Bluesky の公開ストリームを、24 時間ずつ二度、全量で観測しました。数えたのは、技術系のリンク(GitHub のリポジトリ、arXiv の論文、Hugging Face のモデルなど)が「話題になる」ことがどれくらい起きているかです。伸びている技術を順位付きで並べる仕組みが作れるかどうかを、作る前に確かめるのが目的でした。
結論から書くと、作れません。量は十分に流れていますが、同じものを指す人がいません。丸一日で、独立した 10 人に言及された技術系のリンク先は一つもありませんでした。
本作業の大半を Claude Code で実行・文書化したものです。何を調べるかの判断と結果の確認は筆者が行い、数値は元データと突き合わせました。
用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| Jetstream | Bluesky の全投稿が流れる公開フィード(firehose)の JSON 版。認証なしで購読できる |
| リンク先 | URL を正規化して得る識別子。書き方が違っても同じものは同じ識別子になる(例: arXiv の abs、pdf、版番号付きはすべて arxiv:2608.12345) |
| 言及 | ある投稿があるリンク先を指すこと |
| リポスト | 他人の投稿をそのまま転送する操作。本記事では、自分でリンクを書いた人だけを著者と呼ぶ |
| 判定されたアカウント | 後述の四つの規則のどれかに当たり、自動投稿の疑いがあるとしたアカウント |
| 独立した声 | 足並みを揃えて動くアカウントの群れを 1 票に畳んだあとの主体の数 |
話題検知を支える前提
「話題のものを見つける」仕組みは、どれも、同じものに複数の人が独立に触れることが十分に起きている、という前提の上に立っています。一人が一度だけ触れたリンク先には、順位の付けようがありません。この前提は製品を作ってから確かめるには高くつきますが、Bluesky なら安く確かめられます。全投稿が公開されていて、Jetstream を通じてただの JSON として読めるからです。提携もサンプリング用の API も要りません。
そこで、推薦や要約は一切作らず、この前提だけを測りました。図 1 が結果の全体です。
図 1: 一つ目の観測窓で、全投稿から「独立した 10 人に届いた技術系のリンク先」まで絞り込んだもの。各段は前の段の絞り込みで、横軸は対数です。最下段は棒が短いのではなく、ゼロです。
観測の方法
Jetstream の投稿とリポストを購読し、切断したら直前の位置から 5 秒巻き戻して再開する収集器を Docker の上で動かしました。観測窓は二つです。
| 窓 | 期間(UTC) | イベント | 投稿 | 本文の保存 |
|---|---|---|---|---|
| 一つ目(日曜〜月曜) | 2026-08-09 08:42 から 24 時間 | 6,248,625 | 3,083,509 | しない |
| 二つ目(月曜〜火曜) | 2026-08-10 09:25 から 24 時間 | 6,832,139 | 3,432,242 | 技術系と日本の文化系の全件、それ以外の 1% |
一つ目の窓では本文を一切保存せず、URL 1 件につき「誰が、いつ、どのリンク先を指したか」のメタデータ 1 行だけを書き出しました。本文から導く情報(話題の分類など)は、取り込みの瞬間に計算しています。二つ目の窓では、本文に何が書かれているかを見るために、標本を保存しました。
数え方で気をつけたことは三つあります。
一つ目は URL の正規化です。GitHub の tree、blob、release、タブ付きの URL はリポジトリに、arXiv の abs、PDF、HTML、版番号付きは arxiv:ID にまとめます。Hugging Face の /papers/ID も同じ arXiv の識別子に寄せます。ほとんどの URL はクエリ文字列を捨ててよいのですが、OpenReview だけは論文の同一性を ?id= に持っているので、この規則だけは先に走らせます。
二つ目はボットの判定です。持続的な高頻度、単一ドメインへの集中、時計仕掛けの等間隔、同じものの繰り返し、の四つの規則でアカウントを判定し、どの規則に当たったかを残しました。
三つ目は、言及の数ではなく、言及した人の数で数えることです。一つのボットが同じリンクを 30 回貼っても、30 人の関心にはなりません。
十分にある技術リンクの量
一つ目の窓では、URL を含む投稿が 610,836 件(19.8%)あり、そこから 667,812 件の言及と 483,414 件のリンク先が得られました。技術系の四つのソースだけを見ると表 1 のとおりです。
表 1: 一つ目の窓における技術系のソース
