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FinOps の実践に最適な Datadog Cloud Cost Management のご紹介

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はじめに

株式会社ヌーラボ Lead SRE の @futahashi です。

今回は、 Datadog の Cloud Cost Management の紹介と、それが FinOps 実践における課題をどう解決するのかについて、私目線で書かせて頂きます。

Datadog の多様な機能の中でも Cloud Cost Management は私の大好きな機能の1つです。しかし、まだ公式情報以外であまり見かけることができません。この記事で機能概要や FinOps との関連が伝わると幸いです!

FinOps とは?

FinOps とは、データ駆動型の意思決定を通じてビジネス価値を最大化する文化的な実践です。単なるコスト削減ではなく、投資対効果を最大化することを目的としています。各チームが支出に対する当事者意識を持ち部門横断的に連携することで、財務制御と技術革新を両立します。

FinOps が必要な背景は、クラウド普及による財務構造と購買権限の劇的な変化にあります。財務管理は設備投資から事業運営費へ移行しました。コストが変動費化したことで、管理は資産の事後報告からコスト予測へと移りました。また、エンジニアはボタン1つで会社のお金を使えるようになりました。開発スピードを損なわずに財務規律を保つため、新たな枠組みである FinOps が不可欠です。

本記事では詳細は割愛させて頂きます。気になる方は、クラウドFinOps 第2版を是非読んでみてください。FinOps 実践者に是非読んで頂きたい実践的な知見と戦略が詰まった内容です。

FinOps 実践の壁

理論は理解していても、いざ FinOps を業務で実践しようとすると様々な壁にぶつかると思います。現場でよく直面する課題をいくつか挙げます。

1. コスト意識醸成の壁

開発においてコストを身近に感じるのは難しいと思います。なぜなら、コードを書くという日々の業務と請求書が直結しておらず自分事として捉えづらいためです。その結果、開発に対するコストは初期の見積もりでしか意識されなかったり、鉄の三角形(コスト/早さ/品質)の正しいバランスがとれなかったりします。

2. 組織サイロ化の壁

組織の各部門は、それぞれ異なる目標を追っています。そのため、個別最適が優先されやすいです。さらに、各部門は異なる言語やツールで語るため、深い議論がしづらいのが悩みどころです。

部門 目標
ビジネス 売上拡大
エンジニア 開発速度と品質
ファイナンス 予実厳守

3. 共有コスト配賦の壁

Kubernetes のコンテナ、SaaS、共有データベース、全社共通のサポート費用やネットワーク帯域など、複数のチームで共有するリソースは、請求上では1つのコストとして扱われます。誰がいくら使ったかという利用実態に合わせて正確に按分するには、高い実装コストがかかります。

4. マルチソース管理の壁

現代のシステムはAWS や Google Cloud などのパブリッククラウドのみならず、Snowflake などの SaaS、OpenAI API プラットフォームなどの AI PaaS といった複数のクラウドプロバイダー(以下、クラウド)を利用することが一般的です。総コストを算出するためには、課金単位が異なる複数のシステムが様々な形で出力する請求書データを横断して分析する必要があります。

Datadog Cloud Cost Management とは?

Datadog Cloud Cost Management (以下、CCM) は、コストにオブザーバビリティをもたらす機能です。パブリッククラウドや多様な SaaS と連携し、正確な予実管理と柔軟な配賦を実現し、洞察を与えてくれます。

FOCUS によるコスト標準フォーマットで、多様なクラウド / SaaS などのあらゆる課金データを効率的 / 横断的に分析できます。

料金体系は、ホスト数に基づく課金となっています。環境に依っては安く使えますが、高額になる可能性もあるのでご注意ください。

Datadog Cloud Cost Management の機能紹介

本当は網羅的に書きたかったのですが、時間の都合でいくつかに限定して紹介させて頂きます :pray:
紹介する機能の全体像は以下のとおりです。

全体像.png

1. Account Integration

主要なクラウドプロバイダーと SaaS をサポートしており、簡単な設定で請求データを連携することが可能です。
現時点で、Preview を含めて以下の15個をサポートしています。

