はじめに
(かつて?) 技術評論社から Software Technology というシリーズで Pascal 関連の書籍が出ていました。Delphi 界隈で最も有名なのは 『はじめての Delphi (塚越一雄=著)』でしょう。
Software Technology シリーズ
Software Technology シリーズは恐らく 28 までナンバリングされていますが、技術評論社のサイトでは 12 冊しかリストアップされません。古いシリーズですからね...。
Software Technology シリーズ一覧
シリーズ一覧はこちら。改訂版があるものは書籍コードが複数存在します。
No | タイトル | 著者 | ISBN-10 (Amazon) |
---|---|---|---|
1 | C サンプル&ツール集 | C 言語研究会 | 4874081509 |
2 | はじめての "C" | 椋田 実 |
4874081525 4874089860 4874085466 477411264X 4774133345 |
3 | C ツールライブラリ | C 言語研究会 | 4874081533 |
4 | LOGO トレーニングブック | ロジカ | 4874081584 |
5 | TURBO PASCAL トレーニングブック | Pascal User’s Group | 4874081606 |
6 | はじめての LISP | 吉田 利信 芹沢 照生 |
4874081657 |
7 | 人工知能の世界 | 田村 進一 柳原 圭雄 唐沢 博 |
4874081681 |
8 | 構造化 BASIC | 河西 朝雄 | 4874081711 |
9 | はじめての Pascal | 小池 慎一 |
4874081746 4874083617 |
10 | 知識指向言語 Prolog | 小谷 善行 | 4874088279 |
11 | はじめての Modula-2 | 小川 優介 | 4874088910 |
12 | コンピュータアルゴリズム事典 | 奥村 晴彦 | 4874089135 |
13 | C 言語による最新アルゴリズム事典 C 言語による標準アルゴリズム事典 |
奥村 晴彦 |
4874084141 4774196908 |
14 | C 言語による最新プログラム事典 第 1 巻 | 平林 雅英 | 4874085334 |
15 | C 言語による最新プログラム事典 第 2 巻 | 平林 雅英 | 4874085342 |
16 | すぐわかる Perl | 深沢 千尋 | 4774108170 |
17 | すぐわかる C/C++ | 塚越 一雄 | 4774100684 |
18 | C 言語による最新プログラム事典 第 3 巻 | 平林 雅英 | 4774101680 |
19 | C 言語による最新プログラム事典 第 4 巻 | 平林 雅英 | 4774101699 |
20 | はじめての Delphi | 塚越 一雄 | 4774102008 |
21 | Delphi 応用プログラミング | 塚越 一雄 | 477410261X |
22 | Delphi オブジェクト指向プログラミング | 塚越 一雄 | 4774104272 |
23 | すぐわかる C++Builder | 塚越 一雄 | 4774104906 |
24 | はじめての JBuilder | 塚越 一雄 | 4774105031 |
25 | [決定版] はじめての C++ | 塚越 一雄 | 477410843X |
26 | はじめての C++ [演習と解説] | 塚越 一雄 | 4774110124 |
27 | すぐわかる SQL | 朝井 淳 | 4774111570 |
28 | やさしくわかる Java 3D | 太田 篤史 | 4774116696 |
シリーズを調べていて最後まで判らなかったのが No.24 の『はじめての JBuilder』でした。Software Technology 24 技術評論社
で検索しても出てこないのです...まぁそれは置いといて、お題の通りシリーズ中の Pascal 関連の書籍を読んでみる事にします。
#5 TURBO PASCAL トレーニングブック
Turbo Pascal 2.0 を対象とした書籍です。
No | タイトル | 著者 | ISBN-10 (Amazon) |
出版年 |
---|---|---|---|---|
5 | TURBO PASCAL トレーニングブック | Pascal User’s Group | 4874081606 | 1985/7/10 |
書評
第一章の最初には Turbo Pascal の設定プログラムである TINST.COM
の使い方の記述もある。しかしながら Turbo Pascal そのものの使い方に関しては言及がない...Turbo Pascal 2.0 なので大体解るとは思うけれど。
「Turbo Tutor」 への招待
