気がつけば2025年。ChatGPTやCopilotがニュースをにぎわせ、「生成AIは社会をどう変えるのか?」が毎日のように語られる時代になった。
でも正直に言おう。おっさん世代の私にとって、この空気は すでに見たことがある既視感(デジャヴュ) だ。
そう、1999年前後の「インターネット黎明期」だ。
当時のワクワクと混沌、そして「ネットなんて役に立たない」という懐疑論。それがいま再び、「生成AIはおもちゃにすぎない」という言葉に形を変えて繰り返されている。
1999年のワクワク感
まだブロードバンドもなく、モデムがピーガガガと音を立てていた時代。
ジオシティーズでホームページを作り、YahooやInfoseekで検索し、FTPでファイルを転送して「自分のページが世界に公開される」ことに震えた。
掲示板(BBS)やCGIチャットでは見知らぬ誰かと夜通し語り合った。
アクセスカウンターが一桁増えるだけで「俺のページが世界に届いてる!」と本気で感動した。
世界中の人とつながる――この未知の体験は、いまの「ChatGPTが人間の言葉を理解して答える」驚きに近い。
「ネットじゃモノは売れない派」の台頭
ただしワクワクは全員が共有したわけではない。
当時は「ネットなんかでモノが売れるわけがない」という声が大きかった。
- 「本は手にとって中身を見ないと買えない」
- 「クレジットカードをネットに入力するなんて危ない」
- 「ネットは学生やオタクのおもちゃで、ビジネスには向かない」
これらは、まさに現代の「生成AIは学生レポート代行でしか使えない」「お遊びツールにすぎない」という言説と重なる。
その後どうなったか
だが歴史は懐疑論をあっさり覆した。
- Amazon が「本はネットで売れる」を証明し、のちにあらゆる商品販売へ拡張。
- PayPal が安全なオンライン決済を普及させ、eBayの成長を支えた。
- YouTube が動画文化を根本から変え、テレビ以上の影響力を持つようになった。
- Facebook(Meta) や Twitter(現X) がSNSを生活インフラに変えた。
つまり「遊びにすぎない」と切り捨てられたものが、10年経たないうちに 世界の基盤 へと変貌したのだ。
日本のITバブルと「プチ成功者」たち
海外ではAmazonやPayPalといった巨人が育つ一方で、日本にも独特の「ネットバブル」の瞬間があった。
象徴的だったのは ライブドアによるニッポン放送買収を通じたフジテレビ支配権争い(2005年) だ。
- 堀江貴文氏(ホリエモン)が「ネットが既存メディアを飲み込む」象徴としてニッポン放送株を買い進め、社会現象に。
- 結果的にフジテレビとの対立に敗れ、ライブドア事件へとつながったが、「IT起業家が既存産業に挑む」姿は時代の象徴だった。
さらにもう少し前には ハイパーネット という伝説の企業もあった。
- 電話代を広告で無料化するという先進的すぎるモデルを打ち出し、1999年に日本初のマザーズ上場企業(ネット関連)として脚光を浴びた。
- しかし急成長の末に資金繰りが行き詰まり、短期間で破綻。
- その栄光と挫折は「日本のドットコム・ドリーム」として今でも語り草になっている。
この時代、日本からは「プチ成功者」も次々と登場した。
- サイバーエージェント藤田晋氏、GMO熊谷正寿氏など、広告やインフラで成功した起業家。
- ミクシィ、DeNA、グリーといったSNS・モバイルゲーム企業。
そして2000年代後半から2010年代にかけて、より大規模な成功例も出てきた。
- 楽天(1997年創業、2000年上場):ネットショッピングを定着させ、日本最大のECモールへ成長。
- LINE(2011年サービス開始):東日本大震災をきっかけに爆発的普及し、日本の国民的メッセージアプリへ。
- メルカリ(2013年創業、2018年上場):フリマアプリという形で「個人間売買」をスマホ時代の大衆サービスに押し上げた。
そして、ここで必ず出るツッコミがある。
「いやいや、日本には孫正義いるじゃん」 と。
そう、確かにソフトバンクの孫正義は日本のITにおける大物中の大物だ。
だが彼は「ネット黎明期のスタートアップ創業者」というよりは、資本とビジョンで世界を動かした 投資家型の巨人 という側面が強い。
GAFAのようにゼロからグローバルプロダクトを築いたわけではない。
結果として、日本のIT史は「数多くの成功者は出たが、GAFA級の覇者は生まれなかった」という特徴を持つ。
この文脈は、今の生成AIで「次の覇者がどこから現れるのか?」という問いと重なる。
SNS・ネットゲーム・スマホゲームの「発明」
2000年代にはさらに次の波がやってきた。
SNSの誕生と拡張
- 日本では mixi、世界では Facebook が普及し、
- 「ネットは人と人をつなぐ」方向へ拡張していった。
TwitterやInstagram、TikTokは、個人の発信を世界規模で可能にした。
ネットゲームからスマホゲームへ
- MMORPG が「ネットの中で別の人生を生きる」場を提供し、
- その後は スマホゲーム が爆発的な市場を作った。
ガチャ課金や広告モデルなど、新しいビジネスモデルも誕生した。
つまり「ネットは遊び」から「遊びが巨大ビジネス」へと進化したのだ。
Amazonとクラウド革命
Amazonは「ネットで本を売る会社」にとどまらなかった。
莫大なシステム運用経験を生かして AWS(Amazon Web Services) を立ち上げ、クラウドという新しい産業を切り開いた。
もはや「モノ売り」ではなく「ITインフラ」そのものを提供する存在へ。
この変化が世界中のスタートアップを生み出し、ネットを 生活基盤そのもの に変えた。
1999年当時の懐疑論は、歴史的に完全に外れていた。
2025年のデジャヴュ ― 生成AI黎明期
いま私たちは「生成AI」という新しいワクワクの真っ只中にいる。
- ChatGPT が会話型AIを普及させ、
- GitHub Copilot がエンジニアの日常を変え、
- Claude, Gemini などのライバルが次々に登場し、
- RAG(検索と組み合わせる技術)や MCP(マルチエージェント基盤)など応用領域が広がっている。
しかし同時にこんな声も聞く。
- 「生成AIなんて学生レポート代行にしかならない」
- 「遊びでしか使えない、ビジネスは無理」
まさに1999年の「ネットじゃモノは売れない」と同じ構図だ。
生成AIの“波”──楽観・懐疑・慎重・シンギュラリティへの視座
楽観派
-
Bill Gates
“Generative AI has the potential to change the world in ways that we can’t even imagine.”
