序
一般的に、Power BI は、データを見やすく可視化するためのツールであると言われています。ただし、レポートやダッシュボードを作って「見えるようにする」ことだけが、データ活用のゴールではありません。見えるようになった情報を次の行動につなげることが大切です。
例えば、売上が目標を下回っていることが分かったとしても、誰にも気付かれなければ対応は始まりません。また、在庫不足が発生していることをレポート上で確認できても、担当者がそのレポートを開かなければ、補充の判断は遅れてしまいます。
つまり、データを集めて Power BI で可視化することに留まらず、状況に気付くことや必要な人へ知らせることで、次のアクションに繋げるところまでを考えられて初めて「業務の中でデータを活用できたと言える」と、筆者は考えています。
さて、当記事のテーマである Power BI の「通知」は、この「見る」から「動く」へつなぐための仕組みのひとつであると云えるでしょう。例えば、次のような使い方が考えられます:
- 毎朝、最新のレポートをメールで確認したい
- 在庫不足が発生したときだけ担当者へ知らせたい
- 決まった時刻に Teams へレポートのリンクを投稿したい
- Power BI の数値が条件を満たしたら、Power Automate を通じて次の処理を実行したい
など、ひとことで「通知」と言っても、Power BI には様々な機能(サブスクリプションやアラート)があり、Power Automate を組み合わせる方法もあります。そして、それぞれ通知のきっかけや、できること(役割)が異なります。
当記事では、Power BI で利用できる代表的な通知方法について「何をきっかけに、誰へ、どのように知らせたいのか」という観点から整理します。
今回は、SharePoint 上に保存したおにぎり販売実績の Excel ファイルを Power BI から参照し、次のようなレポートを用意しました。
- 売上合計
- 目標達成率
- 在庫不足件数
- 具材別売上
- 日別売上推移
- 日付・店舗・具材による絞り込み
なお、本記事では通知方法を中心に扱うため、レポートの作成方法や DAX の詳細については割愛します。また、Microsoft Fabric 全般の機能や詳細までは扱わず、Power BI から利用する通知機能を中心に紹介します。
当記事は執筆時点(2026年10月13日)での情報を記載しています
1. 通知方法を選ぶ前に整理しておきたいこと
最初に「通知したい」という要望を少し具体的に分解してみましょう。すると「決まったタイミングで通知したいのか」と「何らかの条件が成立したときに通知したいのか」の2つに大別できるかと思います。
例えば「毎朝9時に売上レポートを確認したい」という場合は「時刻」が通知のきっかけとなります。その一方で「在庫不足が1件でも発生したら知らせて欲しい」という場合は「データの状態」が通知のきっかけになります。その上で、以下の箇条のような種類が挙げられます。
- メール サブスクリプション
- データ アラート
- Fabric Activator アラート
- 更新失敗通知
- Power Automate
中にはテナント管理者の設定(許可)が必要な通知方法や、別途、Power BI のライセンスを要する設定も含んでいます
2. Power BI のメール サブスクリプション
まずは、Power BI からレポートをメールで届ける方法です。Power BI の「メール サブスクリプション」を利用すると、設定したスケジュールに応じてレポートやダッシュボードをメールで受け取ることができます(※以下、サブスクリプションと表記します)
サブスクリプションを作成するためには、対象レポートのアクセス権に加えて次のいずれかが必要になるためご注意ください。よく分からなければ、IT の担当者に問い合わせるとよいと思います。
- Power BI Pro ライセンス
- Premium Per User ライセンス
- あるいは、Premium 容量に配置されたワークスペースへのアクセス
2.1. サブスクリプションを設定する
下記画像を参考に、Power BI Service(=インターネット上で開く Power BI)で対象のレポートを開き、画面上部にある「受信登録する」を選択します。見当たらない場合は、"subscription" に該当する日本語を探し出すとよいと思います。
クリックすると、画面右手に「サブスクリプション」と書かれたウィンドウが表示されます。主な設定項目は次のとおりです。
- サブスクリプション名
- 受信者
- 配信期間(終了日は省略可)
- 配信頻度
- 配信時刻
- タイムゾーン(大阪、札幌、東京)
2.2. データ更新後に送信したい場合