  • Amazon Web Services (AWS)
  • Google Cloud
  • Azure
  • Oracle Cloud Infrastructure
  • Datadog
  • GitHub
  • Snowflake
  • Anthropic
  • Confluent Cloud
  • Databricks
  • Elastic Cloud
  • Fastly
  • MongoDB
  • OpenAI
  • Twilio

特筆すべき点として、AWSは Organization を使っている場合、管理アカウントと連携するだけですべてのメンバーアカウントの請求が分析できるようになり、とても快適です。アカウントごとに追加 / 除外設定をすることも可能です。

スクリーンショット 2025-12-19 23.19.03.png

また、Datadog自体のコストも分析ができる点も気に入っています。Datadog の投資対効果の最大化が捗りますね :rocket:

スクリーンショット 2025-12-19 23.20.58.png

そして、CSV や JSON によるカスタムファイルもサポートしているため、連携されてないものでも取り込むことが可能です。地味ですが、この柔軟性はありがたいですね。

スクリーンショット 2025-12-19 23.50.27.png

2. Tag Pipelines

タグの追加 / 削除 / エイリアス / マッピングなどのルールを設定できる機能です。
FinOps において、タグは基本にして奥義です。この機能によりタグの標準化と統制の実現ができる最強の機能だと思ってます。FinOps 推進者が自律してタグ管理を実現できるこの機能は本当にありがたいですね。

FinOps 推進者がデータソースのタグを修正をしていくことは、あまり現実的ではないと思います。クラウドプロバイダー側でタグの統制機能もあったりしますが、運用の足かせになりがちです。また、他のプロバイダーやSaaSも考慮すると FinOps ツール側での制御が必要になってくると思います。

タグはルールセット / ルール単位で有効 / 無効を切り替えることもできます。

スクリーンショット 2025-12-20 0.16.30.png

また、特定のリソースにおいて意図したタグが存在しない時だけタグを追加といったオプションもあり、意図しない上書きを防ぐことができます。

スクリーンショット 2025-12-20 0.32.43.png

そして、タグの正規化オプションで綺麗に整えることも可能です。

スクリーンショット 2025-12-20 0.37.57.png

3. Custom Allocation Rules

コスト配賦を実現できる機能です。対象をプロバイダーや任意のタグで限定し、任意の形で配賦します。

配賦の方法として、以下が選択可能です。

配賦方法 説明
Even コストを均等に配分
Custom 定義した割合に応じてコストを配分
Proportional by spend 総支出の割合に応じて配分
Dynamic by metric メトリクスに応じて配分

スクリーンショット 2025-12-20 0.44.30.png

4. Summary

コストに関する概要を表示する機能です。
素早くコストの全体像を掴むのに適したUIで、様々なプロバイダーやタグで絞り込んだり、ドリルダウンができます。忙しいあなたにピッタリの機能です。

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5. Explorer

自由にコスト分析ができる機能です。
Log Explorer などと同様に、タグでのクエリやグルーピングが可能なため、直感的な検索が捗ります。よく使うクエリは、 View で保存して共有することも可能です。

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AWS のコスト種別として、以下をサポートしています。請求書通りの分析の他、実態を表す償却コストや割引有無の表示を切り替えることができます。

  • blended
  • unblended
  • net unblended
  • amortized
  • net amortized
  • on-demand

複数の AWS アカウントの横断的な分析、詳細なドリルダウンが思うままにできるので、とても快適です。

6. Reports

コストと予実に関する報告書を管理できる機能です。
報告先に応じた形で柔軟に設定することが可能で、チームのコスト意識が高まります。

9.png

こちらもタグを使ったフィルタやグルーピング、Bar / Line / Pie Chart など様々な形で表現できます。

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報告書は定期的な通知設定も可能です。

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Reports へのリンクと PDF が添付される形で通知されます。

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7. Cloud Cost Dashboards

コスト分析に役立つダッシュボードが見られる画面です。

たくさんあるのですが、オススメのダッシュボードは以下のとおりです。

  • Datadog
  • FOCUS
  • AWS (EC2 / ECS / S3 / Kubernetes / Networking)
  • SaaS (Snowflake / GitHub / OpenAI etc.)

