はじめに
「またこのブックが止まってる…誰も触りたくないやつや」――私の職場では、そんなセリフが朝礼でこそ言われませんが、実質“合言葉”になっていました。
そこには、30シート・数千セル、VBAでビシッと決まった“秘伝のロジック”が眠っていて、作成者が異動後となってからというもの、改修するたびに恐怖すら伴っていました。
でも、私は思ったのです:このままではいけない。Excel業務を「とりあえず動くから」で放置しておくと、DX化どころか逆に足枷になりかねない。実際、ExcelがDX推進の「壁」になっていると指摘する記事もあります。
そこで、私の経験をベースに「この“神エクセル”をどうDX化するか」を整理してみます。あなたの職場でも必ず活用できるヒントになるはずです。
現状を俯瞰するフェーズ
まず最初にやったのは、「本当にこのExcelファイルがどう使われているか」を可視化すること。具体的には以下のポイントを押さえました:
- 入力の流れ
- 誰が、どのタイミングで、どのシートに入力/更新しているか?
- 処理の流れ
- マクロ/VBAがどれくらい自動で処理しているか?手作業はどこか?
- 出力・報告物
- このExcelが最終報告書・分析資料になっているのか?それとも中間データ?
私の場合、「ファイルをメール添付して回して承認して再保存して…」という手順が毎日繰り返されており、しかも多数の担当者が同じファイルを別バージョンで持っていたため、データがバラバラになる事多々。
この段階で「属人化」「ブラックボックス」「バージョン地獄」の3つが明確になりました。
“DXにおいて、Excelは脱しなければならないわけではない。だが、Excel関連の散在・非効率がDXの足かせになることもある。”
bi.ksc.co.jp
DX化の方針設定
俯瞰した上で、以下のような方針を定めました。
**Excelを捨てない。**むしろ、既に現場で使いこまれているからこそ活かす。なぜなら初期コストが低く、現場の抵抗も比較的少ないため。
**構造を整理し、誰でも追えるようにする。**マクロ・セル参照だらけで「誰かしかわからない」状態を解消。
**自動化・統合・可視化を段階的に。**すぐに大規模システムに移行するのではなく、“スモールDX”で成果を出す。
実践ステップ:3段階で進める
以下、私が実施した3つの具体的ステップです。
ステップ1:ルールをクリアに、入力/集計を整理
ファイルを開いたら「どこに何を入力すればいいか」すら曖昧なままだったので、
入力専用シートと出力専用シートを明確に分けた。
入力シートには**入力規則(ドロップダウン)**を入れて、ミスの多かったセルを制限。
集計シート側では、直接数式が入り乱れていたので、論理を整理して「このブックはこの目的用」と名前を付けてバージョン管理を徹底。
その結果、セル参照が壊れて「何も表示されない!」という事故が劇的に減りました。
ステップ2:マクロ/VBA+クラウド連携で自動化
次に、既存のマクロを見直しました。私が使ったスクリプト例:
Dim wsSrc As Worksheet, wsDest As Worksheet
Set wsSrc = ThisWorkbook.Sheets("入力データ")
Set wsDest = ThisWorkbook.Sheets("集計結果")
wsDest.Range("A2:Z1000").Clear
wsSrc.Range("A1:Z1000").Copy Destination:=wsDest.Range("A2")
Call CalculateTotals
End Sub
それを改善して、さらに:
ドキュメント化(「この処理は何をするか」をコメントに記載)
将来「外部データベース」「クラウドストレージ」へ移行できるよう、入力→出力の流れを分離
外部ツール(例:RPA、クラウド関数)との連携も検討。実際、RPA導入支援などではExcelとRPA・AI-OCRを組み合わせる例も紹介されています。
この段階で、「人がセルを手直しする部分」を極力減らし、作業を安全にしました。
ステップ3:Excelを“参照&報告”ツールに位置付け直す
最後には、「このExcelファイルが唯一のデータ源だ」という状況から、「Excelはあくまで可視化・報告用」へと役割を変えました。
データはクラウド上のテーブル/データベースに集約。
自動処理されたデータをExcelでダウンロード・分析・レポート。
Excelファイルそのものを“共有/編集”対象とせず、“最新出力物”として扱う。
これにより、バージョン違い・共有漏れ・転記ミスという“神エクセルの地獄”から少しずつ脱却できた実感があります。
成果と、振り返り
成果
以前は1レポートに毎日1時間以上かかっていた処理が、30分未満に短縮。
担当者が休んでも「ファイルが止まる」ことが減り、安心感が現場に広がった。
Excel開く/コピーする/貼る…という単純作業が減り、少しだけですが「分析する時間」が作れたと感じています。
振り返り・注意点
DX化を進めるとき、「Excelをただ捨てる/システムに置き換える」ことが目的になってはいけません。Excelが何故使われていたか、どの部分がボトルネックかをきちんと理解することが先です。
また、属人的なマクロを即座に“モダンなシステム”に移すと、現場の混乱を招くので、段階的移行が肝心です。
おわりに
私が経験して思うのは、神エクセルを否定するのではなく、活かせる形に変えるということ。Excelには長年蓄積されたノウハウや手慣れた操作感があります。それを活かしつつ、未来志向で構造を見直すことがDX化の鍵だと思っています。
あなたの職場に眠る“秘伝のExcelファイル”も、少し手を入れれば「現場が安心して使える仕組み」に変わる芽があるはずです。是非、現状を俯瞰して、小さな一歩から始めてみてください。