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【10ステップ】現場が喜ぶデータベースとSQL実践ロードマップ

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この記事では、「なぜ現場でそれが必要なのか?」「どう使えばチームに貢献できるか?」という超・現場目線で、DBとSQLの勘所を「設計」「クエリ(操作)」「運用」の3フェーズに分けて、10ステップで実践的に解説します。

この記事を読み終える頃には、あなたは「なるほど、DBってそういうことか!」「明日からSQL、こう書いてみよう!」と、具体的なアクションプランが見えているはずです。


目次

  1. はじめに — なぜDBとSQLが現場の「武器」になるのか?
  2. データベースとは現場で何を解決するか?(高性能なExcelじゃない)
  3. まず押さえるべき用語と概念(超簡潔)
  4. 実践ステップ(設計→クエリ→運用)
    • 【設計編】ステップ1: 要件をテーブル化してみる(実例:イベント管理)
    • 【設計編】ステップ2: 正規化(第3正規化を現場でどう使うか)
    • 【クエリ編】ステップ3: 基本的なCREATEとINSERT(まずは「箱」と「データ」)
    • 【クエリ編】ステップ4: よく使うデータ操作SQL(SELECT / UPDATE / DELETE)
    • 【性能編】ステップ5: インデックスとパフォーマンスの基本ルール
    • 【運用編】ステップ6: トランザクションとエラーハンドリング
    • 【運用編】ステップ7: マイグレーションを現場でどう扱うか
    • 【運用編】ステップ8: ログ/監査/データ保持の実務ルール
    • 【運用編】ステップ9: 小さく始めて改善するための計測指標
    • 【発展編】ステップ10: よくある落とし穴とその回避策
  5. まとめ(実践の最短ルート)

1. はじめに — なぜDBとSQLが現場の「武器」になるのか?

ベンチャーやスタートアップの現場では、スピードが命です。
そして、そのスピードを支えているのがデータです。

  • 「どの機能が一番使われているか?」
  • 「今月の新規登録ユーザー数は?」
  • 「A/Bテストの結果、どちらが良かったか?」

こうしたビジネスの意思決定は、すべてデータベースに蓄積されたデータに基づいて行われます。

エンジニアの仕事は、単に機能を作ることではありません。
**「データを安全に、正しく蓄積し、必要な時に、素早く取り出せるようにする」**ことまでがセットです。

特に変化の激しい現場では、DBやSQLを正しく扱えるエンジニアは、「単なる作業者」ではなく、「ビジネスを加速させるパートナー」として、リーダーや経営層から強く信頼されます。この記事では、そのための「実践的な武器」としてのDB/SQLを学びます。


2. データベースとは現場で何を解決するか?(高性能なExcelじゃない)

「DBって、要はExcelみたいな表管理でしょ?」
半分正解で、半分不正解です。

確かに、RDB(リレーショナルデータベース)という主流のDBでは、データを「テーブル(表)」というExcelのシートのようなもので管理します。

しかし、現場でDBが解決する問題は、Excelとは根本的に異なります。

  1. データの一貫性を保つ
    • 「ユーザーID: 1」の人の名前は、どのファイルから見ても「田中太郎」であるべきです。DBは「重複」や「矛盾」が起きないようにデータを守ります。
  2. 同時アクセスでの整合性を守る
    • ECサイトで、在庫1個の商品に、AさんとBさんが同時に(0.01秒差で)購入ボタンを押した時。DBは「どちらか一人だけが買える」ように制御し、データが壊れないように(二重に売れないように)守ります。
  3. 検索(レポートやAPI)を効率化する
    • 1億件の注文履歴から「特定のユーザーの先月の注文」を0.1秒で見つけ出す。これがDBの力です。

▼ 現場目線でのDBとExcelの決定的な違い

観点 Excel データベース (RDB)
同時編集 苦手(ファイルが壊れがち) 得意(何百人が同時に書き込んでもOK)
データ量 数十万行で激重になる 数億件でも平気(ちゃんと設計すれば)
データの正確さ 誰でも自由に書き換え可能(「1」と「1」が混在) 厳密(「ここは数字だけ」「ここは日付だけ」と強制できる)
データの繋がり VLOOKUPで頑張る 得意(JOIN:後述)
安全性 ファイルを消したら終わり 自動バックアップ、復元機能が強力

