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[C#] C++/WinRTのブリッジを作ってC#から呼び出す方法

Last updated at Posted at 2020-09-27

はじめに

Windows 10では、UWP(ストアアプリ、ネイティブアプリ)から使えるいろいろな新しいAPI (WinRT) が追加されています。
強力な機能は魅力的ですが、UWPアプリはサンドボックス内で実行されるので、セキュリティによって実装に制約が生じたり、スタートメニューからしか起動できない、社内などの他の人への配布が大変(ストア経由でないアプリを使うためには設定が必要)と、少々使いづらい点もあります。
そこで、Windowsの普通の(exeをダブルクリックして起動できる)デスクトップアプリから、WinRTの機能を「つまみ食い」できると便利だと思います。

そのための仕組みとして「C++/WinRT」があります。

しかし、アプリをUI部分も含めて全部ネイティブのC++で書くのは大変なので、C#のフォームアプリから呼び出せると都合がよいと思うわけです。
そこで、C++/WinRTでブリッジのライブラリを作成し、C#からそのクラスを参照させることによって、C#からWinRTの恩恵にあずかる方法を紹介します。

後の公式サンプルのreadmeによると、この機能が使えるのは「new feature in Windows Builds 18309+」ということなので、Windows 10 バージョン1903以降で使える機能ということになります。

開発環境

  • Windows 10 Home 1903
  • Visual Studio Community 2019

事前準備

Visual Studio Installerからコンポーネントを追加します。

  • ワークロード: 以下の3つにチェック
    • .NETデスクトップ開発
    • C++によるデスクトップ開発
    • ユニバーサルWindowsプラットフォーム開発
  • 個別のコンポーネント
    • Windows 10 SDK (10.0.18362.0以降を1つ以上)
    • (他にもあったかどうか忘れました…)

さらに、C++/WinRT開発のためのVSIXをインストールしておきます。
C++/WinRT - Visual Studio Marketplace

公式サンプルの動作確認

C++/WinRTブリッジを介したC#フォームアプリの作成方法については、Microsoftから公式サンプルが提供されています。
microsoft/RegFree_WinRT: Sample Code showing use of Registration-free WinRT to access a 3rd party native WinRT Component from a non-packaged Desktop app

まずは RegFree_WinRT/CS/RegFree_WinRT.sln をビルド・実行できることを確認しましょう。
image.png

自分でブリッジを書く

いよいよここからが本番です。以下がMS公式のドキュメント。
Enhancing Non-packaged Desktop Apps using Windows Runtime Components - Windows Developer Blog

新しいソリューションに、以下2つのプロジェクトを追加します。

  • Windows Runtime Component (C++/WinRT)
    • ブリッジを書くためのプロジェクトになります。
    • 名前はとりあえずデフォルトの RuntimeComponent1
    • Windowsのターゲットバージョンは1903以降で。
  • WPF アプリ (.NET Framework) または Windows フォーム アプリケーション (.NET Framework)
    • アプリのメインのプロジェクトになります。
    • 名前はとりあえずデフォルトの WpfApp1
    • 対象のフレームワークは .NET Framework 4.7.2

C++/WinRT側

最初に何も変更せずに一度ビルドしておきます。するといくつかのファイルが自動生成されます。
IntelliSenseのエラーが気になりますが、ソリューションを開き直すと改善します。

ここで自分のコードを記述するときに変更する必要があるのが、以下の4ファイルです。

  • Class.h
  • Class.cpp
  • Class.idl
  • pch.h

Class.h, Class.cpp

これは普通のC++のクラスを書くときにもおなじみのペアですね。
基本的にはデフォルトで書かれているコードを真似してメソッドやプロパティを追加していけばよいです。
サンプルの MyProperty を改造してプロパティを実装し、さらにメソッドを新しく1つ追加しておきます。

