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エンジニアリングマネージャーのタスクと時間管理について

Last updated at Posted at 2024-12-20

この記事はEngineering Manager Advent Calendar 2024 シリーズ2 21日目の記事です。

古西といいます。BtoB系のSaaS企業で、開発・運用のマネージャー職をやってます。
開発・運用組織のマネージャー職をやっていると、席に座っているだけで「〇〇の承認をお願いしたいのですが」「ちょっとトラブルなので来てもらえますか」「新しい案件があって…」と対面で直接や、Slack/Teams等のチャット、メール等で割り込みだらけになりがちです。ただでさえ打合せが多いところに自分の作業時間が順調に削られていきます。自分の作業時間を確保できるのは昼間の怒涛に積み上がったタスクをさばいてやっと落ち着いた夜になってからで、その頃には頭も体もへとへとになっており 「あぁ、今日も一日朝からやろうとおもっていたことができなかった…」と後悔の念にさいなまれる ときがあります。
エンジニア上がりでエンジニアリングマネージャになると、かつて自分がエンジニアとして成果を積み上げていた記憶もあり、 「一体自分は何をやっているんだろう」 と思うことがあります。そんなエンジニアリングマネージャーのタスクと時間管理について、自分がこれまで読んだ本や体験した経験の中で、いくつかヒントになる考え方があると思ったことを、今回記事に書いてみることにしました。

  • エンジニアリングマネージャーのタスク
  • 緊急度と重要度
  • 職業人としての時間の分類

エンジニアリングマネージャーのタスク

オライリーの書籍1の一つに 「エンジニアリングマネージャーのしごと」2という本があります。この本にエンジニアリングマネージャーのタスクは次の4つだと書いてあります。

  • 情報収集
  • 意思決定
  • ナッジング
  • ロールモデル

この箇所を最初に読んだ時、 「自分のやっていることはおかしなことではなかったんだ」 と少し救われた気がしました3

「情報収集」 は、自分の所属する企業や開発・運用チームの状況を正しく把握するために、日々アンテナを巡らせておくものです4。仕事の打合せで入ってくる情報だけでなく、Teams/Slack等のチームやチャンネルで日々流れるチャット、Jira/Backlog等のタスク管理ツールに記録されるコメントやステータス状況、ファイルサーバやクラウドストレージに蓄積される日々の成果物、休憩コーナーでのたわいのない会話等、オフィシャル/アンオフィシャルに起きている情報を収集することは必要です5。特に、役職が上がれば上がるほど、メンバーとの間にリーダーやマネージャーがいるために、意識しないと途中経路で 「報告のバイアス」 がかかることがあり、正確な情報が自分に届かない場合があります。よく「マネージャーは上機嫌で暇そうにしていることが重要」、ということを聞きますが、 チームメンバーから相談をしやすい雰囲気を日頃から作っておく ことは、大変重要と思っています。6

「意思決定」 は、エンジニアリングマネージャーとしての職務権限が与えられているからこそ、自分で実施しなければならないものです。仮に、組織のオフィシャルな権限規定によると本当の決定権や承認権限は上位の職にある場合があるかとも思いますが、たとえそうであっても、ここでいうところの意思決定は 「技術的観点、業務の必要性の見地からみて、他の人よりも自分が決定するのが一番妥当なこと」 を言います7。具体的にはよくあることは、本番のリリースの際に切り戻しするかどうか判断に迷うバグが見つかったとき、そのバグをリリース後の積み残し課題と捉えてこのままリリースを進めるか、一旦リリースを中断して切り戻し後日リトライとするか、を決めなければならない時があります。このときに エンジニアリングマネージャーが凛としてGO/NOGOを決めることが重要 で、ここがぐだぐだだと現場はメンバーが右往左往することになります。

「ナッジング」 は聞きなれない言葉です8。「エンジニアリングマネージャーの仕事」の本には、 「議論に対して、自身の観点を提供することで、決定に影響を与えること」 と書いてあります。例えば打合せで、担当者の提案に対して「それ、いいアイデアだね。さらに〇〇をプラスしたらもっといいんじゃない?」と言ったり、上位者に対して「今だと××の課題があり対処策を立案中で、来週まで決定を待ってもらえませんか?」と言ったりすることだと思っています。これは加点法の考え方であり9、チームや組織で仕事をする上で、 自分の観点をプラスすることで、よりよい状況を作り出す 、という成果になります。日々の打合せで何気にやっていることでも、言われてみると重要なタスクと思います。