現場で求められるのは、まさにこの**「正確さ」「同時実行性」「安全性」**です。
DBは、サービスの「心臓部」であり「金庫」です。Excel気分で扱うと、サービスは即死します。


3. まず押さえるべき用語と概念(超簡潔)

深く知る必要はありません。「あ、これのことね」とわかるレベルでOKです。

  • RDBMS (Relational Database Management System)
    • リレーショナルデータベースを管理するソフトウェアのこと。
    • 現場でよく聞くのは MySQL, PostgreSQL。まずはこの2つを覚えておけばOK。(他にはSQLite, SQL Server, Oracleなど)
  • テーブル (Table)
    • Excelのシートのような「表」。
    • 行 (レコード): 1件分のデータ(例:あるユーザー1人分の情報)
    • 列 (カラム): データの項目(例:name, email
  • 主キー (PK: Primary Key)
    • その行を一意に特定するためのカラム。「絶対に重複しない番号」のこと。(例:user_id
  • 外部キー (FK: Foreign Key)
    • 別のテーブルとデータを「紐付ける」ためのカラム。(例:ordersテーブルにある user_id
  • インデックス (Index)
    • 検索を「爆速」にするための「索引(さくいん)」。
  • トランザクション (Transaction)
    • 「銀行振込」のように、一連の処理(例:Aさんの残高を減らす+Bさんの残高を増やす)を「全部成功」か「全部失敗(元に戻す)」のどちらかに保証する仕組み。

4. 実践ステップ(設計→クエリ→運用)

ここからが本番です。手を動かすイメージで読み進めてください。

【設計編】ステップ1: 要件をテーブル化してみる(実例:イベント管理)

あなたが「小さなイベント管理アプリ」を作るとします。
まずは、どんな情報が必要か、紙やメモ帳に「情報の塊」を書き出してみます。

【要件】

  • イベントが作れる(名前、場所、開始日時、終了日時、主催者)
  • ユーザーが参加登録できる(参加者名、メール、電話)
  • 参加者はチケットを買う(どのイベントに、誰が、どのタイプのチケットを、いつ買ったか)

この段階で、この「情報の塊」をそのままExcelの1シートにするのは最悪の設計です(後述)。
現場では、この「塊」を、意味のある単位(=テーブル)に分割します。

  • 「イベント」の情報の塊
  • 「参加者」の情報の塊
  • 「チケット」の情報の塊

この3つの「テーブル」ができそうだとアタリをつけます。


【設計編】ステップ2: 正規化(第3正規化を現場でどう使うか)

「テーブルを分ける」作業を、DBの世界では**「正規化」と呼びます。
一言で言えば、
「データの重複をなくし、矛盾が起きないようにテーブルをキレイに分ける」**作業です。

もし正規化をサボると、現場ではこんな悲劇が起きます。(前述の通り、データ矛盾が深刻化します)

▼ 正規化されていないヤバいテーブル(例:ticketsテーブル)

チケットID イベント名 イベント場所 参加者名 参加者メール チケットタイプ 購入日時
1001 勉強会 A会議室 田中太郎 taro@... 一般 11/1
1002 懇親会 Bホール 鈴木花子 hana@... VIP 11/2
1003 勉強会 A会議室 田中太郎 taro@... 一般 11/3

上記テーブルにはいくつかの問題があります。

  1. データが重複 (冗長) すぎる
    • 田中さんが100回チケットを買ったら、「田中太郎」「taro@...」という文字列が100回保存されます。無駄!
  2. データ更新が地獄 (更新異常)
    • もし田中さんがメールアドレスを変更したら? このテーブルの「田中太郎」の行を全部探して、全部のメールを書き換えないといけません。
    • 1箇所でも更新を忘れたら? → データ矛盾の発生。「チケット1001の田中さんは旧アドレス」「チケット1003の田中さんは新アドレス」というカオスが生まれます。

このような問題を解決するために出てくるのが、「正規化」です。

正規化の3つのステップ(現場目線)

