伊藤優@三菱ケミカルホールディングスです。社内にて Digital Transformation に関する様々な活動をしています。現場で定着するシステム開発を目指して日々奮闘しています。今回は、弊社エンジニア数名で作成し今年7月に公開した「機械学習プロジェクトキャンバス」について書きます。(出典:ニュースリリース:三菱ケミカルホールディングス)
はじめに
さまざまな場所でさまざまな方々と「機械学習プロジェクト」を起こしています。面白い課題設定ができて首尾よく進むときもあれば、夢と現実の狭間でまったく折り合いがつかないこともあります。どうしたらうまくプロジェクトを起こせるのでしょうか。考えた末に「機械学習プロジェクトキャンバス」を作りました。機械学習プロジェクトを始めたいけれど、「何から始めていいのかわからない」「何を目指せばいいのかわからない」、あるいは、多くの関係者の中で「何を決定すればいいのかわからない」といった現場の声にお応えして、課題の整理やコミュニケーションツールとして利用しています。
「機械学習プロジェクトキャンバス」とは
「機械学習プロジェクトキャンバス」は、ビジネスモデルキャンバスにインスピレーションを受けて構成しました。空欄を順番に埋めていくことで、プロジェクトマネジメントの際に必要な「目的」や「利用者」、「成功の指標」などを整理することができます。
出典:機械学習プロジェクトキャンバス
※詳しい説明は本資料を参照ください。
使い方
実際にプロジェクトを進める上で効果的と思われる使い方ポイントは3つほどあります。
①行き詰った際に、みんなで埋める
一番よく使うのはプロジェクトを起こす序盤のタイミングです。さまざまな立場のメンバーが一同に介してプロジェクトの概観をブレストする際、課題感を整理して、異なる分野の専門家とコミュニケーションを取るために用います。
②まず「目的」を埋める。そのあとは右から埋める。
プロジェクトの目的を見失ってはならないのでまずは目的を埋めますが、そのあとは右から埋めるのがポイントです。キャンバスは、右にいくほどユーザー視点、左にいくほどシステム(技術)視点の内容となるように設計しています。「このデータがあるので何かしましょう」というプロジェクトの始め方は、否定はしませんが、ユーザー視点に欠けた活動をしていては現場に定着しません。ユーザー視点で何が必要かを議論する必要があるでしょう。
③「成功の指標」を明確化する
キャンバスを使う意味は「成功の指標」を明確化するためと言っても過言ではないでしょう。「成功の指標」は、例えば欠品検知システムであれば、「判定率が9割以上なら、人間より良いので使える」とか、「False Negative(本当はNGなのにOKと判断してしまう)が無ければ使える」といった具体的な数値を伴った指標です。最初は数値目標と言われてもピンと来ない場合がほとんどだと思います。または、取ってつけたように指標を設定してそれを達成しても、実際には実情と合っていなくて納得感が無かったということもあります。大事なのはプロジェクトの初期段階から「成功の指標」について議論し、何らかの指標を設定し、必要に応じて議論しなおすことだと考えています。
加えて、「成功の指標」を達成できなかった場合についてもここで議論することは有意義だと思います。精度が悪くても使えるのか、〇ヵ月で成果が見られなかったら諦めるのか、すべてデータサイエンティストの責任になるのは避けたいので、期待値マネジメントも必要です。
おすすめポイント
私が思うキャンバスのおすすめポイントは3つほどあります。
①目標感が合う
「成功の指標」については前章で触れましたが、何をすべきかが整理されることが最大のメリットです。
②会話が合う
キャンバスの本編は上にあげた1枚のワークシートなのですが、付録で「機械学習に向いているプロジェクト・向いていないプロジェクト」などもまとめています。プロジェクトメンバーは通常、専門分野もさまざまで、機械学習が専門のメンバーばかりではないことがほとんどです。最初に最低限の知識を共有し言葉を揃えることで、初めての方にもイメージを持ってもらうことができプロジェクトをスムーズに進めることができます。
③役割分担がわかる
キャンバスではユーザー視点からシステム視点まで網羅的に整理することができるので、このワークシートを用いて各メンバーの役割分担も議論することができます。
まとめ
機械学習プロジェクトを効率的に進めるための「機械学習プロジェクトキャンバス」を作成したので紹介しました。キャンバスを公開したあと、ありがたいことにたくさんの方から反響をいただき、特にデータサイエンティスト的な業務をされている方からの反応を数多くいただきました。データサイエンティストが抱えている問題、データサイエンティストとそれ以外のメンバーとのコミュニケーションの問題が、どこでも同じような課題意識なのだと思えたことは、大変有意義で勇気づけられる経験でした。
キャンバスはこれが最終形態だとは思っておらず、これからも使い続けて修正を加えていけたらと思っています。もしお使いいただける方やご意見のある方がいらっしゃれば、お気軽に、意見交換できれば幸いです。
※「機械学習プロジェクトキャンバス」は三菱ケミカルホールディングスのクリエイティブ・コモンズライセンスです。