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初めまして!PhysiKyu Advent Calenderの12日目を担当させていただきます, 九州大学理学部物理学科2年の加来といいます.

Qiitaで記事を書くのは初めてなのですが, 中々Markdown記法には慣れませんね...LaTeX形式で書けるのはありがたいですが...
あとは執筆の際に結構動作が重くなるのも大変なポイントでした笑

概要

以前, とある人と話していてこのような質問を投げかけられました.

「量子力学における正準交換関係はどこからやってきたの?」

言われてみれば, 不思議ではあります. 多くの教科書(といっても高々私が見てきた限りです)では, あまりこの点は深堀されていないように感じます. 私自身も初学のときはいきなり正準交換関係なる謎の関係式が特に導出もなく出てきて困惑した記憶があります. 計算が出てきてもその正体が分からないというのはスッキリしないものです.

本記事は, 正準交換関係の起源を深堀っていき, その導出まで試みていくことを目的とします.

正準量子化のおさらい

実際に起源について見ていく前に, 念の為に整理の意味も込めて正準量子化についてフワッとおさらいしておきましょう. 正準量子化(canonical quantization)とは, 量子論の物理体系を古典論からのアナロジーで推測し, 構築していくという試みのことを言います.

簡単のため, 1次元の場合について見ていきます. まず, 着目している量子系が古典的には正準変数$(q, p)$で記述できると仮定します. 特に任意の物理量$A$が$q, p$の関数として

A = A(q, p)

と書けるとしましょう. 特に$A$として系の全エネルギー$H$を選ぶことにすると,

H = H(q, p)

と表せます. この$H$を, ハミルトニアン(Hamiltonian)と言います.
以上の内容はまだ古典論の範囲です. 量子論では, このような古典論の知識が与えられている場合, 次の正準交換関係(canonical commutation relation)を定めることで, 実験事実の説明がうまくできることが経験的に知られています.

[\hat{q}, \hat{p}] = i\hbar

ここで, 量子論では物理量は演算子で表現されることを暗に用いているため, 物理量$A$もまた

\hat{A} = A(\hat{q}, \hat{p})

特に, ハミルトニアンについて

\hat{H} = H(\hat{q}, \hat{p})

と演算子形式に書き換えておきましょう. これにより, あとはA特にHの形あえ決定してしまえば, 任意の初期状態に対して任意の時刻での物理量に関する測定値の確率分布を一意的に求めることができます.

本題

それでは, 実際に正準交換関係がいかにして導かれていくのかを見ていきましょう. これは, BornとJordanの共同論文, およびHeisenbergの論文で示された内容であるため, 以下その内容に準拠して議論していきます. ここでも, 簡単のため1次元中の粒子の場合で考えてみます.

まず, 前期量子論におけるBohr-Sommerfeldの量子化条件から出発していくことを考えます. この条件は次式で与えられます.

\oint p_ndq_n = nh \qquad(n=1, 2, 3, ...)

$q, p$の添え字$n$は, 量子数によって変数が異なることを反映したものです. まず, ある定常状態$n$における粒子の座標$q_n$および運動量$p_n$について, Fourier展開を行います. それぞれFourier係数を$a_m$, $b_m$とすると,

\displaylines{
q_n = \sum_{m=-\infty}^{\infty}a_me^{i\omega_{nm}t}\\
p_n = \sum_{m=-\infty}^{\infty}b_me^{i\omega_{nm}t}
}

と表せます. ここで, $\omega_{nm}$は角振動数です. この振動数の表記は通常の周期系を考えたときのFourier展開とは表記が異なっていて気になった方もいるのではないでしょうか. これは, 周期系でない系も含むように一般化したことを意味しています. 実際に, 例を通して確認してみましょう. $q_n$に関する式で, $T_n$を周期として$q_n(0) = q_n(T_n)$とすると, $\omega_{nm}T_n = 2\pi m$ が得られます. これより, $\omega_n = \frac{2\pi}{T_n}$と表して$\omega_{mn} = m\omega_n$と得ることができ, 確かにこのとき普段の慣れ親しんだFourier展開の式に書き直せることが分かります.

次に, このFourier展開した2式を量子化条件の式に代入してみます. ここで, 位置座標$q_n$が実数であるため,

q_n^{*} = q_n

の関係が成り立ちます. 計算の都合上, $q_n$の代わりにその複素共役を使うことにします. 量子化条件より,

\begin{align}
nh &= \oint p_ndq_n \\
   &= \oint p_n\frac{dq_n^{*}}{dt}dt \\
   &= \oint p_n\dot{q_n}^{*}dt \\
   &= \sum_{m=-\infty}^{\infty} \sum_{m'=-\infty}^{\infty} b_m a_m^{*}(-i\omega_{nm'})\oint dte^{i(\omega_{nm}-\omega_{nm'})t}
\end{align}

となります. 周期系を考えるため, $\omega_{nm}=m\omega_n$となり, 積分は定常状態について1周期だけ行うため, $t=0$から$t=2\pi$までとなります. この積分では, $m-m'=0$以外では0となるため, $m'=m$のみ許されます. したがって,