正規化には段階がありますが、現場で意識すべきポイントだけを超簡潔に説明します。

  1. 第一正規化:「セルには一つの情報だけを入れよう」
    • NG例: 1つのセルに「田中太郎, 鈴木花子, ...」とカンマ区切りで複数の参加者名を入れる。
    • OK例: 各行・各カラムは、必ず一つの値だけを持つようにする。
  2. 第二正規化:「主キーの一部だけに従属する情報を分離しよう」
    • これは「複合主キー(主キーが複数のカラムで構成されている場合)」で起こりがちな問題です。
    • NG例: 主キーが「イベントID + 参加者ID」なのに、「イベント場所」というイベントにしか関係ない情報が入っている。
    • OK例: そのテーブルの主キー(全体)にすべて従属する情報だけを残す。(上記NG例では、「イベント情報」を分離する第一歩になります)
  3. 第三正規化:「主キー以外に依存する情報を分離しよう」
    • これが最も重要で、ほとんどの現場で目標とされるレベルです。

そこで「第三正規化」の出番

「第一、第二...」と完璧に覚える必要はありません。
現場目線での第三正規化を「一言」でいうと、これです。

「そのテーブルの『主役』に直接関係ない情報は、別のテーブルに追い出せ」

この「チケットテーブル」の主役は、あくまで「チケット(購入事実)」です。
「参加者名」や「イベント場所」は、主役(チケット)に直接関係しているのではなく、主役が連れてきた「参加者」や「イベント」の属性にすぎません。

これを分離します。

1. events (主役:イベント)

event_id (PK) title place
1 勉強会 A会議室
2 懇親会 Bホール

2. participants (主役:参加者)

participant_id (PK) name email
123 田中太郎 taro@...
456 鈴木花子 hana@...

3. tickets (主役:チケット)

ticket_id (PK) event_id (FK) participant_id (FK) type bought_at
1001 1 123 一般 11/1
1002 2 456 VIP 11/2
1003 1 123 一般 11/3

こうするメリットは絶大です。

  • 田中さんがメールを変更したら? → participantsテーブルの1行を書き換えるだけでOK! 過去のチケットデータ(ticketsテーブル)は一切触る必要がありません。
  • 「勉強会」の場所が変更されたら? → eventsテーブルの1行を書き換えるだけ。

これが**「データの矛盾を防ぎ」「メンテナンス性を爆上げする」**第三正規化の真の価値です。この「変更のしやすさ」こそ、スピードが命のベンチャーで最も愛される理由です。

実務的落としどころ:
ただし、正規化しすぎると、データを取ってくる(SELECT)時に「JOIN」(後述)が増えすぎて遅くなることもあります。現場では、あえて正規化を崩して(冗長化して)読み取り速度を優先する判断もあります。まずは「原則は第三正規化、ただしパフォーマンス要件次第で意図的に崩す」と覚えましょう。


【クエリ編】ステップ3: 基本的なCREATEとINSERT(まずは「箱」と「データ」)

設計ができたら、いよいよSQLで「テーブル(箱)」を作り、データを入れます。

CREATE TABLE (テーブルを作る)

-- participants (参加者) テーブル
CREATE TABLE participants (
  id SERIAL PRIMARY KEY,  -- id: 連番(SERIAL)、主キー(PRIMARY KEY)
  name TEXT NOT NULL,       -- name: 文字列(TEXT)、空欄ダメ(NOT NULL)
  email TEXT UNIQUE NOT NULL -- email: 文字列、重複ダメ(UNIQUE)、空欄ダメ
);

-- events (イベント) テーブル
CREATE TABLE events (
  id SERIAL PRIMARY KEY,
  title TEXT NOT NULL,
  starts_at TIMESTAMP NOT NULL -- TIMESTAMPは日時を入れる型
);

-- tickets (チケット) テーブル
CREATE TABLE tickets (
  id SERIAL PRIMARY KEY,
  event_id INT REFERENCES events(id), -- event_id: eventsテーブルのidを参照する外部キー
  participant_id INT REFERENCES participants(id), -- participantsテーブルのidを参照
  bought_at TIMESTAMP DEFAULT now() -- bought_at: デフォルトで現在日時が入る
);
  • NOT NULL(空を許さない)や UNIQUE(重複を許さない)といった**「制約」**をしっかり付けることで、DBが「変なデータ」の登録を自動的に防いでくれます。これがExcelとの大きな違いです。

INSERT (データを追加する)

-- 参加者を登録
INSERT INTO participants (name, email) 
VALUES ('山田 太郎', 'taro@example.com');

-- イベントを登録
INSERT INTO events (title, starts_at) 
VALUES ('キックオフ勉強会', '2025-12-01 19:00:00');

