東京の猛暑日は40年で13倍。北海道の熱帯夜は9倍。
47都道府県の気象庁データ(1981〜2024年)で「最近の夏は異常に暑い」を検証してみた。
はじめに
「最近の夏、昔よりずっと暑くなった気がする」
そう感じている人は少なくないと思う。でも「気がする」は錯覚かもしれない。人間の記憶はあてにならないし、たまたま暑い年が続いているだけかもしれない。
そこで、気象庁の日次観測データを40年分(1981〜2024年)取得して検証してみた。対象は47都道府県の代表観測所、夏季(6〜9月)に限定して猛暑日・熱帯夜を集計した。
結論から言う。
東京の猛暑日は40年で13倍になっていた。
しかも、全国1位ではなかった。
データと分析手法
データソース: 気象庁 統計データ(daily_s1.php)
対象期間: 1981〜2024年
対象月: 6・7・8・9月
集計指標:
- 猛暑日:日最高気温 ≥ 35℃
- 真夏日:日最高気温 ≥ 30℃
- 熱帯夜:夜間最低気温 ≥ 25℃
import requests, pandas as pd
from pathlib import Path
def fetch_daily(prec_no, block_no, year, month):
"""気象庁から1ヶ月分の日次データを取得"""
url = (
f"https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/daily_s1.php"
f"?prec_no={prec_no}&block_no={block_no}"
f"&year={year}&month={month}&view=p1"
)
r = requests.get(url, headers={"User-Agent": "Mozilla/5.0"}, timeout=20)
html = r.content.decode("shift-jis", errors="replace")
tables = pd.read_html(html)
daily = next(t for t in tables if t.shape[0] >= 28)
daily.columns = [f"c{i:02d}" for i in range(daily.shape[1])]
return pd.DataFrame({
"year": year, "month": month,
"day": pd.to_numeric(daily["c00"], errors="coerce"),
"tmax": pd.to_numeric(daily["c07"], errors="coerce"), # 日最高気温
"tmin": pd.to_numeric(daily["c08"], errors="coerce"), # 日最低気温
})
# 年間集計
def count_extreme_days(df):
return {
"mosho": (df["tmax"] >= 35).sum(), # 猛暑日
"manatsu": (df["tmax"] >= 30).sum(), # 真夏日
"tropical": (df["tmin"] >= 25).sum(), # 熱帯夜
}
合計 8,272リクエスト(47都道府県 × 44年 × 4ヶ月)。サーバーへの負荷を考えて0.45秒のウェイトを入れ、約2時間かけて取得した。
第1章:東京の猛暑日は13倍になっていた
まず東京(気象台)の猛暑日数を集計した。
| 期間 | 猛暑日数(年平均) |
|---|---|
| 1981〜1990年 | 1.1日 |
| 2020〜2024年 | 14.4日 |
| 変化 | +13.3日(約13倍) |
1980年代、東京の猛暑日は「あれば珍しい年」だった。年に1〜2日あるかどうか。それが今は当たり前のように2週間以上続く。

図1:主要4都市の猛暑日数・真夏日数 年次推移(6〜9月集計)
2024年には東京でも 21日 を記録した。熊谷(埼玉)は 43日。夏の半分近くが猛暑日だった計算になる。
「最近の夏は異常に暑い気がする」──それは錯覚ではない。
第2章:全国ランキング、1位は東京ではなかった
東京が13倍と分かった。では全国で見たらどうか。トップクラスなのか?