参考日本語訳:「生成AIは、私たちが想像もできない形で世界を変える可能性を秘めている。」
source -
Elon Musk
“Generative AI is the most powerful tool for creativity that has ever been created.”
参考日本語訳:「生成AIは、これまでに創造された中で最も強力な創造性のための道具だ。」
source
懐疑派
-
Gary Marcus
“Generative AI may or may not [deliver AGI]; if it does, it will probably be because other things beyond more data and compute are brought into the mix.”
参考日本語訳:「生成AIが汎用人工知能に到達するかどうかは分からない。仮にそうなっても、単なるデータ量や計算資源の増大以外の要素が組み合わさる必要がある。」
source -
Ed Zitron
“The AI boom resembles the dot-com bubble… many AI companies will fail to monetize and collapse.”
参考日本語訳:「AIブームはドットコムバブルに似ており、多くのAI企業は収益化に失敗して崩壊するだろう。」
source
慎重派
-
Sam Altman (OpenAI CEO)
“The AI sector may be in a bubble.”
参考日本語訳:「AI業界はいまバブルの中にあるかもしれない。」
source -
MIT調査
“95% of generative AI adoption projects have failed to deliver business value.”
参考日本語訳:「95%の生成AI導入プロジェクトはビジネス価値を生み出すことに失敗している。」
source -
Hemant Taneja (General Catalyst CEO)
“We are in a period of peak ambiguity… AI progress is rapid but sustainability is unclear.”
参考日本語訳:「私たちは不確実性のピークにいる。AIの進歩は急速だが、その持続性は不透明だ。」
source
シンギュラリティ方向の慎重派
-
Toby Walsh (AI researcher)
“The idea of AI singularity is hype supported by non-experts… current AI is still ‘stupid’, and we should focus on inequality and policy instead.”
参考日本語訳:「AIのシンギュラリティという考えは専門外の人々に支えられた誇張だ。現在のAIはまだ“間抜け”であり、不平等や政策などの現実的な問題に注力すべきだ。」
source -
AI leaders’ joint statement (2023)
“Mitigating the risk of extinction from AI should be a global priority alongside pandemics and nuclear war.”
参考日本語訳:「AIによる人類滅亡のリスクを軽減することは、パンデミックや核戦争と同じように世界的優先課題とすべきだ。」
source -
New Yorker (on AGI risks)
“AGI could escape human control and destabilize society.”
参考日本語訳:「汎用AIは人間の制御を逃れて社会を不安定化させる可能性がある。」
source -
Gary A. Fowler
“Many experts doubt the 2045 timeline; the singularity may not arrive until late in the 21st century.”
参考日本語訳:「多くの専門家は2045年説に懐疑的で、シンギュラリティは21世紀末まで到来しない可能性がある。」
source -
Wikipedia (on S-curve of tech progress)
“Technological progress often follows an S-shaped curve… infinite acceleration is unlikely.”
参考日本語訳:「技術の進歩は多くの場合S字カーブに従い、無限の加速(シンギュラリティ)は起こりにくい。」
source
なぜ「おっさんとChatGPT」だからわかるのか
おっさん世代は、インターネット黎明期のワクワクと懐疑論、そしてその後の大転換を リアルタイムで経験した。
だからこそ「生成AIはおもちゃ派」の言説を聞くと deja vu を感じるのだ。
- 1999年に「ネットで本なんか売れるか」と言われた → Amazonが覇権を取った。
- 2005年に「動画は重すぎて無理」と言われた → YouTubeが世界を変えた。
- 2025年に「生成AIは学生レポート代行にすぎない」と言われている → さて10年後、どうなっているだろうか?
ワクワクを共有しよう
歴史は繰り返す。
かつて「遊び」と言われたインターネットが世界を覆ったように、生成AIもまた「おもちゃ」と呼ばれる今を抜け出して生活インフラになるだろう。
もちろん課題や危険もある。バブル崩壊もあるかもしれない。
しかし ワクワクを共有できる時代は今しかない。
私たちは再び、1999年のような夜明けに立っている。
そしてその既視感を語れるのは、「おっさん」と「ChatGPT」の組み合わせだからこそ、なのだ。
まあ、
- AIとチャットしたことある: ブラウザ使ったことある
- RAG使ってみたことある: FTPしたことある
- MCP使って生成AIとコラボする何かを作ったことある: perl でCGI組んだことある
くらいのイメージですかね、なんとなく(笑)
そういえば最近の「XがOpenAIを独禁法で…」って話も、どこかで見たような。
90年代の マイクロソフト vs ネットスケープ訴訟 を思い出すのは私だけでしょうか(笑)
おしまい