-- チケットを登録 (event_id=1, participant_id=1 の人が買った)
INSERT INTO tickets (event_id, participant_id) 
VALUES (1, 1);

【クエリ編】ステップ4: よく使うデータ操作SQL(SELECT / UPDATE / DELETE)

データが入ったら、いよいよ「取り出す」「書き換える」「削除する」操作です。
ここがエンジニアとして最も多用する部分です。

1. SELECT (データを取り出す)

基本構文:
SELECT (何を取り出すか)
FROM (どのテーブルから)
WHERE (どんな条件で);

例1:単純取得

-- これから始まるイベントの「タイトル」と「開始時間」だけ見たい
SELECT title, starts_at
FROM events
WHERE starts_at >= now(); -- now()は現在日時

現場のコツ (1) SELECT * を使わない

  • NG例: SELECT * FROM participants WHERE id = 1;
  • * (アスタリスク) は「全カラム」という意味です。
  • 理由:
    • 遅い: 必要ないカラム(例:長い自己紹介文)まで読み込むため、DBにもネットワークにも負荷がかかります。
    • 危ない: 後からテーブルに「パスワード(ハッシュ化済み)」カラムが追加された場合、意図せずそれを取得してしまうコードになる可能性があります。
  • OK例: SELECT id, name, email FROM participants WHERE id = 1;
  • 必ず、必要なカラムだけを明記しましょう。

現場のコツ (2) LIMIT で「お試し」する

  • ticketsテーブルって、どんなデータ入ってたかな?」と確認したい時。
  • SELECT * FROM tickets LIMIT 10;
  • こう書けば、先頭から10件だけを取得できるので、DBに負荷をかけずに安全に中身を確認できます。

例2:JOIN (テーブルを結合する)
正規化で分けたテーブルを、一時的に合体させる魔法が JOIN です。

-- イベントID=1 のチケットを買った「参加者名」と「イベント名」と「購入日時」が知りたい
SELECT
  p.name,       -- p = participantsテーブル
  e.title,      -- e = eventsテーブル
  t.bought_at   -- t = ticketsテーブル
FROM
  tickets AS t  -- ticketsテーブルに「t」というあだ名をつける
JOIN
  events AS e ON t.event_id = e.id
  -- 1. tickets(t)とevents(e)を、IDが一致する行で合体
JOIN
  participants AS p ON t.participant_id = p.id
  -- 2. (合体した結果)とparticipants(p)を、IDが一致する行で合体
WHERE
  e.id = 1; -- 3. 最後に、イベントIDが1のものだけ絞り込む

例3:GROUP BY (集計する)
SQLの真価は、データを「分析」できることです。

-- イベントごとの「チケット販売枚数」をカウントしたい
SELECT
  e.title,
  COUNT(t.id) AS ticket_count -- t.id(チケット)を数えて、ticket_countという名前を付ける
FROM
  events AS e
LEFT JOIN -- (チケットが0枚のイベントも表示するため、LEFT JOIN を使う)
  tickets AS t ON e.id = t.event_id
GROUP BY
  e.id, e.title -- 「イベントごと」にグループ化して
ORDER BY
  ticket_count DESC; -- 販売枚数の多い順(DESC)に並べる

こうした集計データは、そのままリーダーや経営層の**「意思決定」**(例:どのイベントが人気か)に使われます。


2. UPDATE / DELETE (書き換え / 削除)

ここが、現場で最も「ヒヤリハット」が多い操作です。

  • UPDATE (更新):
    UPDATE participants
    SET email = 'new-taro@example.com'
    WHERE id = 1; -- 山田太郎(id=1)さんのメールを更新
    
  • DELETE (削除):
    DELETE FROM participants
    WHERE id = 1; -- 山田太郎(id=1)さんを削除
    

▼ 恐怖!WHERE句を忘れた「UPDATE/DELETE」

現場のエンジニアが最も恐れるのは、UPDATEDELETEWHERE 句を書き忘れることです。

▼ 絶対にやってはいけない例

-- (id = 1 の人だけ消したかったのに...)
DELETE FROM participants;

これを実行すると、participantsテーブルの全データ(全ユーザー)が消滅します。

-- (id = 1 の人のメールだけ変えたかったのに...)
UPDATE participants
SET email = 'new-taro@example.com';

