はじめに
みなさんは、WCAG 3.0 って知ってますか?
Webアクセシビリティといえば、WCAG 2 をベースに考えるのが定番だったと思います。
一方で、最近はアプリやPDF、VR/AR、音声UIなど “画面” もどんどん多様になり、
チェックリスト形式の基準だけでは対応しきれない部分が出てきています。
そのため、現在、W3Cでは次世代のガイドラインとして、WCAG 3の策定が進んでいます。
まだドラフト段階なので「今すぐこれに対応しないといけない!」という話ではありませんが、
- どんな思想で作られているのか
- WCAG 2 と何が変わりそうなのか
この記事では、そのあたりをかいつまんで紹介しようと思います。
WCAG 3の目的と設計思想
WCAG 3 は、「チェックリスト」から「ユーザー体験ベース」のガイドラインに寄せていこう という方針で、策定が進んでいます。
WCAG 2だと、以下のようなことがありました。
- 1つでも致命的なエラーがあると「不適合」になりがち
- ほとんどのUIは問題なくても、たった1つの画像の alt が抜けているだけで AA 未達成になる
- 自動テストでチェックしやすい項目に話が寄る
- コントラスト比やaltの有無は自動で検出できるけど、「読みやすさ」「理解しやすさ」などのUX寄りの観点は拾いきれない
- 認知・学習障害など、体験の質の話を盛り込みづらい
- 専門用語が多すぎる文章や複雑なフォームなどの本質的にわかりにくいUIが合否の基準にしづらい
- Webページ以外(アプリやPDFなど)は、別文書を読まないといけない
- ネイティブアプリは、WCAG2ICTを見ないといけない
WCAG 3 では、こういう課題に対して、
- 「ユーザーがタスクを達成できるか」をちゃんと見る
- コードだけじゃなく、プロセスやユーザビリティ評価も評価対象にする
- Web 以外のデジタル体験も、同じ枠組みでカバーする
- 専門用語だらけではなく、なるべく平易な文章にする
といった考え方になっています。
なので、WCAG 3 は「2.2 の続編」ではなく、「アクセシビリティをどう評価するか」自体を作り直しているプロジェクト、くらいに捉えるとイメージしやすいと思います。
WCAG 3とWCAG 2の違い
ガイドラインの構造が変わる
WCAG 2では、「原則 → ガイドライン → 成功基準」 という三段構造でした。
- 原則
- ガイドライン
- 成功基準
- ガイドライン
↓ WCAG 2の例(ガイドライン 1.1 テキストによる代替 - 一部省略)
[原則]
知覚可能[ガイドライン]
すべての非テキストコンテンツには、大活字、点字、音声、シンボル、平易な言葉などの利用者が必要とする形式に変換できるように、テキストによる代替を提供すること。[成功基準]
- 達成基準 1.1.1 非テキストコンテンツ
- 利用者に提示されるすべての非テキストコンテンツには、同等の目的を果たすテキストによる代替が提供されている
WCAG 3 では、これが少し分解され、以下のような構造になります。
- Guidelines
- Foundational Requirements
- Supplemental Requirements
- Assertions
↓ WCAG 3の例(Guideline 2.9.4 Avoid deception)
[Guidelines]
Avoid deception(欺瞞を避ける)[Foundational Requirements]
- Changes in agreement(合意内容の変更を行わない)
- No misleading wording(誤解を招く表現を使わない)
- No artificial pressure(不当に心理的圧力をかけない)
- No hidden preselections(隠れた初期設定を設けない)
[Supplemental Requirements]
- No misdirection(利用者を意図的に惑わせない)
[Assertion]
- Testing avoid deception with users(「欺瞞を避ける」ためのユーザーテストを実施している)
評価・適合モデルが変わる
WCAG 2の適合レベルは、AAA / AA / A でした。
WCAG 3の適合レベルは、Gold / Silver / Bronze になる案が出ています。
適合レベルのラベルが変わるだけではなく、評価の仕方も変わります。
WCAG 2は、成功基準を守れている / 守れていない の2択でしたが、
WCAG 3は、各要件ごとに、0点(全くできてない)~ 4点(かなりいい状態) でページごとにスコアリングして、一定のラインを超えたら、Gold / Silver / Bronzeを名乗れるという方向性になるようです。
ただ、クリティカルな項目については、1個でもアウトになるようです。
また、Silver 以上を目指す場合は、以下の活動も評価対象になるようです。
- 当事者を交えたユーザーテスト
- スクリーンリーダーなど支援技術を使った検証
- 組織としての活動(レビューや教育)
適用範囲の拡大する
WCAG 3 は最初から「Web以外」も視野に入れて設計されています。
想定されている対象は以下のような感じです。
- Webサイト / Webアプリ
- モバイルアプリ(iOS / Android)
- PDF や電子書籍
- 動画やライブ配信などのマルチメディア
- VR / AR(XR系の体験)
- 音声UI(スマートスピーカーなど)
- IoTデバイスまわりの体験
- ブラウザ、メディアプレーヤー、オーサリングツール など
もちろん、すべての非Web技術を完全にカバーするわけではないですが、「ユーザーが触れるデジタルな体験を、できるだけ同じ枠組みで考えたい」という意図がかなり強く出ています。
まとめ
この記事では、WCAG 3 の「どんな目的・思想で作られているか」「どんな違いがあるか」をざっくり紹介しました。
この記事を参考に WCAG 3 を読み始めてみてはいかがでしょうか?
最後まで読んでくださってありがとうございます!
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