はじめに
初めまして、東京大学理学部物理学科3年の升永安穂と申します。1
今回は[塩基対数-泳動距離の関係の考察]を
i) 背景知識の導入
ii) 現象を説明できなかったモデル
iii) ある程度現象を説明できるモデル
iv) この試行の意味・次の記事
の順で説明します。
生物・物理ともに背景知識はこの記事でできる限り説明することを試みます。この記事においてモデル化とは事象を数学的・物理的背景を踏まえて表そうとすることを指します。
各節でざっくりと何を話すか?
i)では生物学的な背景知識を記述します。
ii) ではi)を踏まえて最も単純なモデル化をした場合、実験と整合しないことを述べます。
iii)ではここ数ヶ月で周囲の助言を踏まえつつ ii)を修正し、結果に大凡合う式を導きます。
v) ここまでの試行で考慮していない部分、この問いを考えるにあったって知った興味深い事象について述べます。
興味や知識に応じて読んでいただければ幸いです。
i) 背景知識の導入
電気泳動とは
今回考えたいのは電気泳動という実験法についてです。これは、DNA・RNAやタンパク質のように帯電した物質を物理化学的性質に応じて分離する方法です。分離した物質の 「長さ」 は後に述べる関係性から大凡推定されるので、例えば、PCRで増幅したサンプルが期待されるものだったか検証するのに使われたりします。
今回は特にアガロースゲルを用いたDNA断片の電気泳動について考えます。
電気泳動のやり方
電気泳動での作業は以下のようなものです。(図1)
- 専用の機械にバッファーを注ぎます
- バッファーに浸したアガロースゲルのウェルの内、1つに「長さ」がわかっているDNA断片の集合(ラダーと呼ばれます)を注入します
- 他のウェルに着色したサンプルを注入します
- 電圧をかけます
- ある程度の時間(20-30分)経過したあと、印加電圧を切ります
この作業をしたゲルに対して、UVを当ててみると、着色されたDNA断片が移動したことが確認できます。これとラダーを比べることで大凡のDNA断片の「長さ」が分かります。
タイトルの意味
今まで「DNA断片の『長さ』」と述べてきたものは長さの単位で表すよりも 断片に含まれる単位構造(塩基対)の個数=塩基対数(bp) で表すことが一般的です。2
そして、タイトルの[DNA断片の電気泳動にける塩基対数-泳動距離の関係]というのは、実験的には(図2)のように分かります。