これを実行すると、participantsテーブルの全ユーザーのメールが『new-taro@example.com』に書き換わります。

サービス停止、データロスト、信頼失墜...。まさに悪夢です。
これを防ぐため、本番環境でのSQL実行は細心の注意が必要です。

現場の実践:論理削除 (ソフトデリート)

DELETE (物理削除) は、一度実行するとデータを元に戻すのが大変です。
そこで、多くの現場では**「論理削除」**が採用されます。

これは、テーブルに deleted_at (削除日時) というカラムを持たせる方法です。

  • 削除する時: DELETE する代わりに、UPDATEdeleted_at に現在日時を入れる。
    UPDATE participants
    SET deleted_at = now()  -- 現在日時を入れる
    WHERE id = 1;
    
  • データを見る時: 常に deleted_at IS NULL (削除日時が入っていないもの) を条件にする。
    SELECT * FROM participants
    WHERE deleted_at IS NULL; -- 退会していないユーザーだけ表示
    

メリット:

  • 万が一間違って消しても、deleted_atNULL に戻すだけで簡単に復旧できる。
  • 「退会したユーザーのデータ」も分析に使える(例:退会理由の分析など)。

【性能編】ステップ5: インデックスとパフォーマンスの基本ルール

サービスが成長し、participantsが100万件になったとします。
この状態で、次のSQLを実行したらどうなるでしょうか?

SELECT * FROM participants WHERE email = 'taro@example.com';

DBは「インデックス(Index)」がないと、100万件のデータ(本の全ページ)を先頭から1件ずつスキャンして「taro@example.com」を探しに行きます。当然、激遅です。

インデックスとは、一言で言えば**「本の索引(さくいん)」**です。

email カラムにインデックスを貼っておくと、DBは「『ta』で始まるメールアドレスは、大体このへんのページ(データブロック)にあるな」と見当をつけて探しに行けるため、検索が爆速になります。

現場目線でのインデックスの勘所

  1. どこに貼るか?

    • WHERE句で頻繁に検索条件になるカラム (例: email, status など)
    • JOIN結合キーになるカラム (例: event_id, participant_id などの外部キー)
    • ORDER BY頻繁にソートされるカラム
  2. インデックスの「副作用」

    • 検索 (SELECT) は速くなる
    • 登録/更新/削除 (INSERT, UPDATE, DELETE) は遅くなる
    • 理由: データを登録・更新するたびに、「索引」も書き換える必要があるからです。
  3. 結論

    • 「とりあえず全部のカラムにインデックスを貼る」は最悪です。DBが更新のたびに重くなります。
    • 「このシステムは、検索の速さと更新の速さ、どっちが重要か?」というトレードオフを常に意識する必要があります。

【運用編】ステップ6: トランザクションとエラーハンドリング

ステップ3の「チケット購入」を思い出してください。

INSERT INTO participants ... (参加者作成)
INSERT INTO tickets ... (チケット発行)

もし、「参加者作成」は成功したのに、直後にシステムエラーが起きて「チケット発行」が失敗したら?
「ユーザー登録はされたけど、チケットが買えてない」というデータ矛盾が発生します。

これを防ぐのがトランザクションです。
「この2つの処理は、絶対にセットで実行して。どっちかコケたら、全部なかったこと(元通り)にして!」とDBにお願いする仕組みです。

BEGIN; -- トランザクション開始

-- 処理1: participants作成
INSERT INTO participants (name, email) VALUES ('新規 顧客', 'guest@example.com');

-- 処理2: tickets作成
INSERT INTO tickets (event_id, participant_id) VALUES (1, ...); -- (さっき作ったparticipantのID)

-- もし、どちらかでエラーが起きたら...
ROLLBACK; -- 全部元に戻す

-- もし、全部うまくいったら...
COMMIT; -- 処理を確定する

アプリ側でこの「エラーならROLLBACK」を実装することで、データの整合性を保ちます。


【運用編】ステップ7: マイグレーションを現場でどう扱うか

サービスを運用し始めると、「participantsテーブルに age (年齢) カラムを追加したい」といった「テーブル設計の変更」が必ず発生します。

この「DB設計の変更履歴」を、コードとして管理する仕組みを**「マイグレーション」**と呼びます。

現場でのポイント:

