FA機器には産業用SDカードを使おう
最近のFA機器には、ほぼ例外なく SDカードスロット が搭載されています。
用途は多岐にわたります。
- 一時的なデータの受け渡し
- ブートファイル格納
- データロギング
- ファームウェア更新
では、どのメーカーのSDカードを使っていますか?
選定時の判断材料になればと思い、FA分野でのSDカード選定についてまとめました。
というのも過去に民生品SDカードを設備に組み込んでいたため出荷したため数年後データが化けるトラブルが多発したという経験があるからです。
SLC / MLCとは?
SDカードやSSDの中核である フラッシュメモリ は、「セル」と呼ばれる領域に電荷をためることで 1 / 0 を表現しています。
| 種類 | セルあたりのビット数 | 特徴 |
|---|---|---|
| SLC (Single-Level Cell) | 1ビット | 高速・高耐久・高価 |
| MLC (Multi-Level Cell) | 2ビット | バランス型、一般的 |
| TLC (Triple-Level Cell) | 3ビット | 安価・大容量・低耐久 |
| QLC (Quad-Level Cell) | 4ビット | 超大容量・低耐久 |
SLCが最も信頼性が高く、TLC・QLCになるほど安価で大容量になりますが、
データ保持性・書き換え耐久性 が犠牲になります。
書き換え回数(Program/Erase cycles)が一番多いのもSLCとなります。
データ化けの原因
フラッシュメモリは物理的には電荷を閉じ込めて情報を保持しています。
このため次のような要因でビットエラーが発生します。
- 電荷の自然放電(経年劣化)
- 高温動作によるリーク
- 宇宙線による電荷反転(ソフトエラー)
- 頻繁な書き換えによるセル疲労
特にFA用途では、高温・振動・電源断などのストレスが強く、
一般的な民生用SDカードでは寿命が短くなる傾向があります。
pSLC(擬似SLC)
SLC品は非常に高価で、製造している半導体メーカーも限られます。
その代替として登場したのが pSLC (pseudo-SLC) です。
これは MLCメモリをSLCモードで使用する 技術で、
- 耐久性:約10倍向上
- 価格:SLCより大幅に安い
というバランス型アプローチです。
SDカードの分類と選定
ここではFA現場でよく遭遇する3カテゴリに分けて考えます。
① 家電量販店や秋葉原で買える民生品
- メリット: 安い
- デメリット: エラー訂正・長期保持・サポートなし
コスト面では最強ですが、信頼性やサポートは皆無です。
特に問題なのは「データ化け時の復旧機能がない」こと。
「国産メーカーだから安心」ではありません。
短期運用、実験用、データ破損しても問題ないケースならOK。
ただしFAシステムでは最も避けるべき選択肢です。
② PLCメーカー純正品
- メリット: 産業用グレードで高耐久、メーカーサポートあり
- デメリット: 高価
信頼性を最優先する場合の鉄板です。
データ化けや認識不良のリスクが極めて低く、
不具合発生時にはメーカーが正式サポートをしてくれます。
他社製を使って問題が起きた場合、「純正を使わなかったから」という理由で保証対象外になることもあります。
顧客対応やトラブル時のリスクを考えると、
高価でも時間と信頼を買う選択です。
③ フラッシュメモリメーカー製 産業用グレード品
- メリット: 産業用グレード、高耐久、ラインナップが豊富
- デメリット: PLCメーカーのサポート対象外
価格と信頼性のバランスが良く、最も現実的な選択肢。
トランセンドなどの産業用シリーズは代表例です。
予算の厳しい案件でも、民生品ではなく産業用グレードを選ぶだけで
「後々のトラブル」を大幅に減らせます。
トランセンドの産業用SDカード
みんな大好き Transcend の産業用ラインアップ。
- 製品一覧: Embedded Memory Cards
機能説明
- SLCモード: SLC Mode 技術解説
- Early Move: Early Move 対策
- 温度拡張モデル: Wide Temperature 対応
- リードディスターブ対策: Read Disturbance Technology
これらの機能により、
- 書き込み寿命の延命
- 高温下での安定性
- 読み出し時のデータ化け防止
といった信頼性向上が実現されています。
まとめ
| 分類 | 耐久性 | コスト | サポート | 推奨用途 |
|---|---|---|---|---|
| 民生品 | × | ◎ | × | 短期・実験・非重要データ |
| PLC純正 | ◎ | × | ◎ | 重要制御系・重要顧客案件 |
| 産業用グレード | ○/◎ | ○ | △ | コストと信頼性のバランス重視・選択肢が多い |
- SLC / pSLC の採用が理想
- 民生用SDカードは基本的に非推奨
- コストより信頼性を優先するのがFA機器選定の基本
「動いているうちは問題ない」が、
「止まったときの損失」はSDカード代の比ではありません。