では真似しにくいか」というと、拡張が Claude アカウントとのログイン紐付け前提で動くように設計されているためです。Codex や Grok の CLI から同じ拡張を呼び出そうとしても、認証が通らない。汎用 MCP サーバー(playwright-mcp 等)を別途配線する必要があります。https://github.com/microsoft/playwright-mcp
つまり結論はこう:
- MCP は中立プロトコル(Anthropic 発だが公開規格)https://modelcontextprotocol.io/
- browser 自動化は原理的に MCP で誰でもできる
- しかし Anthropic は「拡張を純正で提供 + ログインで即動く」の垂直統合をしている
- Codex / Grok / Copilot は各自で汎用 MCP を配線する運用が必要
この差が、今回のような「skill を使ったら経路が分岐する」という現象を生みます。
Model Context Protocol とは
一次情報を丁寧に置いておきます。
Model Context Protocol(MCP) は Anthropic が 2024 年 11 月に公開したオープン規格で、AI アプリケーション(Claude、その他 LLM ホスト)と外部データソース・ツールをつなぐための共通プロトコルです。https://www.anthropic.com/news/model-context-protocol にアナウンスがあり、仕様と実装は https://modelcontextprotocol.io/ から辿れます。
わかりやすい 3 行:
- ホスト(Claude Code CLI 等)は MCP クライアントを内蔵している
- ローカルまたはリモートに立てた MCP サーバーが「ツール群」を公開する
- LLM は自然言語でツールを呼び、サーバーが結果を返す
代表的な MCP サーバーには次のようなものがあります。参照実装のリポジトリは https://github.com/modelcontextprotocol/servers に集約されていて、2026-07 現在で 88.8k star に達しています。
- ファイルシステム操作
- Git / GitHub 操作
- Slack / Notion / Google Drive
- Postgres / SQLite など DB
- ブラウザー自動化(
playwright-mcp/puppeteer-mcpなど)
Anthropic の Claude for Chrome 拡張は「MCP サーバー」として動きます。つまり Claude Code CLI から見ると、他の MCP サーバーと同じ扱いで「browser 系ツール」を呼べる形。ここが技術的な要点です。
MCP は一言でいえば「LLM 側の統一プラグイン仕様」です。ホスト側(Claude Code / Cursor / Codex CLI)が MCP クライアントを内蔵し、サーバー側は Slack でも Chrome でも Postgres でも同じ規格で公開できる。これが Anthropic が中立プロトコルとして公開した理由でもあります。
規格自体はプロプライエタリではなく、OpenAI も MCP を採用する意向を表明しています(2025 年後半以降、Agents SDK まわりで対応が進んでいる)。https://developers.openai.com/api/docs/guides/agents 。ただし前述のとおり、Anthropic 純正の Chrome 拡張は Claude 前提なので他 CLI からは使えません。
Claude in Chrome 拡張の中身
もう一段踏み込みます。https://claude.com/claude-for-chrome によると、Claude for Chrome は 2025 年後半にリサーチプレビューとして出て、2026 年に一般公開されました。Chrome ウェブストアからインストールして Claude アカウントでログインすると、以下のことができるようになります。
- 現在開いているタブの内容を Claude に見せる
- 特定 URL に Claude が navigate する
- Claude が要素を find して click / type / scroll する
- ページの Accessibility ツリーを read_page として構造化取得できる
- スクリーンショットを取って画像として Claude に見せる
ホスト側(Claude Code CLI や Claude デスクトップ)から呼ぶツール名は mcp__claude-in-chrome__* で、例えばこの記事を書くのに使ったのは次のような呼び出しでした。
mcp__claude-in-chrome__navigate(url="https://gemini.google.com/images?hl=ja")
mcp__claude-in-chrome__find(query="prompt input")
mcp__claude-in-chrome__computer(action="type", text="<プロンプト>")
