研修配布資料|所要時間 60〜90 分|2026年5月版
まず30秒、体験してください
この資料を読み進める前に、1回だけ 試してみてください。
- ブラウザで copilot.microsoft.com を開く
- Microsoft アカウントでサインイン
- 以下をコピペして入力:
保護者向けの行事案内文を作りたいです。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。
AI が質問してきます。2〜3個答えてみてください。
……どうでしたか? AI があなたに合わせた質問をし、あなたの回答を踏まえて文書を生成したはずです。これが本資料で紹介する 「メタプロンプト」 の基本形です。
💡 この一文をコピペして「行事案内文」の部分を変えるだけで、あらゆる校務に応用できます。
この資料で得られること
| この資料は… | この資料は… |
|---|---|
| ✅ 教育の 質を高める AI の使い方 | ❌ 「楽をする」ための時短テクニック集 |
| ✅ 教員としての専門性を 伸ばす 方法 | ❌ AI に丸投げするためのマニュアル |
| ✅ 生徒の思考力を 育てる AI 指導法 | ❌ AI で授業を「省力化」する方法 |
4つのルール(これだけ覚える)
- 個人情報は絶対に入力しない(生徒名は「Aさん」「Bさん」に置き換え)
- 「〇〇したいです。必要な情報を質問してください」 が万能の入口
- AI の出力は たたき台。最終判断は必ず人間が行う
- AI を「考えなくて済む道具」ではなく 「より深く考えるための道具」 として使う
目次
| 興味・関心 | 読むセクション |
|---|---|
| なぜあの一文でうまくいったのか理解したい | → メタプロンプトの仕組み |
| 校務別の具体例が見たい | → 校務別活用法 |
| 授業の質を上げたい | → 教育力を高める3つの実践 |
| 生徒にどう使わせるか知りたい | → 生徒の AI 指導 |
| セキュリティが心配 | → セキュリティ |
なぜ「一文」でうまくいくのか——メタプロンプトの仕組み
多くの先生が経験する「これじゃない…」
先生:「期末考査の範囲表を作って」
AI:(情報が足りない…推論するしかない)
→ 教科は? → たぶん全教科だろう
→ 範囲は? → 一般的な範囲を入れよう
→ 形式は? → 表形式だろう
結果:自校とまったく違う内容が出てくる 😩
なぜ人間は「完璧な指示」を書けないのか
AI に良い出力をさせるには、目的達成に必要な情報を すべて プロンプトに含める必要があります。しかし、これは構造的に不可能です。
理由1:自分が何を知っているか、自覚できない
案内文を作るとき、あなたの頭の中には「日時」「場所」「対象」「持ち物」「注意事項」「文体」「分量」など多くの情報があります。しかし、それを 漏れなく一度に書き出す ことは困難です。人間は自分の持つ知識の全体像を把握できません。
理由2:AI が何を必要としているか、わからない
AI がどの情報を与えられれば最適な出力を生成できるかは、利用者にはわかりません。「日時と場所を書けば十分だろう」と思っても、AI は「トーン」「分量」「対象者の属性」がないと推論で補ってしまい、意図と違う結果になります。
理由3:情報量が多すぎると、整理できない
仮にすべての情報を思いついたとしても、それを構造化してプロンプトに整理する作業自体が大きな負担です。忙しい教員が毎回10行以上のプロンプトを組み立てるのは現実的ではありません。
解決策:AI 自身に「何が足りないか」を聞かせる
つまり:
人間が「完璧なプロンプト」を一度に書くのは構造的に不可能
→ だから AI 自身に「何が足りないか」を聞かせる
→ これがメタプロンプトの本質
メタプロンプト:たった一文のテンプレート
「○○を作りたいです。最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。」
この一文が「メタプロンプト」です。 ○○ を変えるだけで、あらゆる校務に適用できます。
実際のやりとり例
先生:「保護者向けの案内文を作りたいです。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。」
Copilot:「承知しました。いくつか質問させてください。
まず、何の案内ですか?