| ソース | 投稿 | リンク先 | 著者 | 人由来 / 日 |
|---|---|---|---|---|
| GitHub | 1,789 | 1,292 | 409 | 534 |
| arXiv | 2,176 | 1,246 | 223 | 392 |
| OpenReview | 12 | 10 | 4 | 10 |
| Hugging Face | 7 | 7 | 3 | 7 |
「人由来 / 日」は、判定されたアカウントと、後述の協調ネットワークを除いたあとの、1 日あたりのリンク先の数です。全投稿の 0.13% という薄い層ですが、ボットを除いても GitHub のリポジトリが 1 日に約 534 件、arXiv の論文が約 392 件流れています。
図 2: 1 日あたりの技術系のリンク先の数。ボットと協調ネットワークを除く前と後です。arXiv のほうが大きく削られるのは、供給のかなりの部分が arXiv の新着を機械的に転記するアカウントだからです。
技術の話をする人も大勢います。規則ベースの話題判定では、AI に触れた投稿が 24,378 件、LLM が 5,768 件、ロボティクスが 3,624 件ありました。技術系のリンクを含む投稿(3,910 件)より一桁多い数です。分野は語られていますが、成果物はあまり指されていません。
図 3: 話題に触れた投稿の数と、技術系のリンクを含む投稿の数(赤い線)。
同じものを指す人の不在
技術系のリンク先 2,555 件のうち、2,186 件は 1 アカウントからしか投稿されていません。残りの 369 件を、「独立に言及された」をどう読むかで数え分けたのが図 4 です。
図 4: 同じデータを三通りに数えたもの。「10 以上」の欄は、リポストも著者に数えると 55 件、アカウントで数えると 51 件、独立した声で数えると 0 件です。
素朴な実装は、リポストを「そのリンク先に言及した別のアカウント」として数えてしまいます。すると 10 人以上に届いたリンク先が 55 件あるように見えます。自分で投稿したアカウントだけを数えると 51 件、後述の群れを 1 票に畳むと 0 件になります。2 人以上でも 97 件、3 人以上は 13 件しか残りません。
ゼロの意味ははっきりしています。公開ストリームの全量を丸一日見て、独立した 10 人に指された技術系のリンク先は無く、5 人に届いたものもありませんでした。
これはプラットフォーム全体の性質ではありません。種類を問わなければ、483,414 件のリンク先のうち 10 アカウント以上に投稿されたものが 971 件あります。Bluesky の上で伝播は大量に起きていて、起きていないのはリポジトリと論文についてだけです。
見かけの伝播を作る二つの仕組み
55 と 0 の差を作っているのは、図 5 の二つの仕組みです。どちらも一人を大勢に見せ、しかもアカウントを一つずつ見る判定には映りません。
図 5: 一人を大勢に見せる二つの仕組みの模式図。
一つ目は、リポストが著者に化けることです。一つ目の窓でいちばんリポストされた技術系のリンク先は、あるコンソールゲームの移植のリポジトリでした。投稿したのは 1 アカウントが 1 回で、それが 28 回リポストされています。リポストを著者に数えると著者 29 人になり、その日いちばん強い信号に見えます。区別に要るのはログの 1 項目だけですが、その 1 項目で「2 以上」の欄が 43% 動きます。
二つ目は、アカウントの群れです。一つ目の窓には、めいめい 13 件ほどのリンクを投稿し、その半分ほどが arXiv というアカウントの一群がいました。判定の規則のしきい値はどれも余裕で下回っています。ハンドルを引くと informaq、informaq-pt、informaq-fr、informaq-ar と並び、一つの運用が言語ごとにハンドルを分けて同じ論文を投稿していました。12 のハンドルが運んだ論文は、12 件の独立した発見に見えます。arXiv のカテゴリごとにボットを立てて新着を投稿する公開ツール(bXiv)もあり、複数のカテゴリに載った論文はカテゴリの数だけ別のアカウントから投稿されます。
この二つは、同じ痕跡を残します。同じリンク先を何度も一緒に貼るのです。そこで、共通のリンク先を 3 件以上貼っている二つのアカウントをつなぎ、つながった一固まりを 1 票と数えました。60 を超えるアカウントに投稿されたリンク先は、つなぐ材料から外しています。本当に広く共有されたものを介して、全員が一つの固まりにつながってしまうのを防ぐためです。
補正の範囲は狭く、13 個のクラスタが 71 アカウント、技術系の投稿者の 11.3% を覆うだけです。それでも「2 以上」に見えていた 369 件のうち 272 件が落ちます。
