はじめに
日常や仕事の中で「どうすれば効率よく進められるだろう?」と考えたことはありませんか。
限られた時間や資源の中で、最適な判断を下すのは簡単ではありません。
こうした複雑な意思決定を科学的に支援する学問が
オペレーションズ・リサーチ(Operations Research, OR) です。
ORは、もともと第二次世界大戦中に軍事作戦を効率的に遂行するために発展しました。
その後、物流、製造、金融、医療、ITなど、現代社会のあらゆる分野に広がり、
「最適化」や「効率化」を支える基盤となっています。
本記事では、ORとは何か、そしてOR学会との関わりについて紹介していきます。
オペレーションズ・リサーチの紹介
オペレーションズ・リサーチ (Operations Research, OR) とは、
「数理的・論理的手法を用いて、複雑な現実世界の意思決定を科学的に支援する学問」です。
工学、経営学、経済学、統計学、コンピュータサイエンスなどが交わる学際的な領域であり、
別名「経営科学(Management Science)」とも呼ばれます。
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起源:第二次世界大戦中のイギリス・アメリカ軍における作戦最適化研究
(例:レーダー配置、船団運用、補給ルートの最適化) - 戦後:民間企業や公共政策へ応用が拡大
現代での活用例
- 物流:配送ルートや倉庫配置の最適化
- 製造業:生産スケジューリングや在庫管理
- 医療:病院のベッド割当や救急搬送ルート設計
- 金融:投資ポートフォリオの最適化やリスク管理
- IT・通信:ネットワーク設計やクラウド資源の配分
このようにORは、戦時の作戦研究から始まり、現代社会を支える重要な技術へと発展してきました。
そして理論と実践を支え、研究者と実務家をつなぐのが
日本オペレーションズ・リサーチ学会(ORSJ) です。
日本オペレーションズ・リサーチ学会(ORSJ)の紹介
学会の概要
- 設立:1957年
- 名称:日本オペレーションズ・リサーチ学会(The Operations Research Society of Japan, ORSJ)
- 目的:OR研究の促進と実務応用の推進
- 会員構成:研究者、企業技術者、学生など幅広い層
国内でORを専門的に扱う代表的な学会であり、国際的にも活動が認知されています。
最新の活動(2025年 秋季研究発表会・シンポジウム)
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日程
- シンポジウム:2025年9月10日(水)
- 研究発表会:2025年9月11日(木)~12日(金)
- 会場:広島大学(東広島キャンパス)
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テーマ・特色
- シンポジウムテーマ:「未来社会を支える OR とモノづくり」
- 研究発表会のテーマの一部に「食とOR」も掲げられ、生活分野との接点が強調されました。
OR学会の特別講演
テーマ1: デジタル技術で変わる乳牛管理
- 講演者:杉野 利久 氏(広島大学 酪農エコシステム技術開発センター)
酪農の現場でもDXが進みつつあります。
労働力不足や気候変動に直面する中、乳牛の健康・繁殖・栄養・生産性の管理にIT技術が導入されています。
- センサーによる行動モニタリング
- 画像解析・LiDARによる牛体計測
- 機械学習を用いた乳量予測モデル
これらを統合活用することで、発情や疾病の早期発見、飼料設計の最適化が可能となり、
「効率化」と「動物福祉の向上」 を同時に実現できることが示されました。
テーマ2: IoP技術を活用した農業課題への数理最適化アプローチ
- 講演者:岩尾 忠重 氏(高知大学 農林海洋科学部 IoP共創センター研究開発部門)
日本農業は高齢化・人手不足に直面し、収量予測や労働配分の最適化が課題です。
本講演では IoP(Internet of Plants)技術 で収集したデータを基盤に、数理最適化の応用が紹介されました。
- 機械学習による収量予測
- 動的計画法を用いた環境制御の最適化
- 組合せ最適化による労働配分の改善
経験や勘に頼らず、データ駆動型で科学的な農業経営を実現できる可能性が示されました。
まとめ
オペレーションズ・リサーチ(OR)は、戦時の作戦研究から始まり、現在では物流・金融・医療・農業など幅広い分野で「効率化」と「持続可能性」を支える学問へと発展しています。
特に日本では、労働力不足や人口高齢化といった深刻な課題が進行しており、ORはこれらを乗り越えるために欠かせない技術です。
さらにAIやIoTの発展により、ORは新しい価値を次々と生み出しつつあります。
まさにORは、第5次産業革命を支える重要な基盤技術のひとつ になりつつあるのです。