mcp__claude-in-chrome__computer(action="wait", duration=10)
mcp__claude-in-chrome__computer(action="left_click", coordinate=[1105, 310])
裏でやっているのは実際の Chrome のイベント。だからログイン状態も維持されるし、Google のアカウント情報も引き継がれます。「無料枠の Gemini Web を Claude が操作する」がそのまま実現できるのはここです。
セキュリティ面でも Anthropic は慎重に設計しています。拡張はサイト単位の権限(この URL は許可、この URL は不許可)を持ち、確認モーダルの発火設計や、Claude によるナビゲーションの許可 UI などが明示されています。詳細は Anthropic の 2025 年 8 月時点のアナウンスを参照。https://www.anthropic.com/news/claude-for-chrome
これが Claude Code の CLI から見ると mcp__claude-in-chrome__navigate mcp__claude-in-chrome__computer のように 1 段抽象化されたツール群として現れます。実体は本物の Chrome のイベントを操作しているため、ログイン済みセッションもそのまま流用できます。
他 CLI の browser 事情
比較を横並びで整理します。
Codex CLI(OpenAI)
- リポ: https://github.com/openai/codex
- 標準では browser 自動化は入っていない
- MCP サーバーのサポートは実装されており、
~/.codex/mcp.jsonに手動で配線すればplaywright-mcp等を呼べる https://github.com/microsoft/playwright-mcp - OpenAI は Agents SDK として "computer use" API を持っている https://developers.openai.com/api/docs/guides/agents 。ただ CLI とは別レイヤーで、CLI から直接エンドユーザーのブラウザーを叩くパイプラインは薄い
- Anthropic の Claude for Chrome 拡張を Codex から呼ぶことは、認証が通らないため実質不可
Grok Build CLI(xAI)
- xAI が公開している CLI で、Claude Code 系よりカルパシー的にミニマル
- MCP 対応の記述は薄く、外部ツール接続の抽象化がまだ弱い
- 2026-07 時点で browser 経路の標準実装はなし
- 何かやりたければ shell 経由の PowerShell スクリプトや
curlを叩く運用
GitHub Copilot CLI
- リポ: https://github.com/github/gh-copilot(現行)
- CLI 単体でのブラウザー自動化は限定的
- VS Code 上の Copilot Chat であれば Chrome の DevTools MCP 拡張などと組み合わせて使う道がある
- CLI から MCP を呼ぶには config 配線が必要。標準では入っていない
- マニュアル: https://cli.github.com/manual/gh_copilot
Cursor Agent CLI
- Cursor エディター本体は browser 操作の一部機能を持っている
- CLI 単体(
cursor-agent)の browser 経路は 2026-07 時点で断片的 - MCP サーバーの追加は Cursor 側でサポートされている https://cursor.com/docs
Claude Code CLI
- リポ: https://github.com/anthropics/claude-code
- Claude for Chrome 拡張が入っていれば 配線ゼロで即 browser 使える
- 拡張がなくても
~/.claude/mcp.jsonに汎用 MCP を書けば同じことはできる - 「純正拡張がある」ことが Codex 等との実質的な差
この横並びで見ると、**「browser 対応が組み込まれているのは Claude だけ、他は汎用 MCP を手動配線する余地しかない」**という非対称がひと目でわかります。技術的に不可能なわけではなく、投資の差です。
skill 設計が経路分岐を吸収した具体例
自分の write-article スキルは、この「Claude なら Web、他 CLI なら API」を明示的に受け入れる設計になっています。ヒーロー画像を作る参照ファイル references/hero-pipeline.md の冒頭にはこう書いてあります(要旨):
Step 2(既定): Gemini Images をブラウザーで操作する経路。Claude Code + Claude for Chrome 拡張がある環境で、Google AI Plus のログイン済み Chrome を優先する
Step 2B(フォールバック): Web 経路が失敗した場合だけgen-hero.ps1を呼ぶ。実行直前にユーザーへ課金確認する