\oint dte^{i(m-m')\omega_nt} = \frac{2\pi}{\omega_n}\delta_{mm'}

となります. よって,

nh = -2\pi i\sum_{m=-\infty}^{\infty} mb_ma_m^{*}

を得ることができます. このもとで, 両辺を$n$で微分すると

i\hbar = \sum_{m=-\infty}^{\infty} m\frac{d(b_ma_m^{*})}{dn}

を得ることができます. $n$は整数なので微分できるかは怪しく感じた方もいらっしゃるかもしれません. この点は, 元々の$nh$が微小量であるため$n$は整数ではあるものの連続的な数としてみなせるため, 正当化されます. そこで, 任意の係数$f_{mn}$に対して, Heisenbergが用いた量子論的な対応関係

\frac{\partial f_{nm}}{\partial n} = \frac{f_{n+m, n}-f_{n, n-m}}{m}

を用いると,

\begin{align}
i\hbar &= \sum_{m=-\infty}^{\infty} (p_{n+m, n}q_{n+m, n}^{*}-p_{n, n-m}q_{n, n-m}^{*})\\
       &= \sum_{m=-\infty}^{\infty} (p_{mn}q_{mn}^{*}-p_{nm}q_{nm}^{*})
\end{align}

が得られます. この式は行列の積の成分表示に似ていることに気づきます. BornとJordanはこのことに着目して, Fourier展開の各項を行列要素とするような無限次元行列

\displaylines{
(\hat{p}(t))_{nm} = p_{nm}e^{i\omega_{nm}} \\
(\hat{q}(t))_{nm} = q_{nm}e^{i\omega_{nm}}
}

を考案しました. ここで, $\omega_{nm}$は量子状態が$n\to m$と遷移する際の量子論的な角振動数に対応すると考えます. Bohrの振動数条件

h\nu = |E_n - E_m|

より, エネルギー準位$E_n$と$E_m$の間の遷移において

\omega_{nm} = \frac{E_n-E_m}{\hbar}

が成り立ちます. この条件を考慮すると,

\omega_{nk} + \omega_{km} = \omega_{nm}

が成り立ちます. したがって,

\displaylines{
\omega_{nm} = -\omega_{mn}\\
\omega_{nn} = 0\\
}

も成立します.

さて, ここで力学変数$p(t)$, $q(t)$を行列演算子$\hat{q}(t), \hat{p}(t)$として導入します. $\hat{q}(t)$, $\hat{p}(t)$はともにHermite演算子$\hat{q}(t)^{\dagger}=\hat{q}(t), \hat{p}(t)^{\dagger} = \hat{p}(t)$という要請を課すと,

\displaylines{
p_{nm}e^{i\omega_{nm}t} = p_{nm}^{*}e^{-i\omega_{mn}t} = p_{mn}^{*}e^{i\omega_{nm}t} \\
q_{nm}e^{i\omega_{nm}t} = q_{mn}^{*}e^{-i\omega_{mn}t} = q_{mn}^{*}e^{i\omega_{nm}t}
}

つまり

\displaylines{
p_{nm} = p_{mn}^{*} \\
q_{nm} = q_{mn}^{*}
}

となります. このことを考慮すると,

\begin{align}
(\hat{q}(t)\hat{p}(t)-\hat{p}(t)\hat{q}(t))_{mn} &= \sum_{m=-\infty}^{\infty} (q_{nm}e^{i\omega_{nm}t}p_{mn}e^{i\omega_{mn}t}-p_{nm}e^{i\omega_{nm}t}q_{mn}e^{i\omega_{mn}t}) \\
                                                 &= \sum_{m=-\infty}^{\infty} (q_{nm}p_{mn}-p_{nm}q_{mn}) \\
                                                 &= \sum_{m=-\infty}^{\infty} (q_{mn}^{*}p_{mn}-p_{nm}q_{nm}^{*})
\end{align}

と表せます. 右辺は先ほど示した$i\hbar$の表式と等しいため,

i\hbar = (\hat{q}(t)\hat{p}(t)-\hat{p}(t)\hat{q}(t))_{mn}

という関係式が導かれました. こうなると私たちにとって非常に見慣れた形のものが出てきました. 行列$\hat{q}, \hat{p}$の交換子(commutator)です.

[\hat{q}, \hat{p}] = \hat{q}\hat{p}-\hat{p}\hat{q}

これより, $i\hbar$の関係式は, 行列の関係式

[\hat{q}(t), \hat{p}(t)] = i\hbar\mathbf{I}

の対角要素と分かります($\mathbf{I}$は単位行列です). この非対角成分を0として仮定したものが, 今回導きたかった正準交換関係(canonical commutation relation)です.

終わりに

いかがでしたでしょうか. 正準交換関係は実験事実をうまく説明できるからそういうものだと認めてしまおう, という解釈もできなくはないですが, 決して無から生まれた大胆な関係式ではなく, 歴史的にちゃんと議論されて導かれたものということが分かったのではないでしょうか.

最後に, ここまで読んでくださりありがとうございました!

参考文献

  1. 清水明「新版 量子論の基礎 その本質のやさしい理解のために」(2004). サイエンス社
    正統的な量子論の教科書. Diracのブラケット記法が序盤から採用されており, 体系的に理解ができる1冊となっている.

  2. 牟田泰三, 山本一博「量子力学 現代的アプローチ」(2017). 裳華房
    量子論の曖昧さを誤魔化すことなく, そのモチベーションが明解になっている教科書. トピックも充実しているところも非常に嬉しい.

  3. W.Heisenberg:Zeitsch. fur Phys. 33 (1925) 879
    Heisenbergの論文. 日本物理学会誌のWebに掲載.

  4. M. Born and P. Jordan:Zeitsch. fur Phys 34 (1925) 858
    BornとJordanの共同論文. 日本物理学会誌のWebに掲載.

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