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Kubernetes は以下のようなダッシュボードです。Cluster / Namespace / Service のフィルターも用意されていて便利です。以下は適当な開発環境の Cluster のサンプルです。(開発環境の最適化が進んでいないことが可視化されて恥ずかしい :innocent: FinOps も Shift-Left していきます!)

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Datadog は以下のようなダッシュボードです。Datadog のコスト最適化が捗ります。

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8. Containers

Kubernetes のコストを分析できる機能です。
全プロバイダー / クラウドプロバイダーごと、ワークロードの稼働コスト / アイドルコストを見ることもできます。

ツリーマップで利用料金を可視化してくれるので、優先的に改善すべき箇所がすぐに特定できます。

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各クラスターをタグで切り口を変えたりフィルタして調査することができます。
例えば、namespace や deployment といった単位で、コンピュートのCPUとメモリの使用 / 要求の状況を一覧できます。

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気になるものを発見したらドリルダウンで詳細を確認することができます。

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9. Budgets

予実管理ができる機能です。

予実状況を月 / 年といった単位で確認や、フィルタによる対象の絞り込みが可能です。予実状況が視覚的に分かりやすい表示になっています。

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予実は階層構造を利用することも可能なので、予実に対するチームの自律と組織の統制が捗ります。予算はブラウザで入力する他、 CSV を取り込むことも可能です。

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10. Cost Monitor

コストに対するモニターを設定し、通知できる機能です。
Monitors のタイプの1つとして実装されています。

コストモニターのタイプとして、以下をサポートしています。

タイプ 説明
Change コスト変化量で検出する。
Anomalies 機械学習による異常パターンで検出する。
Threshold 閾値ベースで検出する。
Forecast 予測コストに対する閾値ベースで検出する。
Budget 予算に対して実績が超えるかで検出する。

当然かもですが、他の Monitor と全く同じ操作性で定義できます。つまり、タグによる柔軟な絞り込みや Slack への通知ができ、学習コストが低いです。

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また、Anomalies というページがあり、何も設定しなくてもコスト異常を知ることができます。当然の如くドリルダウンで詳細分析や次のアクションへの洞察が得られます。いわば CCM 版の Watchdog です。

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11. Commitment Programs

クラウドリソースのコミットメントに対するカバレッジや利用状況を確認できる機能です。
レート制御は影響が大きく、組織で戦略的な一元管理と継続的な運用が推奨されています。

AWS では EC2 と RDS のみサポートしています。Reserved Instances と Savings Plans 共に対応しています。Instance Type や Payment model など最適化に必要な情報が確認できます。

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12. Recommendations

コスト最適化に関する推奨事項が得られる機能です。
リソースの使用状況に基づき、コスト削減や最適化の余地を提案してくれます。

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こちらもドリルダウンで詳細なメトリクスに基づく洞察を得ることができます。

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推奨事項の種類や判断基準はこちらに記載されているので、理解しておくことをおすすめします。

13. 他機能との連携

Datadog の他機能との連携により、システムパフォーマンスとコストを自動で関連付けられます。

Software Catalog では、各サービスのコストを表示してくれます。

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潜在的なコスト改善の推奨事項が検出された場合、節約料金と共に詳細を教えてくれます。

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Service Page でコストの詳細を知ることができます。Service 単位で Datadog / AWS のコストが可視化されます。