サブスクリプションでは、日次、週次、月次などの定期配信以外にも、データ更新後にメールを送信する設定もあります。例えば、毎朝データを更新し、その更新後に最新のレポートをメールで届けたい…といったシナリオで利用できそうです。
ただし、記載の通り「データ更新後」を指定したサブスクリプションは、その日の最初のスケジュール更新後にのみメールが送信されます。更新頻度や配信タイミングについては、実際の運用に合わせて確認しておきましょう。
2.3. サブスクリプションが向いている場面
以上、サブスクリプションは「レポートそのものを定期的に通知したい」ときに利用すると効果的です。毎日の実績確認や週次報告など、定期的にレポートを見てもらいたい場合には、まず検討しやすい方法です。委細は、下記公式情報をご一読くださいませ。
3. Power BI アラート機能の色々
次は、数値が一定の条件を満たしたときに知らせる方法です。今回のおにぎり販売実績であれば、データが更新され、その結果として在庫不足件数が 0 より大きくなった場合にアラートを発生させる、といった使い方が考えられます。
Power BI のアラート機能にはいくつか種類があります。中でも以前から存在する「データ アラート」は、設定できる対象がダッシュボード上の①カード、②KPI、③ゲージに限られている点に注意が必要です。
一方、現在は Fabric Activator を利用して、Power BI レポート上から直接アラートを作成する方法もあります。この方法では、レポート上の値を監視して、条件を満たした場合にメールや Teams へ通知できます。
また、作成したアラートを Fabric Activator 側でさらに細かく設定し、複雑な条件の設定や Power Automate との連携へ発展させることも可能になりました。
ただし、誰でも利用できる機能ではない認識です。Fabric または Premium 容量を利用できるワークスペースや、対象レポートへの必要な権限などが前提です。また、作成者向けの公式情報では、組織側で Fabric Activator アラートの利用を許可するテナント設定も前提条件として案内されています。
利用を検討する場合は、読者の皆さまが所属する組織の Power BI および Fabric 環境を確認する必要があります。
Fabric Activator 自体は一般提供されていますが、Power BI レポート上から Fabric Activator を利用してアラートを作成する機能は、記事執筆時点(2026年10月13日)では「プレビュー」です。今後、仕様や利用条件が変更されるかもしれません。実運用への導入時には、最新の公式情報をご確認ください。
なお、公式ドキュメントにも Power BI 側と Fabric 側で記載の差が見られるため、本記事では確認できた範囲を整理しており、筆者も引き続き調査中です。
3.1. (たぶん) 一般的な方法
まず、Power BI Service でレポートを開き、「在庫不足件数」のカードをダッシュボードへピン留めします。ピン留めの方法は、対象のカードを選択して「画鋲」のアイコンをクリックします。
次に、ピン留めするダッシュボードを選択します。作成したことがない場合は新しく作成し、既に作成済みの場合は既存ダッシュボードを選択します。なお、ダッシュボードとは、複数のレポートから重要なビジュアルだけを集めて1ページに並べた、便利な監視用画面のことです。
続いてダッシュボードを開き、対象のカードから「アラートの管理」を選択します。
画面右手に現れるウィンドウで「アラート ルール」を追加し、条件を設定します。主な設定内容は、次の画像の通りです。
これで、在庫不足件数が0より大きくなった場合にアラートを発生させることができます。メールも受信できるように設定しておくことでより在庫不足に気付きやすくなると思います(届いたメールを見ない場合はその限りではありません)
3.2. Fabric Activator アラート
3.1. で示した通知手段は、使用できるビジュアルが①カード、②KPI、③ゲージの3つに限定されていました。しかし、これら以外のビジュアルからもアラートを作成する方法が登場しました。以下のように、対象ビジュアルのベルマークをクリックすると、右手に設定画面が表示されます。
利用できる状態になっていればですが、直感的な操作で設定できるため、色々と触ってみて試してみると良いのではないかと思います。こちらの方法は、メール以外にも Teams への通知を選択可能です。設定できていれば、以下のような通知が送られてくると思われます。
筆者の検証環境では、通知内に表示される時刻と Teams に届いた時刻との間に9時間の差が見られました。時刻表示については、実運用前に利用環境で確認しておくとよさそうです。
3.3. 「アラートの設定」 から作成する方法 (= Fabric Activator)