  • DB設計変更は「コード」である: 変更内容は必ずレビューとテストを行います。
  • サービスを止めない: 運用中のサービスを止めずにカラムを追加・変更するには手順が重要です。
  • 破壊的変更は特に注意:
    • カラムを削除したり、NULLを許していたカラムをNOT NULL(空欄ダメ)に変更したりする操作は「破壊的変更」と呼ばれ、最も危険です。
    • 現場では「①まず新しいカラムを追加」→「②旧データを新カラムにバッチ処理で移行」→「③アプリの参照先を新カラムに切り替え」→「④安全な時期に旧カラムを削除」のように、ステップを分けて安全に行います。

【運用編】ステップ8: ログ/監査/データ保持の実務ルール

DBは「金庫」です。金庫の「いつ、誰が、何をしたか」という記録は非常に重要です。

  • 監査ログ (Audit Log)
    • 「誰がユーザー情報を変更したか」「誰が支払処理を実行したか」といった超・重要操作は、必ずログ(別のテーブルやファイル)に記録します。問題発生時の追跡に不可欠です。
  • データ保持と削除
    • 特に個人情報(メール、住所など)は、法律や社内ルールに基づき、「不要になったら(例:退会から5年後)安全に削除する」必要があります。
  • バックアップ (最重要)
    • DBが壊れたり、操作ミスで全データを消してしまっても、復旧できるように「バックアップ(DBのコピー)」を定期的に取ります。
    • 現場の鉄則: バックアップは、**「リストア(復元)のテスト」**をするまでを1セットです。コピーを取っただけでは安心できません。「本当にあのバックアップから元に戻せるのか?」を定期的にリハーサルすることが、プロの運用です。

【運用編】ステップ9: 小さく始めて改善するための計測指標

DBも「作って終わり」ではありません。サービスが成長するにつれ、問題が起きる前に「予兆」を掴む必要があります。

  • 平均クエリ時間 (p95)
    • 「遅いクエリ」が発生していないか? 特に遅い上位5%(p95)のクエリが悪化していないかを見ます。
  • テーブル行数の増加率
    • usersテーブルやordersテーブルが、どれくらいのペースで増えているか? 予想外のペースで増えている場合、ストレージ(容量)やパフォーマンス(インデックス)の見直しが必要になります。
  • バックアップ成功率
    • 毎日のバックアップが失敗していないか?

現場では、これらの指標に「閾値(しきい)」を設定し、それを超えたらエンジニアにアラートが飛ぶように監視します。


【発展編】ステップ10: よくある落とし穴とその回避策

  • 落とし穴 (1): 正規化しすぎて遅くなる
    • 読み取り(SELECT)が非常に多い画面(例:ダッシュボード)で、正規化しすぎてJOINが増え、表示が遅くなる。
    • 回避策: あえて正規化を崩して冗長なデータ(例:eventsテーブルに ticket_count カラムを持つ)を持たせたり、「ビュー」や「キャッシュ」という別の仕組みを使ったりする。
  • 落とし穴 (2): NULL と空文字 ('') の違いを無視する
    • 「データが無い」状態を表すのに、NULL(未入力)と ''(空の文字列)が混在し、WHERE句での検索が複雑化する。
    • 回避策: DB設計の段階で「データが無い場合は必ずNULLで統一する」などのルールを決める。
  • 落とし穴 (3): テストデータが不十分
    • 100件のデータでは速かったクエリが、100万件になった途端に激遅になる(インデックスが効いていないなど)。
    • 回避策: 開発環境でも、本番に近いデータ量(最低でも数万〜数十万件)を入れてパフォーマンス試験を行う習慣をつける。

5. まとめ(実践の最短ルート)

お疲れ様でした。非常に多くの情報量でしたが、現場で価値を生むためのエッセンスを詰め込みました。

完璧な理論を一度にマスターする必要はありません。
現場で価値を生むエンジニアは、**「完璧な理論」より「早く安全に動く仕組み」**を作れる人です。

  1. まずは第三正規化を意識して、データの「矛盾」と「重複」をなくす設計(ステップ2)を心がける。
  2. SQLは「SELECT * を避ける」「WHERE句を忘れない」「LIMITで試す」といった安全策(ステップ4)を徹底する。
  3. 「なぜ遅いか?」を考えるためにインデックスステップ5)を意識する。
  4. データの安全を守るトランザクションステップ6)とバックアップステップ8)の重要性を理解する。

今日学んだ10ステップを参考に、まずは小さなアプリで手を動かし、「実際に動く」経験を積んでみてください。それが、現場で信頼されるエンジニアへの最短ルートです。

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