はじめに
常微分方程式(ODE)は、力学系、回路、制御系の数学モデルとして現れる。本稿では、基本的な微分方程式を 時間領域のODE として定式化した後、それを 周波数領域(ラプラス変換) に移して 伝達関数(transfer function) を導出する。
例1: 一階線形常微分方程式(定数係数)
$$
\frac{dy}{dt} = a \quad (a \text{ は定数})
$$
両辺を積分して、
$$
y = at + C \quad (C \text{ は積分定数})
$$
初期条件 $y(0) = 0$ が与えられているとき、$C = 0$ より、
$$
y = at
$$
が特解となる。
例2: 二階定数係数常微分方程式
$$
\frac{d^2y}{dt^2} = a \quad (a \text{ は定数})
$$
まず一階の積分:
$$
\frac{dy}{dt} = at + C_1
$$
さらに積分して:
$$
y = \int (at + C_1),dt = \frac{1}{2}at^2 + C_1t + C_2
$$
初期条件 $y(0) = 0, \frac{dy}{dt}\big|_{t=0} = b$ のとき、
$$
C_1 = b,\quad C_2 = 0
$$
したがって特解は、
$$
y = \frac{1}{2}at^2 + bt
$$
例3: 減衰型一次微分方程式
$$
\frac{dy}{dt} = a - by \quad (a, b \text{ は定数},\ b \ne 0)
$$
両辺を分離変数法で整理:
$$
\frac{dy}{a - by} = dt
$$
積分して:
$$
- \frac{1}{b} \log\left|a - by\right| = t + C
$$
変形すると:
$$
y = \frac{a}{b} + Ae^{-bt}
$$
初期条件 $y(0) = 0$ より $A = -\frac{a}{b}$、
したがって特解は:
$$
y = \frac{a}{b}(1 - e^{-bt})
$$
例4: 指数関数的成長・減衰
$$
\frac{dy}{dt} = -a \frac{y}{t} \quad (a \text{ は定数})
$$
両辺を分離して積分:
$$
\frac{dy}{y} = -a \frac{dt}{t}
\Rightarrow \log|y| = -a \log|t| + C
$$
よって:
$$
y = A t^{-a} \quad (A = \pm e^C)
$$
例5: 単振動(調和振動子)
$$
\frac{d^2y}{dt^2} = -a y \quad (a > 0)
$$
この2階線形微分方程式の一般解は:
$$
y = A \sin(\sqrt{a}t + \theta)
$$
ここで $A$, $\theta$ は積分定数であり、初期条件に応じて定まる。
例1: 一階積分系(加速度 → 速度)
時間領域:
$$
\frac{dy}{dt} = a \quad (a \text{ は定数})
$$
ラプラス変換:
$$
sY(s) = \frac{a}{s}
\Rightarrow G(s) = \frac{Y(s)}{U(s)} = \frac{1}{s}
$$
※ここで入力 $u(t) = a$ を定数ステップ入力とみなす。
例2: 二階積分系(加速度 → 位置)
時間領域:
$$
\frac{d^2y}{dt^2} = a
$$
ラプラス変換:
$$
s^2Y(s) = \frac{a}{s} \Rightarrow G(s) = \frac{Y(s)}{U(s)} = \frac{1}{s^2}
$$
※ここでも $u(t) = a$ をステップ入力とみなしている。
例3: 一階遅れ系(減衰付き一次系)
時間領域:
$$
\frac{dy}{dt} + b y = a
$$
ラプラス変換:
$$
sY(s) + bY(s) = \frac{a}{s}
\Rightarrow G(s) = \frac{Y(s)}{U(s)} = \frac{1}{s + b}
$$
定常応答は:
$$
Y(s) = \frac{a}{s(s + b)} = \frac{a}{b}\left(\frac{1}{s} - \frac{1}{s + b}\right)
\Rightarrow y(t) = \frac{a}{b}(1 - e^{-bt})
$$
例4: 指数減衰付き変数係数系
時間領域:
$$
\frac{dy}{dt} = -a \frac{y}{t}
$$
この式はラプラス変換では取り扱いに注意が必要(係数が $t$ の関数)なため、伝達関数の定義が困難。代わりに変数分離によって:
$$
y = A t^{-a}
$$
このように時間依存係数を持つ非LTI(線形時不変)系では、伝達関数が定義できないことがある。
例5: 単振動系(2階線形振動系)
時間領域:
$$
\frac{d^2y}{dt^2} + a y = 0
$$
ラプラス変換:
$$
s^2Y(s) + aY(s) = 0
\Rightarrow G(s) = \frac{Y(s)}{U(s)} = \frac{1}{s^2 + a}
$$
逆変換により:
$$
y(t) = A \sin(\sqrt{a}t + \theta)
$$
伝達関数による一般的な見通し
種別 | 微分方程式 | 伝達関数 $G(s)$ |
---|---|---|
積分系 | $\frac{dy}{dt} = a$ | $\frac{1}{s}$ |
積分2階 | $\frac{d^2y}{dt^2} = a$ | $\frac{1}{s^2}$ |
一階遅れ系 | $\frac{dy}{dt} + b y = a$ | $\frac{1}{s + b}$ |
単振動系 | $\frac{d^2y}{dt^2} + a y = 0$ | $\frac{1}{s^2 + a}$ |
変数係数系 | $\frac{dy}{dt} = -a \frac{y}{t}$ | 定義不可(非LTI) |
おわりに
伝達関数は常微分方程式を系の「ブラックボックス表現」として扱う強力な手段であり、応答解析・安定性評価・設計において広く用いられる。特に線形時不変系(LTI系)においては、周波数領域での解析により直感的かつ効率的な理解が可能になる。