はじめに
FileMaker Server (以下 FMS) の開発・検証環境ですが、
macOS(windows)上で開発を行う場合、基本はローカルにあるファイル単体をそのまま開いて開発するわけですが、サーバー上のスクリプトを実行など、どうしてもクライアント == サーバー環境でしか実現できない事があります。今はコールバックでサーバーからの返答を受け取れるようになったので尚更です。
ローカルマシンに直接FMSをインストールしたり、AWSなどのクラウドを利用したりと選択肢はいくつかありますが、コストや手軽さの面で一長一短があります。
本記事では、Vagrant、AWS EC2、Docker、そしてApple純正コンテナなどを一通り使ってみた上で、最近話題の OrbStack を利用したFMS運用のメリットについて、技術的な考察を交えてまとめます。
続編:OrbStack上のFMSをTailscaleで安全に外部アクセスさせる(SSLも対応)
これまでの課題:FMSの開発環境における迷走
1. 従来型仮想化(Vagrant等)の重さ
かつては仮想化環境というと、Vagrant(VirtualBox等)が主流でしたが、設定ファイルの管理が煩雑であり、何よりPCのリソース(メモリ・CPU)を大量に消費するのがネックでした。FMSを動かすためだけに、ホストマシンの動作が重くなるのは開発効率を下げてしまいます。
2. AWS EC2のコスト問題
AWS EC2は本番環境に近いテストができますが、コストが課題です。
近年のFMSは要求スペックが上がっており、特にストレージに関してはパフォーマンスを確保しようとするとI/O性能が求められます。100GB単位のEBSを用意し、十分なインスタンスタイプを選択すれば、検証用としては無視できない金額になります。停止忘れによる課金リスクもつきまといます。
3. ホストOS(macOS)への直接インストールは避けたい
「手元のMacに直接FMSを入れれば良いのでは?」という意見もありますが(実際そうやっている方は多いと思いますが)、サーバーアプリケーションとしての運用を考えると、それはやっぱり異質なものだと思います。
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環境の汚染: 開発機には様々なツールが入っており、ポート競合や依存関係のトラブルが起きやすい。
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再現性の欠如: 本番環境(Linux等)とOSが異なるため、OS依存のトラブルを検知できない。まあ、FMSではホストとの致命的トラブルはあまり聞きませんが、ここは基本的な部分でもありますし。
Docker運用に対する違和感
軽量な仮想化といえばDockerが筆頭に上がります。私もFMSのDockerイメージ作成や運用を試みましたが、**「FMSとDockerの相性は本質的に良くない」**と感じています。
Dockerは本来、ステートレスなマイクロサービスを疎結合に組み合わせる設計思想です。対してFMSは、データベースエンジン、Webサーバー、Javaプロセス、スクリプトエンジンなどが密結合した「フルパッケージなモノリシックアプリケーション」です。
これを無理やり1つのコンテナに押し込む構成は、Dockerの本来のメリット(軽量さ、インスタントさ)を享受できない。もちろん技術的には可能ですが、永続化データの扱いや、initプロセス(systemd等)の挙動を含め、そこまでして導入するメリットはないと感じました。実際FileMakerServerに付随してくるDockerフォルダの中にあるコンテナ立ち上げ用shellスクリプトを見ても、複雑で、とても私には手に負えない。かつあのスクリプトはLinux用に書かれているので、Mac上で実行するには一部書き直しが必要です(最初何も考えずに実行して結構ハマりました)。
Appleシリコンネイティブコンテナへの期待と課題
そんな中、WWDCで発表されたAppleシリコンに最適化されたコンテナ技術(Apple Container)。
「AppleシリコンMacに最適化されており、省メモリで動作する」という点に、"おっ、これはFMS運用の本命になるのではないか"と期待しました。
実際にDockerで作成したFMSイメージを用いてAppleコンテナ上で動かしてみたのですが、結果としては**「時期尚早」**でした。
単純なプロセスを立ち上げる分にはDocker同様に簡単ですが、Docker Composeのようなオーケストレーションツールや周辺エコシステムがまだ成熟しておらず(今のところない)、FMSのような複雑なアプリケーションを運用するにはハードルが高いと感じました。あくまでもこの分野への知識が浅い私の所感ですが。
Linux界隈の動向(Incus)からOrbStackへ
次に目を向けたのが、Linux環境における Incus です。
これは仮想マシンとコンテナ環境のどちらにも対応しており、ネットワーク周りもDockerより洗練されています。実際に使ってみると起動も速く、メモリ効率も良い素晴らしいツールでした。しかし、Macでこれを動かすには「仮想Linuxの上にIncusを立ち上げる」という二重構造になり、どうしても無駄が生じます。
そこで知ったのが OrbStack です。割と最近出たのですね。今まで聞いた事なかったです。
OrbStackは内部アーキテクチャこそ異なりますが、ユーザー体験としては「macOS上で手軽にIncus(システムコンテナ)を使う」感覚に非常に近いと感じました。
OrbStackとは
macOS向けの、DockerおよびLinuxマシンの実行環境です。
Apple Silicon専用と思われがちですが、Intel / Apple Silicon 両対応のUniversalアプリ です。
Docker Desktopの代替機能だけでなく、特筆すべきは 「軽量なLinux仮想マシン(Linux Machines)」 を爆速で立ち上げられる点です。
FMS運用におけるOrbStackのメリット
1. 圧倒的な軽さと省メモリ設計
