初めに
社内の問い合わせに RAG で答えていると、こんな場面によく出会います。
「パスワードはいつまで使える?」
→ 手順書のどこにも書いていないので、AI は「回答できません」と返す
→ ヘルプデスクの担当者は、毎回同じ答え(90 日です)を返している
→ 答えは担当者の頭とメールの履歴にあって、資料には無い
「複合機を自分の PC で使えるようにしたい」
→ 手順書は半年前のまま(コントロールパネルから手で追加)
→ でも今月から、専用のアプリで追加する手順に変わった
→ AI は資料のとおり、古い手順を答える
どちらも、担当者が確かめた「この質問にはこう答える」という答えがあれば済む話です。
Production Ready RAG の検索・回答プロファイルには、この確かめた答えを登録する 「Approved FAQ(類似問)」 という機能があります。この記事では、合成のテスト文書と FAQ で、FAQ があるとき・ないときで回答がどう変わるか、どんな言い方なら当たり、どんなときに当たらないかを実際の画面で確かめます。
この記事のテスト文書・FAQ・会社名・部署名・内線番号は、すべて記事のために作った架空のものです。2026 年 10 月 22 日時点の機能で確かめています。
先に結論
先に結論を書くと、Approved FAQ はこういうものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何を書くか | 質問と、担当者が確かめた回答の組(QUESTION / ANSWER) |
| どこに置くか | 検索・回答プロファイルの「プロファイルの知識 › Approved FAQ(類似問)」(プロファイルごと) |
| どう登録するか | 画面で 1 件ずつ追加 / Excel 取込(QUESTION・ANSWER の列)/ フィードバックの画面から 「Approved FAQ に登録」 |
| いつ使われるか | 質問に近い FAQ(類似問)があるとき、回答の前に提示して利用者に選ばせる。自動では使わない |
| 選ぶと何が変わるか | 資料を検索せず、選んだ FAQ の承認済みの回答だけをもとに答える(チャットは LLM が質問に合わせて整える。RAG 検索は原文をそのまま表示) |
| 近さの測り方 | 文字の一致と、埋め込み(Cohere Embed)の意味の近さの高いほう。チャットは 一致度 75% 以上で、1 位から 10 ポイント以内の候補を最大 3 件 |
処理の流れはこうです(チャットの場合)。
テスト用のデータ
ナレッジベースと検索・回答プロファイル
ナレッジベース「Qiita検証_FAQ」に文書を 1 件入れ、同じナレッジベースを検索する検索・回答プロファイルを 2 つ作りました。
| プロファイル | Approved FAQ |
|---|---|
| Qiita検証_FAQあり | 7 件(Excel で 5 件、画面で 1 件、フィードバックから 1 件) |
| Qiita検証_FAQなし | なし(比較用) |
テスト文書と FAQ
文書は「ヘルプデスク 手続きガイド(サンプル)」(PDF・3 頁)です。
| 頁 | 内容 |
|---|---|
| p.2 | 1. 共有フォルダの利用申請 / 2. 複合機をパソコンに追加する(コントロールパネルから手で追加) |
| p.3 | 3. 会議室のモニターに画面を映す / 4. 問い合わせ先 |
FAQ は Excel で 5 件用意しました。わざと、資料に無い答えと、資料より新しい手順を混ぜています。
| QUESTION | ANSWER(要約) | 資料との関係 |
|---|---|---|
| 共有フォルダのアクセス権を申請したい | 「フォルダ権限申請」から。所属長の承認の翌営業日 | 資料と同じ |
| 新しい複合機をパソコンに追加するには? | 2026 年 10 月から「SAMPLE-PRINT」アプリで追加。手動の追加は使わない | 資料より新しい |
| パスワードの有効期限は? | 90 日。14 日前から案内 | 資料に無い |
| 会議室のモニターに映らない | 入力切替で HDMI 1、Windows+P で複製 | 資料と同じ + 連絡先 |
| ノートパソコンを社外に持ち出したい | 「機器持ち出し申請」と暗号化の確認 | 資料に無い |
FAQ を登録する