図 6: 畳み込みの前と後を、リンク先ごとに並べたもの。GitHub は少し減るだけで、arXiv はほとんど残りません。群れが支えていたのが arXiv の供給だからです。
なお、結論はこの補正のしきい値に依りません。リポストを著者から外しただけの段階で 10 アカウントに届いている 51 件は、すべてクラスタの内側にあります。補正をしなくても、独立した 10 人の欄は空になります。
流量では説明できない崩れ方 ― オタク文化との比較
技術はこの場では少数派なだけで、流量の多い領域なら話は違うのではないか、という反論が考えられます。これは同じ窓の中で確かめられます。一桁多い流量を持つ領域、日本語のオタク文化(イラスト、マンガ、VTuber、同人など)が流れているからです。話題の付いた投稿は 31,937 件で、技術系の投稿 3,910 件の約 8 倍あります。
結果は同じ場所で崩れました。オタク文化系のリンク先 3,486 件のうち、独立した 2 人に届いたものは 37 件、5 人は 3 件、10 人は 0 件です。
崩れる理由は技術とは違います。文化系の投稿の多くは外部リンクを持ちません。作品が投稿そのものだからです。イラストは作者が一度だけ公開する一点もので、二人目が指せる共有物が最初から存在しません。そして、この領域で収束していたのは、ほとんどが刊行物(連載マンガの話数、予定された配信、Web 小説)でした。
図 7: オタク文化系のリンク先の全体と、刊行物だけの場合。刊行物はリンク先の 26%(905 件)ですが、独立した 2 人に届いた 37 件のうち 30 件(81%)を占めます。
収束を生むのは流量ではなく、大勢が指させる共有の目録があるかどうかです。出版社は目録を持ち、個人の作者は一点ものを持っています。GitHub と arXiv は目録そのものなので、技術の側に原理的な望みが無いわけではありません。崩れているのは、この場所では、目録のどの一項目を指す人も一人しかいないからです。
日本語への絞り込みで消える技術リンク
日本語の投稿に絞れば精度が上がるのでは、という仮説も、決めつけずに測りました。宣言された言語は英語が 58.0%、日本語が 12.7%、無宣言が 11.1% です。
図 8: 左は投稿に占める言語の比率、右は判定されたアカウントを除いた 1 万投稿あたりの技術系のリンク数。日本語は量で 2 番目、技術リンクの濃さでは英語の 5 分の 1 です。
日本語は 1 万投稿あたり 1.23 件で、英語の 6.11 件を下回ります。絶対数で見るとさらに厳しく、日本語の技術系の言及は窓全体で 797 件、そのうち 94% が判定されたアカウントのものでした。人の手による投稿は丸一日で 48 件、書いたのは 27 アカウントです。日本語に絞ることは、技術情報の流れを細くするのではなく、空にします。
副産物も二つありました。いちばん濃い供給源は言語を宣言していない層で、1 万投稿あたり 22.8 件と英語の 4 倍近くあります。また、かなを含む投稿は 430,956 件あるのに、ja を宣言した投稿は 390,153 件でした。日本語の投稿のおよそ 1 割は、言語の札が付いていません。
日本語のストリームには、本物の創作層もありました。990 のアカウントが、自分の作品置き場へのリンクを投稿していて、ボットはほぼいません。ただし、そのフォロワー数は図 9 のとおりです。
図 9: 自分の作品にリンクした 990 アカウントのフォロワー数。2026-08-11 時点で公開プロフィールの API から取得しました。
中央値は 76 フォロワーで、92% が 1,000 人未満、5 万人を超えるアカウントはありません。推薦に重みが出るような規模の作家は、少なくとも外部リンクを貼る形では、ここで活動していません。
平日の追試と本文の中身
一つ目の窓には本文が無いので、「論文やリポジトリを貼る数少ない人たちは、何か独自のことを書き足しているのか」には答えられません。二つ目の窓では本文を保存し、これを確かめました。この窓は平日なので、曜日の影響の追試も兼ねています。
まず追試の結果です。技術系のリンク先は 2,555 件から 4,267 件へ 67% 増えました。素朴な数え方は量につれて増え、10 人に届いたリンク先は、リポストも著者に数えると 55 件から 72 件へ、アカウントで数えると 51 件から 68 件へ増えています。独立した声で数えた値は 0 のままでした。
図 10: 二つの窓で、10 の主体に届いたリンク先の数。休日と平日で量は 67% 違いますが、独立した声で数えた値はどちらもゼロです。
次に本文です。技術系の投稿 6,337 件のうち、3,919 件は判定されたアカウントのもので、さらに 165 件が定型文でした。ボットの規則は量で捕まえるので、1 日 4 件ほどの自動投稿はしきい値を素通りします。窓のあいだに 4 回以上現れた書き出しが 40 種類あり、本文に自分で「自動投稿」と書いているものもありました。
