現在、自分自身が社内でAI教育を担当していることもあり、他の企業がどのようなAI教育を行っていて、それがどれくらいの効果を出しているのかを知りたいと思い、第5回 デジタル化・DX推進展(ODEX)内で開催されたAI人材の教育についてのセミナーを受講してきました。
自社のAI教育をより良くしていくためのヒントを得るため、他社の事例や成功体験などの情報収集を主な目的としています。本記事はそのメモになります。
1. セミナー概要
- 展示会名: 第5回 デジタル化・DX推進展(ODEX)
- 開催日時: 2025年6月4日(水) ~ 6日(金) 10:00~17:00
- 開催場所: 東京ビッグサイト 東1~3ホール
- 聴講セミナー:
- ① 全社員が生成AIを使える日は来るのか?──エン・ジャパンでの生成AI推進と人材育成
- 日時: 6/4(水) 11:20-11:50
- 発表者: エン・ジャパン(株) DX推進グループ/グループマネージャー 高橋 淳也 氏
- テーマ: 大手企業における生成AI推進と人材育成の実例紹介
- ② 東大松尾研発スタートアップが実践するAIネイティブな組織づくり
- 日時: 6/4(水) 12:10-12:40
- 発表者: Polaris.AI株式会社 代表取締役CEO 徳永優也 氏
- テーマ: AIを組織の中核に据えた「AIネイティブな組織」の構築方法
- ③ AIエージェント時代到来。いま企業に求められる人材育成のキホン
- 日時: 6/4(水) 14:40-15:10
- 発表者: (一社)生成AI活用普及協会(GUGA) 業務執行理事 兼 事務局長 小村 亮 氏
- テーマ: AIエージェント時代における生成AI人材の定義と育成のポイント
- ① 全社員が生成AIを使える日は来るのか?──エン・ジャパンでの生成AI推進と人材育成
2. 主要なトピックと発表内容
① 全社員が生成AIを使える日は来るのか?──エン・ジャパンでの生成AI推進と人材育成
概要
エン・ジャパンにおける生成AIの社内浸透事例。攻めのDX(外部向け)と守りのDX(内部向け)の四象限で活動を分類し、内部向けのDX、特に営業部門の生産性向上に注力している。
ケーススタディ
- 2018年、AI活用で求人広告の文字構成コストを40%削減。
- ChatGPT/Copilot等を用いて、学習コンテンツ策定、社内用生成AI検討、営業生産性向上(3割減)を目指す。
推進プロセス:
- プロダクトへの組み込み(転職サイト)、ビジネスへの組み込み(日々の業務)。
- 生成AIガイドライン整備、社内AI整備、Copilot全社利用。
課題と解決策:
- 課題: 営業部門の商談準備に時間がかかる(特に新人・若手)。
- 解決策:業務分析を行い、タスクごとにブレイクダウン。標準化できる部分は生成AIを使わず、企業別にカスタマイズが必要な部分にのみ生成AIを活用。
- プロンプトを意識させないUI/UX。裏側に複雑なプロンプトを仕込んだツールを開発(例:業界と担当名を入力するだけで3C分析が出力される)。
- これにより、商談準備が33%減り、受注確率が2割アップ。
生成AI推進の難しさ:
- 「何でもできるように見える」ため、具体的な使い道が不明確になり、不安を煽る。
- 利用者の声が二分される(意欲的な人と尻込みする人)。
- イノベーター理論に基づき、 マジョリティ層(アーリーマジョリティ以降) を動かすことを重視。業務コンサルティングを行い、プロンプトを作成し、成功事例を作ることでコア人材を育成。
人材育成の勘所:
- 生成AIの進化を待つだけでなく、着実に歩みを進める。
- 正しく使える人(コア人材) を育成し、成功事例を作ることで不安を解消。
- 適性テストでコア人材を洗い出し、主体的に仮説検証できる人材に最初に与える。
- 研修ではプロンプトではなく、論理的な指示の出し方を教える。ハイコンテクスト文化の日本人には特に重要。
- 体験を通じて正しい理解を促進し、コミュニケーション能力を磨く研修を作成。
② 東大松尾研発スタートアップが実践するAIネイティブな組織づくり
概要
AIを単なるツールではなく、組織の意思決定と業務プロセスの中核に据えた「AIネイティブな組織」の構築方法。
AIネイティブな組織とは
- 人事評価にAI活用苦心に関する項目を導入。
- AIオペレーションマネージャ(既存業務のAIへの置き換え担当)を配置。
- 大規模モデルの登場により、データセットを自前で用意する必要がなくなる。
- 人間がAIエージェントをマネジメントしていく組織。
ネイティブな組織の要素とは?
