こんにちは。AWS AI League1年生の人です。
普段はWeb・クラウドを軸に、AIやデジタルアイデンティティ領域に携わっているエンジニアです。業務の半分はプロジェクトのアーキテクトと設計開発、もう半分は全社の品質・生産性向上、人材育成を担当しています。
これまで、国内外のハッカソンや技術コンペに参加してきました。先日も「AIエージェントと認証・認可」をテーマにしたハッカソン「Authorized to Act: Auth0 for AI Agents」に参加しました。
この内容についてはまた後日、記事にしようと思います。
今回は、自身の振り返りも兼ねて 「仕事(業務)としてハッカソンに参加すること」 を整理しました。
本記事の内容は、すべての会社や組織、状況に当てはまるものではありません。あくまでこれまでの私の経験から考え方を整理したものです。
なお、業務時間内での参加にあたっては、事前に上長との合意のもと、取り組みの目的や位置づけを整理したうえで参加しています。
もちろん、ハッカソンは主催者やコミュニティによる技術普及や創造的な挑戦の場でもあります。
参加にあたってはルールや趣旨を尊重し、アウトプットの共有や交流も大切にしています。
こんな方に読んでほしい
- 管理職・エンジニアリングマネージャー(EM)や人材育成に関わる方
- ハッカソンや技術コンペに興味はあるが、実務へのメリットがイメージできていない中堅・シニアエンジニアの方
この記事では対象外にしていること
- 若手・ジュニア・入門者の方については、まず挑戦する経験そのものが成長の土台になると考えていますので、その観点でのハッカソン参加の意義については語ってはいません
- チームビルディングや、社内のコミュニケーション活性化を目的としたハッカソンについては、テーマや内容について選定のポイントが異なると思うので、今回は対象外にしています
- 入賞後にプロダクト化や実証実験費用の補助など、事業化を前提とした次のステップにつながるハッカソンについても、本記事では対象外としています
仕事としての「ハッカソン」との向き合い方
あくまで私の考えですが、業務で参加する場合は、以下のようなポイントを重視してテーマや内容を選ぶとよいと思います。
- 業務と技術のテーマ整合性: 自社の業務内容に関連性があるか、あるいは将来的に業務で使う可能性のある技術がテーマに含まれるか?
- 人材開発: 参加することにより特定技術の習得や技術の特性やユースケースの理解が得られるか?
- アウトプットの内容: 参加することにより、提案や技術的なアウトプットが得られるか?(例:プロトタイプや、技術的な知見の社内展開などにつながるか)
業務時間を使って参加する意義について
1. 「やったことがないから、業務にできない」ー技術導入リスクを低減するための先行技術検証
エンジニアに求められる重要な役割のひとつはリスクを低減することです。そして、システムの安全性と信頼性に責任を持つことです。
そのため、実績が無い技術の導入には慎重にならざるを得ません。未経験の技術をぶっつけ本番で導入することはリスクとなり、「リスク回避のために、今回のプロジェクトでは採用を見送る」 ということは珍しいことではないです。
(余談ですが、こういったケースでは有識者によるプロフェッショナルサービスをプロジェクト導入することでリスクを低減するケースもあります。)
- 実務の壁: 実績がない技術は、技術的な実現性や自社で安全に開発運用を行う観点から採用ハードルが高い。
- ハッカソンの役割: その技術特有の「ユースケース」や「最初の落とし穴」をあらかじめ体験しておく場。
将来的に業務で使うかもしれない「仕事で扱ったことのない技術」を、ハッカソンという安全な場で実際に設計・開発しておく。
ハッカソンを通して技術の特性やユースケースの課題を深く理解し、当事者体験として自分の中に刻んでおく。
この 事前演習(先行技術検証) を重ねることで、いざ本番のプロジェクトへ導入する際のリスクを低減できると考えます。
つまり、ハッカソンでの経験は、実績がない技術を本番で導入する際のリスクを見極める「予行演習」として機能します。
この経験は「コスト」ではなく、将来的に大きな手戻りを防ぎ、リスク低減につなげるための「投資」であると考えています。
2. 「経験の場をつくるのは簡単なことではない」ー教育コストの最適化と外部アセットの活用
人材育成の観点では、資格試験などで「知識」を得ることは比較的容易ですが、実践的な 「経験」を得る場 を設けることは簡単ではありません。経験の場を意図的につくる必要があります。
| 育成の要素 | 特徴 | 課題 |
|---|---|---|
| 資格試験 | 体系的な知識は得られる | 実践的な判断力までは養いにくい |