(例:保護者会、三者面談、行事変更、持ち物のお知らせ 等)」
先生:「三者面談の案内です」
Copilot:「対象の学年を教えてください。」
先生:「2年生全クラス」
Copilot:「実施期間と時間帯は決まっていますか?」
先生:「7月8日~12日、15:30~18:00の間で1人15分」
Copilot:「面談の主な内容(議題)は何ですか?」
先生:「1学期の成績と進路希望の確認」
Copilot:「日程調整の方法(Google フォーム、紙の希望票等)は?」
先生:「紙の希望票で第3希望まで記入」
Copilot:「ありがとうございます。以上の情報で案内文を作成します。」
先生が入力したのは最初の2行だけ。残りの情報は AI の質問に答えるだけで集まり、最終出力が生成されます。
なぜこの方法がベストなのか
| 方法 | 問題点 | 結果 |
|---|---|---|
| ❌ 短い指示をそのまま投げる | 情報不足 → AI が間違った推論 | 「これじゃない」 |
| △ 長いプロンプトを頑張って書く | 何を書けばいいかわからない | そもそも書けない |
| ✅ AI に質問させる | AI が不足情報を分析→質問→収集 | 望み通りの出力 |
上級テクニック①:質問の精度を上げる
「三者面談の案内文を作りたいです。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。
質問は一度に1つずつ、具体的な選択肢を添えてお願いします。」
「選択肢を添えて」と指定することで、AI が選択式で聞いてくれるようになり、さらに答えやすくなります。
上級テクニック②:「ロール」ではなく「プロセス」を教える
❌ ロール設定だけ:
「あなたはベテランの高校教師です。指導案を作ってください。」
→ AI は「それっぽい」指導案を作るが、実際の判断プロセスは反映されない
✅ プロセスを教える:
「指導案を作りたいです。
ベテラン教師が指導案を作るときの手順で作ってください:
1. まず学習指導要領の該当単元の目標を確認する
2. 生徒の既習事項とつまずきやすいポイントを想定する
3. 本時の目標を「生徒が○○できる」の形で定める
4. 導入→展開→まとめの時間配分を決める
5. 形成的評価の方法を1つ入れる
必要な情報を一問一答で質問してください。」
「何者か」ではなく「どう考えるか」を教える ことで、AI の出力は劇的に変わります。
校務別:Copilot Chat の具体的な使い方
1. 文書作成(最も効果が大きい)
三者面談の案内状
三者面談の案内状を作りたいです。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。
学年通信
今月の学年通信を作りたいです。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。
各種報告書
校内研修の報告書を作りたいです。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。
2. メール文面の作成
外部講師への依頼メール
外部講師に出前授業を依頼するメールを作りたいです。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。
保護者への個別連絡
保護者に連絡するメール文面を作りたいです。
丁寧で誤解を生まない表現にしてください。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。
⚠️ 注意:メール本文に生徒の実名や成績を含めて Copilot に入力しないでください。「Aさんの件について」のように匿名化してから入力し、最後に自分で実名に差し替えてください。
3. 授業準備(教育理論 × 学習指導要領 × クラスの実態)
授業準備は Copilot が 最も力を発揮する 分野の一つです。良い授業設計には「教育理論」「学習指導要領の目標」「目の前の生徒の実態」の3つを掛け合わせる必要があり、AI はこの統合を手助けできます。
核心:3要素を掛け合わせる指導案作成
Copilot は Web 上の学習指導要領を直接参照できます(国立教育政策研究所のデータベースがHTML形式で全文公開されています)。教科の目標や内容を自分でコピペする必要はありません。Copilot に教科・科目名を伝えるだけで、学習指導要領の該当箇所を踏まえた回答が得られます。
指導案のたたき台を作りたいです。