- AIを前提としたビジネス設計
- データとモデルが主役のシステム
- AIに任せる自動化業務
- AIと人が協働するカルチャー
AIネイティブ化のメリット:
- ビジネスのスケーラビリティ向上(人材がボトルネックにならない)
- 効率性・生産性の向上、属人化の防止
- 意思決定の質の向上(膨大なコンテキストに基づいた正確な意思決定)
AIネイティブ化の進め方:
- 業務分析を行い、適正かつインパクトのある業務を選定
- AIエージェントのアーキテクチャを選定
- 定例会議で定期的に見直しを行う
課題と展望:
- スピードよりもリスク回避を重視する文化(日本にありがち)
- データがデジタル化されていない問題
- デジタル化、データ整備を通じてAI-readyな状態を作る必要性
細かい課題
- 各種ツールの選定(インターフェース、API設計)。
- AIが理解しやすいデータ形式。
- 意識改革、組織改革、チェンジマネジメントの進め方。
③ AIエージェント時代到来。いま企業に求められる人材育成のキホン
概要
2025年を「AIエージェント元年」と捉え、企業が育成すべき生成AI人材の定義と育成のポイント。
生成AIのトレンド:
- 組織特化型から、産業特化型、個人特化型へと発展。
- 業界横断の広範型や個人に最適化された型が重要になる。
- AGI(汎用人工知能)の入り口に立っている。
生成AI人材の定義:
- 生成AIを学び続けている人材(コンサルタント、マネージャ、アンバサダー、プロンプトエンジニアなど)、生成AIを提供して活用を推進するリーダー、生成AIの能動的利用者、生成AIの利用ハードル低下に伴い、無意識に生成AIを使う受動的利用者など、様々なレイヤーの人材が存在する。
AIスキル二極化:
- 企業に実装していくスキルは高度化、利用スキルは簡素化していく。ただし、全員が企業実装の能力を持つ必要はない。
- プロンプトを書かなくても良い時代が来る。
変わらないこと:
- AIリテラシーの標準化。AI利用のハードルが下がるため、更なる標準化が求められる。
生成AI + リスキリング:
- リテラシーとスキルに分けて考える(どちらも重要)。
- スキル習得は可視化しやすいが、可視化しづらいリテラシーも不可欠。
- AI事業者ガイドラインにもリテラシー確保が明記されている。
AIリテラシーとは:
- スキルを最大限に発揮するための運転免許証のような役割。
- AIとの付き合い方やOK/NGの線引きを把握する必要がある。
- 知識、マインドセット、入門的なスキルの習得を含む。
リスク観点:
- 誤情報、偏向、悪用された情報。
- 個人情報、秘密情報の漏洩。
- 知財権侵害(法的だけでなく倫理的な問題も含む)。
- 不正競争防止法への抵触。
人材育成の方向性:
- リテラシーが低いがスキルは高い人材 が最も危険。この層を正しく生成AIと協働する人材に底上げすることが重要。
- リーダーよりも、生成AIと協働する人材のボリュームアップが重要。
- 利便性だけでなく、リテラシーの底上げが必要。
- 生成AIパスポート試験:リスクを予防するための資格試験。日本最大受験者数。初心者向け。
3. 所感・考察
今回のセミナーでは、生成AIの社内浸透における課題と解決策、AIネイティブな組織構築、そしてAIリテラシーの重要性について、具体的な事例やデータに基づいた発表を聞くことができ、非常に有益でした。
特に、以下の点が強く印象に残りました。
- マジョリティ層へのアプローチ : 生成AIに抵抗感を持つ層を巻き込むためには、業務分析に基づいたタスクの洗い出しと、プロンプトを意識させないUI/UXが重要。
- AIネイティブ定例 : 定期的にAIによる業務置き換えを検討する取り組みは、継続的な改善に繋がる良いアイデアだと思いました。
- AIリテラシーの重要性 : ツール利用スキルの向上だけでなく、リスクを理解し倫理的な判断ができる人材育成が今後は不可欠になると改めて認識しました。
これらの知見を活かし、今後は以下の点に注力すべきだと考えます。
- 業務分析の強化 : 各部門の業務を詳細に分析し、生成AIが有効に活用できるタスクを明確化する。
- リスク管理教育の拡充 : ツール利用スキルだけでなく、情報漏洩、著作権侵害などのリスクに関する教育を強化する。
- AIリテラシー教育の体系化 : 全社員を対象としたAIリテラシー教育プログラムを開発し、共通言語の醸成とリスク意識の向上を図る。
現在、DNPでは各種生成AIツールや、その使いこなし方に関する社内教育に重点を置いている状況です。本セッションを聞いて、今後は「生成AIとは何か?(生成AIに対する不安をなくすアプローチ)」、「使った時のリスク観点の理解」といった基本的な内容を含む、裾野を広げた教育コンテンツが必要になると感じました。