ここ最近、「AIを使いこなせる人材が欲しい」という話をよく聞きます。
では質問です。その人が使いこなせるかどうかを、どうやって判定しますか?
自分でコードを書く人なら、成果物を見れば分かります。しかし、経営者やプロジェクトをまとめる立場の人は、そうもいきません。
出てきた画面は動いているように見えるし、本人は「AIで爆速です」と言っている…判定材料がありません。
そこでこの記事では、技術知識ゼロでも判定できる見分け方を書きます。対象は、自分ではコーディングもデザインもしない立場の人です。
※エンジニアの方は、そっと上司に送りつけてください(笑)
システム開発は、注文住宅に似ている
まず前提を揃えます。役割を家に例えると、こうなります。
- 施主 = 発注者(あなたや顧客)
- 設計士 = 要件定義や設計をする人
- 大工 = AI
- 図面 = 仕様書・設計・ルール
今起きているのは、24時間働き・疲れない・文句も言わない腕のいい大工が、急に何十人もやってきた状態です。これは本当にすごい事です。
ただし彼らは、図面どおりにしか建てません。そして図面が無ければ、「それっぽい何か」を猛烈な速さで建てます。
「AIがあれば作れる」というのは、「大工がいれば家が建つ」と言っているのと同じ雑さです。大工が何人いようが、階段の位置を決めるのは設計士の仕事ですよね?
なお、リフォーム(既存システムの改修)の方が新築より難しいと言われるのも、家と同じです。土台や壁の中がどうなっているか分かりませんので。
見分けポイント: その人は図面を描いてから頼んでいるか。それとも、いきなり大工に木材を渡しているか。
AIの初速は、判断を誤らせる
AIの一番怖いところは、速い事です。
依頼したらすぐに画面が出てきます。ボタンも押せるし、データも入る。発注側から見れば「もう8割できてる」ように見えます。
でも、見えているのは外壁だけです。配管も電気も断熱も入っていません。
ソフトウェアの世界には、ベル研究所の Tom Cargill の言葉として知られる、有名なジョークがあります。
最初の90%のコードが、開発時間の90%を消費する。残りの10%のコードが、もう90%の開発時間を消費する。
冗談のようですが、現場感覚としてはかなり正確です。
AI驚き屋・AI騒ぎ屋の話を鵜呑みにしない
SNSでよく見かける「たった◯分でこのアプリが作れました!」という投稿。あれは、嘘ではありません。「作れた」の定義が違うだけです。
モデルルームと、実際に住む家。モデルルームはすぐ組み上がりますし、写真映えもします。でも配管は通っていませんし、冬に住めば凍えます。
私は以前、バイブコーディングで作られたアプリをゼロから全部作り直すという仕事をした事があります。作り直した理由は、動いていなかったからではありません。動いているように見えていたからです。
見分けポイント: 「あと何が残ってますか?」と聞く。「ほぼ完成です」しか返ってこないなら危険。「◯◯と△△と××の処理がまだです」…のように、固有名詞で具体的に返ってくるなら、見えている人です。
残りを具体的に言える人 = その残りが実は9割だと知っている人です。
「誰が・いつ・何のために使うのか」を説明できるか
AIは、聞かれていない事は勝手に決めます。
例えば「顧客情報の削除ボタンを作って」と頼むと、そのボタンをどこにどう置くか、確認ダイアログを出すか出さないか、データを本当に消すか消したフラグを立てるだけか、誰に押させるか…を、AIが全部どれかに決めて出してきます。
頼んだ側が何も言わなければ、AIが決めた仕様がそのまま本番の仕様になります。
ここで、使いこなせている人と、そうでない人の答え方が露骨に分かれます。
- 使いこなせている人: 「AIは物理削除(データを完全に消す)で書いてきたんですが、後から監査ログが要ると思ったので、論理削除(見えなくするだけ)に直しました」
- そうでない人: 「AIがそう出したので」
主語がAIになった瞬間に赤信号です。
以前の記事でも引用しましたが、Simon Willison がこう書いています(原文)。
それが何をするのか他人に正確に説明できないコードは、リポジトリにコミット(本番システムに反映)しない
この「他人」は、あなたで構いません。画面を指して「これは、誰が・いつ・何のために使いますか?」と聞いてみてください。「たぶん」「一応」が混ざり始めた画面は、AIが勝手に決めた画面です。
向き不向きはある
身も蓋もない話ですが、同じ研修を受けても、全員が同じようにはなりません。そもそも、研修なんて受けなくとも使いこなせる人は使いこなします。これはAIに限らず何でもそうです。
ただ、AIの場合は差が出る場所がちょっと違います。 分かりやすい例を1つ挙げます。
「AI臭さ」を抜く作業で、はっきり分かれる
AIが出してくる文章やデザインには、独特の「臭い」があります。均質で、無難で、どこかで見た事があるような70〜80点の成果物…。
この「臭い」に気づいた後の行動が、きれいに二分されます。
- 向いていない人:毎回手作業で直します。 真面目ではありますが、次回また同じ物が出てきますし、直した基準は本人の頭の中にしか残りません。他の人にも、次のAIにも渡せない。これでは、AIを使う意味がどんどん薄れていきます。
- 向いている人:基準を言語化してファイルに書きます。ルールをまとめ、AIに毎回読ませる。以後、AIは最初からその基準で書いてきます。手直しが要らなくなるので、そのぶん別の仕事に時間を使えます。
見分けポイント: 同じ指摘を3回した時、その人が何をするか。4回目も同じ指摘をする羽目になるなら向いていません。3回目で「これルールに書いておきます」と言うなら向いています。
