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「隣と違う」は見えた。次は「だから何をすべきか」── 合成指標と高齢化ステージで戦略コンサル級の分析に挑む

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TL;DR

  • 前回(Part 2)で隣接県差異から未知の発見を出した(大分の460年医療史、島根vs鳥取の福祉哲学)
  • しかし戦略コンサルから見ると 「So What?(だから何?)」「Why Now?(なぜ今?)」「多角的スコアリング」 の3つが足りない
  • 8つの合成指標(医療分散度、福祉哲学スコア等)を設計。単一指標の比較から「構造の違い」の可視化に進化
  • 高齢化ステージ分析で、年齢中位数を「時間軸のプロキシ」に。「先行投資県」vs「対応遅れ県」を判定
  • 結果: 大分は「分散型遠隔診療のモデル県だが、施設供給は高齢化ステージ最下位」、島根は「措置型介護の全国モデル、同ステージ2位の先行投資県」という行動可能な示唆まで到達

前回記事・Part 2: 「裏切り度スコア」は裏切られた ── 隣接県差異で"460年の医療史"と"福祉哲学の分岐"を発掘した話

前々回記事・Part 1: 「AI時代の新しい統計探偵」E-Stat全探索は「意外性」を殺す ── 裏切り度スコアで47都道府県の"常識破り"を発見する

1. Part 2の成果と「3つの壁」

前回までの到達点

Part 1(裏切り度スコア)では、全国回帰の残差から外れた県を検出した。
長野の公民館、沖縄の住宅 ── 発見は全て既知だった。

Part 2(隣接県差異)では、比較対象を「全国」から「隣の県」に変えた。
大分県の有床診療所が全国1位(1557年の西洋医療伝来に遡る)、島根vs鳥取の福祉施設の選択が真逆(措置型vsリハビリ型)という、統計でしか見えない文化の差分を発掘した。

**発見の新規性は上がった。**
だが、ここで壁にぶつかった。

ビジネスレベルとの「3つの差」

戦略コンサルのレポートと自分の分析を並べて比較した時に、明確な差が3つあった。

差1: 「So What?(だから何?)」の深さ

現状:   「大分は分散型医療、福岡は集約型医療という構造がある」
コンサル: 「したがって、大分で遠隔診療サービスを展開する際は、
          大病院ではなく『有床診療所のネットワーク化』から入るのが勝ち筋」

発見の先に**「誰が、何を、どうすべきか」**がない。

差2: 「Why Now?(なぜ今?)」の時間軸

現状:   「現在の大分と福岡の差異は2.6倍」
コンサル: 「10年前の差異は1.8倍だったが、直近で2.6倍に拡大。
          地域医療構想の推進で大分が独自路線を強化したためだ」

スナップショットのデータしかないので、時系列の比較ができない。

差3: 指標の「合成」による多角的スコアリング

現状:   「有床診療所数が多い」「医師数は普通」を別々に報告
コンサル: 「医師数(入力)に対する有床診療所数(出力)の比率」を
          出し、大分の医療リソースの『分散効率』を全国スコアリング

単一指標の比較では構造が見えない。

2. Gap 3を埋める: 合成指標の設計

発想: 「数字」から「比率」へ

Part 2までは「有床診療所数が多い」「医師数は普通」を別々に見ていた。
しかしビジネスでは 「入力に対する出力の比率」 が意思決定の鍵になる。

例えば:

  • 「病院が100ある」は事実
  • 「医師1人あたり0.06の有床診療所がある」は構造

この発想で8つの合成指標を設計した。

8つの合成指標

# 指標名 計算式 見えるもの
1 医療分散度 有床診療所数 / 医師数 高い=分散型、低い=集約型
2 診療所ベッド密度 診療所病床数 / 有床診療所数 1施設あたりの入院機能の規模
3 病院集約度 病院病床数 / 病院数 高い=大規模集約型
4 福祉哲学スコア 養護定員 / (養護定員+老健定員) 1.0=措置型、0.0=リハビリ型
5 高齢者施設供給力 (福祉施設定員+老健定員+養護定員) / 年齢中位数 高齢化度あたりの施設充足度
6 教育投資効率 小学校教員数 / 児童数 少人数教育の手厚さ
7 経済生産性 課税対象所得 / 就業者数 就業者1人あたりの付加価値
8 医療福祉バランス 医療施設数 / 福祉施設数 医療偏重 vs 福祉偏重

ポイントは全てが比率であること。
人口規模の影響を受けず、構造を直接比較できる。

全国ランキング(抜粋)

