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2025年日本OSS業界振り返り:クラウドネイティブ、SDV、そしてAIエージェント

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2025年も残すところあとわずかとなりました。
今年の日本のOSS業界はさながら大変革の1年と形容できるような1年でした。
ただ、ひょっとすると「変革」という言葉は適切ではないかもしれません。それよりも、これまでOSS業界で活動してきた方々が積み上げてきた「点」が一気に繋がって、「線」というか網目状に繋がって、さながらカンブリア爆発的な状況になった1年だったと感じています。その結果、Linux Foundationが日本で開催する2つの大きなイベント「KubeCon Japan」と「Open Source Summit Japan」がいずれも大きな成功を収めることができました。
また LF Japan Community Days という日本で活動するいくつかのコミュニティが一堂に集うイベントも初めて開催し大成功に終わりました。
総じて、Linux Foundationとしては日本のOSS業界、コミュニティの成熟に確かな手応えを感じる1年でした。

以下の文章では、2025年起こった中でも特筆すべき事象をいくつか紹介するとともに、2026年の日本のOSS業界の展望的な内容の文章を書いてみようと思います。

1. KubeCon Japnの成功と「クラウドネイティブの夜明け」
今年6月、日本初開催となった「KubeCon + CloudNativeCon Japan」は、参加チケット1,500枚とスポンサー枠が完売するという大成功を収めました。
昨年のこのAdvent Calenderでも書きましたが、これまでクラウドネイティブ技術に関しては、日本の市場はユーザ不足および技術者不足から、世界的に見ても遅れをとっている状況でした。まだしっかりとした市場が形成されていない日本で、Cloud Native Computing Foundation (CNCF) のフラッグシップイベントである “KubeCon” の名称を冠したイベントを開催することは、大きな賭けでしたし、開催を決断した当初は「本当に人が集まるのだろうか、、、」と心から心配していました。

それがこれほどの熱気を見せたことは、今後の国内におけるクラウドネイティブ技術開発の振興に大きな希望を与えたのではないかと思います。この成功の最大の要因は、日本のコミュニティを導いてきた Cloud Native Community Japan(CNCJ)の皆さんの「パッション」だったのではないかと思います。2023年12月にCNCJが発足して以来、CNCJのオーガ
ナイザーの皆さんは、KubeCon を日本に招致すること、そして成功に導くことを大きな祈願として掲げ、今年2025年にその念願を実現させました。

CNCJ発足からわずか1年半で大きな仕事を成し遂げたわけですが、そこに至るまでの道のりは、結構大変でした。オーガナイザーの多くの方は、米国や欧州で開催されたKubeConに出向き、現地でCNCFのマネジメントスタッフを捕まえて、日本での開催を呼びかけ、また開催が決まった後も、イベントを成功に導くために細かい詰めをCNCFスタッフと行っていました。それだけではなく、なんとスポンサーシップ集めまでCNCJのオーガナイザーが主体的に行ってくれました。CNCJオーガナイザーの皆さんのこの熱量には本当に頭が下がりますし、また KubeCon Japan は彼らのイベントだったと本当に思っています。

CNCJのオーガナイザーの皆さんには、改めて心からの敬意を表します。
6月のKubeCon Japanの大成功以来、一つ目に見えた変化がありました。Linux Foundationが提供している Kubernetesの技術認定試験の日本での受験者が急増したことです。これはもう本当に驚くほどわかりやすく、7月以降急増しました。
これは何を意味するかといえば、紛れもなくクラウドネイティブ技術者が増加していることを表しています。

日本のクラウドネイティブ技術の未来は明るいと思います。CNCJの コミュニティのリーダーたちが広げた大きな輪に、今多くの若い技術者が集い、そして成長していくサイクルが生まれ始めているように感じます。このモメンタムを絶やさないためにも、私たちは来年以降もKubeCon Japanを開催して行きます。

日本のクラウドネイティブ コミュニティの皆さん、2026年7月末に横浜でお会いしましょう!

