はじめに
「お前がみろ」
このプロンプトを書いたのは、同僚の @Shinn_Matsumoto さんです。
本人のClaude Codeセッションを見せてもらったとき、画面に出てきました。
自分は普段、AIにも「確認してください」「お願いします」と話します。そのため、かなり高圧的な書き方に驚きました。
でも、ここでひとつ気になりました。
AIには丁寧に頼むより、高圧的に命令したほうが回答の精度は上がるのでしょうか。
調べてみると、「失礼なプロンプトは精度が下がった」という研究もあれば、「失礼なほど正答率が上がった」という研究もありました。結論から言うと、現時点では高圧的にすればAIの精度が上がる、とは言えません。
ただし、同僚のプロンプトには、口調とは別にAIを動かしていた要素がありました。
この記事では、まず実際のClaude Codeセッションを観察し、そのあとプロンプトの丁寧さを調べた3つの研究と見比べながら、何がAIの回答を変えていたのか考えます。
この記事ではプロンプトを書いた本人のQiitaアカウントを掲載しています。プロジェクトを特定できる情報は除き、やり取りも趣旨が変わらない範囲で抜粋しています。プロンプト内の表記・誤字は原文ママです。
実際の「お前がみろ」は、Claude Codeに効いたのか
まず、きっかけになった同僚のセッションを見てみます。
ただし、このセッションは同じ依頼を「丁寧」「高圧的」の2条件で試した比較実験ではありません。そのため、ここから口調の効果を断定することはできません。あくまで、高圧的な指示のあとに何が変わったのかを観察した事例として扱います。
同僚はClaude CodeとPencilを使い、参考画像をもとにUIを作っていました。Pencilについては、自分も以前記事にしています。
最初のプロンプトは普通でした。
pencil作成の状況は?
続いて、すでに作った画面の不具合を確認します。
03の左のメニューバーが黒いけんは対応済み?
Claude Codeは、ファイルをPencilで開いてからもう一度教えてほしいと返しました。しかし、同僚から見るとファイルはすでに開いていますし、確認を依頼した相手はClaude Codeです。
そこで、タイトルにもした一言が出ます。
お前がみろ
強い。5文字です。
では、この直後にClaude Codeの精度が上がり、問題を解決したのでしょうか。
実際には、すぐ直っていません。
Claude Codeは再び接続できない理由を説明し、同僚へ操作を求めました。そのあとも次のプロンプトが続きます。
vscodeで開いてるよ、ってか開いてる必要ないだろ。
ウェブサーチしてわからないなら
ウェブサーチしろ
Web検索とMCPの再接続を経て、ようやくサイドバーの変数が黒 #111111 になっていることを特定し、白 #FFFFFF へ修正しました。
この流れだけを見ると、「お前がみろ」がAIの能力を上げたというより、調査を続ける方向へ会話を戻したと見るほうが近そうです。
高圧的なプロンプトの中に、精度を上げそうな指示が入っていた
セッションの途中には、もっと高圧的なプロンプトも出てきます。
あなたが作ったんですよ!!!!!!!!、
わからないならウェブサーチして
感嘆符が8個あります。
ただし、AIに渡している情報は「怒っている」だけではありません。
- 作成したClaude Code自身が場所を調べる
- 分からなければWeb検索する
さらに興味深かったのが、次のプロンプトです。
いや私に聞かないで、画面分析してみなよ、
全画面統一性を出してね、同じ一つのシステムなんだから
口調は強いのですが、分解するとかなり具体的です。
| 実際の言葉 | AIへ渡している指示 |
|---|---|
| 私に聞かないで | 判断と確認をユーザーへ戻さない |
| 画面分析してみなよ | 先に現状を調査する |
| 全画面統一性を出してね | 画面単体ではなく横断的に比較する |
| 同じ一つのシステムなんだから | 統一する理由を伝える |
これは「高圧的だから効いた」というより、調査方法・対象範囲・品質基準・理由が入ったから効いた可能性があります。
ログイン画面を元画像へ合わせる場面でも、同僚は次のように指示しています。
元画像と全然違うじゃんimage01と
全然できなてないよ、あと自分でみろ
元画像もう1回よくみて
このあとClaude Codeは元画像を読み直し、自分で「全然違いました」と認めました。そして、左パネルの背景色、建物の色、装飾要素を修正しています。
ここでも精度を上げた可能性が高いのは、怒りより次の情報です。
- 比較対象は
image01 - 現在の出力は完成条件を満たしていない
- 元画像をもう一度読み直す
- ユーザーではなくClaude Code自身が確認する
口調を丁寧にしても、この4点が残っていれば、同じ方向へ進めた可能性があります。
とはいえ、これは比較実験ではない1つのセッションの観察です。口調そのものの効果は、研究ではどう調べられているのでしょうか。
研究ではどうか:高圧的なら高精度、とはまだ言えない
今回調べた研究の結果は、きれいに割れていました。
| 研究 | 対象 | 結論 |
|---|---|---|
| 3言語で比較した研究(2024) | 複数モデル/英語・中国語・日本語 | 失礼だと悪化しやすい |
| ChatGPT-4oで比較した研究(2025) | 多肢選択問題50問 | Very Rudeが+4.0ポイント |
| 3つのモデルで比較した研究(2025) | GPT・Gemini・Llama | 全体の差は小さい |
ある研究では失礼なほど悪くなり、別の研究では失礼なほど良くなっています。
この違いを見ると、口調だけで使える万能ルールはまだないと考えるのが自然です。
2024年の研究:失礼なプロンプトは悪化しやすかった
2024年にACLのワークショップで発表された「Should We Respect LLMs?」では、英語・中国語・日本語の3言語でプロンプトの丁寧さを変え、LLMの性能を比較しています。
結果は、失礼なプロンプトでは性能が下がることが多い一方、丁寧すぎれば必ず良くなるわけでもない、というものでした。また、どの丁寧さが合うかは言語によって異なっています。
