SNSに疲れた
今日も、
帰りの電車で読もうと思っていた本を、
リュックから取り出すことなく帰宅した。
ソファに座ってスマホを取り出す。
SNSを開いて、画面をスワイプする。
スワイプする。
スワイプする。
スワイプする。
.
.
.
気が付くと、1時間が経っている。
夜ご飯はまだ食べていない。
風呂にも入っていない。
ああ、この1時間で本でも読めばよかった。
デジタルデトックスは続かない
上記のような状況、身に覚えはないでしょうか(僕はめちゃめちゃあります)。
また、このような生活が続くことにうんざりして、
デジタルデトックスを試したことがある方も多いのではないでしょうか。
かくいう僕も試したことがあるのですが、
「ITエンジニアという仕事は、デジタルデトックスと相性が悪いなぁ」
と感じました。
職業柄、技術ニュースはある程度追っておきたいですし、
特にAIブームでトレンドの変化が早い昨今、
デジタルデバイスから完全に離れて私生活を過ごすというのは、
ちょっとソワソワしてしまいます。
こうして、
「通勤時間にちょっと見るだけ」
「技術ニュースを追うためだけ」
という言い訳をしながら、
再びSNS(とそれが形成するアテンションエコノミー)の渦に呑まれていってしまう、
というのがお決まりのパターンです。
ITエンジニアの場合は特に顕著ですが、
職種を問わず現代のビジネスパーソンは、
多かれ少なかれ上記のような状況に置かれているかと思います。
デジタルデトックスは、
SNSのアテンションエコノミーに対抗する手段として有効ではありますが、
習慣として続けるのはなかなか難しいのではないでしょうか。
アテンションエコノミー ⇔ インテンションエコノミー
実は、アテンションエコノミーに対する対案(オルタナティブ)として、
インテンションエコノミー
という概念があります。
インテンションエコノミーは、
テクノロジージャーナリストのDoc Searlsが、
Linux Journal(Linuxやオープンソース技術を扱う専門の雑誌・オンラインメディア)に寄稿した記事で提唱した概念です。
In The Intention Economy, the buyer notifies the market of the intent to buy, and sellers compete for the buyer's purchase. Simple as that.
※筆者訳
インテンションエコノミーでは、消費者が「買いたい」という意思を市場に示し、売り手は消費者から購入してもらうために競い合う。実にシンプルな仕組みだ。
出典:LINUX Journal:The Intention Economy
インテンションエコノミーの概念が提唱されたのは2006年のことですが、
当時は消費者の意図を管理・仲介する技術やインフラが十分に整っておらず、この構想は広く普及しませんでした。
しかし近年、生成AIの発展により、その実現可能性が改めて注目されています。
生成AIとインテンションエコノミー
インテンションエコノミーの実現可能性が高まった背景として、
主に次の2つの要因が挙げられます。
1. 生成AIとの日常的な対話の蓄積により、ユーザーが自身の興味・関心や価値観を容易に言語化・構造化し、自らの意図を明確に把握できるようになったこと
2. 生成AIが、ユーザーの意図を理解した上で、検索・比較・交渉・購入といった消費行動を支援・代行できるようになったこと
今後、数ある消費行動の中でも、情報消費については、
生成AIを組み込んだインテンションエコノミー的なアプリケーションが流行るのではないか?
と予想しています。
スワイプ型アプリとプッシュ型アプリ
仮に、SNSをはじめとする、
アテンションエコノミーを形成するようなアプリケーションをスワイプ型、
インテンションエコノミーを形成するようなアプリケーションをプッシュ型
と呼んでみることにします。
今後、スワイプ型アプリが持つ性質のうち、
情報収集の手段としての性質は、プッシュ型アプリが代替する
ようになるのではないかと考えています。
表で整理すると、以下のようなイメージです。
| 種類 | 属する経済圏 | 主な利用目的 | 特性 | メインのユーザー層 |
|---|---|---|---|---|
| スワイプ型 | アテンションエコノミー | 娯楽 | 常時接続 | 時間に余裕がある人 |
| プッシュ型 | インテンションエコノミー | 情報収集 | 必要時に接続 | 時間に余裕がない人 デジタルデトックスしたい人 |
小さくはじめるインテンションエコノミー
そこで、エンジニアらしく手を動かして、
インテンションエコノミーの構想を実現するようなアプリケーションを作成して、
日常生活で活用してみました。
自分の興味・関心を記入したユーザープロフィール(user_profile.md)を基に、
AI(Gemini)が最新のニュースを取得・厳選・要約し、
その内容をDiscordに通知してくれるアプリケーションです。
GithubActionsで、毎朝実行するように設定しています。
お金をかけてOKであれば、似たような仕組みをChatGPTやClaudeの有料プランでも実現可能です。
技術的に大したことはしてないですが、
このアプリの開発・活用は、
「自分の意図を事前に伝え、その意図に合った情報だけを受け取る」という、
インテンションエコノミーを小さく再現した実験でもあります。
SNS疲れに終止符を
冒頭の話に戻ると、
僕はこのアプリケーションを利用するようになってから、
情報収集のためにX(旧:Twitter)を開く機会が格段に減り、
以前よりも読書や物書きなどに充てる時間が増えました。
インテンションエコノミーは2006年に提唱された概念ですが、
生成AIの登場により、その構想はようやく現実味を帯び始めています。
デジタルデトックスでSNSを我慢するのではなく、
自分の意図を起点に情報が流れてくる環境を作る。
「情報を探し続ける時代」から、
「意図を伝え、必要な情報だけが届く時代」へ。
その変化が、少しずつ始まっているのかもしれません。