以下の3つの情報を統合して、最適な授業設計を提案してください。
【教科・科目・単元】
・数学Ⅱ「三角関数」加法定理
【学習指導要領の目標】
・Copilot が Web 上の学習指導要領を参照して確認してください
・(参考URL: https://erid.nier.go.jp/files/COFS/h30h/chap2-4.htm)
【クラスの実態】
・2年5組 36名
・数学Ⅰの三角比は理解しているが、公式の丸暗記に頼る生徒が多い
・「なぜその公式が成り立つのか」の理解が浅い
・上位層10名は発展課題が必要
【制約】
・50分授業
・ICT環境:生徒1人1台端末あり(Chromebook)
上記を踏まえ、適切な教育理論を選定した上で指導案を提案してください。
なぜその理論がこのクラスの実態に有効なのか、理由も説明してください。
不足している情報があれば質問してください。
ポイント:AI に教育理論を「選ばせる」ことで、自分が知らなかった指導法と出会える。「なぜ有効か」の説明付きなので、教員自身の学びにもなります。
メタプロンプト方式でさらに深める
次の授業の指導案を作りたいです。
教育理論に基づいた授業設計にしたいので、
以下を一問一答で質問してください:
・教科・科目と単元名
・学習指導要領上の目標
・生徒の実態(学力層・人数・既習事項・つまずき)
・使える設備やICT環境
・前時の内容と次時への接続
既存の指導案を教育理論の観点で改善する
以下の指導案を、教育理論の観点から改善してください。
【現在の指導案】
(自分の指導案をコピペ)
【クラスの実態】
・35名、学力差が大きい(上位5名は発展課題が必要、下位8名は基礎定着が不十分)
以下の観点で改善案を出してください:
1. この生徒実態に適した教授法(理論名と理由付き)
2. 学力差に対応するスキャフォールディングの具体策
3. 学習指導要領の目標達成度を高める工夫
テスト問題の作成(観点別評価に対応)
定期考査の問題を作りたいです。
【条件】
・科目:数学Ⅱ
・範囲:三角関数(加法定理まで)
・配点:100点満点
・観点別配分:
- 知識・技能 50点
- 思考・判断・表現 50点
・クラスの実態:平均的な進学校2年生、計算は得意だが証明・記述に苦手意識
ブルームのタキソノミーの各レベル(記憶→理解→応用→分析)を
意識した出題にしてください。各問にどのレベルか注記をつけてください。
4. 添削・推敲(書いた文章を磨く)
文章のトーン調整
以下の文章を、保護者に安心感を与えるトーンに書き直してください。
元の情報は変えずに、表現だけ調整してください。
(自分が書いた文章をここにコピペ)
文章の校正
以下の文章を校正してください。
チェックしてほしい点:
1. 誤字脱字
2. 敬語の使い方
3. 文のねじれ
4. 情報の漏れ
(文章をコピペ)
所見・評価文の推敲
以下の通知表所見文を推敲してください。
条件:
- 生徒の良い点を具体的に
- 課題は前向きな表現で
- 100字以内に収める
(所見文をコピペ)
⚠️ 注意:所見文に生徒名が入っている場合は、必ず「Aさん」等に置き換えてから入力してください。
5. 翻訳(外国にルーツを持つ家庭への対応)
CEFR レベルを指定した翻訳
以下の文章を、やさしい日本語(CEFR A2レベル)に書き換えてください。
漢字にはふりがなを()で添えてください。
7月8日から12日まで三者面談を行います。
保護者の方と生徒と担任の3人で、1学期の成績と進路について話し合います。
希望日時を記入して7月1日までに提出してください。
多言語翻訳
以下の案内文を、ポルトガル語と英語に翻訳してください。
文化的な背景の違いを考慮し、意図が正確に伝わるようにしてください。
(案内文をコピペ)
6. その他の校務
スピーチ・挨拶文
2学期始業式の校長挨拶を考えたいです。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。
会議メモの整理
以下の会議メモを、議事録の形式に整理してください。
【出力形式】
1. 日時・出席者
2. 議題ごとに:論点→決定事項→未決事項
3. 次回までのタスク(担当者・期限)
(走り書きメモをコピペ)
AI で「教育力」を高める3つの実践
AI 活用の本質は時短ではありません。教員としての専門性——教育力そのものを引き上げる ために使います。
実践1:AI を「授業設計のメンター」にする
一人で授業を設計すると、自分の経験の範囲内に留まりがちです。AI に壁打ち相手になってもらうことで、教育理論に裏打ちされた授業設計 が可能になります。