OrbStackの最大の特徴は、動的なメモリ管理です。
従来のVMのように「確保したメモリ(例えば8GB)を常に占有する」のではなく、実際に使用している分だけを消費します。アイドル時はメモリ消費が極小になるため、開発機のリソースを圧迫しません。これは仮想化環境でもコンテナ環境でも同様です。CPU占有も然り。
2. 「Linux Machines」という選択肢
OrbStackでは、Dockerコンテナだけでなく、独立したLinux環境(Ubuntu等のディストリビューションそのまま)をコマンド一つで作成できます。
これはDockerコンテナというよりは「超軽量なVPS」に近い感覚です。
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完全なOS環境: systemdなどのinitシステムが標準で動作するため、FMSのようなインストーラー形式のアプリを、FileMaker公式ドキュメント通りの手順でLinux版としてインストールできます。
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Dockerファイル不要: Dockerfileの職人芸を駆使する必要がなく、
aptコマンド等で普通にセットアップ可能です。
3. ネットワークの抽象化
ネットワーク周りの設定が非常に洗練されています。
立ち上げた仮想環境には自動的に *.orb.local といったドメインが割り当てられ、ホストのMacから直接アクセス可能です。ポートフォワーディングの設定に悩まされることなく、Admin ConsoleやWebDirectの検証が行えます。
4. 使い捨て可能な実験場(Sandbox)
AWSをこれから導入する人には、EC2にデプロイする前の「練習」に最適です。
スナップショット的な使い方はもちろん、環境を壊しても数秒で新しいOSを立ち上げ直せます。「ゴミ箱に捨てる」感覚でサーバーをスクラップ&ビルドできるため、インストールの自動化スクリプトのテストなどにも向いています。この辺の使い勝手はDocker以上です。
実践:OrbStackでのFMS構築イメージ
Dockerコンテナとして動かすのではなく、OrbStackの「Linux Machine」としてUbuntuを立ち上げ、そこにFMSをインストールする方法。
具体的な手順は以下の通りです。マシン内部での操作は、通常のLinuxサーバーへのインストールと同様です。
フィルへもここから直接アクセスできる(ホスト側も見えてしまうという仕様ですが、、、)

以下、コマンドラインで記述していますが、
# 1. OrbStackでUbuntu 24.04のマシンを作成はGUIで行ったとします。
# (FMS 21以降はUbuntu 22/24対応。最新の動作要件を確認してください)
# コマンドラインで作成するには↓
# orb create -a arm64 ubuntu:24.04 fms-test
# 2. マシンに入る. GUIアプリ上のターミナルでも可
orb -m fms-test
# --- ここからは仮想マシン内での操作 Claris公式blogそのまま書いています ---
# 3. システムの更新と必須ツールのインストール
sudo apt update
sudo apt install wget unzip -y
sudo apt upgrade -y
# 4. 作業用ディレクトリの作成と移動
mkdir fminstaller
cd fminstaller
# 5. FileMaker Server (ARM版) のダウンロード
# ※URLは記事執筆時点のものです。最新版を確認してください。intelMacの場合はAMD版に置き換えて下さい。
wget https://downloads.claris.com/esd/fms_22.0.2.204_Ubuntu24_arm64.zip
# 6. 解凍
unzip fms_22.0.2.204_Ubuntu24_arm64.zip
# 7. インストール実行
# 重要: ローカルファイルを指定するため、必ずパスの頭に ./ を付けます
sudo apt install ./filemaker_server-22.0.2.204-arm64.deb
# (※ファイル名は解凍結果に合わせて調整してください)
# --- インストーラーの対話プロンプト入力例 ---
# ライセンス契約書の同意: Y
# インストールタイプ: 0 (Primary Machine)
#
# [アカウント設定] ※任意の値に変更してください
# Username: [yourname]
# Password: [pass]
# PIN: [pincode]
# ----------------------------------------
# 8. 動作確認
ps -A | grep fm
ps -A | grep nginx
これだけで、Mac内の独立した仮想環境でLinux版FMSが稼働します。拍子抜けするほど簡単です。
まとめ
FMSのような重量級かつモノリシックなアプリケーションの開発環境として、OrbStackは現状のmacOSにおけるベストプラクティスの一つだと思います。
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AWS EC2のような完全性 を持ちながら、
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Dockerのような手軽さと起動速度 を実現し、
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Vagrantのようなリソース浪費がない仮想環境。
特にローカルで本番(Linux)に近い環境をサクッと用意できる利点は計り知れません。高価なクラウドでテストや開発している方は、是非。しかも個人利用は無料という太っ腹。
また、windowsマシンやmac osでサーバー運用してこられた方は、今後安定したLinuxサーバーの導入テスト用として手軽に試せます。