3.2. で示した Fabric Activator アラートは、上に添付した画像からでもたどり着けます。内容や操作感は同じものです。以下、同文ですが、様々な通知業務には役立てられるのではないかと考えています。
3.4. データ更新に失敗したときに通知したい
Power BI は、取り込んでいるデータ(セマンティックモデル)を定期的に更新することで、レポートを最新の状態に保つことができます。しかし、データソースへの接続や資格情報、列の構成に変化や問題が生じた際、更新に失敗することがあります。
スケジュールされた更新に失敗した場合、セマンティックモデルの所有者へメールで通知する機能が標準で用意されています。以下のように「設定」を開きます。
次に「最新の情報に更新」から、赤枠部分の更新エラーと重大な警告通知の送信先で通知対象者を設定します。既定では、更新に問題が発生した場合にセマンティックモデルの所有者へメール通知が送信されます。
スケジュール更新の利用条件や1日の更新回数は、Power BI のライセンスやワークスペースの容量によって異なります。詳細は公式情報をご確認ください。
4. Power Automate (クラウドフロー) で通知する
最後は、クラウドフローとの連携です。Power BI の標準機能だけでは、通知文章を自由に作成したり、通知後に別の処理も実行したりすることはできません。そのような場合には Power Automate を組み合わせることで実現できることもあると考えられます。
4.1. 決まった時刻に通知したい
まずは、毎朝9時に Teams へ Power BI レポートのリンクを投稿したいケースです。メールでレポートを定期配信するだけであれば、Power BI の「サブスクリプション」で対応できます。
一方、通知文面も自分で考えた上、何かの処理をきっかけに Teams へ定期的に案内したい場合などには、Power Automate の「スケジュールされたクラウドフロー」を利用する場面かなと思います。
「繰り返し」トリガーでは、実行頻度や開始時刻、タイムゾーンなどを設定します。日本時間で実行する場合は、タイムゾーンの設定も確認しておきましょう。
その後、Microsoft Teams の「チャットまたはチャネルでメッセージを投稿する」アクションを追加し、投稿先とメッセージを指定します。イメージだけ付しておきます。設定次第では、指定のチャネルにも投稿できます。
なお、Teams にレポートの URL を投稿しても、閲覧権限が付与されるわけではありません。閲覧者には対象レポートへのアクセス権が必要です。また、必要な Power BI ライセンスは、レポートが配置されているワークスペースの容量構成などによって異なります。
サブスクリプションとの違いは、Teams などの通知先やメッセージ、その後に実行する処理を Power Automate 側で構成できる点なので、必要に応じて使い分けるとより便利に備忘通知などを実装できるのではないかと思います。
4.2. Power BI のアラートをきっかけに通知したい
3.1.(下記画像)でも紹介したように、Power BI には、ダッシュボード上の カード、KPI、ゲージなどの値が設定したしきい値を超えた場合に通知する「アラート」があります。「在庫不足件数が 0 を上回ったら通知する」といった単純なしきい値の監視に利用できました。
まずは事前作業として、Power BI 側でデータアラートを作成しておく必要があります。アラートが作成できていれば、下記のように Power BI コネクタの「データドリブン アラートがトリガーされたとき」アクションに、対象のアラートが表示されます。
その後、Power Automate で Power BI のデータアラートをトリガーとしてフローを作成します。Teams への通知だけでなく、SharePoint リストやライブラリに保存されているファイル操作など、後続処理を繋げられる利点があります。
ただし、この方法は Power BI 側であらかじめ作成したアラートを起点とするため、店舗や部門ごとに異なる条件を判定するなど、より柔軟な条件設定には向かない場合があります。
4.3. より柔軟な条件で通知したい
ここまで紹介したアラートは「在庫不足件数が 0 を上回ったら通知する」といった、あらかじめ用意した指標を監視する用途には適していました。一方で、実際の業務では、次のような切り口で通知したい場合があるかもしれません。
- 複数店舗のうち、在庫不足が発生している店舗だけ通知したい
- 部門ごとに数値を確認し、基準値を超えた部門だけ通知したい
- 複数の条件を組み合わせて通知対象を判定したい
- 店舗や部門によって通知先を変えたい
