― なぜ人は「理解したつもり」になるのか ―
はじめに:この会は優しくありません
この記事は、慰めるためのものではありません。
誤解を誤解のまま放置しないためのものです。
技術の世界では、
「だいたい合っている」はだいたい事故の入口です。
読み終わったあとに
「なんか耳が痛いな」と思ったなら、正常です。
この記事は、誰かを見下すためのものではありません。
過去の自分を殴るためのものです。
1. 「用語を知っている=中身を理解している」問題
まず最初の誤解です。
- 用語を知っている
- 聞かれたら一言で説明できる
- Qiitaの記事をいくつか読んだ
これだけで「理解している側」に入った気になっていませんか。
それは錯覚です。
名前を知っていることと、
仕組みを理解していることの間には、
思っているより深い溝があります。
「知ってる」と「使える」と「説明できる」と「設計できる」は、
それぞれ別の次元です。
説明が抽象的なままなら、
その理解はまだ地面に足がついていません。
2. 「途中まで正しい説明」が一番やっかいです
完全に間違っていれば、まだ救いがあります。
問題なのは、7割くらい合っている説明です。
- 嘘ではない
- でも足りない
- そして本人は満足している
- 会議では通じてしまう
この状態が一番長引きます。
技術は部分点をくれません。
100%か、そうでないかです。
中途半端に正しい理解は、
完全に間違っている理解より、
修正するのが難しいのです。
3. 「動いたから正解」という危険な判断
これははっきり言います。
動いたかどうかと、正しいかどうかは無関係です。
- 偶然条件が揃っていただけ
- 問題が表に出ていないだけ
- たまたま今は困っていないだけ
- テストケースが甘いだけ
それでもシステムは黙っています。
沈黙は肯定ではありません。
「動く」と「正しい」の間には、
半年後に爆発するバグが埋まっています。
4. 「普通こうでしょ?」が通じない理由
人は日常会話に慣れすぎています。
- 文脈で補う
- 察する
- 空気を読む
- 「まあそういうことでしょ」で済ませる
しかし、仕様やプロトコルは違います。
書いていないことは、存在しない。
定義されていない挙動は、未定義です。
「普通そうなるはず」は、
設計書には1ミリも書いてありません。
コンピュータに常識はありません。
あるのは仕様だけです。
5. 比喩だけ覚えて満足する現象
比喩は便利です。
理解の入口としては、とても有効です。
- 「HTTPは郵便みたいなもの」
- 「クラスは設計図」
- 「ポインタは住所」
ただし、問題があります。
比喩は答えではありません。
比喩だけを覚えてしまうと、
- 境界条件が分からない
- 例外に対応できない
- 応用が効かない
- 「で、結局どういう仕組み?」に答えられない
という状態になります。
説明できるのは、比喩ではなく構造です。
比喩は松葉杖であって、ゴールではありません。
6. 「理解した気になる瞬間」はどこで生まれるか
多くの場合、ここです。
- 説明を読んだ
- うなずけた
- なんとなく納得した
- 「ああ、そういうことか」と思った
この時点で脳は「理解した」と誤認します。
しかし実際には、
- 図にできない
- 他人に説明できない
- 少し角度を変えられると崩れる
- コード例を変更すると動かなくなる
それは未完成の理解です。
「分かった」という感覚は、
理解の証明ではありません。
ここまでで、すでに疲れているなら正常です。
それは誤解が多い証拠ではなく、
誤解が"思考の癖"だと気づき始めている証拠です。
7. 「ググれば出てくる」の罠
これは真実でもあり、罠でもあります。
- 確かに答えは出てくる
- 確かにコピペで動く
- 確かに問題は解決する
しかし、
- なぜ動いたのかは分からない
- 次に同じ問題が起きても対処できない
- 少し条件が変わると途端に詰む
検索できることと、理解していることは別です。
ググって解決できるのは、
同じ問題だけです。
理解がなければ、
応用は効きません。
8. 「エラーメッセージを読まない」という習慣
これは驚くほど多いです。
- エラーが出た
- 「あっ、ダメだった」
- すぐにググる
ちょっと待ってください。
エラーメッセージを読みましたか?