置き場所
「ナレッジ構築 › 検索・回答プロファイル」でプロファイルを開き、下の「プロファイルの知識」の 「Approved FAQ(類似問)」 タブです。タブは回答で使われる順に並んでいて、FAQ は先頭(質問を受けて最初に見る知識)です。
上の 「回答の前に類似問を提示する」 が、このプロファイルで FAQ を使うかどうかのスイッチです(既定 ON)。
Excel 取込
1 行目に QUESTION と ANSWER の列を持つ Excel(.xlsx / .xls)を選ぶと、先頭 10 件をプレビューします。
取込モードは 2 つです。
| 取込モード | 動き |
|---|---|
| 追加(同じ質問はスキップ) | 既にある質問は変えずに、新しい質問だけ足す |
| 置き換え(同じ質問は上書き) | 同じ質問の回答を Excel の内容で上書きする |
「取込」を押すと、一覧に 5 件が入りました。
1 件ずつなら、下の「FAQ を追加」から質問と回答を入れて「追加」です(後で使います)。
FAQ がないとき・あるとき
資料に無い答え(パスワードの有効期限)
FAQ なし:「パスワードはいつまで使える?」には、資料に記載が無いので「回答できません」と返します。正しい振る舞いですが、利用者は困ります。
FAQ あり:回答の前に 「近い承認済み FAQ(類似問)があります」 のカードが出ます。質問の文は FAQ の「パスワードの有効期限は?」と違いますが、意味の近さで一致度 83% になりました。
「この類似問で回答する」を押すと、資料を検索せずに、承認済みの回答をもとに答えます。本文の末尾に「(出典: 承認済み FAQ「パスワードの有効期限は?」)」、処理の詳細に「承認済み FAQ から回答」のバッジと、その時点の承認済みの回答の原文が残ります。
処理の経過には「回答の安全チェック」「回答の記録の保存」の 2 段と「0.1 秒未満」しか出ていません。実際には LLM が承認済みの回答をもとに文を整えていますが、その段が記録されていません。「使用したモデル」にも、この経路で使わない Rerank が出ています。Issue #3082 にしました。
資料より新しい手順(複合機の追加)
「複合機を自分のPCで使えるようにしたい」では、FAQ の「新しい複合機をパソコンに追加するには?」が 一致度 76% で出ました。
類似問で回答すると、FAQ の新しい手順(SAMPLE-PRINT アプリ)を手順の形に整えて答えます。
「どれでもない」を選ぶと、ふつうに資料を検索し、手順書 p.2 の古い手順(コントロールパネル)を根拠つきで答えます。
同じ質問でも、利用者がどちらを選ぶかで答えが変わります。FAQ は資料より優先されるのではなく、利用者が選んだときだけ使われます。資料が古いなら、FAQ を足すだけでなく資料も直すのが本筋です。
言い方が離れると当たらない(プリンター)
「プリンターを追加したい」では、類似問のカードが出ませんでした。FAQ の質問は「複合機」で、「プリンター」とは一致度 75% に届かなかったためです。回答は資料の古い手順になりました。
FAQ の 1 件には、照合に使う質問を 1 つしか書けません(Excel も画面も QUESTION の 1 列)。よく来る言い方は、別の FAQ として足すのが確実です。「FAQ を追加」で足しました。
すると同じ質問で、足した FAQ が一致度 100% で出て、新しい手順で答えるようになりました。
一致度が 100% でも、チャットは自動では使わず、必ずカードで選ばせます。
関係の無い質問
「VPN がつながらない」のように、どの FAQ とも趣旨が違う質問では、チャットはカードを出さずにふつうに資料を検索しました(チャットの下限 75%)。
RAG 検索では
RAG 検索の画面でも、検索の前に類似問を出します。「パスワードの有効期限は?」では、一致度 100% の候補が出ました。
「この FAQ の回答を使う」を押すと、LLM を使わず、登録された承認済みの回答を原文のまま表示します。チャットとの違いはここです。
ただし RAG 検索は、一致度がとても低い候補でも検索を止めてカードを出します。「VPN がつながらない」では、関係の無い「会議室のモニターに映らない」が 一致度 13% で出て、「類似問を使用しない」を押すまで検索されませんでした。チャットは 75% 未満を出さないので、同じプロファイルでも画面で動きが違います。Issue #3081 にしました。