という 10P の節があるが、これは無駄に思える。Borland が出版したチュートリアル『Turbo Tutor』の解説なので、持っている人には釈迦に説法だし、所持していない人へは「『Turbo Tutor』読むといいよ」の一言で済む話だからだ。
第二章の Turbo Pascal Training
は 1~19 まであり、これをこなすと Pascal の構文を順次覚えられるようになっている...が、正直 Turbo Pascal 2.0 のリファレンスマニュアルか 『J&W』を持っていないとダメかもしれない。また、書籍のタイトルとなっているトレーニング部分は実質 46P しかない。第二章の残りは やさしい Turbo Pascal プログラミングテクニック
の 32P。
第三章は ツール&ライブラリ
となっていて書籍の大半を占める。今となっては環境依存するツール&ライブラリが持つ価値よりも、Turbo Pascal でのコードの書き方の方に価値があるのではないか?とも思う。
巻末に Turbo Pascal ver3.0 のお知らせ
という囲み記事があるが、これを書籍に書かれても...この書籍は全体的にみてまとまりに欠けるように思える。
個人的な評価: ★★★☆☆
『TURBO Pascalトレーニングブック 』は国立国会図書館デジタルコレクションで読む事ができます。書籍の閲覧には国立国会図書館の利用者登録 (本登録) が必要です。
See also:
#9 はじめての Pascal - Turbo Pascal によるプログラミング作法
Turbo Pascal 3.0 と UCSD Pascal を対象とした書籍です。
No | タイトル | 著者 | ISBN-10 (Amazon) |
出版年 |
---|---|---|---|---|
9 | はじめての Pascal - Turbo Pascal によるプログラミング作法 |
小池 慎一 | 4874081746 | 1985/11/1 |
書評
序章は BASIC や C との軽い比較。
第 1 部と第 2 部は Turbo Pascal の文法となっており、『J&W』や言語リファレンスのような趣がある。第 3 部は『アルゴリズム+データ構造=プログラム』的だ。
この書籍は Turbo Pascal 向けの 『J&W』 +『アルゴリズム+データ構造=プログラム』と言えるのかもしれない。
本書中で説明されている スカラ型
は、『J&W』 第 3 版以降または Turbo Pascal 4.0 以降のマニュアルでは 列挙型 となっている。ISO や JIS の Pascal 規格にも スカラ型
という語句は使われていない。
概念 | 本書での言い回し | 現在の Pascal |
---|---|---|
スカラ型という分類 | 広義のスカラ型 | 順序型 |
スカラ型という型 | 狭義のスカラ型 | 列挙型 |
巻末にある Turbo Pascal / UCSD Pascal / 標準 Pascal の比較表は Pascal マニアにはとても有難い。標準 Pascal に Odd() がない事になっているのだけ注意。
この書籍が目指したものは「一般的に触れる事のできる (比較的容易に入手できる) Pascal による Pascal の使い方」だと思う。それが Turbo Pascal や UCSD Pascal であったというだけなのだろう。
個人的な評価: ★★★★☆
『はじめてのPascal 』は国立国会図書館デジタルコレクションで読む事ができます。書籍の閲覧には国立国会図書館の利用者登録 (本登録) が必要です。
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#9' はじめての Pascal (改定第2版) - Turbo Pascal Ver5.5 によるプログラミング作法
『はじめての Pascal - Turbo Pascal によるプログラミング作法』の改訂版で、Turbo Pascal 5.5 を対象とした書籍になっています。
No | タイトル | 著者 | ISBN-10 (Amazon) |
出版年 |
---|---|---|---|---|
9 | はじめての Pascal - Turbo Pascal 5.5 によるプログラミング作法 |
小池 慎一 | 4874083617 | 1990/6/1 |
書評
Turbo Pascal 5.5 から Pascal を知るための書籍。 UCSD Pascal を考慮しなくなったので前版に比べスッキリしている (ページ数自体は逆に増えている)。
序章は Turbo Pascal 5.5 自体の使い方に差し替えられている。アンティークソフトウェアを入手した場合の日本語マニュアルとしても重宝するだろう。ただ、 NEC PC-9801 シリーズ用の Turbo Pascal 5.5 を前提としているため、〔GRPH〕キーは〔Alt〕キーに読み替える必要がある。