- どこで
- 何が
- なぜ
失敗したのか、そこに書いてあります。
エラーメッセージは敵ではありません。
最も親切なヒントです。
読まずに逃げるから、
同じエラーを何度も踏みます。
9. 「とりあえず動かす」と「理解してから動かす」
これは永遠の論争です。
- 「とりあえず動かしてから理解する派」
- 「理解してから動かす派」
どちらも正しいし、どちらも間違っています。
問題は、
「とりあえず動かす」で終わっている人が異常に多い
ということです。
動かすのは入口です。
そこで止まってはいけません。
- なぜ動いたのか
- 何が起きているのか
- どこを変えると壊れるのか
これを確認しない限り、
それは借り物の理解です。
10. 「コピペ実装」の本当の怖さ
コピペが悪いわけではありません。
問題なのは、
コピペしたコードを説明できない状態
です。
- この行は何をしている?
- なぜこの順番なのか?
- この変数は何を持っている?
これに答えられないなら、
そのコードはあなたのものではありません。
借り物のコードは、
壊れたときに修正できません。
11. 「わかりやすい説明」に逃げる癖
「もっとわかりやすく説明してほしい」
この要求は、時として危険です。
わかりやすさは大事です。
しかし、
簡単にすることと、正確であることは、しばしば相反します。
- 複雑なものを複雑なまま理解する
- 難しいものを難しいまま受け止める
これも必要な能力です。
すべてを簡単にしようとすると、
本質が抜け落ちます。
「わかりやすい説明」だけで満足していると、
いつまでも初心者のままです。
12. 「後で調べる」は調べない
正直に言いましょう。
「後で調べます」と言って、
実際に調べる人は1割以下です。
- 忘れる
- 後回しにする
- 結局調べない
- 次に同じ場面で困る
このループです。
今分からないことは、今調べてください。
5分で済むことを、
3ヶ月後にまた悩むのは無駄です。
もう半分です。
まだ「分かってる」と思っているなら、
読み方が甘い証拠です。
13. 「分かったふり」のコスト
会議やレビューで、
分かったふりをした経験はありませんか?
- なんとなく頷く
- 「なるほど」と言っておく
- 後で調べればいいと思う
これは短期的には楽です。
しかし長期的には、
- 誤解が積み重なる
- 後で取り返しがつかなくなる
- 実装時に詰む
分からないと言う勇気が、理解への最短ルートです。
分かったふりは、
未来の自分への借金です。
14. 「実務経験があれば分かる」という幻想
よく言われます。
「実務で経験すれば自然と分かるようになる」
これは半分正しく、半分間違っています。
実務経験は確かに大事です。
しかし、
何も考えずに経験年数を重ねても、何も身につきません。
- 同じミスを繰り返す
- 応用が効かない
- 「前もこうやったから」で済ませる
これでは10年経っても1年目です。
経験は、振り返りとセットで初めて意味を持ちます。
15. 「基礎は飛ばしても大丈夫」という誤算
これは本当に多いです。
- 「基礎は退屈」
- 「とりあえずフレームワーク使えればいい」
- 「実装しながら覚える」
確かに、それでも動きます。
しかし、
基礎がない実装は、砂上の楼閣です。
- なぜ動くのか分からない
- トラブル時に対処できない
- 少し応用すると破綻する
基礎を飛ばすと、
後で10倍の時間をかけて学び直すことになります。
近道はありません。
16. 「ドキュメントを読まない」文化
「とりあえず触ってみる」
この姿勢は悪くありません。
しかし、
公式ドキュメントを読まずに進むのは危険です。
- Stack Overflowだけ見る
- Qiitaの記事だけ参考にする
- 公式を読むのは最後の手段
これでは、
- 古い情報を信じる
- 非推奨の方法を使う
- ベストプラクティスを知らない