つまり、同じスキル・同じ md・同じ画像生成の目的に対して、実行環境の CLI ごとに経路が変わる設計にしてあります。
Codex CLI で実行すると、Step 2 の実行手段(mcp__claude-in-chrome__* ツール)が存在しないので即 Step 2B に降ります。Claude Code で実行すると、Step 2 が通り、Web で無料で終わります。
インフォグラフィックの生成も同じ構造になっていて、references/infographic-pipeline.md にはこう書いてあります。
エンジン A(既定): NotebookLM のインフォグラフィック機能を Chrome で操作。無料 1 日 3 枚
エンジン B(明示指定時のみ):make-infographicskill 経由で Gemini API(Nano Banana 2)を叩く。1 枚 3〜6 円
このおかげで、私は Claude で書いているうちは NotebookLM の無料 3 枚枠を毎日使い切ることができ、Codex で書いているときだけ Nano Banana 2 の課金が走る、という運用になっています。
実際の経済性
雑にシミュレーションしてみます。個人ブログを月 20 本更新する運用を想定。
1 記事あたりの画像枚数
- ヒーロー: 1 枚(必須)
- インフォグラフィック: 1 枚(推奨)
- 本文挿絵: 2〜4 枚
- 合計: 4〜6 枚
Codex 側で全部 API を叩く場合
- Nano Banana 1: $0.039 × 平均 5 枚 × 20 本 = $3.9/月
- Nano Banana 2 に切り替えると: $0.0672 × 5 × 20 = $6.72/月
- インフォグラフィックだけ Nano Banana 2 なら: $3.9 - $0.039 + $0.0672 = $3.93/月
Claude 側で Web 経路が通る場合
- Nano Banana 1(Gemini Web 経路・Google AI Plus 契約分に吸収): $0/月
- NotebookLM インフォ(無料 3 枚/日): $0/月
- 合計: $0/月
差額は月 500 円から 1000 円くらい。1 年で 6,000 円から 12,000 円。絶対額としては小さいのですが、大事なのは「これが構造的な差」だという点です。
実は同じ気づきをより早い時点で note に短くまとめていました。「AI に任せて 600 円。Gemini Web なら、ヒーロー画像までほぼ追加料金なしだった」。https://note.com/ishizakahiroshi/n/n065ea9354edf 。今回の記事はその「600 円 → 0 円」の発見を、多 AI CLI 時代の orchestration の観点まで広げた続編になります。
金額そのものより「同じスキルなのに CLI 選択で経済性が構造的に変わる」ことに注目してほしいところです。特に skill 実装者としては、両経路を維持することで「使う CLI を選ぶ自由」を読者に残せます。
- Web 経路は月額サブスク(Google AI Plus / Anthropic Pro)で「無限に近い定額」
- API 経路は「使った分だけ従量課金」
書く量が増えるほど差が広がります。ここに気付いたのが、記事執筆スキルを 2 種類の CLI で並列運用した後でした。
ひらめきの瞬間
会話を進めているうちに、思ったことがあります。
「これ、Codex 側で走っているセッションから、必要な瞬間だけ Claude を呼び出せたら、両方の得意分野を活かせるじゃないか」
Codex は Codex で書くの得意な文脈(例: 私が Codex に投げ慣れている設計判断や、Codex 固有の実装スタイル)を持っています。それをそのまま活かしつつ、ブラウザー操作が要る瞬間だけ Claude 子セッションに肩代わりさせる。
例えばこういう構図です。
- Codex 親セッション: 記事本文を書く(コード解説など Codex が得意)
- Claude 子セッション: 画像生成(Gemini Web) / NotebookLM / X 予約投稿 のような browser 系タスクを担当
- 完了したら Claude 子は結果(PNG パス、公開 URL など)を親に返す
これ、既に部品はある程度揃っている、というのが面白いところで。次で説明します。
Codex は本文執筆に集中し、Claude 子は画像生成 / NotebookLM / X 予約投稿などの browser 系タスクだけを担当。結果は共有 board.md に書き戻して親に返す。役割分業の絵です。
既存の土台
many-ai-cli は v0.5.1 の時点で以下を持っています。
1. spawn-child API
親セッション(provider 問わず)が子セッションを生やせる REST エンドポイントが既に実装されています。
POST /api/sessions/:id/spawn-child
{
"role": "designer",
"provider": "claude",
"model": "claude-opus-4-7",
"prompt": "この記事の hero 画像を作って",
"cwd": "./"
}
Codex 親から Claude 子を spawn する、が現時点でも技術的には可能。