医療分散度(高い=分散型):

順位 都道府県 医療分散度 構造
1 大分県 0.064 分散型の極致
2 鹿児島県 0.060
3 佐賀県 0.056
... ... ...
45 神奈川県 0.008
46 大阪府 0.007
47 東京都 0.006 集約型の極致

大分は全国1位。東京の10.5倍。
Part 2で見つけた「有床診療所が多い」という事実が、合成指標では「医師あたりの分散効率が日本一」という構造の記述に変わった。

福祉哲学スコア(高い=措置型):

順位 都道府県 スコア タイプ
1 宮崎県 0.355 強い措置型
2 島根県 0.328 措置型
3 高知県 0.277
... ... ...
45 沖縄県 0.071
46 宮城県 0.069
47 神奈川県 0.057 強いリハビリ型

島根は措置型で全国2位。
一方の鳥取は0.121で中位。
Part 2の「島根=措置型、鳥取=リハビリ型」が数値で裏付けられた。

合成指標の隣接県差異TOP10

合成指標に対しても隣接県差異スコアを計算した。

順位 ペア 合成指標 スコア 高い方 低い方
1 東京 vs 神奈川 経済生産性 4.77 東京(6550) 神奈川(2838)
2 大分 vs 福岡 医療分散度 4.65 大分(0.064) 福岡(0.024)
3 京都 vs 福井 診療所ベッド密度 4.38 福井(15.6) 京都(8.4)
4 山梨 vs 東京 経済生産性 4.23 東京(6550) 山梨(3202)
5 千葉 vs 東京 医療福祉バランス 4.21 東京(17.4) 千葉(6.0)
6 島根 vs 鳥取 福祉哲学スコア 4.06 島根(0.328) 鳥取(0.121)

大分vs福岡の医療分散度が2位、島根vs鳥取の福祉哲学スコアが6位。
Part 2で発見した2つのストーリーが、合成指標でも上位に来ている。

別の角度から検証しても同じ構造が浮かぶ ── これは発見の頑健性を示している。

3. Gap 1を埋める: 「So What?」の付与

合成指標 × 隣接県差異 → 戦略示唆

合成指標の差異が大きいペアに対して、行動可能な示唆を自動生成する仕組みを作った。

大分 vs 福岡: 合成指標で読む8つの構造差

合成指標 大分 福岡 比率 意味
医療分散度 0.064 0.024 2.64x 大分は福岡の2.6倍分散
診療所ベッド密度 15.1 13.7 1.11x ほぼ同等
病院集約度 128.9 184.3 0.70x 大分の病院は小規模
福祉哲学スコア 0.199 0.140 1.42x 大分がやや措置型
高齢者施設供給力 1.61 1.47 1.10x ほぼ同等
教育投資効率 7.86 6.43 1.22x 大分がやや手厚い
経済生産性 2878 2321 1.24x 大分がやや高い
医療福祉バランス 5.80 8.60 0.67x 福岡は医療偏重

読み解き:

  1. 大分は「医師が少ない代わりに、小さな有床診療所を多数配置している」(医療分散度2.64倍)
  2. 福岡は「大規模病院に医師を集中させている」(病院集約度1.43倍)
  3. 福岡は医療偏重(バランス8.6)、大分は相対的に福祉もカバー(バランス5.8)

So What?:

大分で遠隔診療サービスを展開するなら、大病院ではなく「有床診療所のネットワーク化」から入るのが勝ち筋。
既に0.064という全国1位の分散インフラがある。これを遠隔でつなげば、大規模投資なしに「面の医療」が実現する。

逆に福岡で同じことをやるなら、九州大学病院を頂点とした「ハブ&スポーク型」の遠隔診療が合理的。集約型の既存構造を活かす。

島根 vs 鳥取: 福祉哲学スコアが語る参入戦略

合成指標 島根 鳥取 比率
医療分散度 0.018 0.019 0.92x
福祉哲学スコア 0.328 0.121 2.71x
高齢者施設供給力 2.21 2.03 1.09x
教育投資効率 9.24 8.57 1.08x
医療福祉バランス 4.46 4.00 1.11x

福祉哲学スコアの差が圧倒的(2.71倍)。他の指標はほぼ同等。

So What?:

島根で介護事業に参入するなら「施設型」から。 養護老人ホームの運営ノウハウが県内に蓄積されている。人材採用も施設型の方が有利。

鳥取で参入するなら「通所リハビリ・在宅介護」から。 老健施設を卒業した高齢者の在宅復帰を支える「アフターケア」市場が大きい。

4. Gap 2を埋める: 高齢化ステージ分析

問題: 時系列データがない

e-Statから取得したデータはスナップショット(1時点)。
「10年前はこうだった」と比較することができない。

しかし、年齢中位数は「その県が高齢化の時間軸のどこにいるか」を示すプロキシ になる。

発想: 47都道府県 = 47の「時間断面」

日本の高齢化は地域差がある。

  • 沖縄(年齢中位数 47.3歳)は「10年後の東京」かもしれない
  • 秋田(59.5歳)は「20年後の東京」かもしれない

つまり47都道府県を年齢中位数で並べると、時系列のない横断データから「擬似的な時間軸」が作れる

5段階分類(五分位)

47都道府県を年齢中位数の五分位で5ステージに分類した。

ステージ 年齢中位数 県数 代表県
Stage 1(若年) < 51.5歳 10 東京(47.2), 沖縄(47.3), 愛知(47.4)
Stage 2(中間前期) 51.5-52.9歳 9 茨城(51.7), 広島(52.6), 福井(52.7)
Stage 3(中間) 52.9-55.1歳 9 香川(53.2), 新潟(54.0), 長崎(54.7)
Stage 4(高齢化中期) 55.1-56.5歳 9 長野(55.3), 北海道(55.9), 和歌山(56.4)
Stage 5(高齢化先進) > 56.5歳 10 島根(58.6), 秋田(59.5), 高知(60.4)

施設充足度 × 高齢化ステージ = 4つの戦略ポジション

各県の「高齢者施設供給力」と「高齢化ステージ」を2軸にとると、4象限のマトリクスになる。

                     施設供給力: 高い
                          │
  ┌─────────────────────┐ │ ┌─────────────────────┐
  │ 先回り投資型         │ │ │ 先行投資型          │
  │ まだ若いのに施設充実  │ │ │ 高齢化が進み施設も充実│
  │                      │ │ │                      │
  │ 福井、茨城、佐賀     │ │ │ 秋田、島根、山形     │
  │ 岐阜、富山、香川、   │ │ │ 新潟、岩手、鳥取     │
  │ 三重                 │ │ │ 徳島、鹿児島         │
  └─────────────────────┘ │ └─────────────────────┘
                          │
 ─── 高齢化: 若い ────────┼──────── 高齢化: 進行 ───
                          │
  ┌─────────────────────┐ │ ┌─────────────────────┐
  │ 様子見型             │ │ │ 対応遅れ型           │
  │ まだ若く施設も少ない  │ │ │ 高齢化が進むのに不足  │
  │                      │ │ │                      │
  │ 東京、神奈川、大阪   │ │ │ 北海道、青森、高知    │
  │ 愛知、沖縄、栃木     │ │ │ 山口、熊本、大分     │
  └─────────────────────┘ │ └─────────────────────┘
                          │
                     施設供給力: 低い

分布:

  • 先行投資型: 17県(高齢化が進んでいるが施設も充実)
  • 様子見型: 16県(まだ若く施設も少ない)
  • 先回り投資型: 7県(まだ若いのに施設が充実)
  • 対応遅れ型: 7県(高齢化が進んでいるのに施設不足) ← ここが最も注目すべき象限

注目: 各ステージの「最も充実」と「最も不足」

ステージ 最も充実 供給力 最も不足 供給力
Stage 1 佐賀 1.78 東京 1.07
Stage 2 福井 1.99 千葉 1.34
Stage 3 新潟 2.23 山梨 1.58
Stage 4 山形 2.15 北海道 1.45
Stage 5 秋田 2.37 大分 1.61

秋田が全国1位。
年齢中位数59.5歳で最も高齢化が進んでいるが、施設供給力も2.37で全国トップ。
高齢化の最前線で戦い続けてきた結果、施設整備が進んでいる。

大分がStage 5最下位。
医療分散度は全国1位なのに、高齢者施設供給力はステージ最下位。
「医療は強いが福祉が弱い」という構造が数値で可視化された。

So What?(ステージ分析版)

大分: 460年の分散型医療の伝統があり、有床診療所のインフラは全国1位。しかし高齢化ステージ5(年齢中位数56.9歳)で施設供給力がステージ内最下位。医療インフラを福祉に転用する施策が急務。具体的には、有床診療所を「医療型ショートステイ」の拠点に転換する。