初版が Turbo Pascal 3.0 と UCSD Pascal を対象としていたため、この版でも列挙型は スカラ型として解説されている。Turbo Pascal 5.5 のマニュアルにもスカラ型の記述はもうなかったハズだ。
Turbo Pascal 5.5 で拡張された Object Pascal に一切触れられていないのが残念といえば残念だが、あくまでも改訂版なので仕方のない事だとは思う。
初版の巻末にあった各 Pascal の比較表は残念ながら削除されており、もはや『はじめての Turbo Pascal』というタイトルの方が内容にマッチしているようにも思うが、前版の書評に書いた「一般的に触れる事のできる (比較的容易に入手できる) Pascal による Pascal の使い方」が本書の目指す所であればタイトル通りであり、オブジェクト指向拡張に触れていなくても当然ではある。
個人的な評価: ★★★★★
See also:
#12 コンピュータアルゴリズム事典
タイトルからは想像できないと思いますが、これも Pascal を対象とした書籍です。
No | タイトル | 著者 | ISBN-10 (Amazon) |
出版年 |
---|---|---|---|---|
12 | コンピュータアルゴリズム事典 | 奥村 晴彦 | 4874089135 | 1987/10/1 |
書評
標準 Pascal で記述されているが、関数の形で記述されているものが多いため、ざっと見た限りでは最新版 Delphi で動作するものも多そうではある。但し、読み解くには数学の知識が必要なものが多い。
タイトルから名著『アルゴリズム+データ構造=プログラム』を思い浮かべるかもしれないが、本書は Pascal をすでに理解している
前提で、アルゴリズムに全振りした書籍となっている。
アルゴリズムの実装を Pascal で行ったというだけなので、あまり Pascal に固執してははいけないのかもしれない。本書の事実上の改訂版は同じ著者による 『#13 C 言語による最新アルゴリズム事典』(以下『C 言語版』) となっている。『C 言語版』は 2018 年にも改訂版が出ている。本書が「Pascal によるアルゴリズム集」で、『C 言語版』は「アルゴリズム用語辞典 (ソースコードは C 言語)」と言えば伝わるだろうか?
巻頭の目次はちょっと不親切...というよりアルゴリズムをカテゴリ分けして章にする事にあまり意味があるとは思えない。ページの記述もないので おしながき
といった所だろうか。
どのようなアルゴリズムが掲載されているのかを知るには巻末の索引 (インデックス) を調べるしかないが、『アルゴリズム+データ構造=プログラム』と違い、索引とプログラム索引は分離されていない (アルゴリズムだけの一覧がない)。
不便な事に気付いたのか『C 言語版』では章が廃止され、辞書のように あいうえお+アルファベット順
でアルゴリズムが並べられて探しやすくなっている。ただ、こちらも索引とプログラム索引が分離されていないので、アルゴリズムを探しやすいかと言われればそうでもない。
『C 言語版』の目次にあるアルゴリズムの殆どが本書にもあると思っていい...かなりの量だ。本書のアルゴリズムを単純に あいうえお+アルファベット順
で並び替えただけの改訂版 (できればプログラム索引も) が欲しかったのだが、もはや叶わないと思われるので『C 言語版』も所持している。
著者によるサポートページがありソースコード一式も DL できるようになっているのはとても有難い。
個人的な評価: ★★★★☆
See also:
- 『コンピュータ・アルゴリズム事典』サポートページ
- 『アルゴリズム + データ構造 = プログラム』 - Wirth 先生の邦訳本を読んでみる(Qiita)
- LHA (Wikipedia)
- Delphi で基本的な図形を描画する (Qiita)
#20 はじめての Delphi
Delphi 1 (16bit) を対象とした書籍です。古参の Delphi 使いには説明不要なくらい有名です。
No | タイトル | 著者 | ISBN-10 (Amazon) |
出版年 |
---|---|---|---|---|
20 | はじめての Delphi | 塚越 一雄 | 4774102008 | 1995/10/5 |
書評
章構成は以下のようになっている。
- 1 章: Delphi の使い方
- 2~3 章: ビジュアルプログラミングの基礎
- 4~7 章: ビジュアルプログラミングの応用
- 8 章: Object Pascal 言語
通して読めば Delphi での VCL アプリケーションが作れるようになっている。16bit (Windows 3.1) アプリ固有のコーディングはなかったように思われるため、IDE の細かい差異に目をつぶれば現在でも通用すると思う。今でも (限定的ながら) 入手可能な Delphi 7 なら Delphi 1 とよく似た旧来の IDE なので、ほぼそのまま使えるのではないだろうか?
