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【回路設計✕機械学習】導入編 ① 〜最適化の背景とゴール設定〜

Last updated at Posted at 2025-11-30

■ 本シリーズの趣旨

 高周波回路の定数調整は、地味ですが非常に負荷の大きい作業です。本シリーズでは、この “泥臭い最適化” を機械学習でどこまで効率化できるか、実際に行ったPoC(概念実証)プロセスを紹介します。
 著者は電機メーカーで高周波回路のハード設計を担当しており、個人で学んだ機械学習を実務に応用できるか検証するため、本テーマに取り組みました。
 本記事はその導入編であり、基礎的な概念説明を中心に行います。実機への完全展開については、シリーズ最後に考察を記載する予定です。「回路設計」✕「機械学習」の実践イメージとして参考になれば幸いです。

なお、記事の流れを優先するため、一部の回路説明は簡略化しています。誤りや補足点があればコメントでご指摘いただけると幸いです。

■ 従来設計手法の課題

 後継機種を設計する際、まずシミュレーション上で必要特性を満たす定数を大まかに決め、その後に実機で合わせ込みを行うフローが一般的です。しかし、著者の環境では以下の3点が問題となっていました。

課題①:多数のシミュレーション実行に時間がかかる
 ⇨ 毎回グラフ描画による目視確認が必要なため

課題②:求めた定数が最適とは限らない(局所解)
 ⇨ 従来機種の定数を初期値にして探索しているため

課題③:属人的な設計で標準化が進まない
 ⇨ 経験値による差が大きく、結果が安定しないため

要するに、
「時間がかかる・最適かわからない・標準化できない」
というのが従来フローの本質的課題でした。

■ API連携でデータ処理を自動化

 回路設計では、Keysight社の Advanced Design System (ADS) が広く使われています。 ADSにはPythonと連携可能な Datalink アドインが用意されており、API経由でシミュレーションデータを自動取得できます。
 このAPI連携を活用することで、定数スイープ → 結果取得 → CSV化の一連の処理を自動化でき、課題① (大量実行の負荷) を解消することができます。

※コード例や出力設定は導入編③で説明します。

■ 機械学習で最適設計と標準化を両立

 自動化したスイープ結果をデータセット化し、機械学習モデルに学習させると、
「シミュレーション結果を高速に近似するサロゲートモデル」 を構築できます。

 サロゲートモデルとは、
「高コストなシミュレーション結果をAIが学習し、安価に再現するモデル」
であり、大幅な計算削減が可能です [1]

このモデルを利用すると、

  • 広い探索空間から最適値を高速に推定し、
  • 設計フローを標準化できる

ため、課題② (局所解) と課題③ (属人化) にも対応できます。

■ シリーズ構成 (計8回)

 本シリーズは「導入編(回路)」4本+「実践編(ML)」4本の全8回構成です。
機械学習だけ知りたい読者は “実践編①” から読んでOKです。

◎ 導入編 ① 〜最適化の背景とゴール設定〜
 ⇨ 本記事。シリーズ趣旨とML導入の全体像

◎ 導入編② 〜設計ロードマップ〜
 ⇨ 設計目標・制約・手順の詳細

◎ 導入編 ③ 〜DatalinkによるPython連携〜
 ⇨ API経由でCSV出力する方法

◎ 導入編 ④ 〜ML用データ整形〜
 ⇨ Pandasで学習データを整える


◎ 実践編 ① 〜サロゲートモデル構築〜
 ⇨ シングルスイープデータの学習

◎ 実践編 ② 〜Optuna最適化〜
 ⇨ マルチスイープ対応と探索手法

◎ 実践編 ③ 〜最適解の評価〜
 ⇨ 予測値と実シミュレーションの差分

◎ 実践編 ④ 〜総括と応用展開〜
 ⇨ より複雑な実基板への応用可能性

■ 参考文献

[1] サロゲートモデルとは? シミュレーション×AIで業務改善を実現!
https://x-simulation.jp/blog/14

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