目次
はじめに
システム開発の世界では、「新規開発」の方が注目されやすく、保守開発は地味で後ろ向きなものと見られがちです。しかし実際には、保守開発は、システムの使いやすさや信頼性を支える、とても大切な仕事です。
この記事では、保守開発の価値や魅力、実務で得られる経験、キャリアとしての意義について紹介します。特に以下のような方を対象にしています。
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「保守開発は地味」と思っている若手エンジニア
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「新規開発」を志向しつつも今は「保守開発」に携わっている方
保守開発とは?
「保守」と聞くと、“故障対応”や“古いシステムの維持”という印象を持つかもしれません。しかし、保守開発とは以下のような幅広い業務を指します。
- 機能追加
- 機能改善
- 障害対応
- バージョンアップ対応
- セキュリティ対応
- 運用に関する調整・改善
つまり、「作って終わり」ではなく、「作ったあとが本番」なんです。
なぜ保守開発が大切なのか?
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完成されたシステムを見て学べる
新規開発ではゼロから作る楽しさがありますが、保守開発ではすでに動いているシステムの全体像・構造を把握できます。成熟した設計や現場の知見が詰まっており、システムを学ぶ上での活きた知識が学べます。 -
現場力が身につく
実際に運用されているシステムでは、バグ1つの影響が業務全体に及びます。この緊張感の中で修正や改修を重ねることで、自然と設計力・確認力・運用意識が身につきます。
新規開発と保守開発の違い
システム開発のフェーズは、大まかに以下の3つに分類できます。
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完全新規開発(0→1)
企画・要件から立ち上げるゼロイチフェーズ -
新規開発かつ保守開発(1→10)
立ち上げたばかりのシステムに改良・追加を加え、安定稼働を目指すフェーズ -
保守開発(10+)
安定稼働したシステムを継続的に運用・改善するフェーズ
それぞれの特徴をざっくりですが、以下の表にまとめました。
開発フェーズごとの特徴比較(イメージ)
※あくまで傾向を示した一例です
項目 | 完全新規開発(0→1) | 新規開発~保守開発(1→10) | 保守開発(10+) |
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フェーズ | 企画・設計・構築の立ち上げ | 安定稼働へ向けた機能追加・改善 | 稼働中システムの保守・運用 |
求められる力 | 創造力、設計力、推進力 | 実装力、柔軟性、安定化力 | 調査力、慎重さ、影響分析力 |
キャッチアップ難易度 | 仕様の確定しだい | ドキュメントが追いつかない | 情報はあるが複雑で把握が大変 |
コードの状態 | 白紙、骨組みからスタート | 試行錯誤のあとが残るコード | 歴史ある安定コード、だがクセあり |
主な課題 | 技術選定、要件定義、設計判断 | 設計の継承、仕様整備、負債解消 | バグ対応、影響範囲の把握、運用改善 |
「どこまでが新規開発?」問題
- 企画から携わるなら完全に「新規開発」と言えますが、
- 既存システムの大幅リニューアルや再構築も、「新規開発」と言われたりします。
- 機能追加やゼロからのモジュール開発もある意味、「新規開発」です。
- 保守開発と新規開発の境界はあいまいで、「どこから関わったか」の見方によっても変わります。
システムが肥大化すると見えてくる課題
開発が進み、システムが成長するにつれて、保守開発で直面する課題の質も変わっていきます。初期フェーズでは小さな機能単位で完結していた設計も、徐々に以下のような問題を生み出します。
よくある課題とその具体例
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依存関係の増加
- ある機能を変更すると、予期せぬ他の機能に影響が出る。
- 例:バッチ処理の出力形式を変更したら、別チームのデータ連携処理が失敗した
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属人化と情報の散見
- 担当者しか知らないロジックや設定が存在する。
- 例:特定のエラーメッセージの意味や対処法がコメントやドキュメントに記載されておらず、口頭でしか共有されていない。
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技術的負債の蓄積
- 早期リリースを優先して応急処置した部分が放置される。
- 例:一時的に追加したフラグや条件分岐が放置され、コードが読みにくくなる。
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デプロイや運用の複雑化