「私はこの単元で〇〇という発問を考えています。
この発問の問題点や改善案があれば指摘してください。
なぜその改善が有効なのか、教育理論の観点から説明してください。」
「この授業案について、以下の観点で改善点を教えてください:
1. 生徒の認知負荷は適切か
2. スキャフォールディング(足場かけ)は十分か
3. 形成的評価のタイミングは適切か
4. 深い学びにつながる問いになっているか」
AI の指摘をそのまま使うのではありません。AI の指摘を 「なるほど、そういう視点があるのか」と受け止め、自分の授業設計に組み込む——この繰り返しが教育力を高めます。
実践2:AI で「教育理論を実践に変換する」
教育理論を学んでも「で、明日の授業にどう活かすの?」となりがちです。AI は理論と実践をつなぐ翻訳者になります。
「ブルームのタキソノミーの『分析』レベルに到達する発問を、
高2の日本史『明治維新』の単元で3つ作ってください。
それぞれ、なぜそれが『分析』レベルに該当するか説明付きで。」
「この単元で生徒がつまずきやすいポイントを3つ予測し、
それぞれに対する手立て(支援の具体策)を提案してください。
認知心理学の観点から、なぜそのつまずきが起きるかも説明してください。」
AI を使うことで、教育理論の知識がなくても理論に基づいた授業改善ができる。そしてその過程で、教員自身が理論を学んでいく——これが「質を高める AI 活用」です。
実践3:AI で「自分の実践を言語化・省察する」
ベテラン教員の強みは「経験知」です。しかし経験知は言語化しなければ共有できず、自分でも自覚しにくい。AI を使った省察(リフレクション)で、自分の実践知を引き出せます。
「今日の授業で以下のことが起きました。
・導入で○○の発問をしたら、生徒の反応が薄かった
・グループワークで△△のグループだけ議論が活発だった
・まとめの時間が足りなくなった
考えられる原因と、次回への改善案を教えてください。
また、この経験から得られる教訓を一般化してください。」
「私の授業の特徴を分析してほしいです。
以下が私がよく使うパターンです:
・(自分の授業パターンを記述)
強みと、見落としている可能性のある視点を指摘してください。」
省察を AI と行うことで、10年かかる経験知の蓄積を加速させる——これが教育力向上のための AI 活用です。
高校生に生成 AI をどう使わせるか
ここまで読んだ先生は、AI が「考えなくて済む道具」にも「より深く考える道具」にもなり得ることを体感されたはずです。では、生徒にはどちらの使い方を教えるべきか——答えは明白です。
なぜ「AI に答えを出させる」ことが危険なのか
MIT の研究者 Andrew McAfee 氏は、AI がエントリーレベル職を自動化することについて「それは自社のタレントパイプラインを破壊する行為だ」と警告しています[1]。つまり、AI が「経験を積む機会」そのものを奪う 構造が生まれつつあります。
これは高校生の学びにも直結します。
AI に答えを出させる → 自分で考えない → 思考力が育たない
→ 試行錯誤しない → 問題解決力が育たない
→ 失敗しない → 判断力が育たない
社会に出た時に求められるのは「AI に指示を出す力」ではなく、「AI の出力が正しいか判断する力」「AI には解けない問いを立てる力」 です。これらは、自分で考え、失敗し、修正する経験からしか得られません。
「禁止」ではなく「順番」を教える
❌ 「AI 禁止」
→ 学校の外では使い放題。使い方を学ぶ機会を失う。
❌ 「AI 自由」
→ 考える前に AI に聞く癖がつく。思考力が育たない。
✅ 「AI は "考えた後" に使う」
→ 自分で考える力を維持しながら、AI の力で質を高められる。
推奨される段階的アプローチ
| 段階 | 使い方 | 育つ力 |
|---|---|---|
| ① まず自分で考える | AI を使わずに仮説・下書きを作る | 思考力・発想力 |
| ② AI に検証を頼む | 自分の案を AI に見せて改善点を聞く | 批判的思考力 |
| ③ AI の出力を評価する | AI の回答の正誤・妥当性を自分で判断する | 判断力・情報リテラシー |
| ④ AI と協働して発展させる | 自分のアイデアを AI で拡張・深化させる | 創造力・協働力 |
教科での具体的指導例:「壁打ち」の正しい使い方
壁打ちとは、AI に答えを教えてもらうことではありません。 間違っている箇所だけを指摘してもらい、自分で考えて修正し、再度確認する——この繰り返しです。