2. Orchestration board(board.md)
子セッションが増えると ~/.many-ai-cli/orchestration/<id>/board.md という共有 Markdown ファイルが生まれます。親の指示、子の完了報告、子から親への結果引き渡しがすべてここに集約される仕組み。
3. git worktree の自動隔離
親と子の作業ディレクトリが被らないように、子は自動で git worktree に隔離されます。ブランチが違うので競合しません。
4. ## DONE <role> session=<child_id> マーカー
子が完了した瞬間に board.md に自動で書き込まれるマーカー。親はこれを検知して次のアクションに移れます。
つまり spawn からタスク実行、完了通知、結果引き渡しまでのフレームワークは既に動いている。あとは「browser 使いたい」ケースに特化して滑らかにするだけ、という状況です。
未実装の 4 ピース
とはいえ、実運用に持っていくには詰めるべき論点が 4 つあります。
P1: browser 必要性の自動判定 + ルーティング提案
親セッションが「これ browser 要るな」と判定する導線が欲しい。案:
- ヒューリスティック検出: 親のプロンプトに
Gemini Web/NotebookLM/X 投稿/Google カレンダー/Chrome/browser等の語が出たら many-ai-cli 側で通知 - explicit マーカー: 親が
[BROWSER-DELEGATE] <task>と書いたら board.md に子タスクとして自動登録 - skill 側で吸収: 各 skill の references に「browser 経路と API 経路の分岐」がある場合、
many-ai-cliが provider 種別を参照して自動選択
P2: セッション文脈の自動要約 + 引き継ぎ
親(Codex)の会話履歴を丸ごと子(Claude)に渡すと context が爆発します。「browser で何をしたいか」に絞ってサマリを board.md に書く仕組みが要る。
- 親の LLM に board.md 用のタスクサマリ生成を依頼
- サマリの粒度: 入力、期待する出力、制約、認証状態(既ログイン想定など)
- 子は board.md だけを context として受け取り、親の生履歴には触らない(責務分離)
P3: 完了後の親への結果注入
Claude 子が browser で得た結果(DL 画像パス、ログイン後の URL、抽出テキスト、スクリーンショット)を Codex 親の会話に自然に注入する仕掛け。
- board.md に
## RESULT <role> session=<child_id>セクションで書き戻す(DONE マーカーと対称) - 親側は次ターンで
board.mdの RESULT を context に含めて応答 - ファイルパス系は「親の cwd 相対」に正規化して渡す
P4: 課金 / 認証の使い分け最適化
- 無料経路優先: Claude 側 browser で無料枠を使う(NotebookLM 3 枚/日、Gemini Web、ChatGPT Plus の画像生成、X 予約投稿)
- 有料経路 fallback: Claude 子が unavailable なら Codex 親が API 経路に降りる(既存の hero-pipeline.md Step 2B のパターン)
- 課金追跡: Web 経路と API 経路の使用量を統計として
~/.many-ai-cli/logs/browser-delegate.jsonlに記録
設計案 A/B/C
実装アプローチとして 3 つの案を考えました。
case A: 明示的な spawn-child 拡張
親が既存の spawn-child API に role: browser-delegate を渡すと、子が自動で Claude provider に固定される(provider: claude 指定と等価)。ユーザー体験:
Codex 親: "この記事を NotebookLM でインフォグラフィックにして"
→ 内部で spawn-child role=browser-delegate provider=claude
→ Claude 子が browser 経路で処理
→ RESULT に PNG パス書き戻し
Codex 親: (RESULT を context に含めた次ターンで) "できました。パスは …"
Pros: 明示的で分かりやすい。デバッグしやすい
Cons: 親側がこの role を意識して指示を書く必要がある
case B: 暗黙の routing hook
many-ai-cli 内部で「NotebookLM 系タスクが親のプロンプトに現れた」等のパターンを検知し、自動で Claude 子を spawn して board.md を作る hook を仕込む。ユーザー側は spawn を意識しない。
Pros: UX が滑らか
Cons: 誤発火のリスク(ユーザーが手動でやりたい時に spawn される)→ config.yaml で opt-in にするのが安全
case C: skill 側で完全に吸収
