新入社員が来てメンターになれって言われたけど、どうすればいいのかという対話テクニック

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はじめに

最近、メンター制度として新入社員や若手のメンバーに対して、先輩をつけて相談事に乗ってあげたり、仕事のサポートをしたりといったような教育プログラムを組む企業が増えています。このメンターという役割は、ちょっとした訓練が必要だったりするのですが、このあたりの研修や訓練をせずにいきなり明日からメンターね!なんてことがままあります。

そんな時に、「これだけ覚えておけば大丈夫」といった実践テクニックを少し紹介します。また、このテクニックは「スクラムマスター」や「アジャイルコーチ」などの立場になっても、ファシリテーション/コーチングのテクニックとしても使えるのでそういった方にも重要な技術となると思います。

とはいえ、対人間のコミュニケーションであるので、私自身も成功だけでなく失敗も多く経験してきました。

「今、自分のメンタリングはうまくいっているのだろうか。」というセルフチェックとしても有効なものだとおもいます。

メンターってなによ

メンターというのは、特定の分野において経験を持つ人が「世話焼き兄貴・姉貴」として、キャリアや仕事の進め方、トレーニング、コーチングなどをしていく人のことです。その対象のことをメンティと言います。

そのため、目的は対象となる人の迷いを取り除き、成長させ一人前にしていくことです。また、メンターを経験することでより大きな人数での指導的立場やサポートをしていくことの足がかりとしても大変有用です。

コーチとの違いは?

コーチングの技術とメンタリングの技術は被っているところが多いですが、メンターにはその専門分野での経験や能力がより重視されます。

アプレンティス制度との違いは?

類似した制度に徒弟制(アプレンティス:見習い)制度があります。いわゆる師匠(先生)と弟子の関係ですが、これらは「見て学ぶ」「雑用をこなしながら学ぶ」といった要素が多分に含まれています。メンターはより積極的にメンティの成長に介入します。

リーダー・マネージャとの違いは?

直接の上長となるリーダー・マネージャは、メンバーの成長よりも組織の目的達成にコミットします。目的の優先順位が異なるため、同一人物がメンターとリーダーを兼務するのは大変難しいです。メンター制度自体が、従来のマネージメント手段の限界をサポートするために生まれたため、本末転倒なことになってしまいます。

OJTとの違いは?

OJTで関わるメンバーは、実際のチーム内の先輩や上長に限られる傾向があります。メンターはその中で外部の人員としてメンティの成長のために関わります。以下に導入する企業への注意点を述べますが、これらのポイントが押さえられていない場合にはたいていの場合ただのOJTになってしまい、悪い場合にはただの放置プレイになりがちです。

メンター制度を取り入れる企業への注意

メンター制度、あるいはメンタリングという言葉が流行ってしまったこともあって、メンタリングの形だけを導入するケースが多く見られます。最低限、ここは押さえておきたい企業への注意点を紹介します。

上長を直接メンターとしない

リーダーやマネージャとの違いでも説明しましたが、メンタリング制度は既存の組織体系に横軸を入れて、個人の成長にフォーカスする方法論です。ですので、直接の上長や関係の強いチームメンバーをメンターとしてしまうことは避けなければなりません。

上長とメンターのコミュニケーションを支援する

メンティの上長とメンターのコミュニケーション手段を設計しましょう。これが意外と大変ですが、メンティにとってもメンターにとっても重要なことです。

メンティは直接上長に伝えることのできないことをうまく伝える緩衝材になりますし、上長もメンティの評価点や成長してもらいたいポイントを間接的に伝えられるので、業務を円滑に回す潤滑油にもなります。第三者から間接的によい評価を伝えられることは想像以上に重要な役割です。

メンター業務の時間確保と評価をしっかりと行うこと

メンタリング制度を入れるときに、「じゃ、よろしく」と業務時間の隙間にメンタリングをさせてしまうのは問題です。メンターのために事前にしっかりと時間を確保して、メンタリング業務自体の評価を適切に行えるようにサポートしましょう。

メンターになったら

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メンターとなったら、メンティの業務をこなし結果を出す力を改善するのが、仕事になります。

メンターの役割は、自転車に乗るときの補助輪のようなものだと考えるといいでしょう。陥りがちなミスや手が止まりがちな仕事をうまく補助して進めていきます。

このときに、避けるべきなのは「心構え」や「力不足」といったメンター自身が本来コントロールできないところに注目して、指導をする方法です。

人の内心は、簡単には変えることができませんし、観測することができません。

たとえば、メンターが「仕事に対する考えが甘い!」と怒ったとき、メンティが「これからは心を入れ替えてしっかりやります!」と言ったとします。

果たしてこのとき、何か状況が変化したでしょうか。メンティは心を入れ替えたかもしれないし、入れ替えてないのに表面上嘘をついたかもしれません。つまりメンターはメンティの返答から何も情報が得られていないのです。

