ネットワーク設計レビューが「仕様の確認」ではなく「設計者の追求」になる原因
インフラエンジニアにとって、ネットワーク設計のレビューは最も神経を使うフェーズの一つです。そのレビューがスムーズに進まない原因は、ルーターの設定ミスや配線図の不備ではありません。
問題は、「あなたの設計判断に、論理的な根拠が追跡不能なこと」です。
多くの設計プロジェクトでは、「要件定義(A)」「IP/VLAN設計(B)」「試験項目(C)」がそれぞれ独立したファイルとして存在します。その結果、
- B(IP設計)が、A(要件)のどの項目に依存して決定されたのか分からない。
- C(試験)が、A(要件)のどの可用性を検証しているのか分からない。
このトレーサビリティの欠如こそが、レビューを「仕様の確認」から「設計者の追求」に変えてしまう唯一の原因です。
この問題の解決は、ファイルを増やすことではなく、これらの要素を「設計番号」で強制的に紐づける構造を導入することです。
テンプレートの核:設計の論理性を保証するトレーサビリティ構造
今回公開する3点セットは、設計の初期段階から、すべての判断に追跡可能な番号を割り振ることで、設計上の説明不能状態を原理的に許容しません。
1. 要件定義シート(Aシート):全ての設計の始点となる「根拠番号」を定義する
Aシートは、設計のコストと構成を決定するすべての要因(Why)を定義します。そして、各要因に一意の「A-No(Root-Cause ID)」を割り振ります。
| 項目 | A-No | 設計判断メモ |
|---|---|---|
| 業務影響度 | A-10 | 停止時、コア業務は完全に停止する |
| 許容停止時間 | A-11 | 30分以内での復旧を必須とする |
| 将来拡張性 | A-14 | 3年後にユーザー数が1.5倍になる前提 |
| セキュリティ方針 | A-15 | DMZと内部NWはL3で厳密に分離する |
このA-Noが、Bシート(IP設計)とCシート(試験)で参照されることで、設計思想が一貫します。
2. IP/VLAN設計表(Bシート):サイジングの論理的根拠を強制的に紐づける
IPアドレス設計は、設計者の論理が最も問われる項目です。Bシートでは、サブネットマスクの横に、なぜそのサイズを選んだのかの根拠を、Aシートの番号で記入することを義務付けます。
| VLAN ID | ネットワーク | サブネット | 根拠A-No | 設計判断理由 |
|---|---|---|---|---|
| 10 | 192.168.10.0 | /26 | A-15 | DMZへのアクセスセグメント。影響範囲限定のため最小単位(62ホスト)に抑制。 |
| 20 | 192.168.20.0 | /24 | A-14 | 一般ユーザー端末セグメント。3年後の拡張性(1.5倍)を考慮し、/24(254ホスト)とする。 |
この構造により、「なぜ/24ではなく/26にしたのか」というレビュー側の質問に対し、「A-15(セキュリティ方針)に基づく判断」と即座に回答可能になります。
3. 試験チェックリスト(Cシート):設計の目標(A-No)達成を検証する
Cシートは、単なるPing疎通確認リストではありません。それは、Aシートで定めた可用性要件を本当に満たしているかを証明する文書です。
| 試験項目 | 試験目的 | 合格基準 | 根拠A-No |
|---|---|---|---|
| コアSW切替試験 | 冗長構成が機能するか | 30分以内にコア業務アクセスが復旧すること | A-11 |
| DMZアクセス制御 | セキュリティポリシー違反がないか | 内部NWからDMZセグメントへの直接アクセスが遮断されること | A-15 |
試験の合格基準を「A-11 許容停止時間」と紐づけることで、試験は「作業が終わった証拠」から「設計が約束を果たした証拠」へと役割が変わります。
結論:トレース可能な設計は、設計者の「責任」と「信頼」を担保する
この実務テンプレートが提供するのは、美しい構成図ではありません。あなたの設計判断に対し、論理的な一貫性と追跡可能性を与える構造そのものです。
レビューで論理が破綻する設計、担当者変更で引き継ぎが困難になる設計は、この構造を導入することで原理的に防ぐことが可能です。
これは、設計者が自身の設計判断に対して説明責任を構造として担保する、実務上もっとも効率的な手段です。
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