🔷 第1章: 統計力学の基礎
🔹 1.1 ボルツマン分布
$$
f(E) = \frac{1}{Z} e^{-\beta E}, \quad \beta = \frac{1}{kT}
$$
- 確率的に状態 $E$ にある粒子の割合を示す。エネルギーが高いほど出現確率は指数的に減少。
- $Z$ は正規化のための分配関数。
🔹 1.2 分配関数
$$
Z = \sum_i e^{-\beta E_i} \quad \text{または} \quad Z = \int D(E) e^{-\beta E} dE
$$
- すべての状態の統計的重みの総和。熱力学量の出発点。
🔹 1.3 自由エネルギー
$$
F = -kT \log Z
$$
- 系全体の平衡における有効なエネルギー尺度。最小化される。
🔹 1.4 内部エネルギー
$$
U = -\frac{\partial}{\partial \beta} \log Z
$$
- 熱エネルギーの平均。分配関数から導出される。
🔷 第2章: 電子統計
🔹 2.1 フェルミ-ディラック分布
$$
f(E) = \frac{1}{e^{(E - \mu)/kT} + 1}
$$
- フェルミ準位 $\mu$ を中心に電子の占有確率を表す。
- $T \to 0$ ではステップ関数に近づく。
🔹 2.2 状態密度 (3次元)
$$
D(E) = \frac{1}{2\pi^2} \left( \frac{2m^*}{\hbar^2} \right)^{3/2} \sqrt{E - E_c}
$$
- 単位エネルギーあたりに存在する電子状態数。$m^*$ は有効質量。
🔹 2.3 電子濃度
$$
n = \int_{E_c}^\infty D(E) f(E) dE
$$
- 導電帯に存在する電子の数を表す。
🔹 2.4 ギブズ分布
$$
P(x) = \frac{1}{Z} e^{-E(x)/kT}
$$
- 状態 $x$ の確率。最も一般的な分布形式。
🔷 第3章: 半導体のバンド構造
🔹 3.1 熱平衡電子濃度
$$
n_i = \sqrt{N_c N_v} e^{-E_g / (2kT)}
$$
- バンドギャップ $E_g$ に依存し、温度で指数的に変化。
🔹 3.2 有効密度
$$
N_c = 2 \left( \frac{2 \pi m^_n kT}{h^2} \right)^{3/2}, \quad N_v = 2 \left( \frac{2 \pi m^_p kT}{h^2} \right)^{3/2}
$$
- 電子・正孔の状態密度。$T^{3/2}$ に比例。
🔷 第4章: MOS構造と統計力学
🔹 4.1 表面ポテンシャル
$$
\psi_s = \frac{qN_A}{2\epsilon_s} x_d^2
$$
- 空乏層の幅 $x_d$ による電位差。ポアソン方程式より導出。
🔹 4.2 サブスレッショル電流
$$
I_{sub} \propto e^{(V_{GS} - V_T)/nV_T}
$$
- ゲート電圧が閾値未満でも指数的に電流が流れる。
🔹 4.3 ドリフト・拡散電流
$$
J = qn\mu E + qD \frac{dn}{dx}
$$
- キャリアの電場による移動(ドリフト)と濃度勾配による移動(拡散)の合計。
🔷 第5章: MOSFET動作モデル
🔹 5.1 閾値電圧(スレッショルド)
$$
V_T = V_{FB} + 2\phi_F + \frac{\sqrt{2\epsilon_s qN_A 2\phi_F}}{C_{ox}}
$$
- トランジスタがオンになるための最小ゲート電圧。
- バルク電位 $\phi_F$、フラットバンド電圧 $V_{FB}$ などから構成。
🔹 5.2 飽和領域のドレイン電流
$$
I_D = \frac{\mu C_{ox}}{2} \frac{W}{L} (V_{GS} - V_T)^2
$$
- ゲート電圧によって形成されたチャネルを流れる電流。
- 飽和領域($V_{DS} \ge V_{GS} - V_T$)でのモデル。
🔹 5.3 サブスレッショル電流
$$
I_D = I_0 e^{(V_{GS} - V_T)/nV_T}
$$
- 微小電流領域のモデル(超低電力設計に重要)。
第6章:MOSFETの漏れ電流と量子力学的効果、FinMOSFET
6.1 漏れ電流のメカニズムと式
🔹 ① サブスレッショルリーク(Subthreshold Leakage)
電流は指数関数的にゲート電圧に依存:
$$
I_{sub} = I_0 e^{(V_{GS} - V_T)/nV_T}, \quad n = 1 + \frac{C_{dep}}{C_{ox}}
$$
- $V_T$:しきい値電圧
- $n$:サブスレッショル係数(拡散容量の影響)
- $V_T$(サーマル電圧)≒ 25.8 mV(室温)
🔹 ② ゲートトンネル電流(Gate Tunneling Current)
酸化膜が薄くなると、電子がトンネル効果でゲートへ移動:
$$
J_{tunnel} \propto E_{ox}^2 \exp\left( -\frac{B}{E_{ox}} \right)
$$
- $E_{ox}$:酸化膜中の電場
- $B$:トンネルバリアの関数
🔹 ③ ジャンクションリーク(pn接合の逆バイアス電流)
温度依存性が強い:
$$
I_{junction} \propto T^2 e^{-E_g / kT}
$$
6.2 量子効果の影響(微細化の限界)
🔸 電子の量子閉じ込め(Quantum Confinement)
酸化膜・チャネル厚さがナノスケールになると、エネルギー準位が量子化:
$$
\Delta E \approx \frac{\hbar^2 \pi^2}{2 m^* t_{ox}^2}
$$
🔸 有限バンド効果/状態密度の変化
MOSチャネルにおける2D電子気体(2DEG)のDOS変化:
$$
D_{2D}(E) = \frac{m^*}{\pi \hbar^2}
$$
6.3 FinFET(FINMOSFET)の構造と式
🔹 チャネル制御性の向上
チャネルがフィン形状となり、ゲートが3面から制御:
$$
I_D = \mu C_{ox} \cdot \frac{W_{eff}}{L} (V_{GS} - V_T)^2
$$
- $W_{eff} = 2 \cdot H_{fin} + T_{fin}$(両側と上面)
🔹 ショートチャネル効果(SCE)の抑制
- Fin構造は「電場の包囲性」が強く、DIBL(Drain-Induced Barrier Lowering)やチャネル長変調が低減される
🔹 FinFET の静電制御式
ゲート制御能力を示す "Electrostatic Integrity":
$$
\text{Electrostatic Control} \propto \frac{L}{t_{ox} + t_{fin}}
$$
🔷【1. トンネル効果(矩形ポテンシャル障壁モデル)】
✅ トンネル確率(1次元・障壁幅 $a$・高さ $U_0$・粒子エネルギー $E$):
$$
T \approx \exp\left( -2a \cdot \frac{\sqrt{2m(U_0 - E)}}{\hbar} \right)
$$
| 項目 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| $a$ | 障壁の幅 | m |
| $U_0$ | 障壁の高さ | J |
| $E$ | 粒子のエネルギー | J |
| $m$ | 粒子の質量 | kg |
| $\hbar$ | プランク定数 $h / 2\pi$ | J·s |
意味:$T$は粒子が障壁を通過する確率。$U_0 - E$ が大きい、または $a$ が大きいと、指数的に透過確率が減少。FinFETでは絶縁膜リーク電流の原因。
🔷【2. 量子井戸と状態密度】
✅ 3次元の電子状態密度(半導体中):
$$
D(E) = \frac{1}{2\pi^2} \left( \frac{2m^*}{\hbar^2} \right)^{3/2} \sqrt{E - E_c} \quad (E > E_c)
$$
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| $E$ | エネルギー | J |
| $E_c$ | 伝導帯下端のエネルギー | J |
| $m^*$ | 有効質量 | kg |
意味:エネルギー $E$ の電子状態の密度。FinFETでは、チャネルが細くなることでエネルギー準位が量子化され、状態密度に段差が生じる(量子井戸効果)。
🔷【3. バリスティック輸送と平均自由行程】
✅ バリスティック条件:
$$
L < \lambda
$$
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| $L$ | チャネル長 | m |
| $\lambda$ | 平均自由行程(電子が散乱なしで進む距離) | m |
意味:チャネル長 $L$ が平均自由行程 $\lambda$ より短いとき、電子は散乱されずに一気にドレインへ到達 ⇒ バリスティック輸送。FinFETの高スイッチング速度の要因。
🔷【4. FinFETのしきい値電圧】
$$
V_T = V_{FB} + 2\phi_F + \frac{\sqrt{2\epsilon_s qN_A \cdot 2\phi_F}}{C_{ox}}
$$
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| $V_{FB}$ | フラットバンド電圧 | V |
| $\phi_F$ | フェルミ準位と真性準位の差 | V |
| $\epsilon_s$ | 半導体の誘電率 | F/m |
| $q$ | 電子の電荷 | C |
| $N_A$ | ドーピング濃度 | cm⁻³ |
| $C_{ox}$ | 酸化膜容量密度 | F/m² |
意味:FinFETでは、チャネルの量子閉じ込めによりこの式に補正項が入ることもある(例:量子補正 $\Delta E_{q}$ 追加)。
🔷【5. トンネルFET(TFET)との関係式】
TFETのトンネル電流(近似):
$$
I \propto \exp\left( -\frac{4\sqrt{2m^*}(E_g)^{3/2}}{3q\hbar F} \right)
$$
| $E_g$ | バンドギャップ |
| $F$ | 電界強度 |
意味:トンネル電流はバンドギャップと電界強度に依存。FinFETやTFETではスイッチング時のリーク抑制と性能向上に重要。
🔷【6. 共鳴トンネル(二重障壁)の位相条件】
量子井戸における共鳴透過条件(例):
$$
k_w L = n\pi \quad (n = 1,2,3,\dots)
$$
| $k_w$ | 井戸中の波数 |
| $L$ | 井戸幅 |
意味:電子波が障壁間で干渉して、特定のエネルギーで透過率が最大化(共鳴トンネル)。これはRTD(共鳴トンネルダイオード)やFinFETでの量子構造応用に関係。
✅ 総まとめ
| 現象 | キー式 | 意味 |
|---|---|---|
| トンネル効果 | $T \sim \exp(-2\kappa a)$ | 絶縁膜リーク、TFETの原理 |
| 状態密度 | $D(E) \sim \sqrt{E - E_c}$ | 電子の量子化、チャネル特性 |
| バリスティック輸送 | $L < \lambda$ | 高速スイッチング |
| しきい値電圧 | $V_T = \dots$ | 動作条件、量子補正あり |
| 共鳴条件 | $k_w L = n\pi$ | トンネル整合と干渉効果 |