そして残酷な話ですが、ここは教えても身に付きにくい部分です。実力というよりも、「同じ事を二度やるのが我慢ならない」という性格に近いですので。
実はこの性格、40年近く前から名前が付いています。Perl を作った Larry Wall の言うプログラマの三大美徳、その筆頭が「怠惰」です。サボる事ではなく、同じ手間を二度払わないために先に仕組みを作ってしまう性質を指します。
逆に言えば、手作業で毎回直せてしまう勤勉な人ほど、仕組みを作る動機を持てないわけです。なかなか皮肉な話ですよね。
⇒ AI駆動開発時代における、プログラマーの三大美徳とHRT
「AIは使えない」と文句を言う人も、向いていない
もう1つ分かりやすい兆候があります。
それは、AIの出力に文句を言い続ける人です。「指示を守らない」「余計な事をする」「言ってない機能を勝手に作る」…と。
指摘している内容自体は、だいたい正しいです。私も散々見てきましたので、嘘だとは思いません。
ただ、大工が階段を妙な位置に付けたとして、図面に階段の位置が書かれていなかったのなら、それは大工の責任ではありませんよね? 図面に一行足せば済む話です。
文句で終わる人は、図面を直さないまま毎週同じ事で怒っている人です。そして原因がAI側にあると決めた瞬間、自分の指示や資料を見直す道が塞がるので、1ミリも育ちません。
判定は簡単です。先週と同じ愚痴が今週も出てくるなら赤信号です。そもそも、その手の他責・他罰的な傾向が強い人は、AI云々抜きでも…(以下自粛)
何「を」作るかが価値であって、何「で」作るかではない
「AIで作ったものは低品質だ」という批判には、理があります。
実際、雑な物が量産されるようになりましたし、私自身がその尻拭いをする側に回った事もあります。だから「そんな批判は時代遅れだ」と切り捨てるつもりはありません。
ただし、低品質なのはAIのせいではありません。 何を作るか決めていない人が作ったからです。
大工の腕がどれだけ良くても、施主が「いい感じでお願いします」としか言わなければ、まともな家は建ちません。それと同じことです。
そして、家の価値は手刻みかプレカットかでは決まりません。今の日本の家の多くは工場で加工された木材で建っていますが、「工場で切った木だから価値が無い家だ」と言う人はいないでしょう。住み心地が良ければ、良い家です。
AI製 = 低品質ではありません。低品質な物しか出てこないなら、それは単に使いこなせていないだけです。
見分けポイント: 「なぜこの案にしたんですか?」と聞く。理由が出てくるか、「AIが一番良いと言ったので」が出てくるか。
【ついでに】クリエイティブへのリスペクトは必要
開発者・デザイナー・ライターが持っている本体は、手を動かす速度ではありません。良し悪しを判断する目です。
AIが100案出してきた時に、そこから1案を選びブラッシュアップできる人。それが目のある人です。選べない人は、AIに選ばせます。AIに選ばせると、無難な平均値が出てきます。それがAI臭さの正体です。
「AIがあればデザイナーは要らない」と言う人は、100案から選ぶ作業を自分にもできると思っています。
だいたいの場合、その人は選べません。言うは易く行うは難しです。
4つの質問
| 質問 | 良い返答 | 危ない返答 |
|---|---|---|
| 1. これは誰が・いつ・何のために使う画面ですか? | 全画面について具体的に答えられる | 「たぶん」「一応」が混ざる |
| 2. あと何が残っていますか? | 「◯◯と△△の処理がまだです」 | 「ほぼ完成です」 |
| 3. 同じ指摘を3回したら、次はどうしますか? | 「ルールに書いておきます」 | 「気をつけます」 |
| 4. なぜこの案を選んだのですか? | 選んだ理由を自分の言葉で説明できる | 「AIが一番良いと言ったので」 |
返ってくるのは全部日本語です。コードを読む必要はありません。
4つの質問が効かない相手
もちろん、万能ではありません。
意図的に話を盛る人には効きません。「◯◯の処理がまだです」程度の答えは、分かっていなくても作れます。逆に、口下手なだけで全部分かっている人を、落としてしまう危険もあります。
効くのは、分かっていない事に自分でも気づいていない人を炙り出す用途です。
そして現場で一番多いのは、このタイプです。悪意があるわけではなく、本人も「もう8割できてる」と本気でそう勘違いしてます。
意味のない質問
逆に、当てにならない質問も1つ挙げておきます。
「どのAIツールを使ってますか?」です。
ツール名をたくさん知っている事と、使いこなせる事には、ほぼ関係がありません。詳しい人は、単に詳しいだけです。※道具の選定眼はあった方がいいですが、それ単体は判定基準になりません。
【最後に】図面を描けない施主の家は建てられない
最後に一番厳しい話をします。
どれだけ優秀な設計士を連れてきても、施主が何を建てたいか決められなければ、家は建ちません。
「競合がAIで何かやってるからうちも何かを」というふわふわとした話は、「隣が新築したからうちも何かいい感じで建てて」と言っているのと同じです。
大工は集まります。速いです。でも、誰が住むか決まっていない家に、良いも悪いもありません。
AIを使いこなせる人材とは、AIに詳しい人ではなく、あなたの「こういうのが欲しい」を図面に翻訳できる人です。
そして翻訳するには、翻訳する元(=あなた)の言葉が必要です。
ある程度できたものに後からケチを付けるのは、誰にでもできることです。あなたにしかできない事は何でしょうか?