この記事は何
社内で「AIネイティブ化とは何か」というテーマで整理を行う機会があり、その内容を、一般化したかたちで記事にまとめたものです。
この記事では、AIを誰でも使えるようになった時代の中で、これからの組織がどこで競争するのか、というところまで整理していこうと思います。
この辺りの話は、まだベストプラクティスや正解が模索されている過渡期のため、いろいろな方がいろいろな意見を発信されていると思います。
ここに書いている話もあくまで僕一個人の考えていることとして読んでいただけるとありがたいです。
また、記事内で使用している画像は社内での整理時に作成したスライドを引用したものです。少し見づらいところもあるかもしれませんが、ご了承ください。
今後数年で起こる市場の変化
まず、議論の前提として、AIによって市場に起きると考えられる変化を整理します。
ここでのキーワードは「過去のデータや経験はコモディティ化する」です。
これまで、業務に関するノウハウや過去のデータは、社内に蓄積されているだけで、それなりの競争力になっていました。
「うちのドメインはこういう特性があって」「こういうユーザーが多くて」「過去にこういう失敗があったから」といった、暗黙知に近い学びは、外部から簡単には手に入らない資産だったわけです。
ですが、AIの進化によって、この前提が崩れつつあります。
WebやSNSに流れている情報、公開されている論文や記事、市場のレポートなど、過去に積み上がったデータは、AIによって誰でも、しかも一瞬で参照し、自分たちのアウトプットに繋げる事ができます。
つまり、「生のAIモデルでできることは、それを使えること自体が組織の競争力にはならなくなっていく」ということです。
一例ですが、
- プログラミング
- ライティング
- リサーチ
というような仕事は、ほんの数年前まで「特定のスキルを持つ人材」が必要な領域でした。
ですが、今はAIにそれなりのプロンプトを渡せば、誰でもある程度のアウトプットが出せます。
ここで強調したいのは「だからこれらの仕事に価値がない」という話ではなく、「これらができること自体は、もはや組織のケイパビリティにはならない」という話です。
たとえば良いコードを書けるエンジニアが多く組織にいることは、それだけでは組織の強みにはならなくなっていく、ということです。
ここで言う「ケイパビリティ」は、「他の組織がそう簡単には真似できない、その組織ならではの強み」というくらいのニュアンスで読んでいただければ大丈夫です。
今後は何の競争になるか
では、過去のデータや、生のAIでできる仕事が差別化要因にならないとすると、組織は何で競争していくのでしょうか。
ここでの僕なりの答えは、「リアルタイムデータをアウトカムに繋げられるスピード」です。
ここで言うリアルタイムデータは
- 市場の変化(外部の一次データ)
- 組織で生み出したデータ・学び
- 組織のコミュニケーションデータ
- プロダクトのトラフィックデータ
など、本当に様々なものがあると思っています。
これらはいずれも、過去のWebに転がっているものではなく、今、目の前で発生している一次データです。これらのリアルタイムの一次データはモデルには学習されていないため、それをアウトカムへ繋げる事ができれば、それは自分たちしか作ることのできていない強みになる可能性が高いです。
これらのデータを「ただ集める」だけではなく、集めて、解釈して、次のアクションに繋ぐところまでを、どれだけ早く回せるかが勝負になります。
そしてこのサイクルの速度を、組織として根本的に上げていこうとすると、必然的に「AIネイティブ化」が必要になると考えています。
ここからが本題です。
AIネイティブとは
AIネイティブが何か、という話をするときに、僕がいちばんしっくり来ているのは、Block社が公開している以下の記事の考え方です。
この記事では、組織を従来のような「階層型(hierarchy)」ではなく、「インテリジェンス型」にしていく、という考え方が紹介されています。
そして、その実現のために、ロードマップ駆動でプロダクトを作るのではなく、4つのレイヤーを作っていくべきだ、という整理がされています。
この4レイヤーは、Block特有の文脈で語られているので、Blockの議論を下敷きに、僕なりに整理し直すと、おおよそ次のような構造になります。
| # | レイヤー | 役割 |
|---|---|---|
| 1 | Capabilities | 生のAIモデル・ツール |
| 2 | World model | 外部と内部から集まる一次データを蓄積し、AIから参照可能にするデータワークロード |
| 3 | Intelligence layer | データをもとに、判断や次のアクションをAIに実行させる仕組み |
| 4 | Surfaces | 人やシステムが、上記の仕組みと接続するための入出力 |
AIネイティブな組織とは、この4つのレイヤーが揃っていて、しかもそれを継続的に「回していける」状態にある組織のことを指します。
AIが回し、人が補完し、AIが学ぶサイクル
もう少し具体的なイメージを掴むために、AIと人がどう役割分担して動くのかを図にしてみます。
順番にいくと、次のような流れです。
- AIがデータを集める
- AIが意思決定とタスク振り分けを行う
- AIで完結する作業はAIが回す
- AIだけでは完結しない「ラストワンマイル」の仕事を、人が担う
- そこから得られたアウトカムや学びを、再びAIにフィードバックする
ポイントは、人がいなくなるわけではなく、「AIに足りない部分を人が埋め、その学びをAIに返す」というサイクルが、組織の中心になっていくところです。
このサイクルを高速に回せれば回せるほど、組織は早く賢くなっていきます。
AIでは介在できない領域
ただし、現時点で、AIだけではどうしても扱えない領域があります。
AIネイティブを考えるうえでは、この境界線を意識しておくことが結構大事です。
代表的なのは次の2つです。
物理的な体が必要になる仕事