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Kubernetes Autoscalingと併用すると、正確な請求コストに基づいて、アイドルコストと節約額の見積りを表示します。Product SRE でもある私にとって、データに基づくライトサイジングの実施とその効果が正確に分かるのは大変ありがたいです。

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Continuous Profilerはまだ概算のようですが、きっとそのうち対応してくれると信じてます。

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これらの連携により、日々の活動に近いところでコストが詳細に可視化され、パフォーマンスと紐づけて考えることができます。コスト意識が高まりますね。

Datadog Cloud Cost Management の機能改善要望

既に大満足で使わせて頂いてますが、以下の機能が追加されるとうれしいなと思ってます。Datadog は CCM 含めて高品質な新機能がドンドン実装されていくので、近い将来実装されると信じてます!

  • Commitment Program で CloudFront / Elasticache などもサポートして欲しい。 (現状、EC2 / RDS のみ。)
  • Custom Allocation Rules で Datadog や SaaS もサポートして欲しい。(現状、AWS / Azure / Google Cloud のみ。)
  • AI Costs で AWS Bedrock や Kiro をサポートして欲しい。(現状、Open AI / Anthropic のみ。)
  • Recomendation の Provider に Datadog を拡充して欲しい。(現状、AWS / Azure / Google Cloud のみ。)

まとめ

本記事では、Datadog Cloud Cost Management の紹介と、それが FinOps 実践における課題をどう解決するのかについて書かせて頂きました。(推し機能だけに絞って簡単に書いたつもりが、意外と膨らんでしまいました。CCM 恐ろしい。)

Datadog Cloud Cost Management は、あらゆる角度や深さでデータの分析と可視化を容易に実現し、有益な洞察を与えてくれる強力な武器だと強く感じます。ツールがすべてではないですが、現代の複雑なシステムや多様なサービスのコストを可視化して洞察を得るためには、高度なツールに頼る必要もあると思います。

Datadog Cloud Cost Management は特に以下の点から FinOps の実践に最適だと考えています。

  • 組織のサイロを破壊しやすいつくり (優れたUI/UX/柔軟なダッシュボード/人数に依存しない料金体系など)
  • 学習コストの低さ (他機能と同様のタグによる簡単操作)
  • 日常活動にコストが意識されやすい機能連携
  • システムパフォーマンスとコストの関連付け
  • 多様なアカウント連携

資金をどう使うかは、事業を継続する上で最も重要な戦略の一つだと考えています。CCM で FinOps を実践し、組織の壁を越えて、無駄を省きながら未来への投資を増やしていきましょう :money_mouth:

余談

今年は FinOps に注力する時間がほとんど取れない1年でした。それでも、コスト可視化や年間2486万円以上のコスト削減を実施することができました(コミットメントによる節約は除く)。

また、以下の資格を取得して基礎や原則を理解して土台を固めることができました。引き続き学んだことを実践に活かしていくと共に、もっと本質的な FinOps 活動ができるように時間を捻出していきたいです。

FinOps や Datadog のイベントにも積極的に参加して、情報発信と交流できるようにしていきたいです。もし福岡周辺でこれらの活動に興味ある方は、お声がけ頂けるとうれしいです!

Datadog に関しては、日本の Datadog ユーザーグループ JDDUG の運営に携わらせて頂いております。次回の開催日時が決まっているので、是非こちらからご参加ください!

FinOpsに関して、今年6月に東京で開催された FinOps X Tokyo 2025 はとても刺激的なイベントでした。FinOps Foundation のエグゼクティブディレクターである J.R. さんから FinOps の現在地や将来についての力強く説得力のある Keynote を目の前で見ることができて、心が熱くなりました。こちらに動画があがっているので、是非見てみてくださいね。コミュニティもとても活発で雰囲気が良いので、興味ある方は是非こちらからご参加ください!
jr-san.JPG

最後まで読んでくださりありがとうございました :pray:
それでは、みなさま良いお年をお過ごしください。

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