最後の 「ロールモデル」 ですが、皆さんは、エンジニアリングマネージャーのロールモデルと言って思い当たる方はいらっしゃるでしょうか? 完璧で全知全能のエンジニアリングマネージャーはこの世にいない と思いますが、ああいう人にいつかはなりたいな、と思う方はいらっしゃるかもしれません。逆にああはなりたくない、と思う方もいらっしゃるかもと思います。ロールモデルに正解はないと思います。アニメ映画監督の宮崎駿と高畑勲は演出家・監督としての仕事の進め方は全く違っているように思いますが、どちらも立派な監督であることは間違いがありません10。自分がなりたいロールモデルを探し求め続けるのがよいように思います11

もし、あなたがエンジニアリングマネージャーであり、上記の4つを日々実行しているのであれば、あなたのやっていることは決して時間の無駄ではなくとても重要なことをやっている、と思います。

緊急度と重要度

ビジネス書のベストセラーである 「7つの習慣」12の中に、 時間管理のマトリックス というものが書かれています。タスクを緊急度と重要度に従って4つの象限に分類するというものです。

  • エンジニアリングマネージャーの時間管理のマトリックスのイメージ
    timemanage_matrix.png

  • I 必須の領域 緊急で重要なもの

  • II 効果性の領域 緊急ではないが重要なもの

  • III 錯覚の領域 緊急だが重要ではないもの

  • IV 浪費・過剰の領域 緊急でも重要でもないもの

「緊急」 とは、 「すぐに対応しなければならないように見えるもの」 であり、「重要」 とは、 「自分のミッション、価値観、優先順位の高い目標の達成に結びついているもの」 です。エンジニアリングマネージャーのタスクをここに配置してみると、たいてい、ほとんどすべてのタスクが「重要」の領域に入ると思います。また、ともすれば「緊急」の領域のタスクがのべつ幕無しにやってきて、それが「重要」なのかどうかを短時間で判断し、今対応が必要か、後回しや他人にお願いする、または拒否する等、自分の行動スケジュールを変更していく必要があります。これは私がリーダー研修を受けたときの講師の方のお話ですが、自分では重要なタスクと思わなくても、他の誰かにとってそのタスクは重要であるため、他から降ってくるタスクは減らないのだそうです。
そして、「7つの習慣」にはその答えとして、「緊急ではないが重要なもの、つまり効果性の領域に集中しなさい」 と書いてあります。この領域は自分から時間を作って対応しようとしなければ対応できないことと、緊急のタスクを減らすための予防策としての効果があるため、と書いてあります。エンジニアリングマネージャーのタスクに照らし合わせてみると、トラブル対応が緊急かつ重要なタスクとすると、トラブルが発生した際の作業手順やサービス継続の仕組みをあらかじめ用意しておくことが緊急ではないが、重要なタスクになると思います。
とは言うものの、実際にはなかなか難しいです。なぜなら、1日24時間はすべての人に平等で、準備の時間をつくろうとするならば、重要でないタスクをやらないか、ほかの誰かに任せて時間を作るしかないからです。このあたりのタスクの拒否や移譲についても「7つの習慣」には記載があります。意識しないと変わらないため、意識して自分の時間の使い方を決めていく必要があると思います。

職業人としての時間の分類

あるとき病院の待ち時間に、待合室に置いてあったビジネス雑誌を読んでいると、人生の時間区分は以下の4つだと書いてありました。これはその時なるほど、と思ったのでメモったのですが、今回記事にしようとしてネット検索してみると、わりとポピュラーに書かれていることのようです13

  • 幸福の時間
  • 投資の時間
  • 役割の時間
  • 浪費の時間

自分に置き換えて考えてみたところ、「幸福の時間」 というのは家族との団欒、旅行などの自分の趣味をしている時間であり、まさに幸福を感じたり、リフレッシュにつかっている時間と思います。「投資の時間」 は、自分が現在や将来生きていく中でよりスキルアップしておいたほうがよい仕事や人生につながると思うことに充てる時間で、業務、語学やITの勉強であったり、健康を保つためにジョギングや散歩も当てはまるでしょうし、もしかしたら趣味の楽器の練習だったりするのかもしれません。「役割の時間」 とは、まさにエンジニアリングマネージャーとして仕事をしている時間であり、その職務を全うしている/期待されている時間のことです。最後に 「浪費の時間」 とは、前の3つにはあてはまらない、ただだらだらと過ぎ行く時間のことで、目的もなしになんとなくテレビやSNSをみて過ごす等があてはまるかと思います。
この4つの分類で考えると、休息の時間は、幸福の時間か浪費の時間のどちらかになりますし、人によっては、幸福の時間と役割の時間が近い人もいれば、大幅に遠い人もいる思います。
この4つの分類で、私がエンジニアリングマネージャーとして特に重要だとおもったのは、「投資の時間」 です。将来なりたい自分のイメージに近づくために、今の時間のいくばくかを使う、ということです。ITの世界の技術革新は早いため、過去に身に着けたスキルや知識も古くなっているかもしれません。常日頃からアンテナを張って、自分をアップデートしていく必要があると思います。