- 関係者が多く、影響範囲が大きいため、リリース作業が大がかりになる。
- 例:複数システムにまたがるバージョンの切り替えのために、夜間対応や段階的カナリアリリースが必要になる。
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パフォーマンス問題
- データ量や利用者が増えることで、想定していなかった処理遅延やメモリ不足が発生する。
- 例:最初は数百件だった検索処理が、数百万件に増えてタイムアウトが発生する。
こうした課題は、システムを「作ること」よりも「維持し続けること」の難しさを物語っています。
保守開発の経験が長くなるほど、単なる修正にとどまらず、「なぜこうなっているのか」「どこに波及するのか」「どう作り直すべきか」という視点でシステムを見直すことが可能となります。
実践・保守開発
保守開発では、単に開発する以上の視点が求められます。
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絡まった糸を解くような作業
共通処理の編集は利用箇所の把握が必須で、機能改修はコードの妥当性や整合性の確認が必要です。どちらも複雑な依存関係を解きほぐすような慎重な対応が求められます。 -
既存ルールに従うことが重要
既存の設計やコーディングルール、運用ルールに従う必要があります。ゼロからの発想よりも「調和」が重視されます。 -
本番環境が相手
実際に利用されているシステムを止めないように対応するのは、新しく作るよりも難易度が高かったりします。本番リリース時のためだけの切替え用プログラムを作ることもあります。 -
運用と密接な関係
日次バッチ、問合せ対応、QAの蓄積など、コード以外の運用知識も重要です。
保守開発の魅力
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他人のコードを見る機会が多い
過去の開発者の意図を読み取る経験は、自身のコード設計にも大いに役立ちます。 -
安定稼働している実用的なシステムに関われる
長く使われているシステムには、それなりの理由や工夫があり、実務的な内容に触れることができます。 -
課題が明確になっている
ユーザーの声や障害レポートなど、改善点が具体的です。そのため成果を実感しやすいと言えます。
理想のキャリア:保守開発から新規開発へ
こんな開発者になりたいと思いませんか?
- 作ったあとも見据えて、長く使われるシステムを設計できる人
- ユーザーや運用のことも考えられる実践的な開発者
そうした理想に近づくためには、実は 保守開発の経験がとても役に立ちます。
保守を通じて、既存システムの設計意図や運用の制約、実際のユーザーの使い方といった、表 (オモテ) には見えにくいリアルな状況を深く理解できるからです。
その結果、単に「作る」だけでなく、「運用し続ける」という視点を持って、新規開発にも取り組めるようになります。
✅ 保守開発で得た知見は、新規開発に活きます
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「作って終わり」にしない設計ができる
長期的な保守性や変更のしやすさを見据えて、機能分割・コード分割ができる。 -
リリース時の工夫ができる
昼間に止められるか? 停止中はどう通知するか? リリースは段階的に行うべきか? といった実務的な判断ができる。 -
運用・利用者視点を踏まえた設計ができる
想定される運用ミスや、ログの出し方、障害時の復旧まで考慮できる。
🌱 最良のステップ:同一システムの保守開発から新規開発へ
経験を最大限活かせる理想ルート
特に理想的なのは、保守していたシステムのリニューアルや大規模改修に携わるパターンです。内部構造や背景を理解しているため、設計判断の質・スピードともに高く、プロジェクト全体に貢献しやすくなります。
🌐 他システムでも活かせます
汎用的なスキルとしての保守力
保守開発で培った以下のスキルは、新規開発や他プロジェクトでも強い武器になります。
- 影響調査力、リスク検知力
- テスト設計、運用ドキュメントの整備力
- ユーザー対応力、問い合わせ対応
- システム間の連携・移行戦略の立案
保守を経験したからこそ、
「新しいものをどう作れば長く使ってもらえるか」という視点が持てるようになります。これは、単なる開発者ではなく、現場に強い開発者として活躍できます。
🎯最後に
新規開発は目立ちやすく、キャリアとしても魅力的に見えるかもしれません。
けれど、保守開発で積み重ねた経験には、それとは異なる確かな価値があります。
運用中のシステムに触れ、実際の利用状況を見ながら対応していく中で、
設計力や運用視点、影響を見極める力など、現場で活きるスキルが自然と身についていきます。
もし将来、新しいシステムの開発に関わるチャンスが巡ってきたとき、
これまでの保守開発の経験が、確かな土台となってあなたを支えてくれるはずです。
💡 保守を知っているからこそ、本当に使われるものを生み出せます。