つまり「AIには敬語を使えば使うほどよい」でも、「怒鳴れば賢くなる」でもありません。
2025年の研究:失礼なほど正答率が上がった
ところが、2025年の短いプレプリント「Mind Your Tone」では逆の結果が出ています。
数学・科学・歴史から50問を用意し、同じ問題を次の5段階の口調へ書き換えてChatGPT-4oに回答させました。
- Very Polite
- Polite
- Neutral
- Rude
- Very Rude
正答率はVery Politeの80.8%から、Very Rudeの84.8%まで上がったと報告されています。
これだけ見ると、「やっぱり高圧的なほうが効くじゃん」と思います。
ただし、対象はChatGPT-4oの多肢選択問題50問です。Claude CodeにUIを作らせるような、複数のツールを使う長い作業とはかなり条件が違います。また、査読済み論文ではなくプレプリントなので、日常のAI活用へそのまま一般化するのは早そうです。
複数モデルで調べると、差は小さくなった
同じ2025年には、GPT-4o mini・Gemini 2.0 Flash・Llama 4 Scoutを比較したプレプリントも出ています。
こちらではVery Polite・Neutral・Very Rudeの3種類で、STEMと人文系の問題を検証しています。中立または丁寧なプロンプトのほうが概ね高精度でしたが、統計的に意味のある差が出たのは人文系の一部でした。分野ごとに集計すると、口調による差はかなり薄れています。
論文内でも、口調の影響はモデル依存・分野依存と整理されています。
研究を並べると、「高圧的なプロンプトが効くこともある。でも、どのAI・言語・問題でも精度が上がるわけではない」という、少し地味な答えになります。
「短くなった」と「正しくなった」は別物
ここで、自分が最初にごちゃ混ぜにしていたことがありました。
AIの回答が「よくなった」と感じても、実際には複数の変化があります。
| 変化 | 見ているもの |
|---|---|
| 正答率が上がる | 答えそのものが正しいか |
| 返答が短くなる | 前置きや説明が減ったか |
| 指示に従う | 提案で止まらず実行したか |
| 作業を完了する | 実装・確認まで終えたか |
高圧的なプロンプトは余計な言葉が少なく、命令も直接的になりがちです。その結果、回答が短くなったり、すぐ作業に入ったりすると「精度が上がった」と感じるかもしれません。
でも、短くなったことと、正しくなったことは別です。
以前、Claude Codeの回答を短くする「Concise」や「genshijin」を試したときも、変わったのは主に報告の順番や文章量でした。モデル自体の能力が上がったわけではありません。
高圧的な口調についても、「正答率」「簡潔さ」「指示への従いやすさ」を分けて見ないと、効果を勘違いしそうです。
Claude Code公式が勧めるのも「高圧」ではなく「検証」だった
Claude Codeの公式ベストプラクティスには、今回のセッションとよく似たUI作業の例があります。
公式が勧めているのは、実装後にスクリーンショットを撮り、元のデザインと比較し、差分を列挙して修正することです。テスト・ビルド結果・スクリーンショットなど、Claude Code自身が合否を判断できる材料を渡すと、ユーザーが毎回確認する状態を避けられます。
つまり、精度を安定させるために再現しやすいのは次の2つです。
- 何をもって完成とするか
- 完成をどう検証するか
「お前がみろ」を、口調だけ変えて書き直す
同僚の意図を残し、口調だけ中立にすると次のようになります。
私に目視確認を依頼せず、あなた自身で元画像と現在の画面を比較してください。
背景色、配置、アイコン、余白、イラストの5項目について差分を列挙し、
差分があれば修正してください。
修正後にもう一度スクリーンショットを取得して比較し、
確認できていない状態では「完成」と報告しないでください。
高圧的ではありませんが、かなり厳しいプロンプトです。
そして「お前がみろ」よりも、確認担当・比較対象・確認項目・再検証・完了条件が明確です。
画面を取得できなかった場合の動きも決めておくと、推測による完成報告を防げます。
スクリーンショットを取得できない場合は、推測で完成と判断しないでください。
取得できなかった原因と、試した復旧方法を報告してください。
高圧的な言葉を再現するより、こちらをテンプレートにしたほうが使い回せそうです。
まとめ
きっかけは「お前がみろ」でしたが、セッションを観察すると、この一言だけで急に正しくなったわけではありませんでした。動きを変えていたのは、「自分で調べる」「元画像と比較する」「確認をユーザーへ返さない」といった具体的な指示です。
「AIへ高圧的に送ると回答の精度が上がるのか」を研究で確かめても結果は割れており、その結果をClaude Codeの長い作業へそのまま当てはめることはできません。
高圧的になると、結果的に指示が短く直接的になることはあります。でも、再現したいのは怒りではなく、その中に入っていた明確さです。
次にAIの回答がズレたら、語気を強くする前に「何と比較するか」「どう検証するか」「いつ完成か」を1行ずつ足してみようと思います。
参考
- Should We Respect LLMs? A Cross-Lingual Study on the Influence of Prompt Politeness on LLM Performance
- Mind Your Tone: Investigating How Prompt Politeness Affects LLM Accuracy
- Does Tone Change the Answer? Evaluating Prompt Politeness Effects on Modern LLMs: GPT, Gemini, LLaMA
- Claude Code公式ドキュメント: Best practices for Claude Code
- Anthropic公式ドキュメント: Prompting best practices