※この記事はAgileStudioに掲載した記事の転載です。
元記事:「経験の浅いメンバーが3ヶ月で現場を離れた」チームが、迎えたメンバーを育てられるようになるまでの試行錯誤(トナリノ)
「経験の浅いメンバーが、3ヶ月で現場を離れた」
あるチームで、そんなことが起きました。
今回ご紹介するのは、社会インフラを支える基幹システム開発を担うあるチームです。専門知識の多さと暗黙知の多さが特徴的なこの現場で、チームはなぜ育成の壁にぶつかり、どう動き出したのか。
この記事は、その試行錯誤の記録です。
トナリノは、隣のチームの泥臭い試行錯誤をそのまま届けるコミュニティです。
様々なチームの「うまくいかなかったこと」「試してみたこと」「今の現在地」を記録しています。正解やTipsではなく、あるチームのリアルな試行錯誤をお届けします。
「地元で経験者はほぼいない」──採用の制約から始まった育成の壁
このチームが担うのは、社会インフラを支える基幹システムです。長年にわたって使われ続けるシステムで、関わる技術領域は広く、業界固有のルールも複雑です。
人が入れ替わるとき、できれば経験者を採用したい。それが現場の本音でした。しかし、コロナ禍の時期、状況がそれを許しませんでした。顧客側の方針として、県を跨いだ人材を受け入れることが難しくなっていたのです。地元で人を探すしかない。そうなると、こうした基幹システムの現場経験を持つ人を見つけられることはほとんどありません。
「人の条件に対して文句を言っていられる状況じゃない」──チームは、未経験者を採用して育てるという選択肢に向き合うことになりました。
ところが、育成には大きな壁がありました。現場のメンバーは十数年以上のベテランばかり。彼らが身につけてきた業務知識・プログラミング言語の作法・ツールの使用手順・顧客とのやり取りのマナーは膨大で、その多くは誰かの頭の中にある暗黙知でした。何をどう教えればいいかということ自体、すでに難しかったのです。
それでも丁寧に教えようとしました。でも、仕組みはありませんでした。経験の浅いメンバーが加わるたびに、何を教えたか思い出しながら、その場で考えながら、説明していました。場当たり的な育成が続いていました。
この業界の前提知識の多さから、段階を踏んで育成していく必要もありましたが、それもうまくできていませんでした。そして── 経験の浅いメンバーが、3ヶ月で現場を離れた。
このタイミングで、チームはまずいと感じ始めました。育成の課題感に、ちゃんと向き合わなければならない、と。
育成の問題だけじゃなかった──ナレッジが溜まらないという構造的な問題
育成の課題と並行して、チームにはもう一つ気になっていることがありました。ナレッジが意図的に貯まっていない、という問題です。
基幹システムの開発は、1つのプロジェクトの期間が長いのが特徴です。1年前に実施したことを、1年後にまた実施することも珍しくありません。そのとき困るのは、やり方を忘れていること、当時を知るメンバーがすでにいなくなっていることです。「また同じキャッチアップし直す」「また同じ悩みに出くわす」。そんなことが繰り返されていました。
引き継ぎも毎回大変でした。人の入れ替えに伴う引き継ぎは、どの現場でも発生します。このチームも例外ではなく、引き継ぎのたびに多くの時間とエネルギーを使っていました。
「これ、育成に使えるんじゃないか」──Teamsとの出会い
転機は、現場にMicrosoft Teamsが導入されたことでした。あるメンバーが言いました。
「これ、活用次第で育成に使えるんじゃないか」。
ちょうどそのころ、一人のメンバーが加わることが決まっていました。これまでまったく別の業界で働いてきた人で、プログラミングも未経験でした。このメンバーの参画を機に、Teamsを使った育成の仕組み化に取り組むことにしました。
設計したのは、チャンネル内にメンバーごとの専用スレッドを設けるという運用です。核になったのは3つのスレッドでした。
① 「◯◯さん学習記録」
その日に学んだことを ◯◯さんが 書き残す場所。「何を教わったか」ではなく「自分が何を理解したか」を本人が言語化するため、理解度の確認にもなります。
② 「◯◯さんに語ったこと、渡した資料」
◯◯さんに伝えたことや渡した資料を、 チームメンバーが 記録しておく場所。「あの件、もう説明した?」「この資料、渡したっけ?」という確認が不要になり、伝達の抜け漏れを防げます。
③ 「◯◯さんからの質問や要望等に皆が答えるスレ」
加わったメンバーが疑問を投げると、チーム全員が答える場所。特定のベテランに質問が集中するのを防ぎ、 チームとして育成を担う手応えが生まれています。
後からメンバーに聞くと、「一つの場所に全部混ぜると、何を確認したいかによって探しにくくなる。だから分けた」と話してくれました。場所を分けたことで、加わったメンバーもチームも「どこを見ればいいか」が迷わなくなったといいます。
スレッドはこの3つだけではありません。現場の状況に応じて、他にも複数のチャンネル・スレッドを活用しています。
育てたい側と、成長したい本人の気持ちが、うまく重なった
この仕組みが続いているのは、ルールを強制したからではありません。
「誰でも初めてのことには一生懸命取り組む。キャッチアップしようとノートにいろいろ書いたりもする。そのついでに電子にも書いてよ、と声をかけやすかった」
チームには「スキルをつけていくことがいいことだ」という雰囲気があります。育てたいという気持ちと、成長したいという気持ちが、ちょうど重なっていました。それが仕組みを動かし続けた理由だったと、メンバーは振り返ります。
また、「なるべく残そうね」というガイドライン程度にしています。人によってナレッジを積極的に残す人とそうでない人は、もちろんいます。書き込みの丁寧さにもバラツキが出ます。「なるべく残そうね」と声をかけながら、完全な自主性にも任せていない。そのくらいの温度感で運用しています。
「長期休暇に入れた」──ナレッジが残ったから
仕組みを動かし続けてみて、思わぬ効果がありました。
「これのおかげで長期休暇に入れた」
そんな声がチームから出るようになりました。ナレッジがTeamsに積み上がっているから、特定の人がいなくても現場が動くようになりました。
育成のためだと思って始めた仕組みが、チーム全体のナレッジの器にもなっていきました。加わったメンバーへの説明を言語化したやり取りが、そのまま現場の記録として蓄積されていったのです。
あなたのチームの育成、今どんな状態ですか?
「どうやったらこの業界のSEって育てられるんですか」──チームメンバーは、よくそう聞かれるといいます。このシステムは長年にわたって使われ続ける基幹システムです。ベテランがいつかチームを去る日も来ます。育成の記録を残し続けることが、その問いへの答えになる。そう考えているといいます。
あなたのチームの育成、今どんな状態ですか?
このチームの試行錯誤が、皆さんのチームへの「問い」になれば嬉しいです。
この記事は、「トナリノ」から生まれた試行錯誤の記録です。
様々なチームの泥臭い試行錯誤を、定期的に届けています。
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