日本のIT現場では、老朽化したレガシーシステムが今も多くの業務を支えています。しかしDXやクラウド移行、AI活用が加速する中で、「2025年の崖」という言葉に象徴されるように、古い仕組みのままでは競争力を失うリスクが高まっています。
ここでは、レガシーシステムが企業にもたらす課題と、エンジニアが現場でできるモダナイゼーション戦略、必要なスキルやキャリアの方向性を具体的に掘り下げます。
レガシーシステムが残る理由と深刻度
日本企業が古いシステムを維持し続ける背景には、現場業務と密接に結びついた独自のカスタマイズ文化があります。長年にわたり現場の要望に合わせて機能追加が繰り返され、標準化や新システムへの置き換えが難しくなっているのが実情です。また、基幹システムを刷新することで生じる不具合や業務停止リスクを恐れ、現状維持を選ぶ企業が多いのも特徴です。さらに、再構築には巨額のコストと専門人材が必要なため、経営判断として後回しにされやすい現状があります。
こうした状況では、属人化の進行によって保守作業が一部のベテランに依存し、技術継承が進まないまま維持コストだけが膨張しています。結果として、企業のIT予算の大半が現状維持に費やされ、革新的な投資に回す余力が失われています。このようなブラックボックス化の進行が、「2025年の崖」と呼ばれる深刻なリスクを生んでいます。古いシステムの維持が新技術人材の育成を阻み、年間最大12兆円もの経済損失や社会インフラ障害、産業競争力低下につながると懸念されています。
DXを阻む壁と競争力低下の連鎖
日本企業では、古いシステム同士の分断により社内データの連携が取れず、リアルタイムのデータ活用やAI導入、API連携などの最新技術活用が進まない現状があります。このため、ユーザー目線に立った新しいサービスや市場変化に即応した事業モデルへの転換が滞り、従来型の業務やサービスから抜け出せない企業が少なくありません。その背景には、細かい仕様変更やトラブル対応が難しい保守性の低下、新技術導入に巨額の追加投資が必要になるコスト負担、旧技術に依存することで若手人材の採用が進まないなど、技術的負債の蓄積が深刻化している事情があります。
こうした技術的負債は年々増大し、企業成長の大きな足かせとなっています。その間にも、海外のクラウドネイティブ企業やAI活用を進めるグローバルプレイヤーは、迅速なサービス展開や業務の自動化で競争力を高めています。一方、日本企業は自社独自仕様に固執しがちで、世界標準技術の導入やグローバル人材の活用が進まず、結果として先進サービス開発やDXの波に乗り遅れる構造的問題を抱えています。
成功企業に学ぶモダナイゼーションの進め方
レガシーシステムからの脱却を進めるための第一歩として、まずは全社のシステム資産を可視化し、現状を正確に把握することが重要です。各部門や業務フローごとに、どのシステムがどの役割を担い、どの程度老朽化や課題を抱えているかを整理し、リスクや依存度を数値化することで、刷新の優先順位を明確にします。そのうえで、勤怠管理や経費精算などの小規模領域からクラウド化を始め、基幹システムの再設計やAPI・データ基盤構築を段階的に進め、最終的には全社横断で運用改革を行うというステップを踏むことが、リスクを抑えながら確実にモダナイゼーションを進める鍵となります。
また、この変革を成功させるには、IT部門だけに任せるのではなく、経営層や現場のエンドユーザーを巻き込んだ全社的な推進体制が欠かせません。現場でのヒアリングや業務体験を通じて「本当に必要な改善」を抽出し、ベンダーは単なる外注先ではなく、共創パートナーとして選定します。自社理解とノウハウ移転、推進リーダーの育成を重視しつつ、クラウドやAIなどの専門家の力を活かしながら内製化とのバランスを取り、効果測定を継続することが、持続的な刷新を支えるベストプラクティスとなるでしょう。