たとえば商談を例にすると、「次のターゲット顧客を絞り込んで、提案資料の骨子を作って、商談のシナリオを組み立てる」というところまでは、AIで十分こなせます。
ですが、実際に相手の表情を読みながら商談を進める、というところは、現時点ではAIだけでは現実的ではありません。
物理的な体や、リアルタイムで現場にいる存在が必要になる仕事は、依然として人の仕事として残ります。
AIでは理解できない審美性の評価・判断
もうひとつが、審美性の判断です。
AIはクリエイティブを作れますが、それを見たときの「なんとなく良い」「なんとなく刺さらない」といった人の反応や感情を、現場の温度感そのままに収集することはできません。
AIネイティブな組織の朝会の例
ここまでだとまだ抽象的なので、AIネイティブ化が進んだ組織で、朝会がどんな流れになるかをイメージしてみます。
よくある「昨日やったこと・今日やること」を順番に話す朝会と比較すると、結構違う感じになります。
ポイントは、人が朝会でやることが「進捗を読み上げる」から「人にしかできない議論をする」にシフトしているところです。
進捗の集約も、論点の整理も、タスク化も、AIが先に潰してくれている状態で、人は本当に判断が必要なところだけに時間を使う、というイメージです。
これが回り始めると、朝会1回あたりの情報密度がだいぶ変わってきます。
AIネイティブな組織での人の役割
ここで、AIネイティブな組織での人の役割についてもまとめてみます。
AIネイティブな組織における人の価値・役割は、僕の整理では大きく2つに分けられると考えています。
AIだけでは集められないデータを生み出していくこと
ひとつは、AIだけでは取得できない一次データを生み出していくことです。
具体的には、次のようなものです。
- 審美性に関するもの(人が触れたときの反応・感情・体感)
- AIでは把握できないもの
- 商談やインタビュー時の相手の表情や反応
- イベント当日の場の雰囲気
- トレードオフのある意思決定(何を捨てて何を取るか、という判断)
- 合理性だけでは決められない選択(いわゆるトロッコ問題)
これらはAIが代わりに集めることが現状では難しいので、人が現場で触れて、判断して、その結果を「データ」として組織に返していく必要があります。
逆に言えば、ここを生み出せる人ほど、AIネイティブな組織での価値が高い、ということになると考えています。
AIワークロードの構築と最適化を回していくこと
もうひとつは、AIが回しているワークロード自体を、より良くしていく仕事です。
データの取り方、AIへの渡し方、意思決定のフローの設計、出力の評価、改善のサイクル。
これらはまだまだ人が設計と運用を担う必要がある領域です。
「AIに任せたら終わり」ではなく、「AIに任せられる状態を、人が評価し、改善していく」というワークフロービルドが非常に大切になってくると考えています。
AIネイティブな組織で人に求められるスタンス
最後に、こうした組織で動くうえで、人に求められるスタンスを3つ挙げて締めたいと思います。
ブロッカーにならないこと
サイクルの速度が競争軸になるので、人が判断や承認のボトルネックになってしまうと、組織全体のスピードを殺してしまいます。
「自分が止めていないか」を、常に意識する必要があります。
判断を抱え込まず、必要な人やAIに早く渡すこと。
そのために、判断基準や前提を、なるべく明文化しておくこと。
こういう細かい振る舞いが、組織のスループットに直接効いてきます。
自分がやっていることをAI化できないかを考え続けること
今、自分が手でやっている仕事のうち、AIで置き換えられるものはどれくらいあるでしょうか。
おそらく多くの人が想像しているより、置き換えられる範囲は広いです。
「これは自分がやらないといけない仕事」と思っていたものを、いったん疑ってみる。
AI化を考えるのは、自分の仕事を奪う方向の話ではなく、「自分しかできないこと」に時間を寄せていく方向の話、と捉えるとしっくりきます。
ここで言いたいのは「全部AIに置き換えよう」ということではなく、「人がやる必要のないものをAIに任せて、人は人にしかできない仕事に集中しよう」ということです。
役割を増やす話ではなく、役割を磨き直す話だと思ってもらえると、しっくりくるかなと思います。
自身のアウトプットをクエラブルに蓄積していくこと
最後に、地味ですが、いちばん大事かもしれません。
自分が出したアウトプット、考えたこと、議論したこと、判断したこと。
これらを、後からAIが参照できるかたちで残していくことが、組織の知能をそのまま底上げします。
具体的には次のようなものです。
- 議事録や決定事項を、検索可能な場所に残す
- 思考の過程や、ボツになった選択肢も含めて言語化する
- 口頭でのやりとりを、なるべく文字に落としておく
「自分のアウトプットは、未来の自分とAIのための学習データである」くらいの感覚で動けると、サイクルがどんどん回るようになると思っています。
最後に
ここまで、AIネイティブな組織とは何か、というところを整理してきました。
まとめると、
- 過去のデータや、生のAIでできる仕事は、これからコモディティ化する
- これからの組織の競争軸は、リアルタイムデータをアウトカムに繋げる速度になる
- それを実現するために、4つのレイヤーを揃え、AIと人のサイクルを回せる組織になる必要がある
- 人の価値は「AIが集められないデータを生み出すこと」と「AIワークロードを良くし続けること」に集約していく
という整理になります。
社内でこの整理をしていて改めて感じたのは、AIネイティブ化は「AIを導入するプロジェクト」ではなく、「組織の動かし方そのものを作り直す話」だなということでした。
皆さんの組織でも、今やっている仕事のうち、どこをAIに任せて、どこを人が担うか、というラインを引き直してみるところから始めてみるとよいかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考リンク





