はじめに
2025年12月、さくらインターネットから待望のコンテナ実行基盤 「AppRun」 が正式リリースされました。
「インフラ管理不要」「オートスケール」といったモダンな機能を備えながら、国産クラウドならではの安心感とお手頃価格が話題になっています。
しかし、エンジニアとして気になるのは 「結局、他と比べて高いの?安いの?」 という点ではないでしょうか?
本記事では、先行する巨人たち(Google Cloud Run, AWS App Runner, Azure Container Apps)とAppRunを、料金体系・機能・ユースケースの観点から徹底的に比較します。
結論から言うと、 「AppRunは、特定のアプローチにおいて驚異的なコストパフォーマンスを発揮する」 ことが分かりました。
AppRunとは?
AppRunは、さくらのクラウド上で動作するマネージドなコンテナ実行環境です。Kubernetesなどの複雑なオーケストレーションを意識することなく、コンテナイメージを用意するだけでアプリケーションを公開できます。
最大の特徴は、用途に合わせて選べる2つのタイプです。
- 共用型: リソースを共有し、コストを極限まで抑えるプラン(Scale-to-Zero対応)
- 専有型: 仮想マシンを専有し、安定したパフォーマンスとセキュリティを確保するプラン
徹底比較:4大サービス決戦
それでは、主要なCaaS (Container as a Service) と比較してみましょう。
1. 料金体系の比較
| サービス名 | プロバイダー | 課金単位 | ゼロスケール時のコスト | 最小構成コスト例 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| AppRun (共用型) | さくら | 1時間単位 | 0円 (※1) | 5円/時間 | 月額上限ありで安心。データ転送が安価。 |
| Cloud Run | 100ミリ秒単位 | 0円 | リクエスト数依存 | アイドル時完全無料。無料枠が手厚い。 | |
| App Runner | AWS | 秒単位 | 発生 (※2) | 約$5〜/月 | インスタンスが常駐するため待機コストが発生しやすい。 |
| Container Apps | Azure | 秒単位 | 0円 | リクエスト数依存 | イベント駆動で柔軟なスケーリング。 |
(※1) 実利用がない時間の課金については公式ドキュメントの詳細を確認推奨ですが、従量課金設計です。
(※2) App Runnerはプロビジョニングされたインスタンスに対して課金されるため、リクエストがなくてもコストがかかります(一時停止機能を除く)。
AppRunの「月額上限」が強い
AppRun(共用型)の最大のアドバンテージは、従量課金でありながら「月額上限」が設定されている点です。
例えば、最小構成(0.5vCPU / 1GiBメモリ)の場合、どれだけ使い倒しても 月額約3,720円(税込) で頭打ちになります。
Cloud Runなどは、「バズってリクエストが急増したらクラウド破産した」というリスクが常に付きまといますが、AppRunはその心配がありません。これは個人開発や予算が決まっている受託開発において最強の機能と言えます。
2. スケーリングとパフォーマンス
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Cloud Run / Container Apps:
- イベント駆動で爆速にスケールします。0→1の起動も非常に高速です。
- ミリ秒単位での課金なので、1日1回しか動かないバッチ処理などはこれ一択です。
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AppRun:
- 1時間単位の課金なので、 「断続的にアクセスがあるWebサイト」 や 「常時稼働させたいAPIサーバー」 に向いています。
- Cloud Runだと「常時稼働させるにはCPU割り当て設定が必要で高くなる」ケースでも、AppRunなら時間単価が安いので安価に維持できます。
3. 専有型の存在
AWSやGoogleでは「自分専用のインスタンス」を用意しようとすると、設計が複雑になったりコストが跳ね上がったりします。
AppRunの 「専有型」 は、ボタン一つで専有環境が手に入ります。
- セキュリティ要件が厳しい(他社とリソースを共有したくない)
- 性能を安定させたい(Noisy Neighbor問題のリスク排除)
といったエンタープライズな要件にも、月額11,000円〜という現実的な価格で対応できるのは大きいです。
コストシミュレーション
ケースA:個人開発のポートフォリオサイト
- アクセス:まばら。深夜はほぼゼロ。
- Cloud Run: 無料枠に収まる可能性大 → 最強
- AppRun: 月額数百円〜数千円かかる可能性あり。
ケースB:中規模コーポレートサイト
- アクセス:日中はコンスタントにある。
- Cloud Run: 常時インスタンスを温めておくと高くなりがち。
- AppRun: 月額上限(例えば3,720円やその倍数)で予算が読める。転送量もクラウド破産の心配が少ない。 → AppRun有利
ケースC:官公庁・自治体システム
- 要件:データは国内管理必須。他テナントとの分離必須。
- AppRun (専有型): ガバメントクラウド要件を満たしつつ、専有環境を安価に構築可能。 → AppRun一択
まとめ:AppRunは「高い」のか?
結論:「使い倒すなら、むしろ安い」
- 「たまにしか動かない」なら、Cloud Runの無料枠には勝てません。
- しかし、 「ある程度アクセスがある」「予算を確定させたい」「国内リージョン必須」 という条件なら、AppRunは他社を圧倒するコストパフォーマンスと安心感を提供してくれます。
特に、 「従量課金の青天井が怖い」 という心理的ハードルを取り除いてくれる点は、多くの開発者にとって救世主となるでしょう。
さくらのクラウドが放つこの新サービス、まずは共用型から触ってみてはいかがでしょうか?

