AIで取材記事の初稿を作ると、次に「もっと読みやすくしてください」と頼みたくなります。重複を減らし、見出しを整え、長い文を短くする作業はAIが得意です。
しかし、文章を自然にする作業と、事実を正しくする作業を同時に任せると、思わぬ変更が入ることがあります。
「検討している」が「実施する」になったり、「約50人」が「50人」になったり、複数の発言が1つの引用文へまとまったりします。文章としてはきれいでも、取材で確認した内容とは少し違います。
そこで私は、取材記事の確認を「事実確認」「文章校正」「差分確認」の3段階に分けます。この記事では、AIに文章を整えてもらいながら、数字、固有名詞、引用、断定の強さを守る方法を紹介します。
校正と事実確認は別の仕事
最初に、それぞれの目的を分けます。
| 作業 | 目的 | 確認するもの |
|---|---|---|
| 事実確認 | 書いてよい内容か判断する | 出典、数字、日時、固有名詞、引用 |
| 文章校正 | 読みやすく伝える | 誤字、重複、文の長さ、見出し、語順 |
| 差分確認 | 意味が変わっていないか見る | 修正前後の文章、削除、追加、断定表現 |
事実確認では、文章を上手にする必要はありません。根拠があるか、確認済みか、保留かを判断します。
文章校正では、新しい事実を追加しません。確認済みの材料を使い、伝わりやすい順番へ整えます。
この2つを同じ依頼で行うと、AIが「不足している説明」を親切に補い、その補足が事実のように見えることがあります。
先に事実を固定する
校正前に、前日に作った「主張と根拠の表」から確認済みの内容だけを抜き出します。
## 校正で変更してはいけない事実
- 正式名称:〇〇交流センター
- 開業日:2026年10月20日
- 出店数:当日発表では51店
- 担当者の状態表現:「今後検討したい」
- 直接引用:音声の00:12:41〜00:12:49と照合済み
- 未確認:年間来場者数
この一覧は、文章にそのまま載せるためではありません。校正中に意味を変えないための固定点です。
年間来場者数が未確認なら、AIに推定させません。記事に必要であっても、確認できるまで保留するか、その記述を削ります。
最初のAIには問題点だけを出してもらう
いきなり全文を書き直させず、最初は校正候補を一覧にしてもらいます。
この記事を校正してください。
まだ本文は書き換えず、次の問題点だけを一覧にしてください。
- 誤字脱字
- 同じ内容の重複
- 長すぎる文
- 主語が分かりにくい文
- 見出しと内容のずれ
- 読者が意味を取り違えそうな表現
数字、日時、固有名詞、引用文、予定・検討・決定の区別は変更しないでください。
先に候補を見ると、人間が直してよい範囲を選べます。
AIから「説明が足りない」と指摘されても、新しい説明を作るとは限りません。取材材料に根拠がなければ、「不足しているが今回は書かない」と判断できます。
変更してよい範囲を指定する
問題点を確認したあと、修正範囲を限定して校正を依頼します。
次の範囲だけを修正してください。
- 1文を長くしすぎない
- 同じ意味の繰り返しを減らす
- 接続詞を整理する
- 見出しと段落の順番を整える
- 専門用語へ短い説明を加える。ただし提供した説明だけを使う
変更禁止:
- 数字と単位
- 日付と時刻
- 人名、店名、施設名、商品名
- 直接引用の内容
- 「予定」「検討」「希望」「決定」の強さ
- 確認済み・未確認の状態
- 情報の出典
AIへ「意味を変えないで」とだけ伝えるより、変更禁止項目を具体的に示したほうが確認しやすくなります。
数字の丸め方を勝手に変えない
AIは文章を読みやすくするため、数字の表記をそろえることがあります。しかし、表記の変更が意味の変更になる場合があります。
修正前:当日発表では51店が参加
修正後:およそ50店が参加
日常的な文章では自然でも、「当日発表では51店」という根拠の範囲が消えています。
逆の変更にも注意します。
修正前:約50人が参加
修正後:50人が参加
概数が確定値へ変わっています。
数字は、値だけでなく次もセットで固定します。
- 単位
- 約、最大、累計、予定などの条件
- 対象期間
- 誰が発表した数字か
- 確認日
「約50人」と「50人」、「最大10件」と「10件」は同じではありません。
予定を実績へ変えない
AI校正で特に確認したいのが、断定の強さです。
元の発言:来年も開催できればと考えています
危険な校正:来年も開催します
文章を短くしたことで、希望が決定事項へ変わっています。
次の言葉は区別して残します。
| 状態 | 表現の例 |
|---|---|
| 希望 | 実現できれば、目指している |
| 検討 | 検討している、候補にしている |
| 予定 | 予定している、実施予定 |
| 決定 | 決定した、実施する |
| 実績 | 実施した、完了した |
AIには、この表現を強くしたり弱くしたりせず、元の状態を保つよう依頼します。
直接引用は別枠にする
校正対象の本文に直接引用が混ざっていると、AIが語尾を整えたり、前後の発言を合成したりすることがあります。
