はじめに
みなさん、こんにちは。今回は2025年12月にFinOps Foundationから正式にリリースされた「FOCUS (FinOps Open Cost and Usage Spec) 1.3」での新機能と仕様変更のポイントついて紹介したいと思います。
正直なところ、日本のFinOps界隈で「FOCUSをガッツリ本番運用しています!」という話はまだあまり聞きませんし、今回リリースされたv1.3に対応しているクラウドベンダーも、現時点(2025年12月)ではまだ見当たりません。
出典:Getting Started with FOCUS Datasets by FinOps Foundation (CC BY 4.0)
「じゃあこの記事、誰が得するの?」と言われると正直なところ未知数です…。ただ、必要になった際、即座に対応できるよう、エンジニア視点で 「仕様として何が整理されたのか」 を先取りして紹介しておきたいと思います。
そもそも "FOCUS" とは何か
FinOps Open Cost and Usage Specification(FOCUS) は、FinOps Foundation主導でクラウドプロバイダー各社も協力して作り上げたクラウドのコストと使用量の課金データに関するオープンソースの技術仕様で、クラウドプロバイダー各社でバラバラだったクラウド請求書のデータフォーマットを統一規格で扱えるようにするものです。
AWS、Azure、Google Cloud、OCIなどの主要なパブリッククラウドはすでに対応しており、今後は主要なSaaSプロバイダーなどにも広がっていくことが見込まれています。まだ過渡期ということもあり、ほとんどの方は現時点で気にする必要はありませんが、ぜひ今後の動向には注目してみてください。

出典: What is FOCUS by FinOps Foundation (CC BY 4.0)
FOCUS 1.3 の主要なアップデート 4選
FinOps Foundationの発表によると、今回のアップデートは以下の4つのユースケース解決に主眼が置かれています。
更新#1. 契約コミットメントの分離
契約情報と使用量データを切り分けることで、データ管理を正規化し、予実管理を容易にすることを目的としたアップデートです。
従来の課題
v1.2では、割引や契約期間、残存ユニット数などの「契約情報」は、通常の使用量データ(Cost and Usage)と混在しており、管理が複雑でした。
v1.3の変更点
v1.3では、契約条件を格納するための 専用データセット(Contract Commitment dataset) を外出しで作る、というアプローチが採用されました。
これはFOCUSの仕様が、コスト・使用量データ以外の「関連データセット(Adjacent Dataset)」へと拡張された初の事例だそうです。「全部入り」の巨大なテーブルを作るのではなく、正規化して管理しようという意思を感じます。
メリット
「契約開始・終了日(Contract Period Start / End)」「残存量(Contract Commitment Quantity)」などの契約メタデータを、大量の使用量ログと混ぜずに管理できます。クエリ一発ですべての有効なコミットメントを確認できるため、RI/Savings Plans等の予実管理ダッシュボード作成が楽になりそうです。
更新#2. 共有コスト配賦の透明化
共有リソースのコストが「どのように計算されたか」というロジックそのものをデータとして提供し、透明性を高めることを目的としたアップデートです。
従来の課題
v1.2では、KubernetesのPodや共有データベースなど、複数チームで共有するリソースのコスト配賦ロジックはブラックボックスになりがちでした。
v1.3の変更点
v1.3では、データ生成元(クラウドプロバイダーやSaaSベンダー)が、「どのようにコストを分割したか」を示すためのカラムが追加されました。単なる金額だけでなく、配分の方法論(Methodology)自体がデータとして提供されます。
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Allocated Method ID: 配分に使用されたロジックやルールのID -
Allocated Method Details: JSON形式で記述され、具体的な配分比率(Allocated Ratio)や使用されたメトリクス(CPU、Memoryなど)の詳細が含まれる
メリット
「なぜこの金額が配賦されたのか?」という利用者からの問い合わせに対し、プロバイダー側のロジックを根拠に説明できるようになります。自前で配分ロジックを実装・メンテナンスする手間から解放される可能性があります。
更新#3. データの鮮度と完全性の検証
データが「確定値」か「速報値」かを判別するフラグを標準化し、集計処理の手戻りを防ぐことを目的としたアップデートです。
従来の課題
月末処理などで、「まだデータが速報値(不完全)なのに処理してしまい、後で再計算が必要になる」という事故がFinOpsの現場ではよくありました。
v1.3の変更点
データセットのタイムスタンプ(最終更新日時)や、 データの完全性(確定値か否か) を示すメタデータの記述方法が標準化されました。
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Dataset Instance Complete: データセット全体が完全(確定済み)かどうかを示すフラグ -
Recency Last Updated: データの最終更新日時
メリット
ETL処理やレポート生成スクリプト側で、「データが Complete(完全)になるまで待機する」といった制御を標準仕様として実装できます。手戻りを防ぎ、データの信頼性を担保する上で地味ながら強力な機能です。
更新#4. Service Provider と Host Provider の明確化
「誰から買ったか(リセラーなど)」と「どこで動いているか(クラウド基盤)」を明確に区別し、商流の複雑さに対応することを目的としたアップデートです。
従来の課題
これまでの Provider カラムでは、「誰から買ったか」と「どこで動いているか」の区別が曖昧でした。特に、日本企業でよくある「請求代行(リセラー)経由の契約」の場合、データの表現がベンダーによってまちまちになりがちです。
v1.3の変更点
以下の2つに明確に分離されました。
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Service Provider(サービスプロバイダー): サービスの販売・提供元(契約相手)- 例:SaaSベンダー、 リセラー(MSP)など
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Host Provider(ホストプロバイダー): 実際にリソースがデプロイされている基盤- 例:AWS、Azure、Google Cloudなど
これにより、リセラー経由の契約や、AWS上で動くSaaS(SnowflakeやDatabricksなど)のような複雑な関係性が整理されます。
このアップデートに伴い、旧来の Provider や Publisher カラムは非推奨(Deprecated)となり、v1.4以降で削除される予定です。
終わりに
現時点ではまだ各社対応待ちのステータスですが、FOCUS 1.3は 「マルチクラウド・マルチベンダー環境でのデータ処理の実務」 において、これまでエンジニアが独自に吸収していた「揺らぎ」や「不足情報」を標準仕様でカバーしようとしています。
特に日本の場合、クラウドベンダーと直接契約するよりも、リセラー(請求代行)やMSPを経由して利用するケースが多い状況だと思います。しかし、残念ながら現時点でFOCUS形式での請求データ提供に対応している国内リセラーは(私の知る限り)まだ一社も存在しません。
これまでは仕様上の曖昧さもあり難しかったかもしれませんが、今回のv1.3アップデートで Service Provider(リセラー)と Host Provider(クラウド基盤)が明確に分離されたことで、リセラーがFOCUS準拠のデータを提供する土台は整ったと言えます。もしリセラー各社がこの仕様に対応してくれたら、利用者としてはデータの正規化や分析のハードルが劇的に下がり、「神対応」 と崇められること間違いなしではないでしょうか。
日本でFOCUSが当たり前に使われる日が来るかはまだ分かりませんが、来るべき時に備えて頭の片隅に置いておくと良いかもしれません。なお、FOCUS v1.3のスペック全体は次のURLを参照してください。本記事が、FinOpsに取り組むエンジニアの皆様の一助となれば幸いです。以上、「FOCUS 1.3リリース:新機能と仕様変更のポイント」でした。