Class.h
#pragma once

#include "Class.g.h"

namespace winrt::RuntimeComponent1::implementation
{
    struct Class : ClassT<Class>
    {
        Class(int32_t initial); // 変更
        int32_t MyProperty();
        void MyProperty(int32_t value);
        int32_t MyMethod();     // 追加
    private:
        int32_t _value;         // 追加
    };
}

// この中は触らなくてOK
namespace winrt::RuntimeComponent1::factory_implementation
{
    struct Class : ClassT<Class, implementation::Class>
    {
    };
}
Class.cpp
#include "pch.h"
#include "Class.h"
#include "Class.g.cpp"

namespace winrt::RuntimeComponent1::implementation
{
    // コンストラクタ
    Class::Class(int32_t initial)
    {
        _value = initial;
    }
    // プロパティ (get)
    int32_t Class::MyProperty()
    {
        return _value;
    }
    // プロパティ (set)
    void Class::MyProperty(int32_t value)
    {
        _value = value;
    }
    // メソッド
    int32_t Class::MyMethod()
    {
        return _value * 2;
    }
}

Class.idl

Microsoft インターフェイス定義言語 (MIDL) で書かれているファイルです。
C#のアプリからブリッジを参照したときにIntelliSenseで表示されるクラス定義を、このファイルによって与えるということのようです。
(Class.cpp, Class.h だけだと普通のネイティブC++のクラスなので、C#から参照するための情報は入っていないみたいです)
Microsoft インターフェイス定義言語3.0 の概要 - Windows UWP applications | Microsoft Docs

書き方はC++に似ています。

Class.idl
namespace RuntimeComponent1
{
    [default_interface]
    runtimeclass Class
    {
        Class(Int32 initial); // 変更
        Int32 MyProperty;
        Int32 MyMethod();     // 追加
    }
}
  • Class(Int32 initial);
    • コンストラクタ(引数名を value にするとエラーになったので名前を変えました)
  • Int32 MyProperty;
    • 引数リストをつけないとプロパティ扱い
  • Int32 MyMethod();
    • 引数リストをつけるとメソッド扱い

引数と戻り値のデータ型は、C++で使われるものとは違っていますが、名前から直感的に対応が類推できます。基本の数値データ型には以下があります。(前記公式ドキュメントより)

  • Int16
  • Int32
  • Int64
  • UInt8
  • UInt16
  • UInt32
  • UInt64
  • Single
  • Double

pch.h

WinRTなどのヘッダファイルを追加する必要があるときに、このファイルに #include 文を追加します。
今回はデフォルトのまま置いておきます。

ここまでの変更を加えたあと、ビルドができることを確認します。

C#側

C#プロジェクトのデフォルトのプラットフォームは Any CPU になっていますが、x64 または Win32 に変えておいてください。RuntimeComponent1と合わせておきます(RuntimeComponent1がx86の場合は、WpfApp1側はWin32)。
image.png
WpfApp1から、先ほど作成したRuntimeComponent1を参照します。
image.png
これによって RuntimeComponent1 という名前空間が見えるようになり、その下にある Class というクラスにアクセスできるはずです。

フォームに適当にボタンを配置し、ボタンを押したらクラスを使って何か処理させてみます。

MainWindows.xaml.cs
/* Button_Click() 以外のコードは省略 */
        private void Button_Click(object sender, RoutedEventArgs e)
        {
            var cls = new RuntimeComponent1.Class(100);
            MessageBox.Show(cls.MyProperty.ToString());
            MessageBox.Show(cls.MyMethod().ToString());
            cls.MyProperty = 200;
            MessageBox.Show(cls.MyProperty.ToString());
            MessageBox.Show(cls.MyMethod().ToString());
        }

確かに RuntimeComponent1.Class が見えるようになりました。

しかし、この状態ではビルドは通りますが、実行時にエラーが発生します。

System.TypeLoadException: '要求された Windows ランタイム型 'RuntimeComponent1.Class' は登録されていません。'

