「6倍」がチーム編成の前提を破壊する
AWS Summitで聞いたデジタル庁の事例が頭から離れない。PdM一人が、AIと共に6人月分の機能追加を1人月+LLM代20万円で完遂したという。
最初は「すごい事例だな」で済ませようとした。しかし計算してみると、これはチーム編成の常識を根底から覆す数字だと気づいた。
「メンバーを足す」という発想が崩れる
従来の6人チームと、AIを使いこなす2人チームを比較する。
| チーム構成 | 内訳 | アウトプット |
|---|---|---|
| 従来型6人チーム | PM 1名(管理専従)+作業者5名 ×1.0 | 5人月 |
| AI活用2人チーム | スーパーエンジニア2名 ×6倍(ペアは阿吽の呼吸でロスなし) | 12人月 |
2人チームが6人チームの2倍以上働く。これは「優秀な少人数チームが強い」という昔からの経験則の延長に見えるが、決定的に違うのは差が広がり続ける構造になっている点だ。
メンバー追加 = サボタージュ問題
ここからが本題。「2人で回っているなら人を足せばさらに速くなる」と考えたくなる。しかし計算するとそうはならない。
スーパーエンジニア2名(各6倍)のチームを、従来型の6人編成(管理者1名+作業者5名)に「戻した」ケースを見る。コミュニケーションコスト・進捗管理・スキル差のフォローで、スーパーエンジニアの生産性は6倍→3倍に半減する。経験的にこれは控えめな見積もりだ。
| 構成 | 人数 | 計算 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 2人チーム(ピュア) | 2 | 6+6 | 12人月 |
| 6人チーム(混成・管理者込み) | 6 | 3+3+2+2+2+0(管理専従) | 12人月 |
人を3倍に増やして、アウトプットは同じ。 投入コストは大幅に増えているので、ROIは壊滅的に悪化する。
しかも管理者1名は、自身では進捗を全く生まない上に、会議の開催などで、高スキル者の生産性を下げる原因にも成り得る。生産性0.5の新人を入れた場合は言うまでもなく、生産性2倍の中堅メンバーですら、追加すれば事実上のサボタージュになる。これがAWS Summitで突きつけられた現実だった。
なぜ気づきにくいのか
「2倍の生産性が出るメンバーを足す」は、紙の上では純増にしか見えない。しかし、
- 高スキル者の生産性6倍は「邪魔されないこと」が前提である
- レビュー・会議・教育は、高スキル者から時間を奪う
つまり、6倍の生産性は壊れやすい資源であり、人を足す行為はその資源を真っ先に削る。「2倍 vs 6倍」の非対称性こそが、足し算が成立しなくなる正体だ。
6人チームの崩壊
業界標準の「PL1+メンバー5」のユニットは、メンバーが等価に1人月を出す前提で最適化されている。生産性が6倍に跳ねる個体が出現した瞬間、この編成は最適解から外れる。
代わりに来るのは、2人ペア × 必要数の編成だ。
FE2名、BE2名、インフラ2名の様に、それぞれ疎結合で独立した機能を開発することで、生産性を維持できる。
ただし注意点がある。6倍は高スキルペアでのみ成立する数字であって、ペアにすれば自動的に出るものではない。中堅同士をペアにしても、出るのは2倍が2つ、つまり4人月分にしかならない。高スキルエンジニアの1/3の生産性だ。
チームに「全員4倍」を要求する
ここからが私の宿題だ。
混成チームでスーパーエンジニアが3倍に落ちるのは、チームがその人の足を引っ張っているからだ。だとすれば、メンバー追加を意味あるものにする条件はひとつしかない。
全員が4倍出せる状態にすること。 4+4+4+4+4+0=20。ここまで来て初めて「足してよかった」になる。
3+3+2+2+2+0=12では、メンバー追加の意味がなくその編成は失敗している。全員の生産性をAI以前の4倍に引き上げることが、チームとして必要になる。
ハーネスを整備して高スキル者の判断軸をAIに覚えこませ、高スキル者の時間を奪わずとも、AIレビューで同等の品質を出せる仕組みを整備する。
生成AIで2倍が当たり前になった今、チームで2倍は無価値、いや有害ですらある。チームを組むなら全員4倍が最低条件だ。出せないなら、高スキルペアを隔離して生産性6倍を守るほうがいい。
「6倍」は単なる効率化の数字ではない。チーム編成の前提を破壊する数字なのだ。