この記事は、デフエンジニアの会の成り立ち ー中編ー の続きです。
デフエンジニアの会立ち上げ
そうして私は無事エンジニアとして働き始めたわけであるが、気になることがあった。
(プログラマではなくエンジニアでの採用だった)
京都で働いていたころは同じプログラマーの仕事をしている聞こえない人と出会うことがなかった。
(どこかにいたかもしれないけど、たまたま会わなかった)
それで、京都でプログラマーをしていた時は相談相手もおらず孤独だったし、辛かったのを思い出した。
また、前と同じ失敗は繰り返したくなかったし、早く相談相手などが欲しいと思っていた。
それで、東京ではぜひとも聞こえないエンジニア(プログラマー)の友達と出会いたい、と思うようになった。
そして友人たちにお願いしてあちこちに声をかけてもらったところ、5名もいることが分かり、嬉しくなった。
そしてまずはこの5名で集まろう、と声をかけて了承してもらった。
他のエンジニアとの出会い
そして某Barで集まったのだが、皆さんお互いに同じ立場のエンジニアが周りにいなかった、ということで喜んでいた。
これを見て、本当に集まって良かった!やはり同じ立場の人と出会うのは大事なんだなと思った。
そしてお互いに自己紹介をし、他愛ないおしゃべりから始まりお酒が進むと仕事での悩みなども色々と話すようになった。
やはり思った通り、皆さんだいぶ苦労をしておられることが分かった。
皆さんスクールに通いたくても通えず独学でひたすら頑張ってきた人ばかりで、
でも会社の中では「聞こえないから」ということで低く見られたり色々な苦労があった。
例えば、
明らかに自分のほうが他の社員より知識があるのに、お客様から見たら「聞こえない」それだけで「何もできないだろう」と思われ、聞こえる社員に回されたりなど。
そして、ある人がこう言った。
「聞こえないエンジニアたちの社会的地位を高めたい」
エンジニア・プログラマーという仕事はとても専門的な仕事。
それだけに独学ではやはり厳しい面がある。
かつ、スクールにも情報保障など色々な壁があり、自由に通うことができない。
また情報も足りない。
その上耳が聞こえないと、お客様との意思疎通も難しい。また、お客様からの理解(筆談対応など)なども色々と必要になってくる。
すごくすごく大変なのだ。
それを解決するためにはまず「学んで、力を付けること」が必要になる。
その上で信頼を勝ち取っていくしかない。
しかし、肝心の学ぶ場がないのだ。場所の問題でもなく、お金の問題でもなく、シンプルに
「情報保障がないから、学べない」。
それで、まず聞こえないエンジニアたちと集まって、お互いに情報交換をしつつスキルアップをして、みんなで聞こえないエンジニアたちの社会的地位を高めていきたい! ということで話がまとまった。
みんな、困っているはずだと。
そしてその日から、早速色々なところに声をかけ、聞こえないエンジニアたちを探した。
デフエンジニアの会設立
そして集まったのは13人。
こんなにいたんだ!という驚きのほうが大きかった。
そして、みんな一人でひたすら頑張ってきたんだな、と思うと胸が熱くなった。
そして、メンバーで集まって飲み会と顔合わせをやり、そこからデフエンジニアの会を設立した。
海外からのエンジニアとの出会い
その後、私は友達からある飲み会に誘われ、そこに参加した。
そこで出会ったのは、カナダから来日して日本で働いているエンジニアだった。
彼は5年前に引き抜きで来日し働いているのだが、二重の壁を抱えていた。
まず1つ目は日本語。日本語もままならない。
今は簡単な日本語であれば意思疎通はできるがそれでも最初は大変だったらしい。
2つ目は同じエンジニアの仲間がいない。
言葉は違っても、せめて同じ聞こえない立場でエンジニアとしての情報交換ができる人はいないのだろうかとずっと思っていたらしい。
そして私は彼に、聞こえないエンジニアがいること、最近彼らとデフエンジニアの会を設立したばかりだと話した。
すると彼はたいそう喜んでおり、是非仲間に入れてほしいと言ってきた。
そして、彼はもう一人、オランダから来日した聞こえないエンジニアを紹介してくれた。
海外から来日した聞こえないエンジニアもいるんだ、とびっくりし、また、彼らともともにデフエンジニアの会を作り上げていきたいと思った。
デフエンジニアの会の今後
そしてデフエンジニアの会では、まず柱を作って色々と取り組んでいくことにした。それがこの3つである。
- エンジニア用語の手話作成
- メンバー皆さんのスキルアップのための勉強
- メンバー同士の交流
エンジニア用語の手話作成とは
まず、エンジニア用語の手話を作っていく、これはデフエンジニアの方々にとっても大事なことである。
ではなぜこれが必要なのか?というと。
今はエンジニア用語の手話がまだまだ足りないから。これに尽きる。(もちろん、パソコンやコンピューターに関する手話は昔から存在しているものもあるが、それでも今の時代に追い付いていない)
そのため、
たとえ今後技術関連の講演などに通訳がつくことが当たり前になり、デフエンジニアでも気軽に参加できるようになったとしても、エンジニア用語の手話がないと手話通訳者も困るし私たちも困る。
そのためエンジニア用語の手話を早急に作って普及しないといけないね。という結論に達している。
そして今は少しずつエンジニア用語の手話を作っていっている。
メンバー皆さんのスキルアップのための勉強とは
私たち聞こえないエンジニアは、スクールに通いたくても通いづらいという現実がある。
残念ながら今の時代になっても、スクールに通うことを断られたり、また、通えても授業が分からないということがまだまだある。