秋田: 全国で最も高齢化が進んでいる(年齢中位数59.5歳)が、施設供給力も全国1位。「高齢化先進県」としてのノウハウを他県に横展開するビジネスモデルが成立する。介護人材の育成カリキュラム、施設運営の効率化ノウハウを「秋田モデル」としてパッケージ化できる。

東京: Stage 1(最も若い)かつ施設供給力が全国最下位(1.07)。今は問題ないが、団塊ジュニア世代の高齢化が本格化する2035-2040年に向けて、今から施設整備を始めないと間に合わない

5. 統合: Part 1→2→3の進化を振り返る

同じデータから何が見えたか

手法 Part 1(裏切り度) Part 2(隣接県差異) Part 3(合成指標+ステージ)
何と比べるか 全国平均 隣の県 構造の比率 + 高齢化位置
大分の見え方 検出されない 有床診療所が全国1位 医療分散度1位 × 施設供給ステージ最下位 → 医療の福祉転用が急務
島根の見え方 検出されない 養護老人ホームが多い 福祉哲学スコア2位 × 供給力3位 → 措置型介護の全国モデル
アウトプット 「外れている」 「隣と違う」 「だから何をすべきか」

大分の例で見る深さの違い

Part 1: (大分は全国平均から大きく外れていないため検出されない)

Part 2: 「大分は有床診療所が全国1位。隣の福岡の2.6倍。
         1557年の西洋医療伝来以来の分散型医療の伝統がある」

Part 3: 「大分の医療分散度は全国1位(0.064、東京の10.5倍)。
         医師1人あたりの有床診療所数が突出している。
         しかし高齢者施設供給力はStage 5内で最下位(1.61)。
         医療インフラは強いが福祉インフラが追いついていない。
         したがって、有床診療所を医療型ショートステイの拠点に
         転換する施策が有効。分散型の既存アセットを活かして
         『面の介護』を実現できる可能性がある」

6. 限界と誠実な自己評価

3つのGapはどこまで埋まったか

Gap 目標 到達度 残りの差
So What? 意思決定の示唆 60% 示唆は出せたが、実現可能性の検証(コスト、規制、人材)がない
Why Now? 時系列の変化 30% 高齢化ステージは「擬似時間軸」であり、真の時系列比較ではない
多角化 合成指標 80% 比率による構造可視化は成功。ただし指標の網羅性に限界あり

正直に言えること

できたこと:

  • 単一指標の比較から「構造の比率」への進化
  • 発見に対する行動可能な示唆の付与
  • 高齢化ステージによる緊急度の可視化

できていないこと:

  • 定性情報の統合: データには載らない規制環境、政治状況、地域コミュニティの力学
  • ヒアリングによる検証: 大分の医療関係者に「分散型は意図的か歴史的必然か」を聞いていない
  • 実行可能性の評価: 「有床診療所の転換」は法規制、経営者の意向、人材確保のハードルがある
  • 真の時系列分析: e-Statから複数年のデータを取得すれば「いつから差が開いたか」が検証できる

コンサルとの残りの差は「データの外」にある。
統計分析が到達できる限界がここで見える。

7. まとめと次の一手

Part 1→2→3の進化

Part 比較対象 発見の質 アウトプット
1 全国平均 既知の再発見 「この県は外れている」
2 隣の県 未知の発見 「隣と違う。なぜか」
3 構造の比率 + 高齢化位置 行動可能な示唆 「だから何をすべきか」

次の一手

  1. e-Statから過去データを取得して真の時系列分析: 「10年前の大分の医療分散度はいくつだったか」を検証すれば、Gap 2が本当に埋まる
  2. 市区町村レベルへの分解: 県単位では見えない「県内の格差」を可視化。大分県内でも大分市と中山間部では構造が違うはず
  3. クラスタリングとの統合: 合成指標で47都道府県をクラスタリングし、「大分型」「福岡型」「島根型」「鳥取型」のアーキタイプを定義

Part 1で「何が外れているか」を見た。
Part 2で「何が隣と違うか」を見た。
Part 3で「だから何をすべきか」に踏み込んだ。

データ分析の進化は「何を測るか」ではなく 「何を比べるか」「何を割るか」 の進化だ。
単一指標から比率へ。スナップショットから擬似時間軸へ。
まだコンサルのレベルには遠いが、「データだけでどこまで行けるか」の限界が見えたこと自体が、次に何をすべきかを教えてくれる。


使用データ: e-Stat 社会・人口統計体系(47都道府県 x 354指標、空き家除外後194指標)
コード: Python / pandas / numpy / 合成指標8本 / 高齢化5ステージ分類

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