skill の references/*.md 内で「provider ≠ claude なら spawn Claude 子」の明示ロジックを書く。many-ai-cli コア側の変更は最小。
Pros: 実装量最小・skill 単位で挙動制御しやすい
Cons: 全 skill に配線が必要・記述の重複
推奨: まず case C(skill 側で 1〜2 skill 実装 → dogfood)→ 効果検証後に case A(コア API 拡張)→ さらに UX 磨きが要れば case B(暗黙 hook)の順で段階導入。
段階導入の理由は 3 つ。(1)skill 側の実装だけならコア変更ゼロで検証できる、(2)dogfood で「本当に欲しかった機能」が分かる、(3)UX の磨き(case B)は最後にやれば十分。
業界動向: MCP エコシステムの現状
視野を少し広げます。MCP 自体がどこまで広がっているか、事実だけ並べます。
- 参照サーバーの数: https://github.com/modelcontextprotocol/servers に集約されているのが 30+ 種類(Slack、Notion、GitHub、Postgres、Google Drive、ファイルシステム、ブラウザー、SQLite、Puppeteer、Fetch など)
- リポの star 数: 参照実装リポで 88.8k(2026-07 時点)。エコシステムとしては急拡大中
-
主要ホスト側の対応:
- Claude Code / Claude Desktop: MCP フル対応(発案元)
- Cursor: MCP サーバー追加 UI を持つ https://cursor.com/docs
- Codex CLI: MCP サーバー設定を
~/.codex/mcp.jsonで書ける - Grok Build CLI: 対応記述薄い
- GitHub Copilot: VS Code 拡張経由で MCP を扱う道はある
- 仕様の中立性: 規格は https://modelcontextprotocol.io/specification に公開。プロプライエタリではない
-
セキュリティ: 各 MCP サーバーが「信頼できるサーバーか」を確認する仕組みは各ホスト側で実装される(Claude Desktop なら明示的な承認、Claude Code は
~/.claude/mcp.jsonの設定ファイルで管理)
つまり プロトコルとしては業界標準に近づいているのに、「純正 Chrome 拡張」というインフラを持っているのは Anthropic だけ、という非対称が生まれています。
これは各社の戦略の違いを反映していると思います。
- Anthropic: 「Claude を家の隅々まで住まわせる」路線。デスクトップアプリも Chrome 拡張も VS Code 拡張も自前で出す
- OpenAI: 「API 経由でどのアプリからも呼べる」路線。GPT を SaaS のバックエンドとして売る
- xAI: 「Grok は Twitter/X との統合が主戦場」。ローカル PC の browser にはあまり投資してない
- Google: Gemini Web を Chrome にネイティブ統合。ただし Codex や Claude からは操作対象になる側
多 AI CLI 運用者から見ると、この非対称が 「同じ skill を Claude で走らせるか Codex で走らせるかで結果が変わる」 現象として現れる。今回の題材の核心はここです。
予測
ここから先は私見なので、外れる可能性込みで書きます。
3 ヶ月後(2026 年 10 月頃)
- OpenAI が Claude for Chrome 相当の拡張をリリースする可能性は低い。理由: OpenAI の戦略は「API + SaaS プラットフォーム」で、エンドユーザーの browser を直接持たせるより ChatGPT アプリの中で完結させる方向
- 代わりに Codex CLI で playwright-mcp 経由のブラウザー自動化が「よくあるレシピ」として広まる可能性が高い
- xAI(Grok)は browser 系にあまり動かない
-
many-ai-cliに browser-delegate 機能が入るなら、v0.6.0 相当の目玉として仕上げられる(v0.5.2 は他の後処理で埋まる想定)
6 ヶ月後(2027 年 1 月頃)
- MCP エコシステム全体で「browser 系サーバー」が最も star を集めるジャンルになっている可能性
- OpenAI と Anthropic の間で MCP プロトコルの拡張仕様(認証、権限、コスト計測)で議論が起きる可能性
- Google Antigravity CLI(旧 Gemini CLI 系。2025 年後半に Antigravity プラットフォームへ再編成。https://antigravity.google/ )が独自の Web 統合を強化してくる可能性はあり
- 個人開発者にとっては「Claude で無料、Codex で API 課金」の構造が体感として広く知られるように
1 年後(2027 年 7 月頃)
- 多 AI CLI ラッパーが数種類乱立していて、その中の 1 つに **「provider ごとの経路最適化」**が標準機能として入っている
