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コミュニケーション能力の正体と「カレー作りの寓話」

Last updated at Posted at 2018-02-16

はじめに

Qiitaでエンジニアリングをめぐる様々なコミュニケーションの問題とその解決策や考え方を書いてきた。それらの背後にあるエッセンスをこの度書籍として出版するに至りました。

エンジニアリング組織論への招待
~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング

この書籍は、エンジニアリングを「不確実性を削減する」という第一原理で捉え直し、様々なエンジニアリングとその間のコミュニケーションをめぐる現象を説明していくものです。

本記事では、そのなかで触れている二人の人物がパーティのためにカレーを作るという話を紹介します。きっとどこかで見たことのあるコミュニケーションが繰り広げられていると思います。このカレー作りの寓話から、コミュニケーション能力の正体に迫っていきましょう。

カレー作りの寓話

パーティに来るみんなのためにカレーを作りましょう。そう言って、ボブとエバは2人でカレーを作り始めた。

ボブは、どんなカレーにするかは僕が決める。
カレーの代金は僕が出すから。エバは料理が得意だから
僕が指示するようにカレーを作ってくれよと言った。

エバは了解し、材料とレシピが来るのを待った。

ボブはどんなカレーにするか悩んでいて、料理も得意じゃないのでレシピの書き方も得意ではなかった。

エバは、とりあえずご飯は必要だろうと考え、お米を炊き始めた。そしてボブがようやく書き上げたレシピを見て、こう言った。

「このレシピは正確じゃない。香辛料の分量を決めてもらわないとカレーはできないわ」

ボブは香辛料の分量がどんな味になるのかわからなかったが、パーティは近いので、「適当に決めてくれよ」と言い捨てた。

しばらくして、ボブはパーティの客からライスはターメリックライスじゃないと嫌だと言われたことを思い出した。

そしてエバに「ライスはターメリックライスにしてくれ」と頼んだ。エバは「もうご飯は作り始めてるし、ターメリックライスにするなら早く言ってよ」と怒り始めた。

ボブは「ターメリックライスじゃないとダメだ」と言った。

エバはライスが炊きなおしになるが、仕方なくボブの提案を受け入れた。

パーティ目前になってもご飯は炊けない。
それにカレーもターメリックライスよりも白ご飯に合うように作ったから、味にバランスもめちゃくちゃだ。

それを知ってボブは激怒し、
「パーティに間に合わなければ、カレーを作る意味がないじゃないか!それでも料理人なのか!」と言い捨てた。

エバはその言葉に怒りを覚えて、あなたがターメリックライスにしろって言い出したり、レシピを作るのが遅かったから遅れたのだと抗弁した。

味の整っていないカレーと雰囲気の悪くなった2人を見て、
パーティは興ざめに終わった。

コミュニケーション能力とは

この話が馬鹿らしいのは誰でもわかります。二人でろくに話合わずに作業分担して、役割を決め、彼らが自分の役割に思考を閉じてしまい、お互いを責めあったことが失敗の理由です。

でも、これと同じことがソフトウェアの開発現場では常日頃起きていないでしょうか。二人がもつ情報の違い、つまり「情報の非対称性」が存在するとき、それを解消しないままにことを進めてしまった結果、お互いの持ち場や自尊心を少しずつ知らず知らずに傷つけあってしまいました。

自尊心を傷つけられた人々は、お互いが攻撃的であったり防衛的に振る舞います。このような本能が人類に内在されている結果、コミュニケーションは破綻し、目的は達成されなくなります。

コミュニケーションの背後には、「他人は自分ではない」という厳然たる事実があります。そうであるがゆえに、「自分は理解していること」が「他人は理解していない」。「他人は理解していること」を「自分は理解していない」という前提が存在するのです。

そして、コミュニケーションとはつまり、このような「情報の非対称性」を減らしていく行為に他なりません。けして、外向的であることや空気を読むことでも、まして忖度することでもありません。情報の非対称性の少ない相手と楽しく談笑できても、それはコミュニケーション能力が高いわけではありません。

このような「他人のことはわからない」という「不確実性」。どんなに言葉を尽くしてもけっして完璧に伝わることはないという「不確実性」。これらのコミュニケーション不確実性を削減する力のことをコミュニケーション能力というのです。

少し話しづらい相手に相手の話を深く傾聴し、自分の思いをしっかりと伝えることによって初めてコミュニケーションが成立します。

透明性や心理的安全性

ところが、過去の経緯や相手のキャラクターからどうしても話しづらい相手や話しづらいことというのが存在します。なぜ、それをすることが憂鬱で逃れたいことだと思うかといえば、そこの背後に「自分が脅かされるのではないか」という不安が存在するからです。

人は、本能的に危険なことから逃れようとします。自分のアイデンティティを傷つけられるのをおそれ、行動が非論理的で回避的・攻撃的になります。これは、動物が天敵から逃れるために威嚇をしたり、一目散に逃げ出したりして、生存確率を高めるためのものです。

考えの見えない相手に悪意を見出したり、攻撃的になるのはそのためです。これを組織的に取り除くために注目されているキーワードが「透明性」や「心理的安全性」というものです。

「透明性」というとどうしても、情報公開のことだけだと考えてしまいがちですし、「心理的安全性」というと仲の良い職場のことだと考えてしまいがちです。一面間違ってはいないのですが、これらは「どのようにしてコミュニケーション不確実性」を削減しやすくするかというアーキテクチャに他なりません。

コミュニケーション不確実性が低く保たれるためには、

  • 同調圧力が弱く、また自らの人格が否定されることがないという環境
  • 気軽に様々なことを提案でき、また提案を受けれる環境

が必要になります。これらは「対人リスクをとる」ハードルの低さと「多様性の受容」が必要不可欠になります。1対1だけのコミュニケーションだけでなく、多対多の関係において「コミュニケーション不確実性」を削減させる能力。そのためにとられるすべての行動こそがコミュニケーション能力の正体なのではないでしょうか。

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