Delphi 1.0 Client/Server がアンティークソフトウェアとして入手できるようになった 1 ので、32bit Windows や Windows 7 の XP Mode にインストールして試す事ができる。
8 章に関しては Object Pascal 全体の簡単な説明であるため、Turbo Pascal から変更になったオブジェクト指向部分については数ページしか記述がない事には注意が必要。
4~7 章を詳しく説明したのが続刊の『#21 Delphi 応用プログラミング』、8 章のオブジェクト指向部分を詳しく説明したのが続刊の『#22 Delphi オブジェクト指向プログラミング』だと思っていい。
個人的な評価: ★★★★★
See also:
- Delphi 1.0 Client/Server が無償公開されたので Windows 7 の XP Mode にインストールしてみる (Qiita)
- Delphi 1.0 Client/Server が無償公開されたので Windows 10 (64bit) / 11 にインストールしてみる (Qiita)
#21 Delphi 応用プログラミング
Delphi 1 (16bit) を対象とした書籍です。
No | タイトル | 著者 | ISBN-10 (Amazon) |
出版年 |
---|---|---|---|---|
21 | Delphi 応用プログラミング | 塚越 一雄 | 477410261X | 1996/2/10 |
書評
良くも悪くも『はじめての Delphi』の続編。ちょっとしたアプリケーションを作りながら、そこで必要になる知識を得るスタイルで章が進んでいく。『はじめての Delphi』に比べるとコードの量も増えている。
これは仕方のない事なのだけれど、Windows プログラミングを深く掘り下げていくと Windows 3.1 固有の機能を使わざるをえず、
- Windows API (16bit)
- WinHelp
- WinCRT
...のような今となっては使えない機能の説明も少々混じっている。逆に Windows 3.1 + Delphi 1.0 時点の状況を知るためのいい資料になるともいえる。
先述の通り、Delphi 1.0 Client/Server がアンティークソフトウェアとして入手できるようになった 1 ので、以前に比べると本書の価値は上がったように思う。
個人的な評価: ★★★★☆
#22 Delphi オブジェクト指向プログラミング
Delphi 2 (32bit) を対象とした書籍です。
No | タイトル | 著者 | ISBN-10 (Amazon) |
出版年 |
---|---|---|---|---|
22 | Delphi オブジェクト指向プログラミング | 塚越 一雄 | 4774104272 | 1997/4/25 |
書評
第 1 部は 「プログラミング・パラダイム」で、内容は 構造化プログラミングについてのおさらい
。オブジェクト指向プログラミングに至る過程とも言うべき内容となっている。
第 2 部は「オブジェクト指向プログラミング」で、内容は Object Pascal によるオブジェクト指向プログラミング手法
。Turbo Pascal でのオブジェクト指向の説明から始まるので、Turbo Pascal ユーザーでなかったのであれば説明が少々冗長に感じるかもしれない。
VCL アプリケーション自体がオブジェクト指向なコードになっているので、VCL アプリケーションのプロジェクトでオブジェクト指向プログラミングを説明しようとすると "カプセル化されたもの (クラスライブラリ) の中味" を紐解く事になってしまい、Object Pascal のオブジェクト指向が解りづらくなってしまう。これを避けるため、コードの多くはコンソールアプリケーションとして書かれており、実質 Delphi 2 (以降) 用となっている。先に巻末の補章 「コンソール・アプリケーション」を読んでおいた方がいいかもしれない。
第 3 部は「Delphi のオブジェクト指向」で、内容は VCL のオブジェクト指向についての解説
。巻頭の目次では 18 章 「動的リンクの内部構造」 も第 3 部に含まれているが、内容的に 18 章は第 2 部だと思う。P.209 の第 3 部の見出しページの次は 19 章 「Delphi のオブジェクト指向」から始まっており、こちらが正しいハズ。
この第 3 部を理解できても理解できなくても VCL アプリケーションが書けてしまう事によって、逆説的にカプセル化の重要性を知ることとなる (w
個人的な評価: ★★★★☆
See also:
おわりに
Software Technology シリーズを Pascal
という観点から見た場合に残念なのは Turbo Pascal 5.5 以降での Object Pascal 拡張部分がキレイに抜け落ちている事ですかね。『はじめての Object Pascal』なんてのがあれば完璧だったのですが。
書評は 現在での評価 となっています。書籍が出版された時点での評価ではない事にご注意ください。
Pascal マニアをこじらせるとこんな事になります...注意しましょう (w
See also:
- Pascal の勉強に使えそうな Pascal 処理系 (Qiita)
- 割と簡単に ’標準 Pascal' を試してみたい (Qiita)
- Pascal / Delphi 関連の書籍を読んでみる (まとめ) (Qiita)