以上、エンジニアリングマネージャーのタスクと時間管理についてこれまでに読んだ本などの内容に自分の考えをプラスして記事にしてみました。エンジニアリングマネージャーは、その役割からチームや組織に何らかの責任を背負っています。顧客や経営者、事業サイドからの要求に答えながら、チームメンバや組織のメンバーが快く働いて成果を発揮できるように機会と環境を整える必要があります。そのためにも、自分の時間をどのように使うかは、仕事をする上で意識を高く気にかけておく必要があると思います。


※ 文中に記載されている会社名、商品名、製品名は各社の商標または登録商標です。

  1. https://www.oreilly.co.jp/ 「みんな大好きオライリー」と書きかけて、いや嫌いな人もいるかもと思ってやめました。オライリーの書籍はその分野のベストプラクティスを広めていると私は思っていて、オライリーの本が好きか嫌いかは、エンジニア人生を豊かにするかどうかに若干ですが影響すると思っています。

  2. ISBN:978-4-87311-994-6 https://www.oreilly.co.jp/books/9784873119946/

  3. この4つのエンジニアリングマネージャーのタスクを知ってもらいたいがために、今回この記事を書いたと言っても過言ではないです。

  4. 若い頃、判断に迷っている状況を上司に報告したところ「判断に迷うということは判断に必要な情報が不足しているということだ。何が不足しているのか考えて集めてみて」とアドバイスされました。もちろん、すべての情報を集めるのではなく、仮説や経験をもとにダイナミックな判断も必要です。ただ、判断材料を揃えるための情報収集は仕事の基本だと思います。

  5. 「『これ』と決めた道で知らないほうがいいことなんて一つもないわよ」競技かるたの漫画「ちはやふる」に出てくる、富士崎高校かるた部顧問桜沢先生のはっとさせられる言葉。ちはやふる 17巻より。ISBN:978-4-06-380349-5 https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000046232 情報の取捨選択は必要ですが、最初から情報を拒絶するのは可能性を閉ざすことになると思います。

  6. このメンバーからの「ちょっといいですか」相談というのは、マネージャー職だと避けて通れないものだと思っています。自分がそこそこ緊急・重要なメールやチャットを書いていたりすると「ごめん、ちょっと2、3分待って!」とか「ごめん、今、無理」ということがあります。経験豊富なエンジニアリングマネージャーの方の意見も聞いてみたいところです。

  7. 「意思決定とは、いちばん情報を持っていて、いちばんコミットしている人間がやるべきなんだ。」転職の思考法という書籍にある言葉ですが、これが疑問なくできる組織文化をつくりたいと思っています。ISBN:978-4-478-10555-9 https://www.diamond.co.jp/book/9784478105559.html ただし、自分の上下の直属ラインとは良好な関係を保つことが大前提です。

  8. ナッジ(nudge)とは、行動経済学でよく使われる言葉で、「(注意を引くために)軽くつつく、そっと押す」「ある行動をそっと促す」という意味です。よく例として示されるのが、男子トイレの小便器にプリントされた「ハエ」の絵です。これが周りに飛び散らないよう的を当てる意識を促し、小便器の清掃費の削減ができた、ということです。

  9. 難しい仕事のなればなるほど、加点法での考え方は重要と思っています。減点法で「ああ、50点しか取れなかった」と捉えるのか、加点法で「50点も取れたじゃないか。すごい!」と考えるのかで、メンタルの保ち方が大きく違ってきます。

  10. テレビで宮崎駿監督のドキュメンタリーをやっていて、大御所となられてからも自分で原画の修正をしている姿をみると、ベテランのエンジニアリングマネージャーがソースコードレビューをやっているようなものかな、と思います。ちなみに私はソースコードレビューはほぼできないので、できる人にお任せです。

  11. マネージャーというか、自分がロールモデルというときに強く意識しているのは「ホワイトボードの前に立ち、議論をファシリテートできる人」です。今だと、miroのようなオンラインツールを使うかもしれませんが、仕事の現場で旗を立て、行き先を決める人であり続けたいです。

  12. ISBN:978-4-86394-024-6 https://fce-publishing.co.jp/book/p863940246/ 新訳と旧訳があり、最近販売されているのは新訳です。私は社会人一年目に当時の組織長がこの書籍を大変勧められていたので読んでみたのですが、その時はピンときませんでした。ビジネスリーダーとしての人生訓が書かれている書籍で、どうもエンジニアの方からすると好き嫌いが分かれるようです。

  13. このプリン、いま食べるか? ガマンするか? 一生役立つ時間の法則 ISBN:978-4-86801-002-9 https://www.asukashinsha.co.jp/bookinfo/9784868010029.php 東洋経済オンラインでサマリ記事がありました。https://toyokeizai.net/articles/-/749268

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