47都道府県でランキングを作ったところ、東京は20位だった。
猛暑日 増加ランキング TOP10
| 順位 | 都道府県 | 1980年代 | 2020年代 | 増加 |
|---|---|---|---|---|
| 🥇 1位 | 香川 | 3.2日 | 26.2日 | +23.0日 |
| 🥈 2位 | 京都 | 10.9日 | 33.2日 | +22.3日 |
| 🥉 3位 | 埼玉 | 9.4日 | 31.6日 | +22.2日 |
| 4位 | 山梨 | 7.7日 | 28.0日 | +20.3日 |
| 5位 | 奈良 | 4.8日 | 24.8日 | +20.0日 |
| 6位 | 群馬 | 5.0日 | 24.2日 | +19.2日 |
| 7位 | 愛知 | 6.4日 | 25.4日 | +19.0日 |
| 8位 | 岐阜 | 7.5日 | 26.4日 | +18.9日 |
| 9位 | 岡山 | 6.4日 | 24.2日 | +17.8日 |
| 10位 | 佐賀 | 6.8日 | 23.4日 | +16.6日 |
| … | … | … | … | … |
| 20位 | 東京 | 1.1日 | 14.4日 | +13.3日 |

図2:猛暑日 増加日数ランキング(左:変化量 / 右:1980年代vs2020年代比較)
東京は13倍という劇的な増加でも、全国20位だった。
そして1位は、香川県。
第3章:香川1位は本当か? まず疑った
正直に言うと、最初に香川が1位と出たとき、信じなかった。
データ分析でよくある罠がある。
- 外れ値:異常な1年が平均を歪めていないか
- 観測点変更:途中で観測場所が変わっていないか
- 集計ミス:コードのバグではないか
なのでまず3点を確認した。
疑惑① 2024年が外れ値では?
香川の2024年は 猛暑日48日。確かに突出している。2020〜2024年平均26.2日のうち、2024年だけで大きく引き上げている可能性がある。
→ 2024年を除いた 2020〜2023年平均で再計算
d = df_agg[(df_agg["pref"]=="香川") & (df_agg["year"].between(2020,2023))]
print(d["mosho_days"].mean())
# 出力: 20.75
2024年を除いても 20.8日。依然として全国1位だった。
疑惑② 観測点が変更されていないか
観測場所が移転して、より暑い環境に変わった場合、見かけ上の温度上昇が生まれることがある。
年平均最高気温の前年比を計算し、1.5℃を超える急変がないか調べた。
ann_max = df.groupby("year")["tmax"].mean()
jumps = ann_max.diff().abs()
print(jumps[jumps > 1.5])
# 1994年: +3.86℃
# 2010年: +1.55℃
# 2024年: 該当年
急変年は 1994年・2010年・2024年。いずれも気象庁が認定した全国的猛暑年と完全に一致している。観測点変更の証拠はなかった。
結論:香川1位は信頼できる
3点の疑いをすべて確認した上で、香川1位は正しいと判断した。
なぜ香川が1位なのか
香川(高松)の気候は瀬戸内海式気候と呼ばれる。
南:四国山地が太平洋からの湿った気流をブロック
北:中国山地が日本海からの冷涼な気流をブロック
↓
高松は「熱の壺」状態
加えて:
- 日照時間が全国最長クラス(雲が少ない=太陽エネルギーを直接受ける)
- 降水量が全国最少クラス(蒸発冷却が起きにくい)
- 瀬戸内海の海面水温上昇(かつての冷却源が熱源に変化)
この条件が重なり、40年で最も猛暑日が増えた地域になった。
ちなみに熱帯夜(夜間最低気温≥25℃)のランキングでも香川が1位(+40.5日)だった。昼夜ともに全国最速で暑くなっている。
第4章:地域によって暑さの「種類」が違う
ランキングを地域別に整理すると、暑くなり方に4つのパターンが見えてきた。

図3:猛暑日数ヒートマップ(都道府県別×年別 / 赤が濃い=猛暑日が多い)