また、何が「仕事に対する甘さ」なのかわからなかったら、それを改善することもできません。メンターの考える「しっかり」とか「仕事に対する甘さ」が何かメンティには全く伝わっていないのです。

互いに何の情報もない会話をしても人は成長しません。
では、メンターがメンティに対して観測できてコントロールできるものはなんでしょうか。

内心ではなく行動に注目する

それは具体的な行動や、それが起こったら誰にでもわかるものです。つまり、互いに観測でき、見解がぶれないものに注目することが大事です。

「仕事に対する甘さ」は、メンティの内心であり観測できません。メンターは、抽象的で、観測できない仕事上のポイントを明解な「観測できる行動」に砕いて伝えていく仕事です。

メンターは何が、どうできていないことを「仕事に対する甘さ」と捉えたのでしょうか。それは、「メールでの確認が具体的でなく答えづらい」とか、「手が止まっている時間が長い」とか「動作確認をせずリリースした」とかもう少し具体的なことで、感じたはずです。

そして、何ができている人はそれをしないのでしょうか。それを改善するためにとったら良い具体的な行動はなんでしょうか。それを考えて伝えることが必要です。

このとき、いわゆるSMARTゴールという考え方をもって、具体的な言葉に変換してあげるといいでしょう。

SMART 意味
Specific 具体的である
Measurable 測定可能である
Achievable 到達可能である
Relevant 関連性が妥当である
Time-bound 期限が明確である

「わかった?」は意味のない言葉

似たようなことでいうと、メンターは何かを教えた後に「わかった?」と確認してしまうことがあります。このとき、メンティが「わかりました」と答えたとして、何か意味があるでしょうか。先ほどの「心構え」と同様に確認しても観測できないことを問いかけている状態になってしまいます。

そうではなく、具体的に「今言ったことを、ひとりで試しにやってみて」とか「以下の話を図に書き起こしてみて」とかアウトプットを要求しない限り、わかったかどうかなんてわかりません。

学生時代に私は塾講師をしていたのですが、課題のプリントを生徒たちに渡して、「わからなかったら手を上げて」と言ってたのですが、そのときは誰も手を上げられなかったという体験があります。そのあと、どうしたらいいんだろうかと考え、「問題を解く手が止まったら手を上げて」と伝えるようにすると、手を上げてくれる生徒が現れました。

抽象的で、判断のつきづらい言葉を具体的で誰でも判断できる言葉に変えたからだと、そのあとに気がつきました。

能力は習慣の積分

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私がよく使う言葉として、「能力は習慣の積分だ」というものがあります。習慣とは行動が染みついたものなので、行動や習慣は外からでもコントロールできることです。一方、能力や成果といったものはコントロールできません。人の成長のサイクルは、上の図のような4つの事柄のループなのだと思います。習慣が能力に変われば、成果につながり、成果は自信となって次の行動を強化してくれます。

メンターは、このコントロールできる部分にだけ注目していくことが重要です。また、会議などの議事をするファシリテーションにおいても、コントロールできるものに注目し、コントロールできないものを排除していくのは非常に重要です。綺麗に板書することがファシリテーションだと勘違いされがちですが、議論の流れを生産的にするためのフォーカスを作るのがファシリテーションの基本です。

答えやすい質問、答えにくい質問

たとえば、どこかに遊びに行って「何食べたい?」と聞いて「何でもいい」とか気の無い返事が返ってきた・答えた経験は誰にでもあるかもしれません。

それに比べると「メキシカンか、和食だったら、どっちがいい?」と聞かれると非常に答えやすいです。あるいは「何か苦手な食べ物ある?」とかでも比較的答えやすいです。

「好きな音楽アーティストって誰?」と聞かれても、明確なファンであったりしない限り答えにくかったりします。「カラオケで一番歌うアーティストって誰?」とかの方が答えやすいです。

「好きなタレントや俳優とかって誰?」と聞かれるよりも、「この中から好感をもっている人を選んでください」とかのほうが、答えやすいです。選択肢から選ぶというのは、回答を簡単にします。(その結果、好感度ランキングはア行の人ばかりになりがちですが。)

当然、質問を変えると答えも変わります。ですが、コミュニケーションの応酬をしていくなかで、悩みや課題が浮き彫りになります。

「何か悩んでることある?」と聞かれても、本当の悩みは答えづらいです。というか悩みが具体的にすっと言葉で出てくるのであれば、それは単に「課題」であって、悩んでるとも言えないのようなことのほうが多いです。

もっと具体的で行動として現れやすく、状況の想像しやすい質問で、YES/NOや選択肢から選べるようなもののほうが答えやすくなります。

「何か仕事や人間関係のことをオフの日とかにふと思い出したりする?」
とか
「仕事をしていて、次にやることがわからなくなったり手が止まったりすることある?」
のように、想像のしやすく思い浮かべやすい質問を通して、メンティの状況を把握することも重要です。