図 11: 二つ目の窓の技術系の投稿を出どころ別に分けたもの(左)と、リンクを除いた本文の文字数の中央値(右)。横線は無作為に取った投稿全体の中央値です。
残った人の投稿 2,253 件は、ちゃんと書かれています。リンクを除いた本文の中央値は 164 文字で、無作為に取った投稿の 65 文字の倍以上です。URL だけの投稿は 44 件(2.0%)しかありません。Bluesky はリンクの下にカードを描いてリンク先の題と紹介文を出すので、カードの文をなぞっただけの投稿もありえます。そこで、カードに紹介文が付いている 488 件について、投稿とカードが共有する 8 文字以上の並びを全部差し引きました。それでも中央値で 98 文字が残り、344 件(70%)は 40 文字以上が残りました。
ただし、書く人がいることと、同じものを指す人がいることは別です。2,253 件の投稿は 664 アカウントのもので、そのうち 422 アカウントは、技術系の投稿がこの窓で一度きりでした。めいめいが別のものについて、自分の言葉で書いています。順位付けに要るのは書く人ではなく、同じものを指す複数の人で、それがここにはありません。
結論
Bluesky の公開ストリームの上に技術トレンドの検知を作ることは、勧められません。
技術系のリンクの量は足りています。ボットを除いても、GitHub のリポジトリが 1 日に約 534 件、論文が約 392 件流れます。足りないのは同じものを指す人で、丸一日で独立した 2 人に届いたリンク先が 97 件、3 人が 13 件、10 人は 0 件でした。例外に見えたものは、リポストを著者に数えたか、アカウントの群れを別々の人に数えたかの、どちらかの産物でした。
GitHub も例外ではありません。この窓で独立した 2 人に届いたリポジトリのうち、多くの人が欲しがりそうなものは、同じ日の GitHub trending にすでに載っていて、2 件はその日の 1 位と 4 位でした。trending には順位が付いていますが、こちらにあるのは順不同の集合で、スター数の中央値は 95、少ないものは一桁です。
ここから言える一般則はこうです。ソーシャルストリームを読む価値があるのは、情報がそこで生まれているときで、正規の一覧を持つ場所(arXiv や GitHub)を中継しているだけのときではありません。
方法の面では、もう一つ持ち帰れることがあります。「何人が言及したか」で並べる仕組みでは、独立した著者の数を数えるのが一つのボットへの標準的な対策ですが、それだけでは足りません。リポストを著者に数える誤りと、アカウントの群れの両方を外さないと、この観測では 0 が 55 に見えました。言及の数で順位を付ける仕組みは、図 4 の三つの数え方のどれを使っているのかを明示するべきです。
限界
- 観測窓は二つで、どちらも週の頭です。大きな学会の締切やリリースの直後のような特異な日は測っていません。
- 言及の 3.4% は短縮 URL で、展開していません。ここに技術系のリンクが隠れている可能性はありますが、結論を変えるには、隠れているものがほぼ全部、同じリンク先への繰り返しの言及である必要があります。
- アカウントの群れを畳むしきい値(共通のリンク先 3 件)は判断です。ただし上に書いたとおり、主な結果は畳み込みなしでも成り立ちます。
- フォロワー数だけは保存した観測データではなく、2026-08-11 時点の公開 API の値です。引き直せば動きます。
- 言及は URL のある投稿にしか生まれません。画像だけの投稿は見えないので、日本語の創作層は、外部へリンクした部分だけを見ています。
- 本文で確かめたのは、本文が書き手自身の言葉かどうかまでです。読む価値があるかどうかは、数えて出る答えではありません。
参考
- Bluesky. Introducing Jetstream, 2024. https://docs.bsky.app/blog/jetstream
- S. Okada. bXiv: arXiv daily submissions delivered by Bluesky posts. https://github.com/so-okada/bXiv
- A. Chaudhary. bluesky-arxiv: a custom feed for latest machine learning papers on Bluesky. https://github.com/amitness/bluesky-arxiv
- Paper Skygest: Personalized Academic Recommendations on Bluesky. arXiv:2601.04253










