◆この記事を読むのにかかる時間:約5分程度
◆この記事の主な対象者:複数プラットフォーム・海外展開想定のリリースタイトルなどに携わっている方、これから携わる方
1.はじめに
あっという間に年末ですね。今年も一年お疲れ様でした。
毎年恒例のアドベントカレンダーの時期がやってきました。
どんな一年だったか振り返りながら内容を検討していましたが、
今年は新規アプリのリリースに携ったことが自身の大きなトピックでした。
その中から、今回は複数プラットフォームでの海外展開を想定したアプリのテストについて、
経験したことを踏まえてテスト時に気をつけるべき点を書き留めておこうと思います。
2.想定のアプリ概要
最近では定番な複数プラットフォームかつ海外展開想定のアプリの概要です。
今回は以下のケースでの注意点などを記していきます
- 配信地域:北米、欧州、東南アジア、韓国、台湾など
- 言語:全2ヶ国語(日本語/英語)
- プラットフォーム:Google / Apple / Steam(PC版)
3.検証時に注意すべきポイント
実体験に基づいて、各テスト時の注意点などを記載します。
※アカウント作成や検証観点・手順などは他にも紹介している記事があるので、おすすめページを後半に載せておきます。
a.海外版アプリの課金検証
実際にテストを行なってみての注意点をまとめます。
各国、プラットフォーム毎の実課金テスト用アカウント準備における注意点
テストの準備段階の話ではありますが、
今回の3プラットフォームどれにおいても、
アカウント作成時にアクセス元のIPアドレスによる国識別が行なわれるため、
対象国ごとの検証アカウントを作成したい場合は、
「対象国現地での作成」 or 「VPNなどの該当国IPを経由できるサービス」などが必要になるため注意が必要です。
※詳しいアカウントの作成方法はこちらの記事が参考になると思います。
(参考用)各国のアカウント作成・運用時のIPアクセス判定の要否
| プラットフォーム | IP判定の要否 |
|---|---|
| Apple | ・初回作成時のIPによる国識別が必須 ・作成以降はIPアドレスはどこのものでも問題なし |
| ・初回作成時のIPアドレスによる国識別が必須 ・作成以降のアクセス時にも対象国のIPアドレスが必須 |
|
| Steam | ・Google同様に作成時・作成後も検証対象国のIPアドレス判定が必須 |
各国・プラットフォーム毎の通貨表記の確認と課金テスト
プラットフォームごとの通貨表記・値段設定の確認も注意が必要なポイントです。
通貨表記の確認
日本では「1,000円」といった表示ですが、欧州の一部では「1.000,00ユーロ」のようにカンマとピリオドの使い方が逆になります。
この記号一つで、ユーザーが「1000」と「1」を間違えるなど、金額の捉え方が変わってしまうリスクがあるので注意が必要です。
「Unity上では問題なかった」場合でも実機だとズレていた、といったケースも多いため、
実機を用いて確認することを推奨します。
為替レート設定と金額の確認
アプリストアによっては、開発者が設定した金額を為替レートの変動に応じて自動で調整する機能があります。
(今回は対象の3プラットフォーム全てに存在)
手動で価格を固定しない場合、予期せず金額が変わってしまい、告知していた価格と異なるという事態になりかねません。
設定が自動か手動か、そして意図通りになっているかの確認は必ず行うようにしてください。
確認手段としては、「各国のアカウントを用いた実機確認」または「各ストアコンソール(※1)上での設定確認」があります。
※1.ストアコンソール:Google Play ConsoleやApp Store Connect、Steamworksなどのこと
b.タイムゾーンの違いによる時差の考慮
表示物のタイムゾーン表記
記載されている時刻がJST(日本標準時)なのか、PST(米国太平洋標準時)など、
ユーザの誤解を生まないような形になっているか注意が必要です。
また、時刻設定が何を基準に表示しているかも確認をしてください。
アプリ内でも施策や機能によって分かれている場合があるので注意が必要です。
実際に用いた観点の一例
・端末時刻の設定をベースに表示・動作している
