##5.4 動径方程式
前節より,任意の球対称なポテンシャルの中で,$L^2$,$L_z$が決まった値をとる粒子の定常状態の波動関数は,
\varphi(\mathbf{r})=R_l(r)Y_l^m(\theta,\varphi)
\tag{5.44}
という形に書ける.$Y_l^m(\theta,\varphi)$が$L^2$の固有関数なので,(5.23)より$R_r(r)$は,
\frac{1}{r}\frac{d^2}{dr^2}(rR_l)
+
\left\{
\frac{2m}{\hbar^2}(E-V(r))-\frac{l(l+1)}{r^2}
\right\}
R_l
=0
\tag{5.45}
の解である.ここで,
R_l(r)=\frac{\chi_l(r)}{r}
\tag{5.46}
とおいて(5.45)に代入すると,$\chi_l(r)$に関する方程式は,
-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2\chi_l(r)}{dr^2}
+
\left[
V(r)+\frac{l(l+1)\hbar^2}{2mr^2}
\right]
\chi_l(r)
=E\chi_l(r)
\tag{5.47}
という1次元のSchrödinger方程式によく似た形となる.
(5.47)は,ポテンシャルエネルギー
V_{\rm eff}(r)=V(r)+\frac{l(l+1)\hbar^2}{2mr^2}
の場の中の$\infty\gt r\geq 0$の領域での1次元の運動に関するSchrödinger方程式と同じ形をしている.この1次元的な性質を使って(5.47)の解の一般的な性質を考える.
1.第3章3.1節で証明した定理「1次元では離散スペクトルの現れるエネルギー準位は縮退していない」より,エネルギーの値が決まると(5.47)の解はひとつに決まる.球対称な場の中の運動についての波動関数は$E$,$l$,$m$の値で完全に決まる.ただし(5.45)は量子数$m$を含まないので$2l+1$個の$m$の値に対応してエネルギーは$2l+1$重に縮退している.
2. 波動関数の規格化の条件は,
\begin{align}
\int d^3r\left|\varphi(\mathbf{r})\right|^2
&=
\int \left|\varphi(\mathbf{r})\right|^2
r^2\sin\theta dr d\varphi d\theta
\\
&=
\int_0^\infty r^2dr\int d\Omega\left|\varphi(\mathbf{r})\right|^2
\quad \left(d\Omega=\sin\theta d\varphi d\theta\right)
\\
&=
\int_0^\infty r^2dr\int d\Omega\left|R_l(r)Y_l^m(\theta,\varphi) \right|^2
\\
&=
\int_0^\infty r^2dr\left|R_l(r)\right|^2
\\
&=
\int_0^\infty dr\left|\chi_l(r)\right|^2
=1
\end{align}
\tag{5.48}
- $\chi_l(r)$の原点付近での振る舞いを調べることで$\varphi(\mathbf{r})$が原点を含む全空間でSchrödinger方程式(5.9)の解になっているかどうかを確認する.
ポテンシャルエネルギー$V(r)$は
\lim_{r\to 0}V(r)r^2=0
\tag{5.49}
と仮定する.まず$l\neq 0$の場合を調べる.$r$がじゅうぶんに小さいとき,(5.47)は
-\frac{d^2\chi_l(r)}{dr^2}+\frac{l(l+1)}{r^2}\chi_l(r)\simeq 0
この式に$\chi_l(r)\simeq r^s$を代入すると,$s(s-1)=l(l+1)$となるので$s=l+1$または$s=-l$となる.したがって
\chi_l(r)\simeq r^{l+1},または r^{-l}
\tag{5.50}
$r^{-l}$は原点で発散するので(5.48)を満足しないため物理的に意味のある解とならない.したがって$r^{l+1}$が物理的に意味のある解で,
\chi_l(0)=0 \quad (l\neq 0)
\tag{5.51}
となる.
次に$l=0$の場合を考える.題位に反して$\chi_0(0)=c\neq 0$と仮定する.(5.44)に代入すると,
\varphi(\mathbf{r})=\frac{c}{r}Y_0^0=\frac{c}{\sqrt{4\pi}}\frac{1}{r}
となる.
\Delta\left(\frac{1}{r}\right)
=
-4\pi\delta(\mathbf{r})
を用いると,
\begin{align}
\hat{H}\varphi(\mathbf{r})
&=
\left[
-\frac{\hbar^2}{2m}\Delta+V(r)
\right]
\varphi(\mathbf{r})
\\
&=
\frac{\hbar^2}{2m}\sqrt{4\pi}c\delta(\mathbf{r})+V(r)\varphi(\mathbf{r})
\end{align}
となる.しかしSchrödinger方程式は$\varphi(\mathbf{r})$に関して斉次なので$\chi_0(0)=c\neq 0$だと原点でSchrödinger方程式を満たさない.したがって$\chi_0(0)=c= 0$である必要がある.
4.ハミルトニアン(5.43)は2個の固有値$\pm 1$をもつ空間反転の演算子$\hat{P}$と交換する.ただしここで
\hat{P}\psi(\mathbf{r},t)=\psi(-\mathbf{r},t)
$\hat{P}$の演算に対して$r$座標は不変だが,角度変数は$\theta\to\pi-\theta$,$\varphi\to\varphi+\pi$と変換される.したがって$l$が偶数の状態では偶パリティ,$l$が奇数の状態では奇パリティの状態に対応する.
粒子の角運動量$l$がいろいろな値を取る状態を表す慣用記号が使われている.
\begin{align}
l&=0\quad 1\quad 2\quad 3\quad 4\quad 5\quad\cdots
\\
&\quad s\quad p \quad d\quad f\quad g\quad h
\end{align}
\tag{5.52}