正しい壁打ちのサイクル:
① 自分で書く/考える/解く
↓
② AI に「どこが間違っているか」だけを指摘してもらう(答えは教えない)
↓
③ 自分で考えて修正する
↓
④ AI に再度確認してもらう → まだ問題があれば②へ戻る
↓
⑤ 全て解決 → 完成
| 教科 | 生徒の作業 | AI への指示(プロンプト例) |
|---|---|---|
| 国語 | 小論文を自分で書く | 「この小論文の論理的に弱い箇所を指摘してください。修正案は示さず、問題点だけ教えてください」 |
| 英語 | 英作文を自分で書く | 「この英文に文法や表現の誤りがあれば、該当箇所と誤りの種類だけ指摘してください。正しい表現は教えないで」 |
| 数学 | 解法を自分で書く | 「この解法に論理の飛躍や計算ミスがあれば、何行目あたりが怪しいかだけ教えてください。正解は教えないで」 |
| 理科 | 実験レポートを書く | 「この考察に科学的に不正確な記述があれば、どの部分が不正確かだけ指摘してください。正しい説明は書かないで」 |
| 社会 | 意見文を書く | 「この意見文に事実誤認や根拠の弱い主張があれば、どの部分かだけ教えてください。修正案は不要です」 |
| 情報 | プログラムを書く | 「このコードにバグがあれば、何行目付近にあるかだけヒントをください。修正コードは書かないで」 |
ポイント:AI に「答えを教えないで」「修正案は不要」と明示することで、生徒が自分の頭で考える余地を残します。
生徒用プロンプトテンプレート(配布用)
【壁打ち用テンプレート】
「以下の[作文/解答/コード]を確認してください。
間違いや改善すべき箇所があれば、【どこが】【なぜ】問題かだけ教えてください。
正解や修正案は書かないでください。自分で直したいです。」
生徒に伝えるべき核心メッセージ
「AI は"答え"をくれる。でも"問い"は自分で立てるしかない。
答えを出す仕事は AI に置き換わる。問いを立てる仕事は置き換わらない。
だから、AI を使う前にまず "自分はどう考えるか" を持とう。」
教員自身が AI を「思考を深めるパートナー」として使う姿を見せることが、生徒への最高の手本になります。
「人材の技術負債」を生まないために
「人材の技術負債」とは何か
ソフトウェア開発には 技術負債 という概念があります。「テストを書かずにリリースする」「設計を省略して目先の納期に間に合わせる」——短期的には効率的に見えますが、長期的にはコスト増大・変更困難を招きます。
AI 活用にも まったく同じ構造 が存在します[1]。
| 技術負債 | 人材の技術負債(AI利用) |
|---|---|
| テストを書かずにリリース | 考えずに AI に丸投げ |
| 短期的に速い | 短期的に楽 |
| 長期的にコスト増大 | 長期的に思考力・判断力が衰退 |
| 「誰も触れないコード」化 | 「なぜそうしたか説明できない」状態 |
教員の「使い方」が生徒の手本になる
| ❌ 教育力が下がる使い方 | ✅ 教育力が上がる使い方 |
|---|---|
| AI が作った指導案をそのまま使う | AI に複数案を出させ、比較検討して選ぶ |
| AI の評価文をコピペする | AI の案を読み、自分の観察と照合して書き直す |
| AI に「正解」を求める | AI に「別の視点」や「反論」を求める |
| 考える前に AI に聞く | 自分で考えてから AI に検証を頼む |
| AI の出力をそのまま信じる | 「なぜ?」「本当に?」と問い返す |
💡 この姿勢こそ、生徒に見せるべき AI との付き合い方です。
セキュリティと個人情報
入力してよいもの ✅
- 個人が特定されない文書のたたき台(案内状、お知らせ等)
- 氏名を「Aさん」「Bさん」に置き換えた文例
- 一般的な授業案、ワークシート、テスト問題
- 教育用語・学習指導要領に関する質問
入力してはいけないもの ❌
- 生徒の 実名、成績、出欠、住所、電話番号
- 家庭状況、健康情報、アレルギー情報
- 生徒指導・いじめ対応などの記録
- 進路指導に関する個別の情報
💡 迷ったら 「個人名を消す」「具体的な数値をぼかす」「架空の例にする」 の3つで対処。
無償版 Copilot のデータ取り扱い
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 入力データの保存 | Microsoft のプライバシーポリシーに従い処理される |