① 盆地蓄熱型(香川・京都・奈良・山梨)
山に囲まれて風が弱く、昼間の熱が逃げにくい。猛暑日の増加が最も顕著。
② 内陸灼熱型(埼玉・群馬・岐阜)
海から遠く、日射が直撃する。熊谷(埼玉)は2018年に国内最高気温41.1℃を記録。
③ 夜間蓄熱型(兵庫・三重・大阪・広島)
熱帯夜の増加が特に顕著。海や湾が昼間に温まり、夜間も放熱し続ける。兵庫の熱帯夜は20.7日→60.6日(+39.9日)と全国2位の増加幅。
大阪は「一日中涼しくない」都市になりつつある:
| 1981〜1990年 | 2020〜2024年 | |
|---|---|---|
| 猛暑日数 | 8.0日 | 23.8日 |
| 熱帯夜数 | 30.5日 | 53.6日 |
夏の2ヶ月間(61日)のうち、昼は24日が猛暑、夜は54日が熱帯夜。
④ 高緯度変化型(北海道・東北)
絶対値は小さいが、変化率が最大。
| 指標 | 1981〜1990年 | 2020〜2024年 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 熱帯夜(北海道・東北平均) | 0.8日 | 7.6日 | 約9倍 |
「夜になれば涼しい」が北海道の夏の常識だった。エアコンの普及率が低い地域で、熱帯夜が増えることの影響は大きい。
第5章:なぜこうなっているのか
一言で言うと、世界規模の温暖化の上に、地域ごとの地形や都市化が上乗せされている。
香川は瀬戸内海式気候(山に囲まれ熱が逃げない)、大阪・兵庫は海岸沿いの夜間蓄熱、東京はヒートアイランド。同じ「暑い」でも、暑くなり方は地域ごとに違っていた。
地球温暖化の原因はCO₂の蓄積で、これは一国では止められない。
浴槽に世界中で水を入れていて、日本は蛇口の一つ。日本が閉めても、他の大きな蛇口が開いていれば水位は上がる。
日本はCO₂を2013年比25%削減済みだが、それでも夏の気温は上昇し続けている。「止めようがない」と「意味がない」は別の話だが、自治体や個人が実感できる効果は、むしろ次章の適応策の方が大きい。
第6章:では、何ができるか
温暖化対策は2種類に分けて考えると整理しやすい。
| 対策 | 主体 | 効果が出るまで |
|---|---|---|
| 緩和策:CO₂を減らす | 国・国際協調 | 数十年〜百年単位 |
| 適応策:暑さへの備えを強化する | 自治体・個人 | 今すぐ |
自治体・個人レベルで今すぐ効果が出やすいのは適応策だ。
すぐ効く適応策:
- 熱中症対策(日陰・ミスト・冷房開放施設)
- 断熱・遮熱リフォーム
- エアコンの更新(古い機種は効率が低い)
中期で効く適応策:
- 街路樹の整備・屋上緑化(ヒートアイランド緩和)
- 保水性舗装(蒸発冷却で路面温度を下げる)
- 建築設計の見直し(深い軒・風通しの確保)
ランキング上位地域のヒント:
- 香川・奈良・山梨(盆地型)→ 日中の屋外活動制限、遮熱舗装
- 大阪・兵庫(夜間型)→ 夜間の冷房普及、保水性舗装による放熱抑制
- 北海道(高緯度変化型)→ エアコン普及促進、熱帯夜対応の住環境整備
まとめ
気象庁の40年分の日次データを集計して分かったことを整理する。
- 「最近の夏は異常に暑い」は本当だった。 東京の猛暑日は1980年代の約13倍。
- 増加量の全国1位は東京ではなく香川県(+23.0日)。瀬戸内海式気候が要因。
- 熱帯夜の増加も香川が全国1位(+40.5日)。昼夜ともに全国最速。
- 北海道・東北の熱帯夜が9倍。「夜は涼しい」という常識が崩れつつある。
- 地球温暖化は一国では止められないが、地域レベルの適応策は今すぐ効果が出る。
「どこがどのように暑くなっているのか」を把握することは、適切な対策を選ぶ第一歩だと思う。
分析期間:1981〜2024年 / 対象:47都道府県代表観測所(気象庁 daily_s1.php)
猛暑日・熱帯夜は6〜9月の集計値。年平均は各期間の単純平均。
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