まま実装することになります。
公式ドキュメントは退屈かもしれません。
しかし、最も信頼できる情報源です。
17. 「テストは面倒」という誤解
「テスト書く時間があったら、機能作りたい」
この気持ちは分かります。
しかし、
テストなしの開発は、命綱なしのロッククライミングです。
- 変更が怖い
- リファクタリングできない
- デグレに気づかない
- 動作確認が毎回手動
結果的に、開発速度は落ちます。
テストは、未来の自分への投資です。
18. 「変数名・コメント・リファクタリング」をサボる
これらは地味ですが、決定的です。
変数名:
-
a,b,temp,data - こういう変数名で埋まったコードは、1週間後に自分でも読めません
コメント:
- 「良いコードは自己説明的」は正しい
- しかし「なぜそうしたか」はコードからは読み取れません
リファクタリング:
- 「動いてるコードを変える必要ある?」→あります
- リファクタリングしないコードは、必ず腐ります
これらは贅沢ではなく、
必要なメンテナンスです。
19. 「一人で悩み続ける」という非効率
これは本当にもったいないです。
- 3時間悩んでいる
- 誰にも聞いていない
- 検索だけで解決しようとしている
質問することは、恥ではありません。
適切なタイミングで聞くことは、スキルです。
- 30分悩んで進まないなら聞く
- 調べた内容を整理して聞く
- 何が分からないかを明確にして聞く
一人で悩む時間は、
チーム全体の損失です。
20. 「完璧を目指しすぎる」問題
これは逆パターンです。
- 完璧な設計を考え続ける
- 最適な実装を探し続ける
- いつまでも手を動かさない
完璧主義は、時として前進を妨げます。
まず動くものを作る。
それから改善する。
この順番を間違えないでください。
「とりあえず完璧」は存在しません。
あるのは「今の最適」だけです。
21. 「過去の自分を肯定しすぎる」vs「否定しすぎる」
バランスが難しいです。
肯定しすぎると:
- 「当時はこれで良かったから」
- 成長が止まる
否定しすぎると:
- 「自分には才能がない」
- 学習をやめる
必要なのは、
昨日の正解を、今日も正解だと思わないこと。
でも、昨日の自分を全否定しないこと。
半年前の自分のコードを見て「なんだこれ…」と思えたなら、
それは成長している証拠です。
22. 誤解を減らすために必要な姿勢
やることはシンプルです。
- 主語をはっきりさせる
- どの段階の話かを意識する
- 省略されている前提を疑う
- 「たぶん」を信用しない
- エラーメッセージから逃げない
- 分からないことを放置しない
- 過去の自分を客観視する
そして何より大事なのはこれです。
分からない状態を、悪だと思わないこと。
誤解したまま進むほうが、
よほど高くつきます。
「分からない」は恥ではなく、
理解への入口です。
おわりに:誤解は敵ではありません
誤解は恥ではありません。
放置することが問題です。
理解とは、
- 削って
- 分けて
- 確認して
- 何度も壊す
- そしてまた組み立てる
- 昨日の自分を疑う
- 今日の自分も疑う
その繰り返しです。
分かった気にならない人だけが、先に進めます。
この記事を読んで、
「耳が痛い」と思ったなら、
それは良い兆候です。
痛みを感じるということは、
成長の余地があるということです。
何個当てはまりましたか?
0個なら、おそらく読み方が甘いです。
全部当てはまるなら、正常です。
誰もが通る道です。
大事なのは、そこで止まらないこと。
最後に、これだけは言っておきます。
この記事を読んで「分かった気」になったなら、
それ自体が、この記事で指摘している誤解です。
理解は読んで終わりではありません。
実践して、失敗して、振り返って、
初めて自分のものになります。
さあ、誤解を解きに行きましょう。