2. FinOps元年
さて、クラウドネイティブ化の進展は、コスト最適化を経営課題へと昇華しました。

昨年、2024年のAdvent Calenderでの2025年の予測の一つとして「クラウドFinOpsの普及」というのがありましたが、これはまさにその通りになったと言えます。

2024年末にFinOps Foundation Japan Chapterという日本におけるFinOpsコミュニティ が発足し、2025年はその活動1年目だったのですが、ここまで本当に多くの成果が出てきています。
2025年だけ5度のMeetupなどイベントを開催
3月に FinOps業界では “The Book” と呼ばれ、バイブル的な存在のFinOpsの教本である「クラウドFinOps」の日本語版を発行
6月には FinOpsコミュニティのフラッグシップイベントである FinOps X のリージョナルイベントである、FinOps X Day Tokyo を開催。

2025年はまさに日本における「FinOps元年」でした。
特筆すべきは、デジタル庁が「ガバメントクラウド」においてFinOpsを本格導入したことです。デジタル庁では『継続的運用用経費削減 (FinOps) ガイド』を公開し、クラウドの利用価値を最大化するための実践的なガイドを作成し、公開しました。
政府自らがOSSのエコシステムやFinOpsのベストプラクティスを標準化したことは、民間企業への普及を強力に後押しし、日本全体のクラウド活用レベルを一段引き上げる効果が出るのではないかと期待しています。

では、FinOpsに関する次のステップは何か。
2025年には日本のFinOps教本が発刊されました。またデジタル庁によるガバメントクラウドでのFinOps実践のためのガイドも出ました。
ですが、まだFinOpsのプラクティスに関して網羅的に学ぶための教材が必要です。
これは2026年の上半期には確実に解決される課題です。

2026年の日本ではこれまで以上にクラウドネイティブな技術が導入されていきます。
そもそもAIのワークロードのほとんどが Kubenetes上に実装されています。
そうなれば、クラウド利用の効率化、価値最大化はこれまで以上に重要なトピックとなってきます。FinOpsの中でも「FinOps for AI/ AI for FinOps」という取り組みが出てきています。

ぜひ皆さん2026年も、FinOpsに注目してください!

3.「SoDeV」が体現する、100年に一度の変革
Linux Foundationでは今年もKubeCon JapanやOpen Source Summit Japanなどに関連するトピックも含めて様々なアナウンスを出してきました。中でも地味に(?)最もアクセスを稼いだアナウンスはつい先日(12月6日)に公開した以下のアナウンスです。

Automotive Grade Linux、Software Defined Vehicle 開発を加速する オープンソース SoDeV リファレンスプラットフォームを発表

このニュースは オープンソースのSDVプラットフォームである「SoDeV」をAGLが発表したというものですが、この記事に多くのアクセスが集まるということは、やはり日本における自動車産業の裾野の広さとその中でもSDVへの人々の関心の高さの証明なのではないかと思います。
ですが、このSDVのインパクトに関する本質的な点に関しては、実はあまり認知されていないのではないかと感じています。

この「SDV」のインパクトは、一般的に考えられているより、かなり深淵というか、Deep Impactであると私は考えています。

トヨタ自動車の豊田章男会長は、今が自動車業界にとっての100年に一度の大変革である、と数年前にメッセージを出しました。この「100年に一度の大変革」を最もわかりやすい形で体現しているのが実はSDVなのではないかと思います。
それはなぜか?
SDVによって、車の作り方が大きく変革するからです。
SDVの時代は、車のハードウェアより先にソフトウェアで開発される「ソフトウェア・ファースト」の時代です。これまで車のハードウェアがあり、そのハードを動かすためのソフトウェアが開発され、実装されていきました。
ですが、これからはソフトウェアによって、ユーザにとっての車の価値が定義され、その価値を実現するための箱が車というハードウェアということになります。
こう説明すると、SDVのインパクトの大きさがご理解いただけるのではないでしょうか?

だた、これまでハードウェア主導であった自動車業界にとってSDVは大変大きな課題です。
SDVを実現していくには、ソフトウェア開発の経験や資産そしてなによりもソフトウェア開発人材が求められるからです。

そこで、オープンソースのSDVプラットフォームである「SoDeV」が大きな意味を持ってきます。
本来であれば、SDVのソフトウェアスタックは、仮想化技術や、リアルタイム性、機能安全性などを含めた、実に難易度の高いスタックであるはずです。それをただでさえ、これまでソフトウェア開発経験や、ソフトウェア開発人材の乏しい自動車関連企業がゼロから開発するのは大変な困難を伴います。SoDeVはコミュニティで協力して、完成品の7割から8割程度のものを、誰もが利用できるオープンソースで開発しようという取り組みです。
これにより、自動車業界におけるソフトウェア開発のハードルをある程度引き下げることが可能であると期待されています。