MSのサンプルを見ればわかりますが、実はC#側にも「RuntimeComponent1.Class の実装はこのDLLに入っていますよ」という情報を追加してあげないといけません。
プロジェクトに「アプリケーション マニフェスト ファイル」を追加します。
image.png

今回作成したブリッジと、そこに含まれているクラスの情報を追加します。

app.manifest
<?xml version="1.0" encoding="utf-8"?>
<assembly manifestVersion="1.0" xmlns="urn:schemas-microsoft-com:asm.v1">
  <assemblyIdentity version="1.0.0.0" name="MyApplication.app"/>
  (略)
	<file name="RuntimeComponent1.dll">
		<activatableClass
			name="RuntimeComponent1.Class"
			threadingModel="both"
			xmlns="urn:schemas-microsoft-com:winrt.v1" />
	</file>
</assembly>
  • 複数のブリッジライブラリがある場合は、その数だけ <file>...</file> を追加
  • 1つのライブラリの中に複数のクラスがある場合は、<activatableClass> を追加

さらに、C++側で作ったDLLは「VCRT Forwarders」を参照して動くので、C#のexeと同じ場所にこれらのDLLがないといけません。
NuGetパッケージマネージャーから「Microsoft.VCRTForwarders.140」を追加しておくと、C#側のビルド時にexeと同じ場所に必要なDLLがコピーされるようになります。

実行

ウィンドウに配置したボタンを押して 100, 200, 200, 400 の順にメッセージが表示されたら成功です。

応用例

ここまでの例では、C++/WinRTのブリッジと言いながら、WinRTの機能を全く使っていませんでした。
ということで、実際にWinRTを呼び出す例も見てみましょう。

日本語の形態素解析(文章を単語単位に分割する)APIがあるので、それを使ってみます。
JapanesePhoneticAnalyzer Class (Windows.Globalization) - Windows UWP applications | Microsoft Docs

与えられた文章に対して、単語リストを返すようなメソッドを作ります。

C++/WinRT側

Class.h

Class.h
#pragma once

#include "Class.g.h"

using namespace winrt::Windows::Foundation::Collections;

namespace winrt::RuntimeComponent1::implementation
{
    struct Class : ClassT<Class>
    {
        Class() = default; // デフォルトコンストラクタ
        static IVectorView<hstring> Class::Analyze(hstring text); // static指定も可能
    };
}

namespace winrt::RuntimeComponent1::factory_implementation
{
    struct Class : ClassT<Class, implementation::Class>
    {
    };
}

Class.h で Class() = default; と書いておくと、処理のないデフォルトコンストラクタを使うことができます。Class.cpp にもコンストラクタの記述は必要ありません。
リストを返すには using namespace winrt::Windows::Foundation::Collections; を書いた上で IVectorView<T> インターフェイスを使うことができます。これはC# (.NET) 側から参照すると IReadOnlyList<T> に見えます。1
また、Unicode文字列を扱うときは hstring 型を使います。C# (.NET) 側から参照すると string に見えます。

Class.cpp

Class.cpp
#include "pch.h"
#include "Class.h"
#include "Class.g.cpp"

using namespace winrt::Windows::Foundation::Collections;
using namespace winrt::Windows::Globalization;

namespace winrt::RuntimeComponent1::implementation
{
    IVectorView<hstring> Class::Analyze(hstring text)
    {
        auto words = JapanesePhoneticAnalyzer::GetWords(text);
        auto result = winrt::single_threaded_vector<hstring>();
        for (auto word = words.First(); word.HasCurrent(); word.MoveNext()){
            result.Append(word.Current().DisplayText());
        }
        return result.GetView();
    }
}

使用したい機能に合わせて適切に using namespace を記述してください。
また winrt::single_threaded_vector<hstring>() を使って IVector オブジェクトの実体を作っています。これを忘れると、NULLポインタアクセスになってアクセス違反となります。