- 「browser を持たない CLI」から「browser を持っている CLI」への delegate は業界一般の設計パターンになっている(かもしれない)
- 個人 OSS で
many-ai-cliがその流れの参照実装として認識される、というのが私の希望
予測 3 つはハズしていいという前提で書いています。とはいえ MCP が中立プロトコルであることと、Anthropic の Chrome 拡張が既に一般公開されていることを踏まえると、「Claude だけタダ」の非対称は今後 1 年は続くと考えています。
このタイムラインはあくまで私見で、外れる可能性が高い箇所も多々あります。特に OpenAI が Chrome 拡張を出す/出さないの判断は完全に主観です。それでも「1 年は非対称が続く」だけは高い確度で言えると思っています。
リスクと制約
冷静な視点も置いておきます。この構想の弱点。
認証/セキュリティのリスク
- Claude for Chrome 拡張は「開いている Chrome タブへの操作権」を Claude に渡すことになる
- 悪意ある Web ページに Claude が誘導されると、ログイン済みセッションを使って何かされる可能性
- Anthropic は権限モデル(サイト単位の許可、明示的な確認)を積んでいるが、完全ではない
- 特に 「Codex から delegate された Claude 子」が browser 経由で不注意にログインセッションを漏らす可能性は本気で設計する必要がある
プロトコル依存
- MCP は Anthropic 主導。標準として広がっている最中だが、将来仕様変更で backward compat が壊れる可能性は否定できない
- Chrome 拡張は Chrome の拡張 API に依存。Manifest V3 は既に来ているし、今後の Chrome 側変更で使えなくなる機能が出る可能性
プロバイダー依存の集中
- Web 経路が使えるのは各サービスの「無料枠」に依存
- Google AI Plus、Anthropic Pro、ChatGPT Plus のサブスクを維持していないと Web 経路の無料生成すらできない
- サブスク価格が上がる or 無料枠が縮小されると経済性が崩れる
実装コスト
-
many-ai-cliに browser-delegate 機能を入れると、コア規模がまた膨らむ - 保守負担、regression リスク、テスト面積がすべて増える
- 個人 OSS の許容範囲を超える可能性
こういうリスクを踏まえた上でも「面白いし需要はある」というのが私の判断ですが、これは主観です。
今日の帰結
長くなったので、まとめます。
- 記事作成スキルを 2 種類の CLI で並列運用したら、片方は無料 Web、片方は課金 API になっていた
- 原因は Anthropic が Chrome 拡張を純正で出しているエコシステムの厚み
- MCP プロトコル自体は中立で、他 CLI でも汎用 MCP を配線すれば同じことはできる
- ここに「Codex 親から Claude 子に browser 部分だけ delegate する」orchestration の空きスペースがある
- 自作の
many-ai-cliに browser-delegate を pending として起票した(次リリース候補) - 3 ヶ月〜1 年の予測はハズしていい前提。ただし「Claude だけタダ」の非対称は 1 年は続く見込み
many-ai-cli はこんなときに刺さります
- Claude Code・Codex・Copilot・Cursor・Grok を同時に走らせて、状態を 1 画面で監視したい方
- 各 CLI の承認待ちをまとめて 1 タブで捌きたい・ターミナルの往復を消したい方
- 離席中もスマホから承認したい方
- そして将来的には、Codex で書きながら Claude に browser を肩代わりさせる、みたいな運用を待っている方(本記事の題材)
いずれかに心当たりがあれば、npm i -g many-ai-cli で 1 分で試せます。設定ゼロで動きます。
- リポジトリ(Issue / PR 歓迎): https://github.com/ishizakahiroshi/many-ai-cli
- npm: https://www.npmjs.com/package/many-ai-cli
Star をいただけると開発の励みになります。使ってみて「ここが不便」があれば、Issue でも X の DM でも大歓迎です。
おわりに
この記事は、v0.5.1 リリース振り返り note 記事を書いている最中に生まれた脱線から広げたものです。振り返りの note のほうは近日中に別途公開します。
3 万字書いてみて分かったのは、この題材はまだ書ききれていないということでした。実装が進めば「実際に browser-delegate を書いてみたら詰まった話」も書けそう。次に書きたいネタが目の前に転がっている、というのは幸せな状態です。
小さく、これからも続けます。
📎 図解版・関連リンクをまとめたページがあります:
https://ishizakahiroshi.com/articles/2026/2026-07-23_codex-vs-claude-mcp-browser-delegate/