この前、20代のメンバーがその悩みを吐露しており、今でもまだそんな現実が残っているのかと本当に残念に思った。
なので、それならばと、メンバー同士でお互いに持っている知識を手話・文字で共有できる場を作ろう!ということで、今はデフエンジニアの会の中で様々な企画を設け、お互いに教えあっている。
内容は難しくても、手話で学べる。文字でも分かる。これはすごく大きなことだと思う。
メンバー同士の交流とは
デフエンジニアの会にいるメンバーは皆さん、職種は様々。例えばインフラエンジニアもいるし、サーバーエンジニアもいる。
かつ、WEBデザイナー・プログラマーもいる。自動化プログラミングもいる。色々。
しかし、皆さんが共通しているのは「耳が聞こえない」ということ。
耳が聞こえない、それだけで会社の中で色々と差別を受けたり、誤解を受けたり、など、本当に色々と経験してきている。
逆に言えば、これらを経験したことがないという人は皆無。そういう状況である。
それでも皆さん、プログラミングやエンジニアの世界がとても好きだから、諦めずに頑張りたい!という人ばかりである。
なので、皆さんが夢を持ってこれからも今の仕事を頑張って続けていけるようにするためには、手話で語り合い、また、あらゆる壁にぶつかった時の解決方法などをお互いに共有しあえるようにすることが必要だと考えている。
そうすれば、みんなで一緒に乗り越えていくことはできると考えている。
それで、今はだいたい1か月に1回の割合でその時間を設けてみんなで語り合ったりしている。
それだけではない。
皆が一様に言っているのは、「手話や文字でプログラミングやエンジニアとしての技術の話を語り合えるのが楽しい!」。
皆、同じ立場の仲間が今までいなかったために、手話や文字で語り合える場がなかった。
それができるようになったのだから、すごく楽しい!とみんな嬉しそうにしている。
それを見ていると私も本当に良かったな、と嬉しくなる。
その他、デフエンジニアの会がやっていることについてはこちらでも分かりやすくまとめられています。
→大城一記さん「デフエンジニアの会 ‐ロゴデザイン―」
最後に
デフエンジニアの会は、今や30人超える所帯になった。これもメンバーの方々の協力のおかげだと思っている。
そして、皆さんスキルや分野はバラバラだけど、同じ「聞こえない」ということ、そして「エンジニアとしての夢があること」は共通している。
例えば、「当事者として、当事者の問題を解決するエンジニアになりたい」と思っているエンジニアも多い。
そして、会社でどんなに嫌なことがあっても苦しいことがあっても、この仕事を続けたい、と思っている人も多い。
その気持ちを今後も持ち続けていけるように、お互いにカバーしあいあながらやっていきたいと思っている。
また、私個人としても、聞こえないエンジニアとして、同じ夢を持って頑張っている方がいるというのは本当に嬉しい。
そして私自身もいつかは絶対に聞こえないエンジニアとして、聞こえない人のための何かを作れる人になる!と決めている。
今まで振り返ると本当に紆余曲折もあったし何度も心折れた日もあった。
でも、それでもくじけずに、諦めずに今までやってきて本当に良かったな、と思う。
また色々なところで出会った数々の方々のおかげも大きかったと思う。改めて今まで出会った方々に感謝したい。
振り返れば、すべてつながっていたんだな、と思っています。
本当にすべての出来事にとても感謝しています。
そして、20代の頃からずっと抱えていた夢を叶えるため、これからもデフエンジニアとして邁進していけたらいいな、と思っています。
これからもデフエンジニアの会をよろしくお願いいたします。
皆さんへお願い
私たちは、多くの差別や偏見の中で、それでも夢を持って生きています。
そして、聞こえる方々と同じように思う存分、何も心配なく、学びたいのです。
そのための環境が必要です。
そして、聞こえないエンジニアとして夢をかなえたい。
そのためには、
オンラインスクールなどでも動画へ字幕を付ける、などの配慮が必要になってきます。
講演や講義などでも手話通訳の配置が必要になります。
そして、この配慮は特別扱いではないこと、そして、「字幕や手話通訳があってやっと聞こえる方々と同じスタートラインに立てる」(それでも誤変換などで完全に、ではないが・・)
ということを理解して頂けると嬉しいです。
いわば、私たちはマイナスからのスタートとなっており、字幕や手話通訳があってやっとゼロからのスタートとなるのです。
その上で、私たちも皆さんと同じように、技術系の企画や講演などに自由に参加し、自由に学べる時代がやってくるよう、皆さんも自分の身の回りから考えてもらえると嬉しいな、と思っています!
(例えば自分が作った動画には字幕をつけるなど・・・)
かつ、障害者の就職採用の実情も今後もっと変わっていけるといいなとも思っています。
願わくば、「障害者はこの仕事だけ!」と範囲を決められることなく、
障害者であっても一人一人できることは違うのだということ、そして、それぞれのできることにフォーカスをあて、聴者と同じように働ける社会を望んでいます。
障害者も一人の人間だという、当たり前の事実をもっと考えていただけると嬉しいな、とも思っています。
そして、皆さんで少しずつ社会を良い方向に変えていけたらいいな、と思っています。
そのためには一人一人が「聞こえない人も一緒に働いているのだ」ということを頭に入れていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。