| 通常業務 | 実績にはなるが、経験は配属先やプロジェクトに依存する | 未知の技術に挑戦する機会が限られる |
| 社内で「仮想プロジェクト・仮想プロダクト」を企画 | 実務に近い経験が得られる | 企画立案の体制構築、費用対効果の説明など、設計開発以前の手続きが必要 |
| 社内で「クローズドのハッカソン」を企画 | テーマ、開催タイミングを自由に決められる 社内の有志メンバーが参加できる |
ハッカソン企画・運営の体制構築が必要。また有識者の参加が必要 |
| 社外のオープンハッカソン | 短期間で設計・開発・公開まで経験できる | 開催日程は開催側に依存 業務として認める文化や、挑戦する行動やプロセスを評価する制度があること |
社外ハッカソンのその他のメリット
資格試験、通常業務、社内施策にはそれぞれに利点がある一方で社外ハッカソンには、以下のようなメリットもあると考えています。
- 適切なルールとガイド: レクチャーやガイダンスが用意されていることが多い。
- 適度な強制力: 締め切りと競い合う相手がいることで、モチベーションが維持される。
- 業界の専門家が評価: 参加者のアウトプットに対して、その技術領域の専門家から評価、フィードバックが得られる。
いわば、外部ハッカソンは 「実践型の短期集中研修」 のようなものだと考えています。
3. 「I字型スキルからT字型スキルへの一歩」ーサイロを越え、越境経験で組織力を高める
今や、一般的なコード記述についてはAIが強力に支援してくれる時代です。だからこそ、設計や価値判断、チームでのすり合わせの重要性が増しています。
その分、エンジニアにはひとつの専門領域を深めるだけでなく、周辺領域まで視野を広げ、他者とつながりながら価値を高めていく力がより求められています。
ハッカソンは、課題設定、要件整理、設計、実装、発表までを短期間で一気通貫に経験できる場です。普段の業務では経験できない担当外の領域にも踏み込めるため、I字型の専門性を土台にしながら、T字型へと横幅を広げる実践の機会になります。
仕事としての「ハッカソン」の持ち帰り方
「ハッカソンに参加する」というアクションも、誰にでも簡単にできることではなく素晴らしいチャレンジです。さらに、ハッカソンで得た経験や知見を業務に活かすためには、以下のようなポイントを意識してみるとよいと思います。
- 自社の業務やプロジェクトへの適合: ハッカソンで入賞するかどうかに関わらず、「この技術は今の業務、プロジェクトには合わない」という知見が得られれば、それは「成果」です。また、新規プロジェクトの技術選定の際に、ハッカソンで得た知見を活かし実務転用することも期待できます。
- 技術的落とし穴の予防シート: 「開発中にハマったポイント」「ドキュメントの説明の充実度」「社内の開発プロセス、社内環境で再現するときの壁」など、プロダクトに残りにくい「泥臭い知見」の共有、水平展開も大事です。
このように、ハッカソンでのアウトプットを実務へとつなげていくサイクルこそが、業務時間を使って参加する真の価値だと考えています。
(おまけ)人材獲得・採用力の観点でも、ハッカソンや技術コンペは有効
自社の風通しのよさや、技術的なチャレンジができる環境をアピールすることができます。
アップデートの激しいIT業界はエンジニアの 「会社が学習を支援してくれるか」 という点は非常に重視されます。
ハッカソンへの参加を業務として認め、実際にアウトプットを出しているという事実は、 「この会社はエンジニアの成長に本気で投資している」 というひとつの有効な指標になります。
また、結果として入賞や、技術的なアウトプットが評価されることで、社内外に対してエンジニアリングのレベルの高さを示すことができます。
現代のハッカソンは、より参加しやすくなっている
最近では生成AIの活用により、参加のハードルが劇的に下がりました。
自分たちに足りないスキル(英語のプレゼン資料作成や動画制作など)をAIにサポートしてもらうことで、技術の本質(設計やロジック)の検証に割ける時間が増し、業務としての学習密度もあがります。
また、業務時間を有効に使いながらハッカソンに参加することができます。
ハッカソンは「次の仕事」に続くもの
ハッカソンは、次に巡ってくる仕事のチャンスをつかむための「可能性を広げる場」と考えています。
「学びたい」という個人の熱量を、いかに「次の仕事」という成果に結びつけるか。その有効な手段のひとつとして、ハッカソンという場の活用を、技術者だけでなくエンジニアリングマネージャーや人材育成担当の方々にも理解していただけたら幸いです。
そして何より、ハッカソンの参加がつらい業務になってしまってはいけません。
「楽しみながら学ぶ」という気持ちは忘れずに取り組んでいきましょう!
Enjoy the Hackathon!