はじめに
ローカル生成AI用GPUは2025年現在、ハイエンド(RTX 5090/4090)、ミドルクラス(RTX 4070 Ti SUPER / RX 7800 XT 等)、エントリークラス(RTX 4060 / RX 7600 / Arc A750 など)に大別できます。
ハイエンドは万能で高性能ですが、ミドルでも16 GB級 VRAM を軸に「8–34 B LLM と SD-XL が快適に動作」というスイートスポットでコストバランスがよく、エントリーは「8 GB で 7–13 B を量子化して動かす」ことで最低限ながら実用化が望めます。
依然として CUDA+TensorRT-LLM の充実度により NVIDIA のグラフィックボードが優位なところはありますが、AMD ROCm 6.4 や Intel OneAPI も急速に整備されつつあり、コストを抑えた学習・推論環境の選択肢は広がっていくものと見ています。
1. GPUクラス分けの前提
クラス | 想定VRAM | 主要モデル例 | 主ターゲット |
---|---|---|---|
ハイエンド | ≥ 24 GB | RTX 5090 / 4090 | 34–70 B LLM、LoRA学習 |
ミドル | 12–20 GB | RTX 4070 Ti SUPER (16 GB) RTX 4060 Ti 16 GB AMD RX 7800 XT (16 GB) Intel Arc A770 (16 GB) |
8–34 B LLM、SD-XL |
エントリー | 8–12 GB | RTX 4060 8 GB AMD RX 7600 8 GB Intel Arc A750 8 GB |
7–13 B LLM(量子化) SD1.x / SD Lite |
2. ミドルクラス GPU 詳細
モデル | VRAM/Bus | 特徴 | 参考リンク |
---|---|---|---|
RTX 4070 Ti SUPER |
16 GB / 256-bit |
18%性能向上 & DLSS 4、 TensorRT-LLM公式最適化 |
レビュー記事 |
RTX 4060 Ti 16 GB |
16 GB / 128-bit |
最安16 GBで、VRAM 不足問題を解決 |
INTERNET Watch |
AMD RX 7800 XT |
16 GB / 256-bit |
価格優位。ROCm 6.4で LLM推論対応 |
PC自由帳 |
Intel Arc A770 16 GB |
16 GB / 256-bit |
OneAPI + OpenVINO; Llama 7 B実証多数 |
Intel公式チュートリアル |
3. エントリークラス GPU 詳細
モデル | VRAM | ポイント | 参考リンク |
---|---|---|---|
RTX 4060 8 GB | 8 GB | DLSS 3 搭載、$299〜 | Lifewire |
RTX 4060 (Laptop / Server) |
8 GB | Ollamaベンチで 7 B LLM 24 tokens/s |
Ollama Benchmark |
AMD RX 7600 8 GB |
8 GB | AI Accelerator追加で FP16強化 |
PC自由帳 |
Intel Arc A750 8 GB |
8 GB | 低価格帯でStable Diffusion検証多 |
ASCIIレビュー |
量子化がカギ
7–13 B クラスを 8 GB に収めるには 4-bit 量子化 (GPTQ, AWQ) でメモリを半減以上に圧縮することで動作可能になります。
LLM量子化ガイド
4. モデル規模とVRAM早見表
モデル | FP16 VRAM |
4-bit VRAM |
ミドルで快適? | エントリーで可? |
---|---|---|---|---|
Llama 3 8 B | 32 GB | 6–8 GB | ◎ | ○ |
Llama 3 34 B | 136 GB | 32 GB | △ (16 GB×2 or 24 GB↑) | × |
SD-XL 1.0 | 11 GB | ― | ◎ (16 GB) | △ (8 GB,低速) |
ミドルのコスパ最強説
ミドルクラスの GPU であればある程度の大型LLMも使えるので、生成に時間がかかるもののやりたいことは実行できる可能性が高いです。
エントリークラスでは VLAM が足りずに起動できないといった問題も発生します。
5. なぜ NVIDIA が依然有利なのか?
質問 | 回答 |
---|---|
“動く”ソフトが 多い理由 |
PyTorch / TFはCUDAを第一級サポートしているから。 ROCmやOneAPIは後追いで対応ソフトが少ない。 |
フレームワークは CUDA寄りなのか |
NVIDIAが cuDNN / TensorRT などを早期提供しOSSへコミットしているから。 |
他社は追従困難な 理由 |
ROCmはWindows正式対応が遅く、RX 7800 XTもWSL経由が前提で、シェアを広げにくい状態。 ROCm GitHubディスカッション |
CUDA覇権は揺らがないのか | 四半期ごとにTensorRT-LLM等をアップデートし旧GPUも加速していて、ユーザーの囲い込みと流出防止に貢献している。 |
代替は無理か | ROCm 6.4が低レイテンシ推論コンテナを公開し、生成AIへの適合を進めている。 AMD公式ブログ |
結局は NVIDIA
使えるツールやプラグイン、そしてユーザーのコミュニティの広がりから、NVIDIA のグラフィックボードが優位であることは否めません。
(昔、Macintosh が映像と音楽に強かった頃の広がり方に似ているかもしれません)
6. リスク・トレードオフと代替策
リスク | 影響 | 代替策 |
---|---|---|
価格高騰・在庫不足 | RTX 4070 Ti SUPER のメーカー 希望小売価格が +30% 例 |
AMD RX 7800 XT などミドルを狙う |
VRAMの不足 | 34 B 以上が動かせない | 二枚挿し・量子化・ 外部推論APIを併用 |
電力と発熱の問題 | 4070 Ti でも 285 W | 80 PLUS Platinum 電源と前後4 fanケース |
ソフト互換性 | ROCm / OneAPIで動かない案件 | Docker化+ZLUDAで CUDA互換検討 |
7. 仮説から見る現時点での最適案
- 仮説:16 GB VRAM が最コスパで 8–34 B LLM を回せる。
- 根拠:4070 Ti SUPER 16 GB 性能ベンチ、SD-XL 1.0 要件、GPTQ 事例。
- 再検証:手元のデータセットでベンチ → 温度・消費電力も計測。
- 示唆:ビジネス上は 「RTX 4070 Ti SUPER+量子化」 が費用対効果最大。
まとめ
2025年6月現在、NVIDIA のグラフィックボードがローカル生成AIにとってはファーストチョイスである点は変わりませんが、他社のグラフィックボードも開発が進み、選択肢が増えることは望ましいです。
ローカル環境の構築はお財布事情に大きく左右されますし、なかなかの金額になるのでそう頻繁に買い換えるということも難しいお買い物になります。
納得のいくお買い物をするためにも、情報収集はとても大切です。
この記事がその一助となりましたらうれしいです。
参考リンク一覧(抜粋)
- RTX 4070 Ti SUPER レビュー([pcfreebook.com][1])
- RTX 4060 Ti 16 GB 記事([internet.watch.impress.co.jp][2])
- RX 7800 XT 詳細([pcfreebook.com][3])
- Intel Arc A770 LLM 解説([game.intel.com][4])
- Stable Diffusion 推奨スペック([game-pc-bto.com][5])
- Llama 3 8 B GPTQ([huggingface.co][6])
- RX 7600 評価([pcfreebook.com][9])
- Arc A750 SD 検証([ascii.jp][10])
- ROCm 6.4 公式ブログ([amd.com][13])
- RTX 4060 Budget 発表([lifewire.com][7])