とは言え、このプロジェクトだけで自動車業界におけるソフトウェア開発人材不足が抜本的に解消されるわけではないので、SDVが普及すればするほどソフトウェア開発人材に対するニーズが高まっていく近未来も簡単に予見できます。
なので、組込みシステム開発人材を増やしていく取り組みは引き続き重要になってきます。
2026年はこの分野で少しでもブレークスルーになる成果がだせればと思っています。

4. DeepSeekショックと「Agentic AI Foundation」の発足
最後はやはりこのトピックに触れざるを得ないでしょう。
AIです。
2025年、AI技術を取り巻く風景も劇的に変わりました。いわゆる「DeepSeekショック」です。2025年1月27日に公開されたDeekSeekの生成AIモデルは、AI市場の力学を一変してしまうほどのインパクトがあったと言えるのではないでしょうか?
OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏もDeekSeekショック後、OpenAIはオープンソースに関して言えば "Wrong side of History(歴史上誤った側)」にいたとし、OpenAIも新しいオープンソース戦略が必要であると言及しました(実際その後今年8月にgpt-ossをリリースしました)

DeepSeekのインパクトに関してはいくつかの観点から論評できるかと思いますが、オープンソース的な観点で考えれば、結局以下の点に集約されるのではないかと思います。
1)オープンソース・オープンウェイトである
2)にもかかわらず、性能的に商用の製品と遜色ない

これは一体何を意味するのか?
答えは簡単です。市場はAIモデルに関してオープンに使えるオルタナティブを獲得したということです。オープンなAIモデルが一つ出てきたことにより、他からもオープンソース・オープンウェイトAIモデルのリリースが今後も続くと考えられます。つまり、LLMは「コモディティ化」の方向に向かっていると言えます。

オープンモデルの登場により、AIビジネスの主戦場は「アプリケーションレイヤー」、そして自律的に動く「Agentic AI(エージェントAI)」へと移行し始めました。
これを受け、Linux Foundationではエージェント技術の標準化を担う「Agentic AI Foundation」が発足。MCP(Model Context Protocol)等のプロトコルにより、AIが実社会のシステムを自律的に動かす基盤が整いました。

日本の企業にとってこれはチャンスであると言えます。
大量の資金、GPU、電力を必要とするLLM開発がAIビジネスの主戦場ではなくなったことで、リソースに課題のある日本企業はアプリケーション開発に注力できる状況になったと言えます。

5. 2026年:日本の「勝ち筋」を探求する1年へ
2025年にはこれだけの材料が揃いました。2026年の日本のOSS業界はどのようになっていくでしょうか?
AIに関して言えば、インフラがオープンになった今こそ、その上で構築する各企業のコアコンピタンスで勝負をするフェーズに入ったと言えます。日本の産業が持つ質の高い産業データと、現場の課題を解決するAgentic AIをどう組み合わせるか、など日本企業にとっても有力な勝ち筋はいくつかあると思います。
「AIビジネスにおける日本の勝ち筋」を具体化し、世界のオープンソース・エコシステムに日本発の価値を還元していく。2026年は、そんな新しい動きに沢山遭遇できるエキサイティングな1年になって欲しいです。

とは言え、まだ大きな課題があります。
最近AIシステムのスタックを示す言葉として「PARK」 という言葉がでてきました。
かつでウェブシステムのスタックを示す言葉とした存在した「LAMP」(= Linux-Apache-MySQL-PHP) と同様の使われ方で、Pは「PyTorch」、Aは「AIモデル」、Rは「Ray」そして K は「Kubernetes」を指します。これがAIの学習、推論ワークロードのデファクトスタックであると考えられています。
つまり、AIワークロードにはKubernetesが必須なのです。2025年日本のクラウドネイティブコミュニティは大躍進の一年でしたが、日本がAIビジネスで勝ち筋を探求する上でも、そのインフラであるクラウドネイティブ技術の普及はまだ道半ばであると思います。

最後に、今年一年、Linux Foundationの活動に関わってくださった皆様、本当にありがとうございました。
いろいろ課題はまだありますが、2026年もオープンソースのコミュニティは楽しく、エキサイティングな一年となることを確信しています!
来年も楽しい1年にしましょう!

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