・ゲームサーバー側の時刻設定をベースに表示・動作している など
サマータイムの考慮
国地域によってサマータイムが行なわれている場合があります。
運営時にサマータイムを採用している場合、
サマータイム開始時、終了時に正しく時刻が合うようになっているか、事前に確認を行うようにしてください。
※エリアによって開始時期と終了時期が違うためスケジュールにも注意してください。
c.各国・地域ごとの法律についての考慮
各国の法規制への対応も事前に注意しておくべきポイントです。
課金限度額などの年齢規制のほかにも、
GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)のような、
個人情報の取り扱いなど、さまざまな法規制があります。
「国毎の規約の内容・出し分け」
「同意取得のタイミング」
「年齢による課金限度額」などには注意をしてください。
また、同意取得のタイミングが万が一法に則ってない場合、
実装変更などの手戻りが発生する可能性があるため、なるべく早めに確認することをお勧めします。
また、ベルギー・オランダのようにガチャ自体が違法とされて規制されている国もあるので、
このような国が対象国となっていないかも注意・確認が必要です。
d.言語表示の確認
基本的には誤解を生まず正常に表示されることが前提となるため、
注意すべき観点は通貨表示の部分とも一部被りますが以下の通りです。
・翻訳後の文字数でも問題なく全文が正常に表示されるか
・未翻訳の日本語の部分が残っていないか
今回は翻訳内容の確認を行うチームと棲み分けをして検証を行いましたが、
自分たちで確認する場合は 「翻訳内容が正しいこと」 や
さらには 「ニュアンスが適切か」 などの確認も必要になります。
e.クロスプラットフォーム対応
私自身としては今回初めて対応したクロスプラットフォーム対応でした。
モバイル端末のみの開発・運用とは異なり、以下のような点にも考慮が必要です。
キーボード、マウス等のコントロール手段の対応
PCでの操作となると、タッチパネル以外のキーボードやマウス、
ゲームパッドの操作などが行えるようになります。
「キーボードなどへのボタンの割り当て設定が正しいこと」
「コントローラー・キーボードやマウスの接続切断時の挙動確認」
このような確認も必要となります。
画面解像度、モニターなどの環境による影響の考慮
モバイル端末と異なり、ユーザは複数画面でのプレイや画面向きの変更などが行いやすいです。
正常系の表示確認のみではなく、
さまざまな環境(モニター枚数、グラフィックカードの有無やメモリサイズ、CPUの違いなど)での、イレギュラーな挙動考慮も必要になります。
実際に用いた観点の一例
・横画面でプレイを想定しているゲームの場合に縦画面での表示がどうなるか
・複数モニターに跨った場合の表示
・プレイ中のモニター数、解像度の変更
クロスプレイ向けのセーブデータの同期・引き継ぎ
観点として最もクロスプレイで重要な観点かもしれません。
「モバイル端末でプレイしていたデータが正常にPCなどの他環境でもプレイできること」
またはその逆パターンや、ユーザデータの不整合が発生しないよう、
「同時に複数端末でプレイできないこと」 など、
ユーザのデータを正しく保持できていることの確認は必須で行う必要があります。
また、上記のクロスプラットフォームでのテストについてはSteamであれば、
PCだけでなく、 SteamDeckなどの端末についての動作確認も必要となりますのでご注意ください。
さまざまな検証観点や注意点を列挙しましたが、
物理的・技術的にも担保することが難しい部分は出てくるため、
いずれも開発チームなどとコミュニケーションを取り、
何をどこまでどう担保するのかをすり合わせながら進めていくことも重要です。
4.まとめ
いかがだったでしょうか。
複数プラットフォームかつ海外向けのリリースは昨今では避けて通りづらいものではありますが、
注意すべき点をしっかりおさえて対応することができれば過度に心配する必要はないかと思います。
この記事をご覧いただいた皆さまにとって、何か参考になるものがあれば幸いです。
それでは皆さま、よい年末をお過ごしくださいませ。