引用部分には印を付けます。
<!-- QUOTE_LOCK: Q-01 -->
「見るだけではなく、自分も参加できる場所にしたかったんです」
<!-- /QUOTE_LOCK -->
依頼文にも次を加えます。
QUOTE_LOCKで囲まれた文章は、一文字も変更しないでください。
読みにくい場合は本文を変更せず、修正候補として報告してください。
実際に掲載する前には、ロックした引用も元音声と再度照合します。ロックは正確さを保証する仕組みではなく、確認済みの文章を校正中に変えないための目印です。
タイトルと見出しは最後に確認する
タイトルは短いため、本文より強い表現になりやすい場所です。
本文:地域の交流機会を増やすことを目指す
危険なタイトル:AIで地域交流を実現した方法
本文では「目指す」と書いているのに、タイトルでは「実現した」になっています。
AIにタイトル案を作らせる場合は、使ってよい主張を指定します。
確認済みの事実だけを使って、タイトル案を5つ作ってください。
効果、成功、人気、完全自動化を新しく断定しないでください。
本文より強い表現にしないでください。
見出しも同様です。「必ず成功する」「完全版」「誰でもできる」といった表現を、本文の根拠なしに追加しません。
校正前後の差分を見る
校正後の文章だけを読むと、自然な変更を見落としやすくなります。修正前と修正後を並べて確認します。
差分では、特に次を探します。
- 新しく追加された数字や固有名詞
- 消えた条件や例外
- 約、予定、検討などの削除
- 引用文の変更
- 主語の変更
- 因果関係の追加
- AIが補った評価や効果
- 段落の移動で意味が変わった箇所
AIへ差分説明を作らせることもできます。
修正前後を比較し、変更点を一覧にしてください。
分類:
- 表記のみ
- 読みやすさの改善
- 意味が変わる可能性あり
- 事実確認が必要
意味が変わる可能性がある箇所は、採用せずに示してください。
ただし、差分の最終確認まで同じAIの自己申告だけで終わらせません。原稿と主張表を人間が見比べます。
Obsidianに3つの版を残す
校正中の混乱を避けるため、Obsidianには少なくとも3つの状態を残します。
01_確認済み初稿.md
02_AI校正案.md
03_公開候補.md
01_確認済み初稿.md は、主張と根拠を確認した時点の原稿です。上書きしません。
02_AI校正案.md は、文章を整えた提案です。まだ正式版ではありません。
03_公開候補.md は、差分を確認し、人間が採用した修正だけを反映した原稿です。
Markdownなら複数のAIから読みやすく、特定のAIが使えなくなっても確認記録を引き継げます。どのAIを使っても、公開候補へ昇格させる判断は人間が行います。
同じAIを使う場合も依頼を分ける
複数のAIを使わなくても、作業を分ける効果はあります。
- 事実確認では、問題点と不足する根拠だけを出す
- 校正では、確認済み初稿と変更禁止項目を渡す
- 差分確認では、修正前後の変更を分類する
- 人間が元資料と見比べ、公開候補を決める
同じ会話で続けると、AIが前の推測を事実のように引き継ぐことがあります。必要なら作業ごとに新しい会話を使い、毎回Obsidianの確認済み原本から始めます。
実際に使う依頼文
最終校正には、次のような依頼文を使えます。
確認済みの取材記事を、内容を増やさずに校正してください。
目的:
- 誤字脱字を直す
- 長い文を分ける
- 重複を減らす
- 見出しと段落の順序を整える
- 初心者にも読みやすい表現にする
変更禁止:
- 数字、単位、日時
- 人名、施設名、店名、商品名
- 直接引用
- 出典
- 確認済み・未確認の状態
- 予定、検討、希望、決定、実績の区別
- 本文にない効果、評価、因果関係の追加
出力:
1. 校正後の文章
2. 変更点の一覧
3. 意味が変わる可能性があるため変更しなかった箇所
4. 人間による事実確認が必要な箇所
不明な内容は補わず、元の表現を残してください。
出力後は、変更点の一覧だけでなく、実際の差分を確認します。
まとめ
AI校正は、取材記事を読みやすくする強力な手段です。しかし、文章と事実を同時に直させると、自然な表現の中へ未確認の変更が混ざることがあります。
- 事実確認、文章校正、差分確認を分ける
- 校正前に変更してはいけない事実を固定する
- 最初は全文を書き換えず、問題点だけを出してもらう
- 数字、日時、固有名詞、引用、状態表現を変更禁止にする
- 約、予定、検討などの条件を残す
- タイトルを本文より強い表現にしない
- 校正前後の差分を確認する
- Obsidianへ確認済み初稿、AI校正案、公開候補を分けて残す
- 最終的に採用する修正は人間が決める
AIには「どうすれば読みやすくなるか」を提案してもらい、「その変更で事実の意味が変わらないか」は人間が確認する。この順番なら、文章の分かりやすさと取材内容の正確さを両立しやすくなります。
この記事は、取材材料を主張と根拠の表へ整理し、確認済みの情報だけを複数AIが読めるObsidianのMarkdownへ残してきた本プロジェクトの運用をもとに構成しました。