データ: 気象庁 月別平均気温 1950〜2024年、47都道府県
分析コード: Python (pandas / scipy / matplotlib)
はじめに:みんなが毎年言う、あの話
「最近、春と秋が短くなった気がする」
SNSで毎年秋になると流れてくる。体感としてはわかる。でも誰も測っていない。
気象データがあるなら測れるはずだ。そう思って47都道府県 × 74年分の気温データを引っ張り出した。
結果として、分析のたびに仮説が裏切られ、最終的に「失われた季節は地域ごとに違う」という予想外の地図にたどり着いた。
§1 まず「秋の長さ」を測ってみた
秋の定義: 月平均気温が 10℃〜22℃ の期間(月単位)
夏の終わり: 月平均が 22℃ を下回ってから
冬の始まり: 月平均が 10℃ を下回るまで
東京で計算してみる。
| 期間 | 秋の長さ |
|---|---|
| 1950〜1979年 | 2.33ヶ月 |
| 1990〜2024年 | 2.33ヶ月 |
| 変化 | ±0ヶ月 |
驚き①:秋の長さは変わっていなかった。
しかし秋の「位置」は動いていた。始まりと終わりがともに +0.05月/10年 のペースで後退しており、74年間で約 11日 後ろにずれていた。
1950年代の秋:9月中旬〜11月中旬
2020年代の秋:10月初旬〜11月末
「消滅」ではなく「移動」。でも話はここで終わらなかった。
§2 「快適帯」で測り直した
秋の定義(10〜22℃)は少し寒い。人が「エアコンなしで過ごせる」と感じる温度はもう少し上だ。
快適帯を再定義: 月平均気温 15〜25℃
同じ東京で計算する。
| 期間 | 快適帯の長さ |
|---|---|
| 1950〜1979年 | 4.57ヶ月 |
| 1990〜2024年 | 4.43ヶ月 |
| 変化 | −0.14ヶ月(−4日) |
驚き②:全国平均でも、ほぼ不変。
「快適な季節が減った」という体感はデータに表れない。なぜ?
§3 なぜ不変なのか? ── 打ち消し合いの正体
東京の月別データを詳しく見ると、互いを打ち消す変化が起きていた。
| 月 | 変化 | 快適帯内の年割合 |
|---|---|---|
| 9月 | 平均 23.0℃ → 24.4℃ | 93% → 60% ← 夏に侵食された |
| 4月 | 平均 13.9℃ → 15.0℃ | 13% → 52% ← 寒すぎたのが快適に |
秋の9月が夏に食われた分、春の4月が快適帯に入ってきた。差し引きほぼゼロ。
特に象徴的な数字がある。東京で9月の月平均が 25℃ を超えた年の割合:
1950〜1979年: 2/30年( 7%)
1980〜1999年: 2/20年(10%)
2000〜2024年: 10/25年(40%)← 6倍
2000年以降、東京の9月はほぼ2年に1回「夏」になっている。
驚き③:快適帯が不変な理由は「秋の9月を春の4月が補填していた」から。
ただしこれは、東京の話だった。
§4 全国平均は嘘をついていた ── Fig13
ここまで「東京のデータ」で話してきた。全国平均と思って読んでいたかもしれないが、実はそうではなかった。
47都道府県それぞれで「快適帯を最も奪った月」(= 犯人月)を特定し、北から南に並べてみる。
地理的勾配:犯人月が南ほど後ろになる
| 地方 | 犯人月 | 代表的な変化量 |
|---|---|---|
| 東北(秋田・山形・宮城) | 8月 | −30〜36pp |
| 北陸(新潟・富山・石川・福井) | 7月 ★予想外 | −36〜45pp |
| 関東〜九州(23都府県) | 9月 | −33〜65pp |
| 沖縄 | 10月 | −63pp |
驚き④:犯人は全国共通ではなかった。
§5 なぜ地域差が生まれるのか ── 快適帯の縁モデル
これには明快な理由がある。
北陸の7月(元の平均気温 ≈ 24℃)
+1℃ → 25℃超 → 快適帯から脱落 ✗
関東の8月(元の平均気温 ≈ 30℃)
+1℃ → 31℃ → 元から快適帯の外 → 変化なし
温暖化の影響は「暑い月」よりも「快適帯の縁にいた月」に強く現れる。
北陸の7月は元々 24℃前後と涼しく、全国でも特殊な「真夏でも快適な地域」だった。
その涼しさがあったからこそ、1℃の上昇で真っ先に快適帯の外に出てしまった。
同じ論理で:
- 東北の8月(元々 25℃ギリギリ)→ 温暖化で脱落
- 関東〜九州の9月(元々 23〜25℃)→ 温暖化で脱落
- 沖縄の10月(元々 24℃)→ 9月は既に夏、10月が最後の快適月だった
§6 沖縄だけ別世界
沖縄の詳細を見ると、パターンが際立つ。
| 月 | 前半平均 | 後半平均 | 快適帯内 |
|---|---|---|---|
| 9月 | 27.1℃ | 28.1℃ | 0% → 0%(最初から夏) |
| 10月 | 24.3℃ | 25.8℃ | 83% → 20% ← 消えた |
| 11月 | 21.3℃ | 22.6℃ | 100% → 96%(維持) |
関東人が「9月を失った」と感じる頃、沖縄では9月はとっくに夏だった。
代わりに10月が消えた。−63pp という数字は、東京の9月(−33pp)の約2倍の喪失率だ。
§7 まとめ ── タイプ別の犯人プロフィール
47都道府県を4タイプに分類できる。
| タイプ | 内容 | 都道府県数 |
|---|---|---|
| A: 打ち消し合い | 9月↑夏 + 4月↑快適 → 相殺 | 25県(関東・近畿・西日本) |
| B: 純粋な減少 | 9月↑夏のみ、4月効果なし | 6県(富山・石川・滋賀・鹿児島など) |
| C: 見かけ上の変化なし | 両方起きていない(ただし内訳は要注意) | 15県(北海道・東北・沖縄) |
| D: 純粋な増加 | 4月のみ | 1県(群馬) |
沖縄の注意点: タイプCに分類されているが「総量が変わっていない」のではない。
10月の快適帯が 83%→20%(−63pp)と大幅に消えた一方、11月がわずかに快適帯に近づいたことで総量が見かけ上維持されている。実態は「§6で見た通り10月が犯人」。
北海道は逆で、そもそも温暖化の侵食が届きにくい気候帯にある。
同じ「変化なし」でも、沖縄は「失いながら別の月で補填」、北海道は「そもそも影響圏外」という全く異なる理由だ。
おわりに
私は富山出身だが、子どもの頃はGWでもこたつやストーブを使っていた記憶がある。「北陸の夏は涼しい」というのは地元では当たり前の感覚だった。
今回の分析で、富山は「4月の快適化」がほぼ起きず、代わりに7月が快適帯から脱落していた。北陸型は「秋から春へ」ではなく「夏が少し暑くなった」という独自のパターンだった。あの頃の感覚は、案外データとも一致していたのかもしれない。
同じ温暖化を経験していても、失われた季節は地域ごとに違う。
東北の人は8月を失い、北陸の人は7月を失い、関東の人は9月を失い、沖縄の人は10月を失った。
私たちが「春と秋が短くなった」と感じる理由は、全国共通の現象ではなく、それぞれが失った季節の記憶なのかもしれない。
分析環境・データ
- 気温データ: 気象庁「過去の気象データ」月別平均気温(1950〜2024年、47都道府県)
- 快適帯の定義: 月平均気温 15〜25℃(エアコン不要の目安)
- 比較期間: 前半 1950〜1979年 vs 後半 1990〜2024年
- 言語: Python 3.13(pandas / scipy / matplotlib)
-
分析スクリプト:
scripts/aki_*.py
# 犯人月の特定(コアロジック)
def find_culprit_month(pref_df, period1=(1950,1979), period2=(2000,2024)):
results = {}
for month in range(3, 12):
s1 = pref_df.loc[period1[0]:period1[1], f'm{month}'].dropna()
s2 = pref_df.loc[period2[0]:period2[1], f'm{month}'].dropna()
c1 = ((s1 > 15) & (s1 <= 25)).mean()
c2 = ((s2 > 15) & (s2 <= 25)).mean()
results[month] = (c2 - c1) * 100 # pp変化
culprit = min(results, key=results.get)
return culprit, results[culprit]
シリーズ: 季節を決めているのは誰か
次回: おでんを決めているのは気温か、企業か
