はじめに
最近、ARグラスやMRヘッドセットが盛り上がっていますが、実際の製造現場で使おうとすると「重すぎる」「高すぎる」「アプリ開発が大変」といった壁にぶつかりがちです。
そこで今回は、メガネ型ARデバイス 「XREAL One」 に注目し、これを製造業の現場で活用できないか? という視点で検証してみました。
実際に装着して公園で検証した様子(?)も交えてご紹介します。
XREAL Oneについて
XREAL Oneは、サングラスのような見た目のARグラスです。
このデバイスの特徴は、「シンプルさ」 にあります。
バッテリーやAndroid OSを内蔵した重いヘッドマウントディスプレイ(HMD)とは異なり、基本的にはスマホやPCの映像を映し出す「外部ディスプレイ」としての性格が強いデバイスです。
鼻あてがフワフワで、重量も約85g程度、これなら長時間つけていても痛くなりにくそうです。
使い方も非常に簡単。
メガネのつるの先端にあるUSB Type-Cポートにケーブルを挿し……
DisplayPort出力に対応したスマホやPCに接続するだけです。
これだけで、目の前の空間に巨大なディスプレイが浮かび上がります。
できること・できないこと
スペックを見ると、HoloLensやVision Proなどのハイエンド機と比べて「できないこと」が目につきます。しかし、それが逆にメリットにもなっています。
❌ できないこと
- 単体起動不可: スマホなどのホストデバイスが必須(有線接続)。
- ハンドトラッキング: 手で空間のボタンを押すような操作はできません。
- 高度な3D配置: 現実空間の壁や床を認識してオブジェクトを配置するような、高度なMR機能はありません。
⭕️ できること(メリット)
- 圧倒的に軽い (約85g): バッテリーを外出しにした恩恵です。
- 画面が綺麗: 文字もくっきり読めるため、マニュアル閲覧に向いています。
- 価格が安い: 数十万円するHMDとは異なり、全作業員に配布可能な価格(約7万円)です。
- 普通のメガネに近い: 威圧感が少なく、取り回しが楽です。
「リッチな体験」は捨てて、「軽さと実用性」に全振りしているデバイスと言えます。
「画面を空中に固定する」という体験
XREAL Oneには、画面の表示方法として大きく2つのパターンがあります。
1. 画面が視界についてくる
頭を動かすと、画面も一緒に動きます。移動中も常に映像を見たい時に使います。
(画面の動きの再現)
2. 画面を空中に固定する
視線を変えても、画面は空中の特定の位置に留まります。
(↑空中の同じ位置にあるイメージ図)
製造現場で使うなら、断然 2. の固定モード が便利です。
「設備の横にマニュアルを浮かせておく」「手元で作業しながら、必要な時だけ空中の図面を見る」といった使い方が、コンテキストスイッチ(作業の中断)を防ぎます。
製造業での活用検討
現場導入において、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)ではなく「メガネ型」であることには大きな意味があります。
[よくあるヘッドマウントディスプレイのイメージ]
一般的なHMDは大きすぎて、現場の必須装備であるヘルメットや保護メガネと干渉してしまいます。しかし、XREAL Oneなら……
結論として、大きめの保護ゴーグルであれば、XREAL Oneの上から問題なく装着可能でした。
一般的なHMDではゴーグルと干渉して装着できないケースが多いため、メガネ型であることの大きな利点です。
使わないときは胸ポケットに入れておけます。
「ARデバイスのために現場のルールを変える」のではなく、「今の現場装備のまま使える」点が非常に優秀だと感じました。
(見た目の「サイバーパンク感」も控えめで、現場で浮きにくいのも地味なポイントです)
運用方法の提案:アプリは作らず、スマホ機能をフル活用する
では、実際にどう使うか?
今回は 「誰でも明日からできる、最もシンプルな運用」 を考えてみました。
必要なもの
- XREAL One: メガネ型ARデバイス本体
- スマホ: USB Type-CでDisplayPort接続できるもの(iPhone 15以降など)
- 現場の作業指示用QRコード
やってみた(公園で)
現場での点検作業を模して、公園で 「どんぐりの選別作業 を行ってみます。
公園にやってきました
例えば、作業を行う場所にこのようなQRコードを印刷しておきます。QRコードのURLの先は、作業指示の画像や動画などが考えられます。
リンク先には、作業マニュアル(今回は京都市の「どんぐりみわけ図鑑」)が表示されます。
引用元↓
作業指示を表示するスマホとXREAL Oneを接続し
スマホのカメラでQRコードを読み取ります。
スマホのブラウザ画面がそのままARグラスに表示されます。
これを空中の見やすい位置に固定すれば、「両手でどんぐり(対象物)を探索・判別しながら、視線を少し動かすだけで図鑑(マニュアル)を確認する」 ことが可能になります。
この運用のメリット
この「スマホの画面を出すだけ」というアプローチは、一見ローテクですが非常に実用的です。
- 開発不要: 既存のWebマニュアルやPDF、動画マニュアルがそのまま使えます。
- スマホ完結: QR読み取り、通信、処理はすべて使い慣れたスマホ側で行います。
- 完全ハンズフリー: タブレットや紙を持ち歩く必要がなく、両手が自由になります。
今後の展望:AIエージェントへの進化
さらに、XREAL Oneに内蔵されているマイクと外付けのカメラ(XREAL Eye)を活用すれば、「AIエージェント」 としての活用も見えてきます。
- マルチモーダル保全AI: 作業員が見ている設備画像をAIが解析し、故障箇所を特定する。
- 音声帳票入力: 「ここ汚れてたから拭いといたよ」と独り言を言うだけで、AIが報告書を自動作成・入力する。
これらはXREAL Oneを単なる「表示機」ではなく、「現場の目と耳」として活用するアプローチです。
まとめ
今回、XREAL Oneを検証してみて感じたポイントは以下の通りです。
- 「できないこと」が強み: バッテリーや高度なセンサーが無いからこそ、軽くて安くて使いやすい。
- 保護具との相性が良い: ゴーグルの上からかけられるのは、現場導入のハードルを大きく下げます。
- シンプルな導入: 専用アプリを作らなくても、スマホのミラーリングだけで「ハンズフリーマニュアル閲覧」が実現できる。
- AI拡張性: 将来的にはAIと連携した高度な作業支援デバイスになり得る。
「ARでリッチな3D体験を!」と意気込むと大変ですが、「空中に浮くサブモニター」として捉えると、意外とすぐに現場で役立ちそうです。
興味のある方は、ぜひ一度試してみてください。



