| AI学習への利用 | 組織アカウントでの利用時は学習に使われない設定が可能 |
| 対話履歴 | サインインしている場合、履歴が残る(削除可能) |
組織アカウント(Entra ID)で使う場合
教育委員会が Microsoft 365 Education を導入している場合、組織アカウントで Copilot Chat にサインイン すると:
- ✅ 入力データが AI の学習に使われない(Commercial Data Protection)
- ✅ データが組織のセキュリティポリシーで保護される
- ✅ 管理者がログを監視できる
💡 推奨:学校から配布されたアカウント(@〇〇.ed.jp 等)がある場合は、そちらでサインインしてください。
⚠️ ハルシネーション(AI の嘘)に注意
AI は「もっともらしいが事実でない情報」を自信満々に出力することがあります。
特に注意すべき場面:
- 法令・規則に関する記述 → 必ず原文を確認
- 数値データ → 出典を自分で確認
- 歴史的事実 → 教科書・信頼できる資料と照合
- 人名・書名 → 実在するか確認
AI は「優秀だけど事実確認をしないアシスタント」。下書きは任せていい。最終確認は必ず人間が行う。
アクセス方法の詳細
ブラウザ版(最もおすすめ)
- ブラウザで copilot.microsoft.com を開く
- Microsoft アカウントでサインイン(個人用でOK)
- チャット欄に質問や依頼を入力 → 完了
これだけです。 管理者への申請もインストールも不要。
モード選択
| モード | 説明 | 校務での使いどころ |
|---|---|---|
| Smart(デフォルト) | タスクに基づいて深く、または迅速に考える | 日常的な文書作成、メール下書き |
| Think Deeper | より複雑なトピックに最適 | 指導案の設計、複雑な報告書 |
| 検索 | 参照が強化された回答 | 学習指導要領の確認、教育関連の調べもの |
💡 まずは「Smart」で十分。うまくいかないときだけ「Think Deeper」に切り替えてください。
スマートフォンアプリ
- iOS: App Store で「Microsoft Copilot」
- Android: Google Play で「Microsoft Copilot」
通勤中にスマホで下書きを作り、学校でパソコンから仕上げる使い方も可能です。
Edge サイドバー
Microsoft Edge の右上 Copilot アイコンからサイドバーとして開けます。他の作業をしながら横で文章を生成できます。
⚠️ ネットワーク制限に注意:自治体によっては copilot.microsoft.com がフィルタリングでブロックされている場合があります。アクセスできない場合は ICT 担当または教育委員会に確認してください。
無償版でできること・できないこと
できること ✅
| 機能 | 説明 |
|---|---|
| 文章の生成 | 案内状、メール文面、報告書の下書き |
| 文章の添削・推敲 | トーン変更、校正、要約、言い換え |
| 翻訳 | CEFR レベル指定の多言語翻訳 |
| アイデア出し | 授業案、行事企画、質問リスト |
| 質問応答 | 教育関連の調べもの、概念の説明 |
| 画像生成 | 授業用イラスト、ポスター素材 |
できないこと ❌
| 機能 | 理由 | 代替手段 |
|---|---|---|
| Word/Excel/PowerPoint 内での操作 | M365 Copilot ライセンスが必要 | Copilot で生成 → 手動コピペ |
| ファイルの読み込み(Excel, PDF等) | 無償版では制限あり | テキストをコピペして渡す |
| メールの自動送信 | Outlook 連携なし | 生成した文面を手動で貼り付け |
| 組織内データの検索 | テナント連携なし | 手元のデータをコピペで渡す |
ひとことで言うと:無償版 Copilot は「校務の質を高めてくれる文章作成・添削の相談相手」です。
研修中のハンズオン
🎯 演習1:メタプロンプト体験(5分)
冒頭で試した方はスキップしてOKです。まだの方は:
保護者向けの行事案内文を作りたいです。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。
🎯 演習2:自分の校務で試す(10分)
今抱えている校務から1つ選び、テンプレートを使ってください:
「(自分の校務)を作りたいです。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。」
例:
- 「教科会議の議題メモを作りたいです」
- 「PTA 総会の報告書を作りたいです」
- 「修学旅行のしおりの構成案を作りたいです」
🎯 演習3:壁打ちを体験する(10分)
自分で書いた文章(メール、報告書等)をコピペし、以下を入力:
以下の文章の改善すべき点を指摘してください。
修正案は示さず、問題点だけ教えてください。自分で直したいです。
(文章をコピペ)
指摘をもとに自分で修正し、再度確認してもらってください。これが「壁打ち」です。
プロンプトテンプレート集
〇〇 を自分の内容に変えるだけです。
■ 文書作成全般
「〇〇を作りたいです。必要な情報を一問一答で質問してください。」
■ 既存文書の改善
「以下の文章をより〇〇に書き直してください。(丁寧に/簡潔に/保護者目線で)」
■ アイデア出し
「〇〇について、5つのアイデアを提案してください。それぞれメリット・デメリット付きで。」
■ 要約
「以下の文章を300字以内で要約してください。重要なポイントを箇条書きで。」
■ 翻訳
「以下を〇〇語に翻訳してください。対象読者は日本の学校制度に詳しくない保護者です。」
■ テスト問題
「〇〇(単元名)の小テストを作りたいです。必要な情報を質問してください。」
■ 授業の「問い」
「〇〇(単元名)で、生徒の思考を深める問いを5つ作ってください。」
■ 壁打ち
「以下の〇〇の問題点を指摘してください。修正案は不要です。」
よくある失敗と対処法
| 失敗パターン | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|
| 「一般的すぎて使えない」 | 情報不足のまま生成させた | メタプロンプト方式で質問させる |
| 「長すぎて読めない」 | 分量を指定しなかった | 「A4 1枚」「300字以内」等の制約を追加 |
| 「事実と違うことを言う」 | ハルシネーション | 必ずファクトチェック |
| 「前回と違う答えが出る」 | AI は毎回異なる応答を生成 | 良い出力が出たらすぐコピーして保存 |
| 「敬語がおかしい」 | デフォルト設定の問題 | 「丁寧な敬語で」「です・ます調で」と明示 |
まとめ:明日からの3ステップ
Step 1:今日やること(5分)
メタプロンプトを1回使ってみる:
(自分が今困っていること)を作りたいです。
最適な出力を生成するために、必要な情報を一問一答で質問してください。
Step 2:今週やること
「壁打ち」を1回試す。自分の書いた文章を AI に指摘してもらい、自分で修正する。
Step 3:来月までに
AI を「考えるパートナー」として使う習慣をつける。指導案や発問を AI と壁打ちし、教育力を高める。
参考文献
[1] hisaho「AIに仕事を奪われる? 本当に怖いのは「経験を積めなくなる」こと ── 人材の技術負債という視点」Qiita, 2025年. https://qiita.com/hisaho/items/984e1b5d6bb75c4ee779
[2] hisaho「【教員向け】Microsoft Copilot(無償版)で校務の質を上げる完全ガイド ── プロンプトの書き方を知らなくても大丈夫」Qiita, 2025年. https://qiita.com/hisaho/items/38cdce2533019fb959ad
付録:Q&A
Q. AI が生成した文章をそのまま公式文書として使っていいですか?
A. そのままではなく、必ず内容を確認・修正してからお使いください。最終的な責任は作成者にあります。
Q. 生徒に AI を使わせる場合のルールは?
A. 本資料の「高校生に生成 AI をどう使わせるか」セクションを参考に、各校でルールを策定してください。「禁止」ではなく「順番」を教えることを推奨します。
Q. 無料でいつまで使えますか?
A. Microsoft Copilot Chat は Microsoft アカウントがあれば無料で利用できます。機能の変更は Microsoft の判断によります(2026年5月時点)。
Q. ChatGPT と何が違いますか?
A. 基本的な機能は類似していますが、Copilot は Microsoft アカウントで管理でき、組織のデータ保護ポリシーと統合しやすい点がメリットです。教育委員会が M365 を導入している場合、管理面で優位です。