なお、MCP の rag_search は類似問を使いません(Agent などから呼んだときは、資料の検索だけで答えます)。
類似問の提示を OFF にする
「回答の前に類似問を提示する」を OFF にすると、登録した FAQ はそのままで、チャットにも RAG 検索にもカードが出なくなります。
OFF のまま「パスワードはいつまで使える?」を送ると、FAQ なしのプロファイルと同じく「回答できません」になりました。FAQ を一時的に止めたいときに使えます。
よい回答を FAQ に育てる
「改善・運用 › フィードバック」の画面で、評価の付いた回答を選ぶと 「Approved FAQ に登録」 が出ます。チャットで「共有フォルダを使いたい」と聞き、資料から答えた回答に「役に立った」を付けておきました。
「役に立った」回答はそのまま、それ以外は「修正した回答」を FAQ の回答として登録します。同じ質問の FAQ があれば置き換えます。
「そのまま」なので、AI が書いた言い回しの揺れも FAQ に入ります。今回の回答には「異動日までに前部署のフォルダ権限が外れ」とあり、資料の「異動の日に外れる」と少し違っていました。登録の前に、内容を担当者が読んで確かめるのがおすすめです(必要なら「修正した回答」を書いてから登録します)。
試した結果のまとめ
| 質問 | FAQ なし | FAQ あり |
|---|---|---|
| パスワードはいつまで使える? | 回答できない | カード(83%)→ 90 日(FAQ から) |
| 複合機を自分のPCで使えるようにしたい | 資料の古い手順 | カード(76%)→ 新しい手順 / どれでもない → 資料の古い手順 |
| プリンターを追加したい | 資料の古い手順 | カード無し(75% 未満)→ 古い手順。FAQ を足すと 100% で新しい手順 |
| VPN がつながらない | 資料から | チャットはカード無し。RAG 検索は 13% でもカード |
| (提示を OFF) | — | カード無し → 資料だけで答える |
FAQ を書くときのコツ
- 担当者が毎回同じ答えを返している質問から登録する。 資料に無い答え・資料より新しい答えほど効きます。
- QUESTION は利用者の言い方で書く。 照合は質問の文どうしで行います。担当者の言葉(「複合機」)と利用者の言葉(「プリンター」)が違うなら、両方の FAQ を登録します。
- ANSWER は単独で読める文にする。 選んだ後は資料を検索せず、その回答だけで答えます。連絡先・条件・期限は回答の中に書きます。
- 資料も直す。 FAQ は利用者が選んだときだけ使われます。「どれでもない」を選ばれると、資料の古い内容で答えます。
- 一括の登録・更新は Excel で。 「置き換え」なら同じ質問の回答を上書きできます。
- フィードバックから登録するときは、中身を読んでから。 「役に立った」回答はそのまま FAQ になります。
気になった点(作成した Issue)
| Issue | 内容 |
|---|---|
| #3081 | RAG 検索が一致度の低い承認済み FAQ でも検索を止めて類似問のカードを出す |
| #3082 | 承認済み FAQ から回答したときの処理の経過に LLM の生成の段が無く、所要時間と使用モデルが実際と合わない |
まとめ
- Approved FAQ は、担当者が確かめた「質問と回答の組」 を検索・回答プロファイルに登録する仕組み
- 質問に近い FAQ があると、回答の前に類似問として提示し、利用者が選んだときだけ使う(自動では使わない)
- 選ぶと 資料を検索せず、承認済みの回答だけから答える。資料に無い答え・資料より新しい手順を返せる
- 近さは文字の一致と意味の近さの高いほう。チャットは 75% 以上の候補を最大 3 件。言い方が離れると当たらないので、よく来る言い方は FAQ を足す
- Excel で一括登録でき、フィードバックの画面から よい回答を FAQ に育てられる
資料を直すには時間がかかりますが、ヘルプデスクの「いつもの答え」は今日すぐ登録できます。
まずは、先週いちばん多かった質問を 5 件、Excel にまとめて取り込んでみるのがおすすめです。



