問題解決の戦略を一緒に立てる

何か仕事で問題を片付けないといけないとき、メンティは焦ってしまい何をすべきか見失ってしまうということがあります。

たとえば、プログラミングの仕事でバグの修正をするときなど、急いで修正しようとしてしまうと、「どこが」「なぜ」「どんなふうに」問題か見えないまま闇雲に対処してしまったり、じっと画面を眺めるだけで手が止まってしまったりします。

こうしたときメンターはエラーメッセージや、動作している状況を見て、「どんな可能性があるのだろう。」「どういうふうに特定していけるだろう」というようなことを質問していき、メンティがひとりで頭のなかだけでぼんやりと問題に対処するのではなく、具体的な戦略・行動を作る過程とその行動を実行する過程の2フェーズに分ける手伝いをします。

このようにすると、メンティの問題解決の速度が速くなります。これは当たり前でメンターという先輩の問題解決のための脳みそを借りている状態:つまり補助輪がある状態になるからです。

このとき、メンターがするのはあくまで「問いかけ」です。「答え」がわかっていても「答え」をいうことは避けたほうがいいです。人は、不思議なもので「問いかけ」られると答えようと頭が動きます。

これを繰り返していくと、その「問いかけ」がメンティに染み込んでいきます。だんだんと「こういうときはどうするんだっけ?」というように「問いかけ」もメンティ自身から出てくるように促していきます。だんだんと補助輪が外れていくはずです。

その後、振り返りをして、どのような問いかけがあって気がついたのか、どのような行動をとってわかったのかといったことを追体験してもらいます。

このように思考回路の強化学習を「問いかけ」を通じて行っていくことで、メンターのノウハウは、メンティに伝播していきます。

「悩む」と「考える」を分けていく

私は昔、部下や後輩に「一週間後までに⚪︎⚪︎についての解決策を考えてきて」と伝えて、あー失敗したなと思ったことがありました。自分の中では比較的具体的な指示をしたつもりでいたのですが、期待したアウトプットにならなかったのです。そのアウトプットをみて、「あまり考えられてないな」と「内心」を想像してしまい、「なんで考えてこれなかったのか」と苛立ってしまったりもしました。

あるとき、ふと彼が「考えている様」を見てはっとしました。腕を組んで、モニターを見つめて「うーん」と止まっている姿を見て、「何してるの?」と聞いてみると「考えています。」と答えたときに、自分の間違いに気がつきました。

「考える」は観測できる共通見解の持てる言葉ではなかったのだと。

私から見て、その様子は「悩んでいる」という様に見えたのです。このときに「考える」と「悩んでいる」には違いがあって、その違いを伝えていく必要があるのだとわかりました。

「悩んでいる」は状態

「悩んでいる」というのは、頭の中に様々なことが去来し、ずっと思考をぐるぐるともたげていて、もやもやがとれない状態だと考えています。これは非常に苦しい上生産的ではないので、「頑張っている」ように感じるわりに結果が伴いません。この状態になったときには、サポートが必要でともに考えるための戦略を立てていく必要があります。これは手が動いていない状況が続くことでメンターもメンティも観測できます。

「考えている」は行動

私が「考える」ときにしていたのは、メモ帳やホワイトボードなどに、課題を書き出し、分解したり、抽象化したり、具体化したりといったことや、次に進むために必要な情報を書き出して調査したり、様々な事例や論文を調べたり、数値分析をしたり、関連するアイデアをクリップしたり、本を探しに行ったりと何かと忙しく行動をとっていました。また、答えがでていなくても次になにしたらよいかは明確で、手が止まるといったことがあまりなかったのです。これは習慣となっていたので、「当たり前のことだ」と思い込んでしまっていたのです。

「悩み」を解決するとは「考える」に変化させること

私は、「考えて」もらいたかったのに「悩ませて」しまったのだと気がつき、そんな苦しいことを指示してしまったのだと反省しました。そこで、「悩み」を「考える」に変化させること、その違いを伝えることが重要なのだと理解したのです。

何故、より難しい問題で筆算しないのか

私は、あまり暗算が得意でないので、3桁掛ける3桁の問題は筆算をしないと解けません。仕事や人生で出くわす問題は、それよりはるかに難しいはずなのに、何故筆算をしないのか。というように人に伝えたりします。

それはきっと、その手段を知らないのと、それをサポートする「問いかけ」をされる経験が少なかったということが理由なのだろうと思います。そんなときにどうしたらいいのかを「問いかけ」ることがメンタリングの最大のコツだと思います。

まとめ

メンタリングで必要となるテクニックは、

  • 内心でなく行動に注目する
  • 具体的な言葉で行動を変える
  • 考えを進める「問いかけ」を補助輪として提供する
  • 悩みを考えるに変化させる
  • 行動を習慣化させ、能力を伸ばす

そしてメンタリングの経験は自身の能力も伸びていく糧となるはずです。

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