このような場合には、Power Automate の Power BI コネクタにある「データセットに対してクエリを実行する」アクションを利用する方法があります。
この方法であれば、レポート上にカードビジュアルをあらかじめ用意しておく必要はありません。また、Fabric Activator アラートを利用できない環境でも、Power Automate 側で条件判定や後続処理を組み立てることができます。
Power BI のセマンティックモデルに対して直接クエリを実行できるため、「どの店舗が条件を満たしているか」といった単位で結果を取得し、その結果を Power Automate の条件分岐や後続処理に利用できます。例えば、取得した結果を SharePoint リストへ履歴として登録するといった処理も可能です。
今回のおにぎり販売実績では、最新のデータから在庫確認が必要な具材を店舗ごとに取得し、店舗によって通知先を切り替えて Teams へ通知するフローを作成してみました。
例えば「駅前店なら A さん」「オフィス街店なら B さん」のように通知先を切り替え、対象となった具材や現在庫、発注点を通知文へ差し込むこともできます。
単純なしきい値監視であれば Power BI のアラートで十分ですが、通知対象を細かく判定したい場合や、結果に応じて通知先、ならびに、後続処理を変えたい場合には、Power Automate からセマンティックモデルを照会する方法も選択肢になり得ます。
この方法を利用するには、組織の Power BI 環境で「セマンティックモデルに対してクエリを実行する機能」が許可されている必要があります。また、フローを実行するユーザーには、対象のセマンティックモデルを閲覧・利用できる権限が必要です。利用できない場合は、Power BI の管理者に設定や権限をご確認ください
結
Power BI での通知方法は「いつ、どこへ通知したいのか」ならびに「どのような条件で判定したいのか」そして「通知後に別の処理が必要か」といった観点から捉えると整理しやすいのではないかと考えています。
① レポートを定期的にメールで届けたいだけであれば、まずは「メール サブスクリプション」が候補になります。Power BI の機能だけで完結するため構成はシンプルですが、レポートを他者に共有するため、利用にはライセンスの条件がありました。
② 数値が一定の条件を満たしたときだけ知らせたい場合は「データ アラート」が向いています。単純なしきい値の監視には使いやすい一方で、対象となるビジュアル(カード、KPI、ゲージ)に制約がありました。
③ より柔軟にレポート上の値を監視したい場合は「Fabric Activator アラート」も選択肢になります。Teams への通知なども行えますし、②の「データ アラート」よりも多くのビジュアルを対象にできます。ただし、Fabric を利用できる環境や権限が必要になるため、組織の環境を確認した上で検討する必要がありました。
④ データ更新そのものが失敗したことを知りたい場合は、Power BI に用意されている更新失敗通知を利用できます。スケジュール更新の失敗を把握するだけであれば、別途フローを作成する必要はありません。
⑤ 一方で、店舗や部門によって通知先を変えたい、複数の条件から通知対象を判断したい、通知後に SharePoint への登録など別の処理まで続けたい、といった場合には Power Automate を組み合わせる意味が出てきます。クエリの結果に応じて通知先を振り分けるなど、より細かな制御が可能です。
単にレポートを定期的にメールで届けるだけであれば、まずはサブスクリプションを検討できます。また、単純なしきい値の監視であれば、データ アラートや、利用できる環境では Fabric Activator アラートも候補になります。
一方で、店舗によって通知先を変えたり、複数の条件から通知対象を判断したり、通知後に別の業務処理を続けたりする要件では、Power Automate を組み合わせる意味が出てきます。
まずは Power BI 側に用意されている機能で要件を満たせるかを確認し、それだけでは足りない場合に Power Automate などで拡張する…と、整理しておくとよいのではないかと筆者は考えています。
序文で述べた通り、Power BI は、データを「見えるようにする」だけでなく、そこから気付き、必要な人へ知らせ、次の行動に繋げてこそ業務の中で活きるものです。
通知はそのための小さな仕組みのひとつですが、目的によって適した方法は異なります。まずはシンプルな方法から試し、必要に応じて Power Automate などで拡張していくのがよいのではないかと考えています。
当記事が、Power BI の通知方法を考える際の参考になれば幸いです。






