Class.idl

Class.idl
namespace RuntimeComponent1
{
    [default_interface]
    runtimeclass Class
    {
        Class();
        static Windows.Foundation.Collections.IVectorView<String> Analyze(String text);
    }
}

idlでクラスの名前空間を書くときはドット区切り (Windows.Foundation.Collections.IVectorView) になります。
また、文字列型はidlでは String となります。

pch.h

pch.h
#pragma once
#include <unknwn.h>
#include <winrt/Windows.Foundation.h>
#include <winrt/Windows.Foundation.Collections.h>
#include <winrt/Windows.Globalization.h>

使いたい機能に合わせてヘッダファイルの記述を追加します。

C#側

MainWindows.xaml.cs
        private void Button_Click(object sender, RoutedEventArgs e)
        {
            var result = RuntimeComponent1.Class.Analyze("本日は晴天なり");
            MessageBox.Show(string.Join(",", result));
        }

C#側のプロジェクトで、参照にC++側のプロジェクトを追加してビルド・実行し、「本日,は,晴天,なり」と単語単位で区切られたメッセージが出たら成功です。
image.png

身も蓋もない話

正直この程度だったらブリッジを作るまでもなくて、以下の方法でもっと手軽にできたりします。
[C#] デスクトップアプリ (WPF) から手軽にWinRT APIを活用しよう - Qiita

ただポインタやATLなど色々触り出すと、下手にC#で書くよりC++でブリッジを作ったほうがたぶん楽です。

トラブルシューティング

ブリッジクラスがC#側から見えない

C#側から参照にC++プロジェクトを追加していても見えない場合は、idlファイルの記述をご確認ください。
idlファイルを編集したら「リビルド」したほうが良いです。

エラー C2660 'winrt::RuntimeComponent1::implementation::Class::MyMethod': 関数に 1 個の引数を指定できません。

Class.idl に書いた名前と引数で呼び出せるメソッドが、Class.cpp, Class.h 側に定義されていないと思われます。(オーバーロードは可能ですが、idlの記述に不足がないようにご注意ください)

System.TypeLoadException: '要求された Windows ランタイム型 'RuntimeComponent1.Class' は登録されていません。'

app.manifest の <file><activatableClass> の記述が不足しているようです。

System.BadImageFormatException: ' は有効な Win32 アプリケーションではありません。 (HRESULT からの例外:0x800700C1)'

C++側とC#側のプラットフォーム設定が合っていないみたいです。x64同士、またはx86/Win32の組み合わせであることを確認してください。前述のように Any CPU はダメです。

System.IO.FileNotFoundException: '指定されたモジュールが見つかりません。 (HRESULT からの例外:0x8007007E)'

まずは RuntimeComponent1 のビルドが成功していて、C#側のプロジェクトで指定したexeの出力先と同じ場所に RuntimeComponent1.dll がコピーされているか確認してください。
もし RuntimeComponent1.dll があるのにこのエラーが出るときは、VCRT ForwardersのDLLが見つからないのが原因と思われます。

  • NuGetパッケージマネージャーの設定で、既定のパッケージ管理方法を「Packages.config」にする
  • C#側のプロジェクトに Microsoft.VCRTForwarders.140 を追加する(既に追加されている場合で、後からPackages.configの設定を変えたときは、VCRTForwardersを一度削除して再度追加する)

ビルドしたあとに bin\x64\Debug の下などに msvcp140vcruntime140 などの名前で始まるDLLが大量にコピーされたら成功です。
image.png

0x00007FF90CD1DD44 (RuntimeComponent1.dll) で例外がスローされました (WpfApp1.exe 内): 0xC0000005: 場所 0x0000000000000000 の読み取り中にアクセス違反が発生しました

IVector の初期化ができているかご確認ください。winrt::single_threaded_vector をお忘れなく。

  1. Windows.Foundation.Collections Namespace - Windows UWP applications | Microsoft Docs

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